願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

助けてくれたお礼に

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「あんたのせいでそこかしこ怪我だらけだよ。何でかあんたの顔みた途端、保健の先生は血相変えて飛び出して行っちまうし、仕方なく自分で手当してんの」


「それはいけません! 私に、是非私に手当てさせて下さい!! 助けて貰ったお礼をしなければです!!」


「いい、自分でやる」


「いけません! 怪我したのならちゃんと手当てしないと。私にやらせて下さい!」



勢い良く顔を上げた時、その人と初めて視線がぶつかった。


まるで女性のように白く綺麗な肌と、目鼻立ちのしっかりとした端正な顔に、一瞬見とれそうになりながら、鼻息荒く私は懇願した。



「手当てさせてください!」


「…………おい、近い。顔が近い。離れろ」


「でも、私のせいで怪我したのなら、責任をとらなくては!」


「だから近いって。あ~分かった。分かったからあんた、それ以上俺に近付くな。本気で怖いから」



盛大なため息をつきながらも、私の勢いに押されたのか、その人は大人しく腕を差出してくれた。


赤く腫れた右腕に湿布をして、その上に包帯をくるくる巻いていく。
と、どこか呆れた様子で口を出される。



「おいあんた、本当に出来るのか?」


「だ、大丈夫です。あれ? おかしいな。何で包帯絡まってるのかな?」


「……」


「大丈夫です! まかせて下さい!!」


「…………はぁ」



自信満々に答えた私に、また盛大なため息をつかれてしまう。


包帯を巻きながら、その人の胸につけられた名札が目についた。
そう言えば、まだ名前を聞いていなかったと、私は無意識にそこにかかれた名前を口にした。



月岡つきおか……裕樹ゆうき先輩? 2年の方なんですか?」


「ん? あぁ。お前は? 1年?」


「はい」


「何であんな所で喧嘩なんかしてたんだ?イジメられてたのか?」


「それは……」


「ま、俺には関係ない事だから、話たくないなら話さなくて良いよ、別に」


「……」


「それに、出来る事なら口よりも先に手を動かしてくれた方が嬉しいし」


「あ、すみませんっ!」



話す事にばかり意識が向いてしまったせいで、ついつい手が疎かになってしまっていた。その事を指摘されて、私は慌てて包帯を巻く手を動かした。


月岡先輩もそれ以上口を開く事はなくなって、保健室は静寂に包まれる。



……
…………
………………




「おい、あんた。たかだか包帯巻くのにどんだけ時間かかってんだよ」

 
どれくらい時間が経った頃だっただろうか。
私達の間に流れていたその沈黙を、先に破ったのは先輩だった。



「えっと、すみません。多分あと少しなんですけど。ここをこうして……ああして……」


「…………」


「出来た!!」


「出来たって、これでか? なんか、凄く緩い気がするんだけど?」


「そうですか? きつくしめ過ぎたら痛いかと思って」


「だからってこれは」



包帯の巻き具合を確認しようと先輩が少し腕を動かしただけで、綻び始める哀れな包帯。



「…………はぁ」



そんな包帯の様子にまたも盛大なため息を吐きながら、呆れと怒りとを含んだような何とも言えないな顔で、自ら改めて包帯を巻き始める月岡先輩。



「お気にめさなかったですか?」


「あぁ」


「即答……。ごめんなさい、ごめんなさい。もう一度、もう一度巻き直しますから!」


「もういいよ、自分でやる。つかあんた、そんなに元気だったら、そろそろ教室戻ったら? 5時間目の授業、とっくに始まってるだろ」


「そう言う先輩は?」


「俺はもちろんサボる。誰かさんのせいで体中に激痛が走って勉強どころじゃないからな」


「じゃあ私もサボります! 先輩の怪我は私のせいなのに、私だけのほほんと授業に戻るなんて出来ません!」


「逆にいない方がありがたいんだけど。あんたがいると煩さくて敵わない。いいから、あんたは授業に出て来いよ」


「でも、それでは先輩に申し訳が」


「とか言って、それは単なる建前で、本当は教室に戻りたくないんじゃないの。あんな事の後で、クラスの奴らと顔会わせるのが気まずい、とかさ」


「っ……」


「おいおい図星かよ」


「……」


先輩の言葉に何故か返す言葉に詰まってしまった。
そんな事はないと、自分を納得させる言葉を探せば探す程に、言葉が出て来なくて私は俯く。



「悪かった。ちょっと無神経な事言っちまったな。ごめん」



先輩の言葉に、私はふるふると頭をふった。



「やっぱりあんた、あの時、イジメられてたのか?」


「…………」



その質問に沈黙を続ける私に、先輩は小さくため息をつきながら、私の頭に大きな手を乗せた。



「話たくないなら話さなくても良い。俺も無理矢理聞くつもりはない」


「……」


「けどな、もし今本当は泣きたい程辛いんだとしたら、無理にはしゃいでみせなくて良い。無理に笑おうとしなくて良い。素直に思っている感情を出せば良い。じゃないと疲れるだろ」


「…………」



優しい口調で語りかけながら、私の頭を先輩の大きな手でくしゃくしゃに撫でてくれた。
そんな先輩の温かさに導かれるように、私の口からつい、こんな言葉が漏れた。



「先輩は……」


「ん?」


「神様って信じますか?」
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