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秋物語
食欲の秋②
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神耶君に手を引かれるまま連れて来られた場所、そこはこの山に流れる綺麗な小川だった。
小川に着くと、神耶君は着物の袖を捲り上げ、更には袴も捲り上げ、豪快にバシャバシャと川の中へと入って行く。
そんな神耶君の後ろに続こうと、私も履いていた靴を脱ぎ、膝丈までのズボンの裾を更に捲り上げると、彼を追って水が透明に透き通る綺麗な小川へと足を踏み入れた。
「冷たいっ!」
思わず漏れた声に、神耶君は驚いた様子でこちらを振り返る。
「お前っ、何やってんだよ。危ないから葵葉は入ってくるな!」
「これくらい大丈夫だよ」
そう返した矢先、足元にあったコケだらけの石で足を滑らせ、私はバランスを崩す。
そのままの勢いで体が後ろに傾きかけたその瞬間
「危ないっ!」
尻もちを付く寸前の所で駆け寄ってきた神耶君に抱きとめられて、何とか水の中へのダイブは免れた。
けれど、思いがけず間近に迫った神耶君の顔に、また新たな危機に直面する。
一瞬にして私の体温は急上昇を始め、顔が熱くなるのを感じた。
再び早鐘を打ち始める鼓動が、私に警鐘を鳴らしている。
けれど、こんなにも至近距離に神耶君の顔があって、体が密着していては、この胸の鼓動を抑える事などできるはずもない。
それでもなんとかしなくてはと、私は慌てて神耶君から離れようとした時、突然足の自由が奪われて、一瞬グラリと視界が揺れた。
「え? えぇ? えぇぇ?!」
気付けば私は神耶君の両腕で抱き抱えられ、世に言う“お姫様抱っこ“をされていた。
「だから言っただろ、危ないって。分かったらお前は大人しく向こうで待ってろ」
「…………」
ついにオーバーヒートを迎えた私の心臓。
神耶君の言葉をどこか遠くに聞きながら、これより先の私の記憶は一度プツンと途切れた。
次に意識が戻った時、私は一人川岸に座らされ、神耶君は再びバシャバシャと川の中へ戻って行く所だった。
体に残る神耶君の温もりをそっと抱いて、私は体育座りをしながら神耶君の後ろ姿をぼんやりと見つめた。
いや、見惚れていたと言った方が正しいのかもしれない。
初めて感じた神耶君の男らしさ、逞しさに、私の鼓動は今もまだドキドキと高鳴っている。
「葵葉さん」
「っ?!」
不意に背後から名前を呼ばれて、私は肩をギクリと跳ね上げさせる。
「……師匠さん」
「顔が赤いですよ。大丈夫ですか?」
「……すみません。大丈夫じゃないかもです」
「それは困りましたね。葵葉さんは昨日の約束、覚えていらっしゃいますか?」
「そ、それは勿論です。 けど、一度胸に秘めていた気持ちを口に出して認めた事で、今日はいつになく神耶君を意識してしまって、困ってます」
「すみません。それは私にも責任がありますね。では、頭を冷やす為にも、私達は私達の仕事をしに行きましょうか」
ニッコリと優しい笑みを浮かべながらそんな事を言う師匠さんに、私は意味が分からず首を傾げると、師匠さんが神耶君に向かって大声で叫んだ。
「神耶~、私と葵葉さんはたき火の用意をしに、枝と落ち葉を拾って来ますね。貴方は引き続きそこで頑張っていて下さい」
「あぁ~~、分かった~」
神耶君はこっちに向かって大きく手を振り返している。
「では行きましょうか、葵葉さん」
「……はい」
私と師匠さんは、神耶君を一人残して森の中へ入って行った。
小川に着くと、神耶君は着物の袖を捲り上げ、更には袴も捲り上げ、豪快にバシャバシャと川の中へと入って行く。
そんな神耶君の後ろに続こうと、私も履いていた靴を脱ぎ、膝丈までのズボンの裾を更に捲り上げると、彼を追って水が透明に透き通る綺麗な小川へと足を踏み入れた。
「冷たいっ!」
思わず漏れた声に、神耶君は驚いた様子でこちらを振り返る。
「お前っ、何やってんだよ。危ないから葵葉は入ってくるな!」
「これくらい大丈夫だよ」
そう返した矢先、足元にあったコケだらけの石で足を滑らせ、私はバランスを崩す。
そのままの勢いで体が後ろに傾きかけたその瞬間
「危ないっ!」
尻もちを付く寸前の所で駆け寄ってきた神耶君に抱きとめられて、何とか水の中へのダイブは免れた。
けれど、思いがけず間近に迫った神耶君の顔に、また新たな危機に直面する。
一瞬にして私の体温は急上昇を始め、顔が熱くなるのを感じた。
再び早鐘を打ち始める鼓動が、私に警鐘を鳴らしている。
けれど、こんなにも至近距離に神耶君の顔があって、体が密着していては、この胸の鼓動を抑える事などできるはずもない。
それでもなんとかしなくてはと、私は慌てて神耶君から離れようとした時、突然足の自由が奪われて、一瞬グラリと視界が揺れた。
「え? えぇ? えぇぇ?!」
気付けば私は神耶君の両腕で抱き抱えられ、世に言う“お姫様抱っこ“をされていた。
「だから言っただろ、危ないって。分かったらお前は大人しく向こうで待ってろ」
「…………」
ついにオーバーヒートを迎えた私の心臓。
神耶君の言葉をどこか遠くに聞きながら、これより先の私の記憶は一度プツンと途切れた。
次に意識が戻った時、私は一人川岸に座らされ、神耶君は再びバシャバシャと川の中へ戻って行く所だった。
体に残る神耶君の温もりをそっと抱いて、私は体育座りをしながら神耶君の後ろ姿をぼんやりと見つめた。
いや、見惚れていたと言った方が正しいのかもしれない。
初めて感じた神耶君の男らしさ、逞しさに、私の鼓動は今もまだドキドキと高鳴っている。
「葵葉さん」
「っ?!」
不意に背後から名前を呼ばれて、私は肩をギクリと跳ね上げさせる。
「……師匠さん」
「顔が赤いですよ。大丈夫ですか?」
「……すみません。大丈夫じゃないかもです」
「それは困りましたね。葵葉さんは昨日の約束、覚えていらっしゃいますか?」
「そ、それは勿論です。 けど、一度胸に秘めていた気持ちを口に出して認めた事で、今日はいつになく神耶君を意識してしまって、困ってます」
「すみません。それは私にも責任がありますね。では、頭を冷やす為にも、私達は私達の仕事をしに行きましょうか」
ニッコリと優しい笑みを浮かべながらそんな事を言う師匠さんに、私は意味が分からず首を傾げると、師匠さんが神耶君に向かって大声で叫んだ。
「神耶~、私と葵葉さんはたき火の用意をしに、枝と落ち葉を拾って来ますね。貴方は引き続きそこで頑張っていて下さい」
「あぁ~~、分かった~」
神耶君はこっちに向かって大きく手を振り返している。
「では行きましょうか、葵葉さん」
「……はい」
私と師匠さんは、神耶君を一人残して森の中へ入って行った。
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