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夏物語
葵葉の秘密
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「気付いたか」
「……あれ、神耶君? どうして私、神耶君におんぶされてるの?」
「お前が、急に意識無くすから」
「あはは、また急に眠気に襲われちゃったみたい。ダメだな~私」
「嘘つけ。あれは、発作だよな。発作起こして、倒れたんだろ。初めて社に来た時もやっぱり、あれは寝てたんじゃなくて、倒れてた。違うか?」
「…………」
葵葉をおぶって、神社までの道を下る道中、目を覚ました葵葉に、俺は静かに訪ねる。
最初は、冗談を言って誤魔化そうとする葵葉だったが、次第に言葉に詰まって黙り込んだ。
「お前、俺に何か隠してるだろ?」
「……あぁ~あ。ばれちゃったか。でも、そう言う神耶君だって、私に隠してる事あるでしょ」
「俺? 俺は別に、隠してるつもりはない。聞かれないから話さなかっただけだ」
「そっか。じゃあ私も聞かれなかったから話さなかっただけ」
「……屁理屈」
「自分だって」
そんなやり取りの後、葵葉はクスリと小さく笑う。
彼女は今、どんな顔をして笑っているのだろうか。
その笑顔を想像しながら、俺は俺の中で、確証に変わりつつあったある疑念を口にした。
「お前、病気なのか?」
「……うん」
俺の疑念に、素直に肯定を示す葵葉。
「死ぬのか?」
「いつかはね。でも、人間なんて皆、いつかは必ず死ぬ生き物だし、怖くはないよ」
嘘だ。死が怖くない人間なんて、いるはずがない。
「じゃあ、どうして毎日俺の所へ来るんだ。何か叶えて欲しい願いがあるからじゃないのか」
怖いから。だからこそ、その恐怖を鎮める為に、人は神社に拝みに来るのだ。
「……」
「…………」
俺の問いに、葵葉は黙った。
葵葉の答えを待って、俺も黙る。
二人の間に、少し長い沈黙が続いた。
「願いがなかったと言えば嘘になるかもしれない。でも、それはもう叶ったから」
やっと開かれた葵葉の口から出た言葉。それは、少し予想と違うもので。
願いが叶ったという事はつまり
「治るって事か?」
「違うよ。私の願いは病気を治す事じゃない。それはもう諦めてるから。そうじゃなくて……友達が欲しいって言う願いは、叶ったから」
返って来た答えに面食らう。
友達?
「それがお前の願い? 本当に?」
「ホントだよ。私ね、ずっと欲しかったんだ。今までだっていなかったわけじゃない。けど、せっかく友達になっても、み~んな私を置いて先にいなくなっちゃう。手の届かない所へ行っちゃうの」
そう言って空に向かって手を伸ばす葵葉。
「だから、もう友達を作る事を諦めようと思った。もう寂しい思いはしたくないし、大切な人がいなくなってしまう寂しさは、私が誰よりも知っているから。だから私自身が、人にそんな思いをさせしちゃいけない、人と関わっちゃいけないって」
「……信じられないな。あれだけ初対面で友達になってって迫って来たお前が」
「諦めてたはずなのに、それでも心の何処かでは友達が欲しいって、願う自分がいたんだね。神耶君に初めて会った時、この人なら上手く付き合って行けるかもしれない。そう思ったの。だから私、勢いで友達になってって迫っちゃったんだ」
「どうしてそう思ったんだ?」
「それは……神耶君が神様だから」
「最初から、気付いてたんだな」
「うん。だって、時代劇でしか見た事ないような、へんてこな格好してたしね。お社で悪びれもなく寛げる人なんてそうそういないよ。お社の主である神様くらいしか」
「コスプレとか言って、人の格好バカにしたくせに」
「バカになんてしてないよ。神様だって気付いてないフリしないと、姿見せてくれなくなっちゃうんじゃないかと思って」
俺達が初めて出会った日の事を思い出しているのか、再びクスクスと笑い出す葵葉。
