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秋物語
更に深まる溝
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2日目の今日から、早くも授業が始まった。
この日、1限目の授業は体育。
私も体操服に着替えて体育館へ急いだ。
「白羽、白羽葵葉はいるか?」
授業の始まりを告げるチャイムが鳴るとすぐ、何故か初めて顔を合わせるはずの体育の先生に名指しで呼ばれて手を挙げる。
「はい?」
私と目が合うなり大柄で筋肉質のその先生は、大きな手で手招きして私を呼んだ。
「……?」
仕方なく先生の元へと駆けて行くと
「他の奴らは整列して準備体操を始めててくれ。白羽はちょっと先生と一緒に体育館の外に行こうか」
私以外の生徒達にそれだけ言い残すと、先生は私に一度体育館の外へ出るよう促した。
背中に多くの視線を感じながら、私は先生の後ろへついて体育館を後にした。
「先生? あの……」
一体何の用事だろうかと先を歩く先生に声をかけると、先生はくるりとこちらを振り返って言った。
「親御さんや、担任の先生から話は聞いてるよ。過度な運動で心臓に負担をかけるといけないから、体育の授業は見学していなさい」
「えっ?! でも……」
「分かってる。単位の事なら大丈夫だから」
「……」
驚き反論しようとする私の言葉を遮って、先生が更に口にした見当はずれのフォロー。
その言葉に私は絶句した。
この先生は、何も分かっていない。
私は単位の事など気にしているわけではない。
ただ、私は皆と同じように授業を受けたいだけ。
ただそれだけなのに……
「君の体の為だ。授業中、もし何かあったら先生には責任がとれない。だから、分かってくれるね」
「……はい。わかりました」
大きな体で威圧的に言われたら、私はもうそう答えるしかない。
「そうかそうか。分かってくれるか。もし見学が退屈なら、いつも体育の時間は保健室にいてくれて構わないから。とにかく、体を大事にしなさい」
「……はい、ありがとうございます」
先生は、私の肩をポンポンと軽く叩くと、一人先に体育館へと戻って行く。
私も体育館で皆を見学しようと先生の後を追い掛け体育館に戻った。
けれど、一人だけ授業を見学する異質な私の存在に、クラスメイト達から向けられる好奇や不満、様々な感情が入り混じった視線に耐え切れなくて、結局私は先生が言ったとおり大人しく保健室で時間を潰す事にした。
一人で過ごす退屈な時間の中、体育の先生に掛けられた言葉がいつまでもいつまでも頭から離れなかった。
---『先生には責任がとれないから』
遠回しに私の存在を迷惑だと突き放された、そんな気がして……
やはり病気を抱える自分の存在は、周囲にとっては迷惑でしかないのだろうか?
健康な人間と同じ生活を送りたいと願うことは、私には叶わない願いなのだろうか?
チクリと胸が傷んだ。
◆◆◆
-キーンコーンカーンコーン-
長かった1限目の終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。
私は一人保健室から教室へ戻った。
そんな私を教室で待っていたのは、クラスメイト達からの冷たい視線。
転校生と言う興味から話かけてくれるクラスメイトはもういない。
「何であの子ばっかり先生達に贔屓されてるの?」
「それに、何か見えないものが見えてるみたいでちょっと普通じゃないよね。何か気持ち悪い」
教室のあちらこちあから聞こえてくる私の事を言っているであろう会話の数々。
それら全て聞こえないふりをして、私は黙々と次の授業の準備をした。
この日、1限目の授業は体育。
私も体操服に着替えて体育館へ急いだ。
「白羽、白羽葵葉はいるか?」
授業の始まりを告げるチャイムが鳴るとすぐ、何故か初めて顔を合わせるはずの体育の先生に名指しで呼ばれて手を挙げる。
「はい?」
私と目が合うなり大柄で筋肉質のその先生は、大きな手で手招きして私を呼んだ。
「……?」
仕方なく先生の元へと駆けて行くと
「他の奴らは整列して準備体操を始めててくれ。白羽はちょっと先生と一緒に体育館の外に行こうか」
私以外の生徒達にそれだけ言い残すと、先生は私に一度体育館の外へ出るよう促した。
背中に多くの視線を感じながら、私は先生の後ろへついて体育館を後にした。
「先生? あの……」
一体何の用事だろうかと先を歩く先生に声をかけると、先生はくるりとこちらを振り返って言った。
「親御さんや、担任の先生から話は聞いてるよ。過度な運動で心臓に負担をかけるといけないから、体育の授業は見学していなさい」
「えっ?! でも……」
「分かってる。単位の事なら大丈夫だから」
「……」
驚き反論しようとする私の言葉を遮って、先生が更に口にした見当はずれのフォロー。
その言葉に私は絶句した。
この先生は、何も分かっていない。
私は単位の事など気にしているわけではない。
ただ、私は皆と同じように授業を受けたいだけ。
ただそれだけなのに……
「君の体の為だ。授業中、もし何かあったら先生には責任がとれない。だから、分かってくれるね」
「……はい。わかりました」
大きな体で威圧的に言われたら、私はもうそう答えるしかない。
「そうかそうか。分かってくれるか。もし見学が退屈なら、いつも体育の時間は保健室にいてくれて構わないから。とにかく、体を大事にしなさい」
「……はい、ありがとうございます」
先生は、私の肩をポンポンと軽く叩くと、一人先に体育館へと戻って行く。
私も体育館で皆を見学しようと先生の後を追い掛け体育館に戻った。
けれど、一人だけ授業を見学する異質な私の存在に、クラスメイト達から向けられる好奇や不満、様々な感情が入り混じった視線に耐え切れなくて、結局私は先生が言ったとおり大人しく保健室で時間を潰す事にした。
一人で過ごす退屈な時間の中、体育の先生に掛けられた言葉がいつまでもいつまでも頭から離れなかった。
---『先生には責任がとれないから』
遠回しに私の存在を迷惑だと突き放された、そんな気がして……
やはり病気を抱える自分の存在は、周囲にとっては迷惑でしかないのだろうか?
健康な人間と同じ生活を送りたいと願うことは、私には叶わない願いなのだろうか?
チクリと胸が傷んだ。
◆◆◆
-キーンコーンカーンコーン-
長かった1限目の終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。
私は一人保健室から教室へ戻った。
そんな私を教室で待っていたのは、クラスメイト達からの冷たい視線。
転校生と言う興味から話かけてくれるクラスメイトはもういない。
「何であの子ばっかり先生達に贔屓されてるの?」
「それに、何か見えないものが見えてるみたいでちょっと普通じゃないよね。何か気持ち悪い」
教室のあちらこちあから聞こえてくる私の事を言っているであろう会話の数々。
それら全て聞こえないふりをして、私は黙々と次の授業の準備をした。
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