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秋物語
クラスメイトとの喧嘩
しおりを挟む◇◇◇
葵葉に見送られ、去って行く神耶と師匠の二人。
葵葉に背を向けた二人は、先程までの笑顔を消して、どこか真剣な表情で会話を交わす。
「神耶、言いましたよね。あまり人間界には出入りするなと」
「何だよあんた、前は社に閉じ籠ってた俺に、たまには人間界に降りて仕事しろって、口うるさく言ってたじゃないか」
「仕事をするなら良いんです」
「してるだろ仕事。寂しくて誰かに側にいて欲しいって言う葵葉の願いを叶えてる」
「それがいけないのですよ。誰か一人の願いだけを叶え続けるなんて……」
「…………」
「一人の人間を贔屓する事は、神である私達には許されない事」
「分かってるよ。ちゃんと分かってるから、心配すんなって」
「なら良いのですが……本当に気をつけてくださいね」
「あぁ、分かってる」
分かっていると口にする神耶の、感情の読み取れない表情を横目に見ながら、この時師匠の心の中は言いようのない不安を抱えていた。
◇◇◇
神耶君と師匠が真っ青な空の中、遠ざかって行く姿を、見えなくなるその瞬間まで見送っていた私は、突然後ろから聞こえてきた、“バタン”と勢いよくドアが開け放たれる音に驚いて振り返る。
すると、屋上と校舎を繋ぐ出入口の扉付近には、数人のクラスメイト達が呆然とした様子でこちらを見ながら立っていた。
「白羽さん……今の……何? 貴方、誰と話してたの? どうして卵焼きが宙に浮いて?」
「あ、あの……今のは……」
矢継ぎ早に飛ぶクラスメイトからの質問。
私は今の状況をどう誤魔化そうかと言葉に詰まった――
ふと、前にも同じような状況があった事を思い出した。
あの時も、神耶君の存在を素直に人に言えなくて、自分自身に嫌悪感を覚えたんだったっけ。
ここでまた誤魔化しの言葉を考えるなんて。
自分自身の行いに恥ずかしくなった。
だから私は素直に神耶君の存在を説明する事にした。
この町で出会った八幡神社の神様の事を。
皆が忘れかけているこの町の護り神様の事を。
「あんた、何馬鹿な事言ってるの? 神様なんてこの世の中にいるわけないじゃん!」
「神様はいます。神耶君が前に言ってました。信じない人間には見えない。皆さんに見えないのはきっと、信じていないから。神様の存在を信じれば、きっと皆さんにも見えるはずです」
「じゃあ……」
「え?」
「じゃあ、本当に神様がいたとして……どうして私は今、この学校に通ってなきゃいけないんだよ。第一志望の南高に合格できますようにって、1年間ずっとずっと私は神様に願って願って願い続けてきたのに、どうして今私は、こんな田舎の落ちこぼれ高校なんかに通ってなきゃいけないのよ」
茶色ががかったストレートの長く綺麗な髪を風に靡かせながら、憎々しげにそう言ったのは転校初日の帰り際、私にきつい言葉を掛けた2人のうちの1人、安藤さん。
「神耶君はこんな事も言ってました。神様は願いを叶えたいと本気で努力した人間の手伝いしか出来ないって」
「何? それじゃあ、私の努力が足りなかったって言いたいの? あんた本気でムカつくっ!!」
「い、いえ、そう言うつもりでは……」
「笑いたくもないくせに、馬鹿みたいにニコニコ愛想笑いしてさ、大人達に贔屓されて。人の気を引きたいのか知んないけど、神様が見えるとかワケわかんない事言っちゃって、あんたマジでキモいんだけど! クラスの奴から相手にされなくて、いつまでもうじうじうじうじ。"それ"とばっかりにらめっこしてる姿もいちいち腹が立つ!」
そう声を荒げて、あの日のように私に迫って来る安藤さん。
安藤さんは私を睨みつけたまま、不意に私に向かって手を伸ばして来た。
蛇に睨まれた蛙のように固まって動けなくなっていると、私の目前に迫っていたその手は、触れられる寸前で顔の下へと逸れる。
「あっ!?」
安藤さんの手が掴んでいたもの。それは昼休みの空いた時間に神耶君をスケッチしようと持ってきていたスケッチブック。
安藤さんはそれを開くと、力いっぱい左右に引っ張った。
「ダメっ!!」
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