願いが叶うなら

汐野悠翔

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夏物語

不思議な来訪者②

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どれほど時間が経った頃だろうか――



「あっ!神耶、目を覚ましましたよ!」



師匠と人間、二人から少し離れた位置で壁に背を預け、目を閉じていた俺を、師匠が嬉しそうに手招きして呼んだ。


「……そっか、良かったな」


だが俺は、素っ気なく答ただけで、手招きに応じる事なくそっぽを向いた。


そんな俺の態度を知ってか知らずか、師匠は人間の顔を覗き込みながら声をかけた。



「あなた大丈夫ですか? あんな所で倒れて、何かあったんですか?」


「……って、寝てたのと勘違いしたくせに」


師匠の人間への呼び掛けに、思わず突っ込んでしまいながら、俺は師匠に助言した。


「んな事聞いたって、そいつ驚かせるだけだろ。そいつには俺らの姿見えてねぇんだから」


「あぁ、それもそうですね。これではまたこの神社に幽霊神社と変な噂がたってしまいま……」


「あの~、私、どうしてここに?」



師匠の言葉を遮って、人間の子供が俺達に不安げな視線を寄越しながら口を開いた。


その視線に迷いはなく、大きな瞳はしっかりと俺達の姿をとらえている。



「「……っ!」」



師匠と俺は驚きに息を呑み、互いに顔を見合わせた。



「お前、俺達の姿が見えるのか? ってかお前、女だったのか? 今、私って……。髪は短いし、胸はまな板だし、そんな男みたいななりをしてるからてっきり男かと……」


俺は、壁に預けていた体重を無意識に前に移動させながら、沢山の疑問を投げ掛けた。



「こら、初対面の子に失礼でしょう」



俺の発言に師匠が窘めるその横で、人間は苦笑いを浮かべつつも、「はい」と答えた。


そんな、まさか女だったとは。
いやいやそれよりも俺達の姿が見える人間がいるなんて。
俺はまじまじと人間を見つめた。


「あの、えっと……お二人が私をここに運んでくれたんですか?」


「えぇ、あっちの仏頂面の方が」


俺の戸惑いを他所に、師匠はいつもの穏やかな笑顔で人間に答える。

すると人間はその場にゆっくりと体を起こしたかと思うと正座をしてみせて、俺達に向かって頭を下げて言った。



「ありがとうございました。私、あんな所で急に眠くなっちゃって」


「……は? 寝てたのか?」


「はい!」


「ほらみなさい。やっぱり寝ていたんじゃないですか」


師匠は勝ち誇った顔で俺を見る。
いやいや、あんな所で眠くなるって、普通に考えておかしいだろ!



「所でお二人は、どうして真夏の夕暮れ時に、こんな薄暗い森の中で、そんな奇天烈な格好をしてるんですか? 赤髪に白髪。それにその時代劇みたいな服装。平安時代の貴族さんかな? 暑そう……。あぁ、もしかして、これが世に言うコスプレ? コスプレイヤーさんですか? うわ~凄い。私、初めて見ました。何のキャラクターですか?!」


「コ……コスプ?!」



こいつ、俺の自慢の赤髪をコスプレだと?!
人間のくせに、神をバカにしてるのか?!


「あ、そうだ! あの、名前教えてください。お礼とかしたいし、それに」


その上名前を教えろだと?!
人間のくせに、馴れ馴れしいにも程がある!


「嫌だ!!」



イライラしながら俺はきっぱり人間の申し出を断った。


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