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夏物語
葵葉の秘密②
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「そっか。俺はてっきり、お前はバカなんだと思ってた」
「気付いてないふりをしてただけ。馬鹿で脳天気なふりするの、私得意だから。そうしていれば、周りは安心した顔をするの。私が、自分の体の事、気付いてないふりをしていれば」
「どうだかな」
「え~、本気で私の事バカだって疑ってるの? 酷いな~」
そう言って、葵葉は俺の背中をポカポカ殴った。
「で? 神様だと、お前にどう都合が良かったんだ?」
それを無視して話を続けようとすると
「……怒らない?」
葵葉は俺の首にギュッと腕を回してきて、申し訳なさそうに小声でそう呟いた。
「怒られるような理由なのか?」
俺がそう聞き返すと、コクンと小さく頷く。
「神様なら、私より先にいなくなっちゃう事なんてないし……何より神様からしたら、たかが人間一人、ちっぽけな私の死なんて、寂くもなんとも思わないでいてくれるんじゃないかって思って」
葵葉が語った理由に、溜め息が出た。
「お前、残酷だな。本気でそう思うのか?」
「……ゴメンなさい」
確かに、何百年と生きてきた俺からしたら、人間一人一人との出会いなんて、ほんの一瞬の出来事にしかすぎない。
それでも、その短い時間に培った一人一人との思い出は、ずっと忘れる事なんて出来ないし、何度経験しても、人の死に慣れる事なんて出来ない。
一体神を何だと思っているのか。
つくづく思う。神なんて、なるもんじゃないと。
そしてやっぱり
「人間は自分勝手で嫌いだ」
「ゴメンね。自分がどれだけ浅はかだったか反省してる。結局は自分の事しか考えていなかった。最低な理由だよね。本当に……ゴメンね」
「…………」
「ゴメンね?」
葵葉は俺の顔を覗き込みながら、何度も何度も謝った。
たまらず俺は、ぷいとそっぽを向く。
そんな俺の態度にまたクスリと笑み零して
「けど良かった。そうやって不貞腐れてくれてるって事は、私の一方通行じゃなくて、神耶君も私の事を友達だって認めてくれてたって事だもんね」
……は? 今、なんつった?
「ね?」
「んなわけねぇだろ! 調子にのるな!!」
「あれ~? 顔赤いよ?」
「だから、んなわけねぇだろ!嘘つくな!!」
「本当だもん。神耶君の顔、赤いもん」
「赤くない! うるさい黙れ!!」
「黙らな~い」
「黙れ!」
「嫌~」
葵葉の笑いが、ニヤニヤと嫌らしいものへと変わって行く。
嫌だと駄々をこねながら、俺の背中で足をバタバタさせ始める。
「あぁ~もう、うるさい! そんなに元気だったら、もう一人で歩けるだろ、降りろ!」
「嫌、降りたくない」
「降りろ!」
「降りないよ~だ」
先程までのしおらしい葵葉から、すっかりいつもの憎たらしい奴に戻った。
そんなコイツの、いつもと変わらない様子に何故か俺はホッとする。
いつの間にか俺は、コイツとのこんなやり取りが当たり前になっていて、特別になっていた。
その事に気付かされて、我ながら自分の単純さに笑ってしまう。
でも、もしもこの先、葵葉とのこんなやり取りが出来なくなったら?
この憎たらしいコイツが俺の前からいなくなったら?
その時俺は、悔しいけどきっと、寂しいと思ってしまうだろう。
「気付いてないふりをしてただけ。馬鹿で脳天気なふりするの、私得意だから。そうしていれば、周りは安心した顔をするの。私が、自分の体の事、気付いてないふりをしていれば」
「どうだかな」
「え~、本気で私の事バカだって疑ってるの? 酷いな~」
そう言って、葵葉は俺の背中をポカポカ殴った。
「で? 神様だと、お前にどう都合が良かったんだ?」
それを無視して話を続けようとすると
「……怒らない?」
葵葉は俺の首にギュッと腕を回してきて、申し訳なさそうに小声でそう呟いた。
「怒られるような理由なのか?」
俺がそう聞き返すと、コクンと小さく頷く。
「神様なら、私より先にいなくなっちゃう事なんてないし……何より神様からしたら、たかが人間一人、ちっぽけな私の死なんて、寂くもなんとも思わないでいてくれるんじゃないかって思って」
葵葉が語った理由に、溜め息が出た。
「お前、残酷だな。本気でそう思うのか?」
「……ゴメンなさい」
確かに、何百年と生きてきた俺からしたら、人間一人一人との出会いなんて、ほんの一瞬の出来事にしかすぎない。
それでも、その短い時間に培った一人一人との思い出は、ずっと忘れる事なんて出来ないし、何度経験しても、人の死に慣れる事なんて出来ない。
一体神を何だと思っているのか。
つくづく思う。神なんて、なるもんじゃないと。
そしてやっぱり
「人間は自分勝手で嫌いだ」
「ゴメンね。自分がどれだけ浅はかだったか反省してる。結局は自分の事しか考えていなかった。最低な理由だよね。本当に……ゴメンね」
「…………」
「ゴメンね?」
葵葉は俺の顔を覗き込みながら、何度も何度も謝った。
たまらず俺は、ぷいとそっぽを向く。
そんな俺の態度にまたクスリと笑み零して
「けど良かった。そうやって不貞腐れてくれてるって事は、私の一方通行じゃなくて、神耶君も私の事を友達だって認めてくれてたって事だもんね」
……は? 今、なんつった?
「ね?」
「んなわけねぇだろ! 調子にのるな!!」
「あれ~? 顔赤いよ?」
「だから、んなわけねぇだろ!嘘つくな!!」
「本当だもん。神耶君の顔、赤いもん」
「赤くない! うるさい黙れ!!」
「黙らな~い」
「黙れ!」
「嫌~」
葵葉の笑いが、ニヤニヤと嫌らしいものへと変わって行く。
嫌だと駄々をこねながら、俺の背中で足をバタバタさせ始める。
「あぁ~もう、うるさい! そんなに元気だったら、もう一人で歩けるだろ、降りろ!」
「嫌、降りたくない」
「降りろ!」
「降りないよ~だ」
先程までのしおらしい葵葉から、すっかりいつもの憎たらしい奴に戻った。
そんなコイツの、いつもと変わらない様子に何故か俺はホッとする。
いつの間にか俺は、コイツとのこんなやり取りが当たり前になっていて、特別になっていた。
その事に気付かされて、我ながら自分の単純さに笑ってしまう。
でも、もしもこの先、葵葉とのこんなやり取りが出来なくなったら?
この憎たらしいコイツが俺の前からいなくなったら?
その時俺は、悔しいけどきっと、寂しいと思ってしまうだろう。
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