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夏物語
神耶の弱音
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声に導かれるまま辿り着いた先は、『集中治療室』とかかれた部屋の前だった。
部屋の前では、葵葉の親らしき中年の男性と女性がそわそわと、落ち着かない様子で歩き回っている。
近くにあるソファーには葵葉の兄が、酷くうなだれた様子で座っていた。
「おい、葵葉はどうした!」
「……え?」
俺の声に、葵葉の兄貴が驚いた様で顔を上げる。
その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「……いったい、何があった?」
「昨日の夜、葵葉が発作を起こして倒れて……意識不明の状態で、ずっと集中治療室に入ってるんです。お医者さんの話では、今日明日が峠だろうって。もしもの為に、覚悟しとけって……」
ヒックヒックとしゃくり上げる声で、葵葉の兄貴は状況を説明する。
奴の言葉に、俺はハンマーで頭を殴られたようなそんな衝撃に襲われた。
「どうして急に? 昨日はあんなに元気だったのに……」
「急にじゃないんです。ここ最近、葵葉の発作を起こす回数が増えてて、それなのにあいつ、毎日のように病院を抜け出して無茶してたから……」
――『葵葉は、命削ってあんたに会いに来てるんだよ!』
昨日、この男に言われた言葉を思い出す。
あの時は怒りにまかせて聞き流してしまったが
「そんなにあいつの病気は深刻なのか?」
「葵葉は生まれつき心臓が弱かったんです。何度も何度も手術を繰り返して、それでも完治する見込みは少ないって医者から言われていました。それどころか、あいつの心臓はあいつの体の成長に堪えられるかすら怪しいって。十五の歳まで生きてこられたのは奇跡だって……」
「……っ!」
「神様……お願いします。どうか妹を……昨日の今日で、こんな事お願いするなんて、呆れられるかもしれないけど……でもやっぱり俺に出来る事なんて、願う事くらいしかないんです。自分勝手な事は重々承知しています。でも、どうか、どうか妹を……助けて下さい。お願いします……」
「……」
「お願いします!」
必死にそう頼む葵葉の兄貴の姿に、どんな言葉掛けたら良いのか分からなかった。
こんな所まで駆け付けておいて情けないが、神と言っても俺に出来る事なんて限られている。
人の生死に直接手を出す事は許されていない。
今までだって、何度となくこんな経験をして来た。
――『お母さんの病気を治して』
――『子供が事故にあいました。どうか死なせないで』
どんなに強く願われても、必ずしも助けられるとは限らなかった。
願いが強ければ強い程、叶えられなかった時の落胆は大きい。
それで何度人間達に恨まれて来たか。
幻滅させてしまったか。
俺だって助けたい。目を真っ赤に泣き腫らして、必死になって頼む人間の力になりたい。
でも、絶対叶えられるという保障はない。
期待を持たせておいて、結果落胆させてしまうくらいなら、最初から期待なんて持たせなければ良い。
手を貸さなければ良いんだ。
最初から人間になんて関わらなければ……
それが俺の出した答え。
これが俺が人間との関わりを断った理由。
ここまで来ておいて、結局俺は恐怖心から、その場を動けなくなっていた。
部屋の前では、葵葉の親らしき中年の男性と女性がそわそわと、落ち着かない様子で歩き回っている。
近くにあるソファーには葵葉の兄が、酷くうなだれた様子で座っていた。
「おい、葵葉はどうした!」
「……え?」
俺の声に、葵葉の兄貴が驚いた様で顔を上げる。
その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「……いったい、何があった?」
「昨日の夜、葵葉が発作を起こして倒れて……意識不明の状態で、ずっと集中治療室に入ってるんです。お医者さんの話では、今日明日が峠だろうって。もしもの為に、覚悟しとけって……」
ヒックヒックとしゃくり上げる声で、葵葉の兄貴は状況を説明する。
奴の言葉に、俺はハンマーで頭を殴られたようなそんな衝撃に襲われた。
「どうして急に? 昨日はあんなに元気だったのに……」
「急にじゃないんです。ここ最近、葵葉の発作を起こす回数が増えてて、それなのにあいつ、毎日のように病院を抜け出して無茶してたから……」
――『葵葉は、命削ってあんたに会いに来てるんだよ!』
昨日、この男に言われた言葉を思い出す。
あの時は怒りにまかせて聞き流してしまったが
「そんなにあいつの病気は深刻なのか?」
「葵葉は生まれつき心臓が弱かったんです。何度も何度も手術を繰り返して、それでも完治する見込みは少ないって医者から言われていました。それどころか、あいつの心臓はあいつの体の成長に堪えられるかすら怪しいって。十五の歳まで生きてこられたのは奇跡だって……」
「……っ!」
「神様……お願いします。どうか妹を……昨日の今日で、こんな事お願いするなんて、呆れられるかもしれないけど……でもやっぱり俺に出来る事なんて、願う事くらいしかないんです。自分勝手な事は重々承知しています。でも、どうか、どうか妹を……助けて下さい。お願いします……」
「……」
「お願いします!」
必死にそう頼む葵葉の兄貴の姿に、どんな言葉掛けたら良いのか分からなかった。
こんな所まで駆け付けておいて情けないが、神と言っても俺に出来る事なんて限られている。
人の生死に直接手を出す事は許されていない。
今までだって、何度となくこんな経験をして来た。
――『お母さんの病気を治して』
――『子供が事故にあいました。どうか死なせないで』
どんなに強く願われても、必ずしも助けられるとは限らなかった。
願いが強ければ強い程、叶えられなかった時の落胆は大きい。
それで何度人間達に恨まれて来たか。
幻滅させてしまったか。
俺だって助けたい。目を真っ赤に泣き腫らして、必死になって頼む人間の力になりたい。
でも、絶対叶えられるという保障はない。
期待を持たせておいて、結果落胆させてしまうくらいなら、最初から期待なんて持たせなければ良い。
手を貸さなければ良いんだ。
最初から人間になんて関わらなければ……
それが俺の出した答え。
これが俺が人間との関わりを断った理由。
ここまで来ておいて、結局俺は恐怖心から、その場を動けなくなっていた。
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