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秋物語
賑やかな午後のひと時②
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神耶君と昼休みを屋上で過ごすようになって一週間が過ぎた頃。
「今日もこんな所で、一人寂しく弁当か?」
「神耶君!」
「よっ、今日も卵焼きくれ!」
「神耶君は卵焼きが好物なんだね。いいよ。1つどうぞ」
「馬鹿言え。1つと言わず全部よこせ!」
「あぁ~~~っ!!?」
私のお弁当箱から卵焼きをごっそりと、手掴みで盗って行く神耶君に私は慌てて声を上げた。
すると、“ゴツン”と言う大きな音が聞こえたかと思うと、何故か神耶君の手から卵焼きがポロっとお弁当箱に戻って来る。
「い~~~~っって~~~~! 誰だ?! 人の頭を殴りやがった奴は!!」
怒鳴り声を上げながら後ろを振り向く神耶君。
「げっ……師匠……」
振り向いた先には、優しい微笑みを浮かべながら、私達に向かってヒラヒラと手を振る師匠さんの姿があった。
今まで神耶君と2人だけだったお昼に、初めて師匠さんが加わった。
「何であんたがこんな所にいんだよ!」
「それはこっちの台詞です。あなたは何故人間の学校にいるのです?」
「それは……こいつが一人じゃ寂しいって言うから……」
「嘘おっしゃい。葵葉さんのお弁当目当てのくせして」
「だ~~~って、こいつの弁当旨いんだもん!」
「神であるあなたが、人のものを横取りするんじゃありません。はしたない」
珍しく神耶君に対して怒っている様子の師匠さん。
私は助け船を出すべく2人の会話に割って入った。
「あ、あの、いいんです師匠さん。良かったら師匠さんも食べますか?」
「え? 私も頂いて宜しいのですか?」
「はい。お口に合うか分かりませんが」
「では遠慮なく」
そう言って私の卵焼きを、先程の神耶君同様、手掴みでパクリと口に頬張る師匠さん。
しかも、これまた神耶君と同様に、一掴みでお弁当にはいって卵焼きを全部一気に持って行ったものだから、驚きに声も出なかった。
「……」
まさか、横取りははしたないと叱っていた師匠さんが神耶君と同じ事をするなんて、流石は師弟と言うべきか。
師匠さんの行動に、もう笑うしかなかった私の隣で、神耶君は怒りに任せて絶叫していた。
「あぁ~~~~~俺の卵焼き~~~っ!!」
その勢いで師匠さんの胸倉に掴みかかり、師匠さんの体を前後に激しく揺さぶり始める神耶君。
「ん~確かに美味しいですね。この甘さが絶妙!」
「俺の卵焼き! 何全部食ってんだよ! さっきあんた、神が人から物を横取りするなんてはしたないって怒ったよな? 言ってる事とやってる事違うじゃないかよ! 返せよ俺の卵焼き~~~!!」
「くれると言うのだから貰わないのは逆に失礼でしょう。卵焼きくらいで一々大騒ぎするんじゃありません。器が小さいですね」
神耶君の揺さぶりにも動じる事無く、涼しい顔で卵焼きを食べ終わった師匠さんは何と図太――もとい、肝が大きい事か。
「……の野郎~~~~!!!」
「そんな事より」
卵焼きを横取りされた怒りに、神耶君が本気で恨みの念を向けている中、師匠さんは微塵も気にかける様子なく、わざとらしく話題を逸らした。
「そんな事なんかじゃない。返せ俺の卵焼き!」
「こんな所で仕事をサボってないで、社へ帰りますよ神耶。私はサボる貴方を連れ戻しに来たのです」
「返せ返せ、俺の卵焼き~~!」
「…………あぁ~もう! 貴方も男のくせにしつこいですねぇ。 しつこい男は嫌われますよ」
「返せ! 俺の卵焼き!」
「……」
「返せ!」
「ホント、なかなかにしつこいですね、神耶も。ならば仕方ない。こうなったら実力行使です」
「ぐぇ~~~」
神耶君の着物の衿を掴んで、急に師匠さんが立ち上がった。
立った勢いで首を絞められ、潰れた蛙のような間抜けな声が神耶君の口から漏れる。
その後は衿を掴まれたまま、引きずられるようにして師匠さんは神耶君を屋上の端へと連れて行った。
「では葵葉さん、私は神耶をつれて帰ります。残りの授業も頑張って下さいね」
「あ、はい。頑張ります。神耶君もお仕事頑張ってね」
師匠さんに強引に引きずられ、連れて行かれる哀れな神耶君を見送りながら、私は彼ににエールを送った。
