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秋物語
ホームルームでの出来事
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「白羽の席は窓際の1番後ろな。周りの奴らは色々と教えてやれよ」
そう言って、窓際の一番後ろに一つだけはみ出した空席を指し示して、場所を教えてくれる先生。
私は緊張気味にその席へと腰をおろす。
ここが今日から私の居場所。
私は、机をそっと手で撫でながら心の中で「宜しくね」と呟いた。
そんな私を余所に、朝のホームルームの進行は続いていたらしく
「よ~し。登校初日の今日は、突然だが抜き打ちで持ち物検査をするぞぉ~」
「「「「え~~~~っっ?!」」」」
クラス中から沸き上がったどよめきに、私ははっと我に返った。
「そもそも校則で決められているんだから、ケータイやゲーム、漫画なんて余分なものは持って来ていないと思うが……念の為にな。さぁ、机の上に鞄を出せ~」
「なんで急にそんな事を?」
「横暴だ~」
教室中から飛び交うブーイングの嵐に、状況が飲み込めずにいた私は、キョロキョロ周りを見回す。
すると、先生がチラチラとこちらに視線を向けて、何か訴えようとしている事に気付く。
「っ!」
気付いてやっと理解した。
先生は私の為に持ち物検査をしてくれようとしている事に。
先生の訴えに、私は慌てて首を横に振た。
『おい、葵葉お前、何やってるんだ? あの教師もさっきから何お前の方をチラチラ見て何確認してるんだ?』
「え?」
するとその時、突然頭の中に神耶君の声が流れ込んで来て、私は驚きのあまり彼を見た。
彼は教室の一番後ろの開け放たれた窓、その窓枠に腰掛けて、「しっ」と人差し指を口元に当てながらこちらを見ていた。
『声は出さなくて良い。心の中で喋ってくれれば俺には聞こえる』
『そうなの?……えっとね、これは先生に私の病気の事は内緒にしとおいて貰おうとお願いしてるの」
戸惑いながらも私は心の中でそう答えた。
――昔、小学生の頃。
私の病気を気にかけてくれるあまり、クラスメイト達との間に、埋められない距離を作ってしまった事があった。
嫌がらせではなかったけれど、腫れ物にでも触るような、よそよそしいクラスメイト達の態度が私は苦手だった。
だからこそ、私の事を知ってる人がいないこの新しい環境では、病気の事を隠して、普通に学校生活をおくりたいと、そう思っていたのに。
『? お前の病気とこの持ち物検査は、何か関係があるのか?』
『私の胸には、ペースメーカーが入ってるの』
『ペースメーカー?』
『そう。心臓を正常に動かしてくれる機械。それが、携帯の電波の影響をうけやすいって一般的には言われてるの。だから、先生は持ち物検査してくれてるんじゃないかな。私の心臓に負担がかからないようにって。でも本当は、近付けなければそれ程害はないはずなんだけどな』
そう心の中神耶君に向かって説明しながら、私は苦笑いを溢す。
『ふ~ん。つまりはありがた迷惑ってことか』
神耶君の遠慮のない、ストレートな言葉に私は小さく笑った。
神耶君だけが、私を普通に扱ってくれる。
だから、一緒にいて居心地が良い。
そして結局、私の必死のお願いも通じないまま、抜き打ちの持ち物検査を強行した先生は、集まった校則違反の品々に頭を抱えていた。
「お前ら……まさか白羽以外全員が学校に余分なものを持ち込んでたとはな。携帯、ゲーム、漫画に、お菓子。化粧に、ウォークマン。それから……何だ、これは?」
「え、先生、ヘアアイロン知らないの?」
「それくらい知ってる! そうじゃなくて、何でわざわざ重たい思いをして、こんな物を学校に持って来てるのかって話だ」
「だ~って~、身だしなみは大事でしょ?」
「んなもん、家でやってこい!」
「え~、でも今日体育の授業あるし」
「だって~じゃない! 全くお前達ときたら、学校に何しに来てるんだ」
「何しにって学校は遊び場だよ先生」
「そうそう。つうか、今時持ち物検査なんて流行らないっすよ」
「学びの場だろっ!流行る流行らないの問題じゃない! 少しは校則を守ろうって気持ちはないか?」
「校則は、破る為にあるんだよ先生」
「お前らなぁ……。あぁ~、もう良い。とにかくだ、今後は一切余分な物の持ち込みは禁止。今日の所は放課後まで預かるが、次見つけたら一週間没収するからな!」
「えぇ~?! そんな~教師の横暴だ~」
