願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
19 / 176
夏物語

神耶の弱音

しおりを挟む
声に導かれるまま辿り着いた先は、『集中治療室』とかかれた部屋の前だった。


部屋の前では、葵葉の親らしき中年の男性と女性がそわそわと、落ち着かない様子で歩き回っている。
近くにあるソファーには葵葉の兄が、酷くうなだれた様子で座っていた。



「おい、葵葉はどうした!」


「……え?」



俺の声に、葵葉の兄貴が驚いた様で顔を上げる。
その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。



「……いったい、何があった?」


「昨日の夜、葵葉が発作を起こして倒れて……意識不明の状態で、ずっと集中治療室に入ってるんです。お医者さんの話では、今日明日が峠だろうって。もしもの為に、覚悟しとけって……」



ヒックヒックとしゃくり上げる声で、葵葉の兄貴は状況を説明する。
奴の言葉に、俺はハンマーで頭を殴られたようなそんな衝撃に襲われた。



「どうして急に? 昨日はあんなに元気だったのに……」


「急にじゃないんです。ここ最近、葵葉の発作を起こす回数が増えてて、それなのにあいつ、毎日のように病院を抜け出して無茶してたから……」



――『葵葉は、命削ってあんたに会いに来てるんだよ!』



昨日、この男に言われた言葉を思い出す。
あの時は怒りにまかせて聞き流してしまったが



「そんなにあいつの病気は深刻なのか?」


「葵葉は生まれつき心臓が弱かったんです。何度も何度も手術を繰り返して、それでも完治する見込みは少ないって医者から言われていました。それどころか、あいつの心臓はあいつの体の成長に堪えられるかすら怪しいって。十五の歳まで生きてこられたのは奇跡だって……」 


「……っ!」


「神様……お願いします。どうか妹を……昨日の今日で、こんな事お願いするなんて、呆れられるかもしれないけど……でもやっぱり俺に出来る事なんて、願う事くらいしかないんです。自分勝手な事は重々承知しています。でも、どうか、どうか妹を……助けて下さい。お願いします……」


「……」


「お願いします!」



必死にそう頼む葵葉の兄貴の姿に、どんな言葉掛けたら良いのか分からなかった。


こんな所まで駆け付けておいて情けないが、神と言っても俺に出来る事なんて限られている。
人の生死に直接手を出す事は許されていない。


今までだって、何度となくこんな経験をして来た。


――『お母さんの病気を治して』
――『子供が事故にあいました。どうか死なせないで』


どんなに強く願われても、必ずしも助けられるとは限らなかった。


願いが強ければ強い程、叶えられなかった時の落胆は大きい。
それで何度人間達に恨まれて来たか。
幻滅させてしまったか。


俺だって助けたい。目を真っ赤に泣き腫らして、必死になって頼む人間の力になりたい。


でも、絶対叶えられるという保障はない。


期待を持たせておいて、結果落胆させてしまうくらいなら、最初から期待なんて持たせなければ良い。
手を貸さなければ良いんだ。
最初から人間になんて関わらなければ……


それが俺の出した答え。
これが俺が人間との関わりを断った理由。


ここまで来ておいて、結局俺は恐怖心から、その場を動けなくなっていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...