まさか今までの神耶君や師匠さんとのこのやり取りを、クラスメイト達に見られていた事にも気づかずに――
「今日もこんな所で、一人寂しく弁当か?」
「神耶君!」
「よっ、今日も卵焼きくれ!」
「神耶君は卵焼きが好物なんだね。いいよ。1つどうぞ」
「馬鹿言え。1つと言わず全部よこせ!」
「あぁ~~~っ!!?」
私のお弁当箱から卵焼きをごっそりと、手掴みで盗って行く神耶君に私は慌てて声を上げた。
すると、“ゴツン”と言う大きな音が聞こえたかと思うと、何故か神耶君の手から卵焼きがポロっとお弁当箱に戻って来る。
「い~~~~っって~~~~! 誰だ?! 人の頭を殴りやがった奴は!!」
怒鳴り声を上げながら後ろを振り向く神耶君。
「げっ……師匠……」
振り向いた先には、優しい微笑みを浮かべながら、私達に向かってヒラヒラと手を振る師匠さんの姿があった。
今まで神耶君と2人だけだったお昼に、初めて師匠さんが加わった。
「何であんたがこんな所にいんだよ!」
「それはこっちの台詞です。あなたは何故人間の学校にいるのです?」
「それは……こいつが一人じゃ寂しいって言うから……」
「嘘おっしゃい。葵葉さんのお弁当目当てのくせして」
「だ~~~って、こいつの弁当旨いんだもん!」
「神であるあなたが、人のものを横取りするんじゃありません。はしたない」
珍しく神耶君に対して怒っている様子の師匠さん。
私は助け船を出すべく2人の会話に割って入った。
「あ、あの、いいんです師匠さん。良かったら師匠さんも食べますか?」
「え? 私も頂いて宜しいのですか?」
「はい。お口に合うか分かりませんが」
「では遠慮なく」
そう言って私の卵焼きを、先程の神耶君同様、手掴みでパクリと口に頬張る師匠さん。
しかも、これまた神耶君と同様に、一掴みでお弁当にはいって卵焼きを全部一気に持って行ったものだから、驚きに声も出なかった。
「……」
まさか、横取りははしたないと叱っていた師匠さんが神耶君と同じ事をするなんて、流石は師弟と言うべきか。
師匠さんの行動に、もう笑うしかなかった私の隣で、神耶君は怒りに任せて絶叫していた。
「あぁ~~~~~俺の卵焼き~~~っ!!」
その勢いで師匠さんの胸倉に掴みかかり、師匠さんの体を前後に激しく揺さぶり始める神耶君。
「ん~確かに美味しいですね。この甘さが絶妙!」
「俺の卵焼き! 何全部食ってんだよ! さっきあんた、神が人から物を横取りするなんてはしたないって怒ったよな? 言ってる事とやってる事違うじゃないかよ! 返せよ俺の卵焼き~~~!!」
「くれると言うのだから貰わないのは逆に失礼でしょう。卵焼きくらいで一々大騒ぎするんじゃありません。器が小さいですね」
神耶君の揺さぶりにも動じる事無く、涼しい顔で卵焼きを食べ終わった師匠さんは何と図太――もとい、肝が大きい事か。
「……の野郎~~~~!!!」
「そんな事より」
卵焼きを横取りされた怒りに、神耶君が本気で恨みの念を向けている中、師匠さんは微塵も気にかける様子なく、わざとらしく話題を逸らした。
「そんな事なんかじゃない。返せ俺の卵焼き!」
「こんな所で仕事をサボってないで、社へ帰りますよ神耶。私はサボる貴方を連れ戻しに来たのです」
「返せ返せ、俺の卵焼き~~!」
「…………あぁ~もう! 貴方も男のくせにしつこいですねぇ。 しつこい男は嫌われますよ」
「返せ! 俺の卵焼き!」
「……」
「返せ!」
「ホント、なかなかにしつこいですね、神耶も。ならば仕方ない。こうなったら実力行使です」
「ぐぇ~~~」
神耶君の着物の衿を掴んで、急に師匠さんが立ち上がった。
立った勢いで首を絞められ、潰れた蛙のような間抜けな声が神耶君の口から漏れる。
その後は衿を掴まれたまま、引きずられるようにして師匠さんは神耶君を屋上の端へと連れて行った。
「では葵葉さん、私は神耶をつれて帰ります。残りの授業も頑張って下さいね」
「あ、はい。頑張ります。神耶君もお仕事頑張ってね」
師匠さんに強引に引きずられ、連れて行かれる哀れな神耶君を見送りながら、私は彼ににエールを送った。
まさか今までの神耶君や師匠さんとのこのやり取りを、クラスメイト達に見られていた事にも気づかずに――
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