願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
4 / 180
夏物語

不思議な来訪者②

しおりを挟む
どれほど時間が経った頃だろうか――



「あっ!神耶、目を覚ましましたよ!」



師匠と人間、二人から少し離れた位置で壁に背を預け、目を閉じていた俺を、師匠が嬉しそうに手招きして呼んだ。


「……そっか、良かったな」


だが俺は、素っ気なく答ただけで、手招きに応じる事なくそっぽを向いた。


そんな俺の態度を知ってか知らずか、師匠は人間の顔を覗き込みながら声をかけた。



「あなた大丈夫ですか? あんな所で倒れて、何かあったんですか?」


「……って、寝てたのと勘違いしたくせに」


師匠の人間への呼び掛けに、思わず突っ込んでしまいながら、俺は師匠に助言した。


「んな事聞いたって、そいつ驚かせるだけだろ。そいつには俺らの姿見えてねぇんだから」


「あぁ、それもそうですね。これではまたこの神社に幽霊神社と変な噂がたってしまいま……」


「あの~、私、どうしてここに?」



師匠の言葉を遮って、人間の子供が俺達に不安げな視線を寄越しながら口を開いた。


その視線に迷いはなく、大きな瞳はしっかりと俺達の姿をとらえている。



「「……っ!」」



師匠と俺は驚きに息を呑み、互いに顔を見合わせた。



「お前、俺達の姿が見えるのか? ってかお前、女だったのか? 今、私って……。髪は短いし、胸はまな板だし、そんな男みたいななりをしてるからてっきり男かと……」


俺は、壁に預けていた体重を無意識に前に移動させながら、沢山の疑問を投げ掛けた。



「こら、初対面の子に失礼でしょう」



俺の発言に師匠が窘めるその横で、人間は苦笑いを浮かべつつも、「はい」と答えた。


そんな、まさか女だったとは。
いやいやそれよりも俺達の姿が見える人間がいるなんて。
俺はまじまじと人間を見つめた。


「あの、えっと……お二人が私をここに運んでくれたんですか?」


「えぇ、あっちの仏頂面の方が」


俺の戸惑いを他所に、師匠はいつもの穏やかな笑顔で人間に答える。

すると人間はその場にゆっくりと体を起こしたかと思うと正座をしてみせて、俺達に向かって頭を下げて言った。



「ありがとうございました。私、あんな所で急に眠くなっちゃって」


「……は? 寝てたのか?」


「はい!」


「ほらみなさい。やっぱり寝ていたんじゃないですか」


師匠は勝ち誇った顔で俺を見る。
いやいや、あんな所で眠くなるって、普通に考えておかしいだろ!



「所でお二人は、どうして真夏の夕暮れ時に、こんな薄暗い森の中で、そんな奇天烈な格好をしてるんですか? 赤髪に白髪。それにその時代劇みたいな服装。平安時代の貴族さんかな? 暑そう……。あぁ、もしかして、これが世に言うコスプレ? コスプレイヤーさんですか? うわ~凄い。私、初めて見ました。何のキャラクターですか?!」


「コ……コスプ?!」



こいつ、俺の自慢の赤髪をコスプレだと?!
人間のくせに、神をバカにしてるのか?!


「あ、そうだ! あの、名前教えてください。お礼とかしたいし、それに」


その上名前を教えろだと?!
人間のくせに、馴れ馴れしいにも程がある!


「嫌だ!!」



イライラしながら俺はきっぱり人間の申し出を断った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...