願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

葵葉の穏やかな日常②

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「か~ぐや君! 遊びましょ~!!」



社に着くなり私は大声を張り上げて神耶君を呼ぶ。
けれど、私の誘いにいつもの事ながら社からの返事はない。



「ふぅ。今日もまだ寝てるのかな。ちゃんと声はかけたからね。不法侵入じゃないからね」



そして、これもいつもの事ながら、返事を待たずに私は勝手に社の中へと上がり込む。



「神耶君~、まだ寝てるの~? もう9時半過ぎてるよ。そろそろ起きようよ。ねぇ、神耶君~~!」



社の中、仰向けになり、眠る神耶君の側まで行くと、私はゆさゆさと激しく体を揺すった。


いくら揺すってみても、つついてみても、神耶君からは何の反応は何もない。



「もうっ!」



こうなったら、次の手を。
今度は、神耶君の寝顔を隠していたきつねのお面を外すと、ぺちぺちと少し強めに頬を叩いてみる。


けれども、やはりこれも反応はない。
まるで死んでいるかのように、ピクリとも動かない神耶の様子に、少し不安になって私は神耶君の鼻の前に手をかざした。


微かに感じる寝息に、ほっと胸を撫でおろす。



「もう、心配しちゃっじゃん。神耶君のバカ」



私の心配を他所に、気持ち良さそうに眠り続ける神耶君。
全く起きる気配のない様子に、私は頬を膨らませながら軽く彼の鼻をつまむと、これは流石に苦しかったのか、神耶君の顔には眉間が寄った。


そして、きっと無意識の行動なのだろう。鼻をつまむ私の手は神耶君によって払いのけられた。



「ふふふ」



その反応が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
眠っている神耶君をこうして観察しているのも面白いかもしれない。


そう思えて、暫くの間、私は寝ている神耶君を見つめていた。


ふと、神耶君の頭の上にある、スケッチブックの存在に気付く。


それは昨日、私が忘れて行ったもの。
昨日置き忘れていった荷物は、社の隅にまとめて置いてあるのに、どうしてスケッチブックと筆箱だけ、こんな所に無造作に置いてあるんだろう。


不思議に思ってスケッチブックを手に取ると、パラパラとページをめくってみた。


すると、私が昨日神耶君をスケッチしていたページを開いた時、そこにある違和感を感じて、不意にめくる手を止める。


私が感じた違和感。それは、昨日神耶君をスケッチしたページの下部分に殴り書いたように昨日まではなかった「下手くそ!」の文字。


きっと、神耶君が書いたであろう容赦ない言葉に、私は思わず苦笑してしまった。



「"下手くそ"って、酷いな~神耶君。頑張って描いたのに」



でも、モデルにした本人からダメ出しされてしまったのだから仕方ない。また最初からスケッチをし直さなくては。


溜息をつきながら、眠っている神耶君を新たにスケッチしようと、次のページをめくた時、私の手が再び止まる。



「……何、これ?」


昨日までは、真っ白だったはずのページ。
そこに描かれた見覚えのない絵。
私の口から驚きの声が漏れ出る。


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