願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
13 / 176
夏物語

葵葉の秘密②

しおりを挟む
「そっか。俺はてっきり、お前はバカなんだと思ってた」


「気付いてないふりをしてただけ。馬鹿で脳天気なふりするの、私得意だから。そうしていれば、周りは安心した顔をするの。私が、自分の体の事、気付いてないふりをしていれば」


「どうだかな」


「え~、本気で私の事バカだって疑ってるの? 酷いな~」



そう言って、葵葉は俺の背中をポカポカ殴った。



「で? 神様だと、お前にどう都合が良かったんだ?」



それを無視して話を続けようとすると



「……怒らない?」



葵葉は俺の首にギュッと腕を回してきて、申し訳なさそうに小声でそう呟いた。



「怒られるような理由なのか?」



俺がそう聞き返すと、コクンと小さく頷く。



「神様なら、私より先にいなくなっちゃう事なんてないし……何より神様からしたら、たかが人間一人、ちっぽけな私の死なんて、寂くもなんとも思わないでいてくれるんじゃないかって思って」



葵葉が語った理由に、溜め息が出た。



「お前、残酷だな。本気でそう思うのか?」


「……ゴメンなさい」



確かに、何百年と生きてきた俺からしたら、人間一人一人との出会いなんて、ほんの一瞬の出来事にしかすぎない。
それでも、その短い時間に培った一人一人との思い出は、ずっと忘れる事なんて出来ないし、何度経験しても、人の死に慣れる事なんて出来ない。
一体神を何だと思っているのか。


つくづく思う。神なんて、なるもんじゃないと。
そしてやっぱり


「人間は自分勝手で嫌いだ」


「ゴメンね。自分がどれだけ浅はかだったか反省してる。結局は自分の事しか考えていなかった。最低な理由だよね。本当に……ゴメンね」


「…………」


「ゴメンね?」



葵葉は俺の顔を覗き込みながら、何度も何度も謝った。
たまらず俺は、ぷいとそっぽを向く。
そんな俺の態度にまたクスリと笑み零して



「けど良かった。そうやって不貞腐れてくれてるって事は、私の一方通行じゃなくて、神耶君も私の事を友達だって認めてくれてたって事だもんね」



……は? 今、なんつった?



「ね?」


「んなわけねぇだろ! 調子にのるな!!」


「あれ~? 顔赤いよ?」


「だから、んなわけねぇだろ!嘘つくな!!」


「本当だもん。神耶君の顔、赤いもん」


「赤くない! うるさい黙れ!!」


「黙らな~い」


「黙れ!」


「嫌~」



葵葉の笑いが、ニヤニヤと嫌らしいものへと変わって行く。

嫌だと駄々をこねながら、俺の背中で足をバタバタさせ始める。



「あぁ~もう、うるさい! そんなに元気だったら、もう一人で歩けるだろ、降りろ!」


「嫌、降りたくない」


「降りろ!」


「降りないよ~だ」



先程までのしおらしい葵葉から、すっかりいつもの憎たらしい奴に戻った。
そんなコイツの、いつもと変わらない様子に何故か俺はホッとする。


いつの間にか俺は、コイツとのこんなやり取りが当たり前になっていて、特別になっていた。
その事に気付かされて、我ながら自分の単純さに笑ってしまう。


でも、もしもこの先、葵葉とのこんなやり取りが出来なくなったら?
この憎たらしいコイツが俺の前からいなくなったら?


その時俺は、悔しいけどきっと、と思ってしまうだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...