願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

喧嘩の後に

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私は慌てて安藤さんの手からスケッチブックを奪い返そうと、安藤さんに飛び付いた。



「離せ! キモいんだよお前!!」

「離さない! これだけは……ダメっ!」



私達のスケッチブックの取り合いに、その場にいたクラスメイト達は皆が皆、傍観者を決め込んで、誰も止めに入る者はいない。



「返して!」


「うるさい!」


「返して!!」



取り合いに夢中になって、気づけば私は屋上の入り口普及から、階段の踊り場あたりにまで移動していた。
傍観者の生徒達と、いつのまに場所が入れ替わっていたのか、私と安藤さんが校舎の中に、他のクラスメイト達が屋上に出て、こちらを見守っている。



「おい、お前達、そんな所で何やってんだ?! 危ないだろ!」



不意に、下からそんな怒鳴り声が聴こえて来た。
私の意識が一瞬、そちらに逸れた時、眼下に階段が見えた。


先程の声は、この階段が危ないと忠告してくれたのだろう。けれど、怯んでなんていられない。


怒鳴り声に安藤さんの力が一瞬緩んだ、その隙をついて、私はスケッチブックを思いっ切り引っ張った。


「やった……」


そして、安藤さんの手からスケッチブックを取り返す事に成功した、次の瞬間、取り戻した勢いで体はバランスを崩し、私の体はフワリと宙に浮いたような、そんな不思議な感覚に襲わたれた。



「危ないっ!」



遠くに聞こえる声。
ぐらりと天井が回って見える。


後ろにバランスを崩した私は、重力に抗えず階段に向かって背中から真っ逆さまに落ちていく。


込み上げてくる恐怖から私はギュッと目をつむった。
真っ暗な景色の中、頭に浮かんできたのは神耶君の顔。



『助けて……神耶君。助けて…………』



そう心の中で叫んだのを最後に、私は意識を手放した。


  ◆◆◆



「…………ん」


次に目が覚めた時、背中に感じるのは固くて冷たいはずの床の感触――ではなくて、ふかふかの布団。


予想していたものとは全く違う感覚に、私は驚いて飛び起きる。


体を起こした事でここがどこであるかを理解する。



「……保健室? どうして私、保健室なんかに?」



記憶を手繰りよせつつ、キョロキョロと辺りを見渡していると、視界にぼんやりと人の後ろ姿が映った。



「…………神耶……君?」



保健室の窓際に設置されたソファーに腰かけた人物の背中に向かって、私はそう呟いた。


するとその人はゆっくりとこちらを振り返って


「気付いたか?」


低い声でそうが言葉が返ってきた。


返って来た声は期待していた人のものではなく、全く知らない人のもの。



「……貴方は?」

「……」



私の問い掛けに返事はない。
その人は、答える気はないとばかりにまた私に背を向ける。


声は男の人のものだったが、窓から差し込む光に照らされ少し栗色に輝く髪は、肩につくかつかないかくらいのサラサラしたとても綺麗なストレートヘアーで、その後ろ姿はまるで女の人と見間違えてしまう程、綺麗な印象を受けた。


「あの、貴方が私を助けてくれたんですか? 私、確か階段から落ちたと思うんですけど……」


「それであんたに下敷きにされた」


「えっ?!」


「薄情な友人達は、あんたが階段から落ちた事に血相変えて皆して逃げて行った」


「…………あぁ」


「のびてるあんたを、そのまま放っておくわけにもいかず、仕方なく俺が保健室まで運んでやった。被害者であるはずの俺が、な。あんたに巻き込まれたばっかりに」



最初は淡々と話していた口調が、次第に怒りを含んだものへと変わっていく。


「そ、それは……多大なご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした!」



背中からも滲み出ている怒りのオーラに、私は慌ててベッドの上に正座をすると、その人の背中に向かって深々と頭を下げた。


「全くだ。……痛っ~」


「っ!? どうしたんですか??」



痛みを含んだ声に、自分のせいでどこか怪我をさせてしまったのかと、私は慌ててその人が座るソファーへと駆け寄った。



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