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秋物語
深まる溝
しおりを挟む「……所で何で俺なんかをモデルに絵を描こうと思ったんだ?」
照れてるいるのを誤魔化したかったのか、急に話題を変える神耶君。
「神耶君との思い出を、何か形にして残したかったからかなぁ」
「思い出を形に?」
「そう。東京にいた時ね、神耶君と過ごした時間を思い出しては励みにしてたんだけど、人の記憶っていい加減なもので、時間が経つと薄れていっちゃうでしょ。日に日に記憶の中の神耶君の顔がぼやけて行って、それがなんだか凄く寂しくて。だから、忘れちゃう前に大切な思い出を、何か形にして残しておけたらなって、そう思ったのがきっかけ」
「……ふ~ん」
自分の気持ちを隠すことなく素直に話した私に、さほど興味なさげな返事しか返ってはこなくて、だから私もそれ以上言葉を紡ぐ事をやめて、神耶君を描く事に集中した。
鉛筆を動かす音以外は何もない、そんな静かな時間が二人の間をゆっくりと流れて行く。
気付けば空は赤く染まり初めていて――
「あぁ、もうこんな時間なんだ。神耶君ごめんね。遅くまで付き合わせちゃって。疲れたでしょ?」
「……ん?」
眠そうな目を擦りながら、焦点の定まらない様子でこちらに視線を泳がせている。そんな神耶君の姿にクスリと笑いを零しながら
「帰ろっか」
私はそう彼に言った。
「あぁ。絵はもう良いのか?」
「うん。大分はかどったから今日はもう終わりにするよ」
「そっか、なら良かった。モデルになってやったんだから、そっちの油絵が完成したら一番に俺に見せろよ」
「え~どうしよっかな~」
「お前な~」
そんな他愛もない話を交わしながら、私達は学校を後にした。
◆◆◆
――次の日
「お、おはよう……ございます」
高校生活2日目の今日は、隣に神耶君の姿はない。
初めての一人登校に、緊張しながらクラスに入った私に、何故かクラス中の視線が一斉に集った。
「……え?」
挨拶が返ってくるでもなく、ただ無言で集まる視線。教室に漂う冷たい空気に悪寒が走った。
「ねぇねぇ白羽さん。昨日、美術室にいたよね?」
そんな空気を最初に破ったのは、教室の黒板付近にいた女子生徒。
胸元の名札に崎田と書かれたショートボブの彼女は、1歩、2歩と私に近づくと、突然そんな質問を投げかけてきた。
「え? あ、はい。居ました」
「誰と話てたの? 私、誰もいない美術室で、白羽さんが一人で楽しそうに話てる所見ちゃったんだけど」
「そ、それは……」
きっと神耶君と話していた時の事を言っているのだろう事はすぐに分かった。
けれど、みんなには見えていない神耶君の事をどう誤魔化そうかと私が言葉につまっていると、昨日の帰りがけに話かけて来たあの二人の少女達が再び私の前に立ちはだかる。
「またお得意の愛想笑いでごまかすつもり?」
「あの……えっと……」
どうしよう……何て説明したら?
クラス中に漂う重苦しい空気に途方にくれていたその時
「ほらお前ら、席につけ~。朝のホームルーム始めるぞ~」
タイミング良く教室に入って来た影山先生の掛け声に救われる。
一気にクラスメイト達の視線が私から逸れて、静かに席に戻って行く。
私も窓際の一番後ろの席に腰を下ろすと、うつむきながら小さくため息をついた。
どうして……
どうして神耶君の事、皆に言えなかったんだろう。
あの瞬間私は、神耶君の事を誤魔化す言い訳を考えた。
一瞬でも神耶君の存在を隠そうとしてしまった自分の行いに、今頃になって嫌悪感が込み上げて来る。
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