願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
48 / 176
秋物語

叶わぬ想い

しおりを挟む
「あれ? そう言えば神耶君は? 一緒じゃないんですか?」


「残念ながら、神耶は先に社に戻っていると。貴方の事はとても心配してましたが、それ以上に貴方に気をつかったのでしょう」


「そうなんですか。別に気なんて使わなくても良いのに」



私は、クスリと小さく笑いを零しながらそう呟く。
そんな私に、師匠さんがそれまで浮かべていた優しい微笑みを鎮めて、真剣な表情で私の名前を呼んだ。



「葵葉さん」


「はい?」


「突然ですが、貴方に一つお尋ねしても宜しいですか?」


「? はい、私で答えられる事であれば」


「ありがとうございます。では、単刀直入にお聞きしますね。神耶の事、貴方はどう思ってますか? 神耶は貴方にとってどんな存在ですか?」



本当に突然の質問に一瞬面食らう。
でも師匠さんの顔があまりに真剣で、私も躊躇いながらも真剣に答えを返した。



「どんな存在かと聞かれたら、私は迷わずヒーローだと答ます」


「ヒーロー、ですか」


「はい。神耶君は、私を死の淵から助けてくれました。神耶君がいるから今、私はこうしてここで生きていられる。神耶君は、私にとってヒーローで、私は神耶君の事が大好きです」


「……そう……ですか。そのは、友達としてですか? それとも……恋心?」


「友達としても大好きです。けど、恋心としても、きっと……」



不器用な優しさで、いつも私を助けてくれたヒーローは、気付かないうちに私の中でどんどん大きな存在になっていて、一年ぶりに再会した時、やっと自覚した。


あぁ、私は―――



「神耶君の事が好きです」



師匠さんの顔を真っすぐに見ながら私は素直な気持ちを答えた。
私の出した答えに、師匠さんの顔に一瞬浮かんだ悲しみの表情。その表情を私は見逃さなかった。


師匠さんの表情に、私の中で神耶君への気持ちが大きくなればなる程に不安に思っていたある事が、核心へと変わった。


……変わってしまった。


あぁやっぱり、この恋は叶わないのだと。



「やはり、貴方は自覚していたんですね」


「……はい」


「…………」


「………………」


私達は、お互いに無言になった。
長い沈黙が続く。


先にその沈黙を破ったのは、師匠さんの方で



「突然、変な事を聞いてすみませんでした。でも、葵葉さんの気持ちを聞いてしまった以上、私は貴方にお願いしなければなりません」


「お願い?」


「はい。これから先、もう二度と神耶とは会わないで頂きたい」


「……え? どうしてですか?!」



予想外の言葉だった。
まさか、もう会ってもいけないなんて、どうして?



「貴方と神耶の為です。貴方達二人の為なのです。神と人間が愛し合う事は、残念ながら許されない禁忌」


「私はっ、神耶君と付き合いたいとか両想いになりたいとか、そんな事は思ってません。ただ、神耶君と一緒にいられれば……神耶君の側にいられればそれだけで……。その為に私は、辛い治療に堪えてこの町に戻って来たんです。なのに……神耶君に会えなくなるなんて……」



そんな日常を想像して、私は急に胸が苦しくなった。


と同時に呼吸が早くなる。



「葵葉さん!? 苦しいのですか? もしかしてまた発作が?」


「……大……丈夫……です……。私は……大丈夫…………」


「ですがっ!」


「お願いします。神耶君に会うななて……そんな悲しい事……言わないで下さい……」


「…………」


「私は今のままで、十分幸せなんです。この幸せを守る為なら私は、神耶君に気付かれないよう神耶君への気持ちを隠し通します。絶対に隠し通してみせますから、だから……お願いします。会うななんて言わないで……」


「葵葉さん……」


「お願い……します……」



胸が苦しくて、呼吸も上手く出来ない。
それでも私は必死に師匠さんの着物の袖を掴んで、一生懸命にお願いした。



「分かりました。分かりましたから、神耶に会うなとは言いません。人の気持ちをどうこうする事など、神である私にもできる事ではない。だから、落ち着いて、もう喋らないで」


「本当……ですか?」


「ええ。葵葉さん、あんないじっぱりで、怒りっぽくて、素直じゃなくて可愛くない神耶の事を、好きになって下さってありがとうございます。心から感謝します。でも、一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。……お願いします」


「……はい……分かりました」


「もし、神耶が貴方の気持ちに気付いて―――」



――自分の気持ちにまで気付いてしまったら、その時その先に待っているのはきっと、辛い別れだけ。貴方達の苦しむ姿など、私は見たくない――


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...