葵葉につられて、俺の口元も微かに緩む。
「……あれ、神耶君? どうして私、神耶君におんぶされてるの?」
「お前が、急に意識無くすから」
「あはは、また急に眠気に襲われちゃったみたい。ダメだな~私」
「嘘つけ。あれは、発作だよな。発作起こして、倒れたんだろ。初めて社に来た時もやっぱり、あれは寝てたんじゃなくて、倒れてた。違うか?」
「…………」
葵葉をおぶって、神社までの道を下る道中、目を覚ました葵葉に、俺は静かに訪ねる。
最初は、冗談を言って誤魔化そうとする葵葉だったが、次第に言葉に詰まって黙り込んだ。
「お前、俺に何か隠してるだろ?」
「……あぁ~あ。ばれちゃったか。でも、そう言う神耶君だって、私に隠してる事あるでしょ」
「俺? 俺は別に、隠してるつもりはない。聞かれないから話さなかっただけだ」
「そっか。じゃあ私も聞かれなかったから話さなかっただけ」
「……屁理屈」
「自分だって」
そんなやり取りの後、葵葉はクスリと小さく笑う。
彼女は今、どんな顔をして笑っているのだろうか。
その笑顔を想像しながら、俺は俺の中で、確証に変わりつつあったある疑念を口にした。
「お前、病気なのか?」
「……うん」
俺の疑念に、素直に肯定を示す葵葉。
「死ぬのか?」
「いつかはね。でも、人間なんて皆、いつかは必ず死ぬ生き物だし、怖くはないよ」
嘘だ。死が怖くない人間なんて、いるはずがない。
「じゃあ、どうして毎日俺の所へ来るんだ。何か叶えて欲しい願いがあるからじゃないのか」
怖いから。だからこそ、その恐怖を鎮める為に、人は神社に拝みに来るのだ。
「……」
「…………」
俺の問いに、葵葉は黙った。
葵葉の答えを待って、俺も黙る。
二人の間に、少し長い沈黙が続いた。
「願いがなかったと言えば嘘になるかもしれない。でも、それはもう叶ったから」
やっと開かれた葵葉の口から出た言葉。それは、少し予想と違うもので。
願いが叶ったという事はつまり
「治るって事か?」
「違うよ。私の願いは病気を治す事じゃない。それはもう諦めてるから。そうじゃなくて……友達が欲しいって言う願いは、叶ったから」
返って来た答えに面食らう。
友達?
「それがお前の願い? 本当に?」
「ホントだよ。私ね、ずっと欲しかったんだ。今までだっていなかったわけじゃない。けど、せっかく友達になっても、み~んな私を置いて先にいなくなっちゃう。手の届かない所へ行っちゃうの」
そう言って空に向かって手を伸ばす葵葉。
「だから、もう友達を作る事を諦めようと思った。もう寂しい思いはしたくないし、大切な人がいなくなってしまう寂しさは、私が誰よりも知っているから。だから私自身が、人にそんな思いをさせしちゃいけない、人と関わっちゃいけないって」
「……信じられないな。あれだけ初対面で友達になってって迫って来たお前が」
「諦めてたはずなのに、それでも心の何処かでは友達が欲しいって、願う自分がいたんだね。神耶君に初めて会った時、この人なら上手く付き合って行けるかもしれない。そう思ったの。だから私、勢いで友達になってって迫っちゃったんだ」
「どうしてそう思ったんだ?」
「それは……神耶君が神様だから」
「最初から、気付いてたんだな」
「うん。だって、時代劇でしか見た事ないような、へんてこな格好してたしね。お社で悪びれもなく寛げる人なんてそうそういないよ。お社の主である神様くらいしか」
「コスプレとか言って、人の格好バカにしたくせに」
「バカになんてしてないよ。神様だって気付いてないフリしないと、姿見せてくれなくなっちゃうんじゃないかと思って」
俺達が初めて出会った日の事を思い出しているのか、再びクスクスと笑い出す葵葉。
葵葉につられて、俺の口元も微かに緩む。
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