願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

また明日

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その後、無事に駅まで戻って来た私達は、運良くさほど待たずして電車に乗れて、来た時同様に1時間程電車に揺られながら私達の住む町へと帰り着いた。


駅を降りる頃、空には既に沢山の星々が光輝いていた。
田舎ならではの景色に、帰ってきた事を実感させられる。



「あ~あ、帰って来ちゃった」



今日一日がとても色濃く、楽しかったせいか、今日と言う日が終わってしまうことが、何だかとても寂しく感じられて、溜息とともに私の口からはそんな素直な感想が漏れた。



「何があ~あだ。やっと帰り着いた、の間違いだろ」


「え~? 私はもっと遊んでいたかったよ。まだまだ遊び足りないよ」 


「今日はもう十分だ。俺はお前に散々振り回されて疲れた。それに、空はもう真っ暗だ。お子ちゃまは家に帰る時間だろ。お前、今日はこのまま大人しく帰れよ」


「……」


「いいな! 返事は?」


「……は~い」


「ったく」


ごねてごねて、やっと返事をした私に、神耶君は呆れ顔で頭を掻いている。



「あっ、でも私、社に荷物置いたままだ。一回社に戻らなきゃ」



ふと、神社に置きっぱなしにしていたスケッチブックやら筆記用具やら、朝は手にしていたいくつかの荷物の存在を思い出して、私は声を上げる。と、神耶君は、別段大した事ではないとでも言いたげな顔で冷静に続けた。



「お前どうせ明日も来るんだろ。なら別に明日で良いじゃん」


「えっ?」



まさか、神耶君の口から出た予想外の言葉に、私は思わず驚きを口にする。



「えって、何だよ?」


「行っても良いの?」


「は?」


「明日も遊びに、行って良いの?」


「はぁ? 何だよ急に。どうせ来るなって言った所で言う事聞かないんだろお前は」


「うん! 分かった! じゃあ私、今日は大人しく帰る! 明日また、朝から神社に遊びに行くから、だからそれまで荷物預かっててね! お願いします神耶君!!」


「? 何だ急に嬉しそうに」


「だって!」



さっき神耶君に、もう関わるなって言われた。
だから、もう私とは遊んでくれないのかと思った。


けど神耶君は今、明日も来て良いって言ってくれた。だから


「へへへ。何でもな~い」


「……? 変な奴」



私と神耶君はそんな会話を交わしながら二人並んで家路を歩いた。
暗くなった夜の道を、月明かりの優しい光がほのかに照らしてくれている。



「葵葉! お前、今まで一体どこに行ってたんだ? こんな時間まで心配しただろ!」


「あっ、お兄ちゃん!!」



家まであと数十メートル、という所まで来たところで、前方から大声を上げながら、物凄い勢いで私達の元へ駆け寄って来るお兄ちゃんの姿に気付いた。


どうやら、帰りの遅い私を心配して、ずっと家の前で待っていてくれたみたい。


お兄ちゃんの姿を見るなり、神耶君ははふわりと宙に浮かび上がって、「んじゃ、俺行くわ」と、一言言い残すと、みるみるうちに私の遥か頭上へと舞い上がって行ってしまう。


だから、私は慌てて振り返り空を仰ぐと、大声で夜空に向かって叫んだ。今日一日の感謝の気持ちを伝えようと、神耶君に向かって目一杯の声で叫んだ。


「うん。ありがとう~神耶君! 今日はスッゴく、スッゴく楽しかった~!」


「そりゃどうも。おれはスッゴく疲れたけどなっ!」


「明日も絶対行くから~!」


「相変わらず、嫌味が通じない奴だな」


「え~? な~に~? 今なんて言ったの~?」


「別に、何でもない! じゃあな!」


「うん、バイバイ神耶君! また明日ね!!」


「はいはい、また明日」



面倒臭そうに最後の言葉を口にしながら、神耶君は神社のある南の空に向かって、ゆっくりと遠ざかって行った。


私は夜の薄闇の中、溶け込んでいくその姿に、大きく大きく手を振りながら見送った。


ついに暗がりに神耶君の姿を見失った時、私はゆっくりと手を下した。


それを合図に、いつの間にか後ろにいたお兄ちゃんの手が、ずっしりと私の肩に乗せられて、低く唸るような声で怒られる。


「葵葉お前、またあの八幡神社の神様と遊んでたのか? 昨日、病院の先生に安静にしてるよう言われてただろ」


お兄ちゃんの怒りを、背中にヒシヒシと感じながらも、私はニッコリ笑いながらお兄ちゃんの方を振り返って言った。



「お兄ちゃん、お腹減った。今日のご飯はな~に?」


「葵葉お前、人の話聞いてるか?」


「ほら~、そんながみがみ怒ってないで、早く家に入ろうよ」



完全にお兄ちゃんの話を無視して、私はお兄ちゃんの手を掴むと、家への道を急ぐよう促す。
久しぶりに兄妹で手を繋いだことが照れ臭かったのか、お兄ちゃんの口調は急にへにゃへにゃした柔らかいものへと変わったのを感じた。


「あ? あ、あぁ。そうだな。ばあちゃんも母さんも、晩御飯の準備してお前の帰りを待ってたんだ。今日はお前の好きなカレーだぞ」


「本当?! やった~! 今日はいっぱい遊んで来たからもうお腹ペコペコ」


「そうかそうか。じゃあきっと、今日のご飯はいつも以上に美味しく食べられるな。いっぱい食べて元気になれよ葵葉!」


「うん!!」


すっかりいつもの調子に戻ったお兄ちゃん。
その後はお互いに、たわいのない話をしながら私達は家までの道を歩いた。

「そう言えば、八幡神社と言えばな」


「? な~に?」


「近々秋祭りがあるらしいぞ。じいちゃんが教えてくれたんだ」


「それホント?! お兄ちゃん!」


「ホントだとも。葵葉、夏祭り行けなくて悔しがってただろ。だから、秋祭りこそは兄ちゃんが絶対連れて行ってやるからな。楽しみにしてろよ~」


「うん!ありがとうお兄ちゃん、教えてくれて! 次こそは神耶君誘ってお祭りデートを満喫しなくっちゃ!」


「ん?神耶君と? デート……だと? ゆ、許さん!許さんぞ葵葉! 葵葉を祭りにつれて行くのは兄であるこのお――」


-ガラガラ-


「お母さん、ただいま~」


「あっ、お帰りなさい葵葉ちゃん。貴女今日1日何処へいっていたの?心配したわよ」


「ごめんなさい、お母さん」


「でも無事に帰って来てくれて良かった。さぁ、早く手を洗っていらっしゃい。すぐ晩御飯にするからね」


「は~い」


―ガラガラ、ピシャン―



「――この俺!……って、葵葉!? 母さんも!! どうして俺だけ閉め出すんだよ! 酷いじゃないか~~~~!!」

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