「うるさいっ!黙れクソガキ共!!」
こうして、先生の怒鳴り声で2学期最初、1年2組の朝のホームルームは幕を閉じた。
そう言って、窓際の一番後ろに一つだけはみ出した空席を指し示して、場所を教えてくれる先生。
私は緊張気味にその席へと腰をおろす。
ここが今日から私の居場所。
私は、机をそっと手で撫でながら心の中で「宜しくね」と呟いた。
そんな私を余所に、朝のホームルームの進行は続いていたらしく
「よ~し。登校初日の今日は、突然だが抜き打ちで持ち物検査をするぞぉ~」
「「「「え~~~~っっ?!」」」」
クラス中から沸き上がったどよめきに、私ははっと我に返った。
「そもそも校則で決められているんだから、ケータイやゲーム、漫画なんて余分なものは持って来ていないと思うが……念の為にな。さぁ、机の上に鞄を出せ~」
「なんで急にそんな事を?」
「横暴だ~」
教室中から飛び交うブーイングの嵐に、状況が飲み込めずにいた私は、キョロキョロ周りを見回す。
すると、先生がチラチラとこちらに視線を向けて、何か訴えようとしている事に気付く。
「っ!」
気付いてやっと理解した。
先生は私の為に持ち物検査をしてくれようとしている事に。
先生の訴えに、私は慌てて首を横に振た。
『おい、葵葉お前、何やってるんだ? あの教師もさっきから何お前の方をチラチラ見て何確認してるんだ?』
「え?」
するとその時、突然頭の中に神耶君の声が流れ込んで来て、私は驚きのあまり彼を見た。
彼は教室の一番後ろの開け放たれた窓、その窓枠に腰掛けて、「しっ」と人差し指を口元に当てながらこちらを見ていた。
『声は出さなくて良い。心の中で喋ってくれれば俺には聞こえる』
『そうなの?……えっとね、これは先生に私の病気の事は内緒にしとおいて貰おうとお願いしてるの」
戸惑いながらも私は心の中でそう答えた。
――昔、小学生の頃。
私の病気を気にかけてくれるあまり、クラスメイト達との間に、埋められない距離を作ってしまった事があった。
嫌がらせではなかったけれど、腫れ物にでも触るような、よそよそしいクラスメイト達の態度が私は苦手だった。
だからこそ、私の事を知ってる人がいないこの新しい環境では、病気の事を隠して、普通に学校生活をおくりたいと、そう思っていたのに。
『? お前の病気とこの持ち物検査は、何か関係があるのか?』
『私の胸には、ペースメーカーが入ってるの』
『ペースメーカー?』
『そう。心臓を正常に動かしてくれる機械。それが、携帯の電波の影響をうけやすいって一般的には言われてるの。だから、先生は持ち物検査してくれてるんじゃないかな。私の心臓に負担がかからないようにって。でも本当は、近付けなければそれ程害はないはずなんだけどな』
そう心の中神耶君に向かって説明しながら、私は苦笑いを溢す。
『ふ~ん。つまりはありがた迷惑ってことか』
神耶君の遠慮のない、ストレートな言葉に私は小さく笑った。
神耶君だけが、私を普通に扱ってくれる。
だから、一緒にいて居心地が良い。
そして結局、私の必死のお願いも通じないまま、抜き打ちの持ち物検査を強行した先生は、集まった校則違反の品々に頭を抱えていた。
「お前ら……まさか白羽以外全員が学校に余分なものを持ち込んでたとはな。携帯、ゲーム、漫画に、お菓子。化粧に、ウォークマン。それから……何だ、これは?」
「え、先生、ヘアアイロン知らないの?」
「それくらい知ってる! そうじゃなくて、何でわざわざ重たい思いをして、こんな物を学校に持って来てるのかって話だ」
「だ~って~、身だしなみは大事でしょ?」
「んなもん、家でやってこい!」
「え~、でも今日体育の授業あるし」
「だって~じゃない! 全くお前達ときたら、学校に何しに来てるんだ」
「何しにって学校は遊び場だよ先生」
「そうそう。つうか、今時持ち物検査なんて流行らないっすよ」
「学びの場だろっ!流行る流行らないの問題じゃない! 少しは校則を守ろうって気持ちはないか?」
「校則は、破る為にあるんだよ先生」
「お前らなぁ……。あぁ~、もう良い。とにかくだ、今後は一切余分な物の持ち込みは禁止。今日の所は放課後まで預かるが、次見つけたら一週間没収するからな!」
「えぇ~?! そんな~教師の横暴だ~」
「うるさいっ!黙れクソガキ共!!」
こうして、先生の怒鳴り声で2学期最初、1年2組の朝のホームルームは幕を閉じた。
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