50 / 175
秋物語
食欲の秋
しおりを挟む
どれ程の時間が経っただろうか。
集中し過ぎて時が経つのも忘れていた頃――
“グー”と急に泣き出した自分のお腹の音にはっと我に返る。
「……お腹すいたな」
社には時計など存在していない。だから正確な時間までは分からないけど、きっといつの間にか正午近い時間になっていたのだろう。
そんな事を考えていると“グー”と、また私のお腹が盛大な鳴き声をあげた。
「おい! 今度はうるさくて眠れないぞ!!」
あまりにも大きな音だったのか、顔を隠す為に被っていた狐の面を取った神耶君は、恨めしそうな顔でこちらを睨んでいた。
「あ、神耶君おはよう。うるさかった? ゴメンね。私、お腹減っちゃって」
へへへと苦笑まじりに神耶君に向かって手を合わせ、一応の謝罪を口にするも、言葉に反して私のお腹は鳴りやむ気配などなくて
“グ~”
“グ~~”
“ググ~~”
鳴り止まないお腹の音に比例して、神耶君の眉間に刻まれた皺がどんどんと深く刻まれて行く。
そしてついに、怒りが爆発した神耶君は頭を掻きむしりながら怒鳴った。
「あ~~~も~~~~うるせぇ~~!! ったく、そんなに腹が減ってるなら早く何か食えばいいだろ! お前、今日弁当は?」
「それが、持って来てないの。実は今日は、お母さんに内緒で家をこっそり抜け出して来たから」
「はぁぁ?! 何やってんだよお前は」
「ひぇぇ~ゴメンなさいっ。ゴメンなさ~い」
怒りのあまり、まるで鬼の形相で私を睨む神耶君の迫力に、半べそをかきながら必死に謝る私。
「ったく。相変わらず世話の焼ける奴だな。取り敢えず、俺と一緒に来い!」
すると神耶君は突然、強引に私の腕を掴んで
「え? えぇ?? どこに行くの?」
「お前の昼飯を捕りに行くんだよ!」
私を社の外へと連れ出した。
腕に感じる神耶君の熱。
突然の事で動揺したのか、私の心臓がドクンと、力強く跳ね上がる。
一度乱れてしまった鼓動はもう自分の意思では制御できない。ドクンドクンと、うるさい程に私の中で脈打って、体中を熱くさせた。
「っ………」
このままでは神耶君に私の心臓の音を聞かれてしまうかもしれない。
もし、聞かれてしまったら、私の想いが神耶君に気付かれてしまうかもしれない。
昨日、師匠さんと交わした約束が頭を過る。
――『一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。お願いします』――
もし約束を違えてしまったら?
2度と神耶君に会わせてもらえなくなるかもしれない。
そんなの絶対嫌だ!
焦れば焦る程に私の鼓動は早くなって行って、更に追い撃ちをかけるように、境内の掃除をしていた師匠さんから私たちに声が掛かった。
「神耶? 葵葉さん? どうしたんです? 二人で手なんかつないで。どこかへお出かけですか?」
「こいつの昼飯を取りに行くんだよ。さっきからこいつの腹がうるさくて敵わない」
「そうですか。では、私も一緒に参りましょう」
ニッコリと穏やかないつもの微笑みを浮かべながら師匠さんは私を見て言った。
師匠さんと交わる視線。
まるで私の心を見透かされているようなその視線に耐え切れなくなって、私は顔を逸してしまう。
「ん? どうしたんだ二人共? 今日は何だか妙に余所余所しい?」
私と師匠さんとの間に流れる気まずい空気に気付いたのか、私と師匠さんを交互に見比べる神耶君。
鋭い洞察力に私は言葉に詰まった。
「何でもないですよ。ほら、葵葉さんの為にも早く行きましょうか」
けれど師匠さんは、全く動じた様子もなく穏やかな笑顔を浮かべたまま、私達の背中を押しながら先へ進むよう促した。
集中し過ぎて時が経つのも忘れていた頃――
“グー”と急に泣き出した自分のお腹の音にはっと我に返る。
「……お腹すいたな」
社には時計など存在していない。だから正確な時間までは分からないけど、きっといつの間にか正午近い時間になっていたのだろう。
そんな事を考えていると“グー”と、また私のお腹が盛大な鳴き声をあげた。
「おい! 今度はうるさくて眠れないぞ!!」
あまりにも大きな音だったのか、顔を隠す為に被っていた狐の面を取った神耶君は、恨めしそうな顔でこちらを睨んでいた。
「あ、神耶君おはよう。うるさかった? ゴメンね。私、お腹減っちゃって」
へへへと苦笑まじりに神耶君に向かって手を合わせ、一応の謝罪を口にするも、言葉に反して私のお腹は鳴りやむ気配などなくて
“グ~”
“グ~~”
“ググ~~”
鳴り止まないお腹の音に比例して、神耶君の眉間に刻まれた皺がどんどんと深く刻まれて行く。
そしてついに、怒りが爆発した神耶君は頭を掻きむしりながら怒鳴った。
「あ~~~も~~~~うるせぇ~~!! ったく、そんなに腹が減ってるなら早く何か食えばいいだろ! お前、今日弁当は?」
「それが、持って来てないの。実は今日は、お母さんに内緒で家をこっそり抜け出して来たから」
「はぁぁ?! 何やってんだよお前は」
「ひぇぇ~ゴメンなさいっ。ゴメンなさ~い」
怒りのあまり、まるで鬼の形相で私を睨む神耶君の迫力に、半べそをかきながら必死に謝る私。
「ったく。相変わらず世話の焼ける奴だな。取り敢えず、俺と一緒に来い!」
すると神耶君は突然、強引に私の腕を掴んで
「え? えぇ?? どこに行くの?」
「お前の昼飯を捕りに行くんだよ!」
私を社の外へと連れ出した。
腕に感じる神耶君の熱。
突然の事で動揺したのか、私の心臓がドクンと、力強く跳ね上がる。
一度乱れてしまった鼓動はもう自分の意思では制御できない。ドクンドクンと、うるさい程に私の中で脈打って、体中を熱くさせた。
「っ………」
このままでは神耶君に私の心臓の音を聞かれてしまうかもしれない。
もし、聞かれてしまったら、私の想いが神耶君に気付かれてしまうかもしれない。
昨日、師匠さんと交わした約束が頭を過る。
――『一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。お願いします』――
もし約束を違えてしまったら?
2度と神耶君に会わせてもらえなくなるかもしれない。
そんなの絶対嫌だ!
焦れば焦る程に私の鼓動は早くなって行って、更に追い撃ちをかけるように、境内の掃除をしていた師匠さんから私たちに声が掛かった。
「神耶? 葵葉さん? どうしたんです? 二人で手なんかつないで。どこかへお出かけですか?」
「こいつの昼飯を取りに行くんだよ。さっきからこいつの腹がうるさくて敵わない」
「そうですか。では、私も一緒に参りましょう」
ニッコリと穏やかないつもの微笑みを浮かべながら師匠さんは私を見て言った。
師匠さんと交わる視線。
まるで私の心を見透かされているようなその視線に耐え切れなくなって、私は顔を逸してしまう。
「ん? どうしたんだ二人共? 今日は何だか妙に余所余所しい?」
私と師匠さんとの間に流れる気まずい空気に気付いたのか、私と師匠さんを交互に見比べる神耶君。
鋭い洞察力に私は言葉に詰まった。
「何でもないですよ。ほら、葵葉さんの為にも早く行きましょうか」
けれど師匠さんは、全く動じた様子もなく穏やかな笑顔を浮かべたまま、私達の背中を押しながら先へ進むよう促した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる