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夏物語
後悔
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「で? 師匠はあいつに何か言われて来たのか?」
「葵葉さんですか? いいえ。葵葉さんなら、今日はまだ来ていませんよ」
「……え?」
来てない?
「……んだよあいつ。自分から約束だとか言ってたくせに、自分でそれを破るのかよ。やっぱり人間なんて、身勝手な生き物だな」
「何を拗ねているんです? 最初はあんなに怖がっていたのに。随分葵葉さんに懐いたみたいですね神耶」
ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら、そんな事を言う師匠。
「な、別に拗ねてなんかねぇ! 懐いてもいない! 人間なんて大っっ嫌いだ! 今日はあいつがいなくて清々してらぁ!」
「本当に貴方は、面白いくらいに素直じゃないですね。顔、真っ赤ですよ」
クックッと声を殺して、笑いを堪えているのだろう師匠。
その姿に、俺は恥ずかしさを抑えられず声を上げた。
「う、うるせぇ~! てか、あんたいつまでここにいるつもりだよ。とっとと自分の神社へ帰れよ!」
「あっ、葵葉さんが来たみたいですね」
「っ?!」
師匠の言葉に思わずキョロキョロと辺りを見回す。
そんな俺に、ついに師匠は大声を上げて笑い始めて
「な、何がおかしい?」
「嘘ですよ。う~そ。そんなにも葵葉さんが待ち遠しいんですね」
「こ、この……糞師匠~~~~~っ!!」
俺は再び顔を真っ赤に染めがら、怒りを爆発させた。
なのに、まだ懲りないのか、この人は。
「あっ、葵葉さんが来たみたいですよ」
「二度も同じ手にひっかかるかよ」
おれはプイっと師匠から顔を背ける。
「今度は本当ですって。ほら、社の方」
師匠の言葉に、ついつい師匠が指し示す先を目で追ってしまう。
師匠の指差す先、社がある方向。
ここから肉眼では神社など到底見えないが、俺は意識を集中させながらじっと目を凝らした。
そして神力を使って、師匠の指差す先を見つめた。
その先には確かに葵葉の姿が。
慌てた様子で社へ向かって走って行く葵葉。
「?何かあったんですかね。何だか慌ててましたけど」
「さぁ~な」
「神耶、行ってあげなくて良いのですか?」
「何で俺が。奴から身を隠す為にここにいるのに。……てか師匠、俺がここにいるって事は絶対奴には内緒にしろよ」
「お~い、葵葉さ~ん」
「っておい! 何大声出して呼んでんだよ。内緒にしてくれって、今お願いしたばっかだろ!」
「葵葉さ~ん!!」
「だから、頼むから、俺を平穏無事に過ごさせてくれよ。な? 今日一日からい良いだろ? 」
必死に懇願する俺を、何故か師匠は肩を震わせ笑っている。
「何笑ってんだよ師匠」
「だって、こんな離れた場所から呼んだって、人間の葵葉さんには聞こえるわけないのに、そんな必死になって」
「……あ」
我ながら恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じていると、葵葉の後ろにもう一人、見知らぬ男が葵葉を追いかけ走って行く姿がある事に気付いた。
「……? 誰だ、あの男?」
「さぁ? でも、もしかして葵葉さん、あの男から逃げているのではないでしょうか? だからあんなに焦っているのでは? だとしたら大変ですよ神耶。早く葵葉さんを助けに行かないと」
いつも穏やかな師匠が、珍しく焦った様子で俺を追い立てる。
だが、突然の事態に俺の頭はついて行かず、一瞬動く事が出来なかった。
「…………」
「神耶っ!」
「あ、あぁ……」
師匠の声に急かされて、そこで初めてはっと我に返った俺は、慌てて桜の大木から飛び降りると、疾風の如く急ぎ神社までの道を引き返す。
『神耶君、何処にいるの? 神耶君……』
その間、俺の頭の中に響いてくる声。
必死に俺の名前を呼ぶあいつの――
「っくそ!」
どうして俺は、今日に限ってあいつから逃げようとしてしまったのだろう。
自分の浅はかな行動を後悔しては、きつく唇を噛み締め俺は葵葉の元へと急ぎ走った。
「葵葉さんですか? いいえ。葵葉さんなら、今日はまだ来ていませんよ」
「……え?」
来てない?
「……んだよあいつ。自分から約束だとか言ってたくせに、自分でそれを破るのかよ。やっぱり人間なんて、身勝手な生き物だな」
「何を拗ねているんです? 最初はあんなに怖がっていたのに。随分葵葉さんに懐いたみたいですね神耶」
ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべながら、そんな事を言う師匠。
「な、別に拗ねてなんかねぇ! 懐いてもいない! 人間なんて大っっ嫌いだ! 今日はあいつがいなくて清々してらぁ!」
「本当に貴方は、面白いくらいに素直じゃないですね。顔、真っ赤ですよ」
クックッと声を殺して、笑いを堪えているのだろう師匠。
その姿に、俺は恥ずかしさを抑えられず声を上げた。
「う、うるせぇ~! てか、あんたいつまでここにいるつもりだよ。とっとと自分の神社へ帰れよ!」
「あっ、葵葉さんが来たみたいですね」
「っ?!」
師匠の言葉に思わずキョロキョロと辺りを見回す。
そんな俺に、ついに師匠は大声を上げて笑い始めて
「な、何がおかしい?」
「嘘ですよ。う~そ。そんなにも葵葉さんが待ち遠しいんですね」
「こ、この……糞師匠~~~~~っ!!」
俺は再び顔を真っ赤に染めがら、怒りを爆発させた。
なのに、まだ懲りないのか、この人は。
「あっ、葵葉さんが来たみたいですよ」
「二度も同じ手にひっかかるかよ」
おれはプイっと師匠から顔を背ける。
「今度は本当ですって。ほら、社の方」
師匠の言葉に、ついつい師匠が指し示す先を目で追ってしまう。
師匠の指差す先、社がある方向。
ここから肉眼では神社など到底見えないが、俺は意識を集中させながらじっと目を凝らした。
そして神力を使って、師匠の指差す先を見つめた。
その先には確かに葵葉の姿が。
慌てた様子で社へ向かって走って行く葵葉。
「?何かあったんですかね。何だか慌ててましたけど」
「さぁ~な」
「神耶、行ってあげなくて良いのですか?」
「何で俺が。奴から身を隠す為にここにいるのに。……てか師匠、俺がここにいるって事は絶対奴には内緒にしろよ」
「お~い、葵葉さ~ん」
「っておい! 何大声出して呼んでんだよ。内緒にしてくれって、今お願いしたばっかだろ!」
「葵葉さ~ん!!」
「だから、頼むから、俺を平穏無事に過ごさせてくれよ。な? 今日一日からい良いだろ? 」
必死に懇願する俺を、何故か師匠は肩を震わせ笑っている。
「何笑ってんだよ師匠」
「だって、こんな離れた場所から呼んだって、人間の葵葉さんには聞こえるわけないのに、そんな必死になって」
「……あ」
我ながら恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じていると、葵葉の後ろにもう一人、見知らぬ男が葵葉を追いかけ走って行く姿がある事に気付いた。
「……? 誰だ、あの男?」
「さぁ? でも、もしかして葵葉さん、あの男から逃げているのではないでしょうか? だからあんなに焦っているのでは? だとしたら大変ですよ神耶。早く葵葉さんを助けに行かないと」
いつも穏やかな師匠が、珍しく焦った様子で俺を追い立てる。
だが、突然の事態に俺の頭はついて行かず、一瞬動く事が出来なかった。
「…………」
「神耶っ!」
「あ、あぁ……」
師匠の声に急かされて、そこで初めてはっと我に返った俺は、慌てて桜の大木から飛び降りると、疾風の如く急ぎ神社までの道を引き返す。
『神耶君、何処にいるの? 神耶君……』
その間、俺の頭の中に響いてくる声。
必死に俺の名前を呼ぶあいつの――
「っくそ!」
どうして俺は、今日に限ってあいつから逃げようとしてしまったのだろう。
自分の浅はかな行動を後悔しては、きつく唇を噛み締め俺は葵葉の元へと急ぎ走った。
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