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夏物語
不良神 神耶②
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穏やかな口調、穏やかな笑みを浮かべながら何事もなかったかのようにそう声を掛けてくるこの人は、俺が任されているこの神社、八幡神社のご祭神である八幡神その人で、俺が神見習いの時から独り立ちするまで、俺を育て上げてくれた俺の師匠。
「ったく、いつもいつも変な登場の仕方しやがって。やめてくれって言ってるだろ」
「だって神耶の反応が面白いから、つい」
「つい、じゃねぇ! 俺で遊ぶな!」
「あら、貴方だって先程お参りに来てくれた人間で遊んでいたじゃないですか」
「うぐっ……」
揚げ足をとられて絶句する。これだから師匠には敵わない。
仕方なくこみ上げて来る怒りを沈めて、俺は話題を他に反らす事にした。精一杯の皮肉を込めて。
「で? 何しに来た。あんたみたいな有名どころの神様が、こんな田舎のボロ神社で油うってていいのかよ」
「いいんです。仕事は神見習いの私の弟子達に任せて来ましたから」
「けっ。またそれか。見習いなんかに任せっぱなしで、んな事ばっかやってっと、あんたのせいで八幡神社全体の評判が落ちるぜ」
因みに、八幡神社とは全国に二万社もの社を有し、武運の神として奈良時代、平安時代から信仰されて来た神社の一つ。日本でも馴染みの深い神社だ。
ま、科学が発達した今となっては、八幡神社だの稲荷神社だの、神社の種類や祭神を気にして参拝しにくる人間も少ないだろが。
そもそも、八幡神社がどうなろうが俺の知ったことでもないか。
そう俺が続けようとすると、不意に師匠に言葉を遮られた。
「あら、珍しい。私の事を心配してくれるのですか。ですがその言葉、そっくり貴方にお返ししますよ」
「……そりゃ、どうも」
これはまさに、説教が始まりそうな怪しい雲行きに、俺は先手を打つべく社の中まで戻ると、師匠に背を向け寝転る。長くなるであろう説教に備える為に。
「神耶、あなたはいつまであんな事をしているつもりですか。お参りに来た人間を驚かせ、追い返し」
「……」
「だからこの神社は、幽霊神社だの何だのと噂され、誰も寄り付こうとしない寂れた三流神社に成り下がるのですよ」
あぁ、まったくこの人は、皮肉を込めた話し方しか出来ないのか?
「うっせぇな。こんな田舎の神社一つどうなろうが、別に大した問題でもないだろ。いいから、もう俺の事はほっといてくれよ」
「いいえ。そうは行きません。私の弟子であるあなたに、そんなぐうたらな仕事をされると、私の指導者としての信用が失われるではありませんか!」
「はいはい、そりゃどうもすんませんねぇ」
またそれか。俺は飽き飽きしながら適当に言葉を返す。
「……それに、神耶」
「……?」
「あなた、このまま神としての仕事を怠けていると、いつかきっと神界から追放されてしまいますよ……」
「……」
それまで、ふわふわした冗談っぽい口調で話していた人が突然、真面目な口調に変わった。
この人も、この人なりに俺の事を心配してくれているか。
でも俺は、素直に師匠の忠告を聞き入れる事が出来なかった。いつからか生まれてしまった“神”と言う仕事に対する虚しさから。
「別に……いいよ俺、それでも」
「神耶……」
師匠の寂しそうな声を背中で訊きながら、俺はボーっと社の壁の一点を見つめ続けた。
「ったく、いつもいつも変な登場の仕方しやがって。やめてくれって言ってるだろ」
「だって神耶の反応が面白いから、つい」
「つい、じゃねぇ! 俺で遊ぶな!」
「あら、貴方だって先程お参りに来てくれた人間で遊んでいたじゃないですか」
「うぐっ……」
揚げ足をとられて絶句する。これだから師匠には敵わない。
仕方なくこみ上げて来る怒りを沈めて、俺は話題を他に反らす事にした。精一杯の皮肉を込めて。
「で? 何しに来た。あんたみたいな有名どころの神様が、こんな田舎のボロ神社で油うってていいのかよ」
「いいんです。仕事は神見習いの私の弟子達に任せて来ましたから」
「けっ。またそれか。見習いなんかに任せっぱなしで、んな事ばっかやってっと、あんたのせいで八幡神社全体の評判が落ちるぜ」
因みに、八幡神社とは全国に二万社もの社を有し、武運の神として奈良時代、平安時代から信仰されて来た神社の一つ。日本でも馴染みの深い神社だ。
ま、科学が発達した今となっては、八幡神社だの稲荷神社だの、神社の種類や祭神を気にして参拝しにくる人間も少ないだろが。
そもそも、八幡神社がどうなろうが俺の知ったことでもないか。
そう俺が続けようとすると、不意に師匠に言葉を遮られた。
「あら、珍しい。私の事を心配してくれるのですか。ですがその言葉、そっくり貴方にお返ししますよ」
「……そりゃ、どうも」
これはまさに、説教が始まりそうな怪しい雲行きに、俺は先手を打つべく社の中まで戻ると、師匠に背を向け寝転る。長くなるであろう説教に備える為に。
「神耶、あなたはいつまであんな事をしているつもりですか。お参りに来た人間を驚かせ、追い返し」
「……」
「だからこの神社は、幽霊神社だの何だのと噂され、誰も寄り付こうとしない寂れた三流神社に成り下がるのですよ」
あぁ、まったくこの人は、皮肉を込めた話し方しか出来ないのか?
「うっせぇな。こんな田舎の神社一つどうなろうが、別に大した問題でもないだろ。いいから、もう俺の事はほっといてくれよ」
「いいえ。そうは行きません。私の弟子であるあなたに、そんなぐうたらな仕事をされると、私の指導者としての信用が失われるではありませんか!」
「はいはい、そりゃどうもすんませんねぇ」
またそれか。俺は飽き飽きしながら適当に言葉を返す。
「……それに、神耶」
「……?」
「あなた、このまま神としての仕事を怠けていると、いつかきっと神界から追放されてしまいますよ……」
「……」
それまで、ふわふわした冗談っぽい口調で話していた人が突然、真面目な口調に変わった。
この人も、この人なりに俺の事を心配してくれているか。
でも俺は、素直に師匠の忠告を聞き入れる事が出来なかった。いつからか生まれてしまった“神”と言う仕事に対する虚しさから。
「別に……いいよ俺、それでも」
「神耶……」
師匠の寂しそうな声を背中で訊きながら、俺はボーっと社の壁の一点を見つめ続けた。
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