声劇台本置き場

ツムギ

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2人台本

『おによめ』(男1:女1)約10分

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登場人物(男:1、女:1)

・太助(たすけ)/男
咲の旦那。親を亡くし、農家として働いている。

・咲(さき)/女
太助の嫁。親を亡くしている。ある日、額に鬼のツノが生えた。

【時間】約10分
【ジャンル】感動、恋愛



【本編】

咲「太助、話がある」

太助「…なんだい咲、飯の後話があるとかしこまって」

咲「……私と離婚して欲しい」

太助「…は?」

咲「急な話で申し訳ないと思ってる、でも…私……」

太助「待て待て待て、…本気で言ってるのか?咲」

咲「本気…だ…」

太助「……」

咲「だから、お願いだ。離婚してくれ…」

太助「理由は?」

咲「え?」

太助「理由。あるだろ?急に離婚を申し込んで来るぐらいだからな」

咲「り、理由は…その……。た、太助との生活にうんざりしたんだ…。だから頼む、別れてくれ…」

太助「……なぁ咲、さっきから何で俺の目を見ない?理由も取って付けた様な感じじゃないか。本当にそれが理由か?」

咲「……っ」

太助「なぁ、理由を教えてくれ。俺が悪いならちゃんと謝る。お前と結婚してもお前への気持ちは変わってない。死ぬまで添い遂げると誓い合っただろう?」

咲「…そう、だけど」

太助「明確な理由を教えてくれ、じゃないと俺は納得しねぇ」

咲「…」

太助「咲、話してくれ」

咲「……太助、鬼の話は知ってるか?」

太助「鬼?人が寄り付かん山奥や島にいると言う怪物だろう?見た事はないが実在してると聞くな」

咲「鬼にはツノが生えていて、恐ろしい程の怪力を持つと言う」

太助「うん、…その鬼が一体どうしたんだ?」

咲「これを見てくれ」

太助「…咲の額に小さいコブの様なものが出来てるな」

咲「…触ってみてくれ」

太助「……硬い。まるで骨の様だな」

咲「これがツノだ」

太助「何!?…お前は鬼だったのか…?」

咲「……」

太助「いや、でもおかしいだろう。だって、今までこんな物見た事ない。ずっと隠していたのか?」

咲「いや、私も最近気付いたんだ。ふと、額を触ってみたら小さなコブのような物が出来てると思った。でも、ぶつけた記憶もないし、痛みも一切感じない。念の為、お医者様の所へ行って診てもらったんだ。そしたら、骨の様に硬い。まるで鬼のツノの様だって…言われて……」

太助「そうか…」

咲「私も初めは信じなかった。ただのコブでいつかは治るのでしょう?とお医者様に聞いたの。…分からないって。そして、あるお話をしてくれたの」

太助「話?」

咲「私の様に鬼のツノが生てきた人間の話。眉唾物だと思ってたんだけど、私のツノを見て信憑性が出て来たと仰ってた」

太助「一体どういう話なんだ?」

咲「私と同じで、とある村で平穏に暮らしてた男の人がいたんだって、ある日ふと頭を触るとツノの様な物が生えていたらしいの。医者に行っても原因は分からず、困り果てていた。その時、村人が押し掛けてきたの。どうやら診察をした医者からツノの事を聞いたらしく、鬼と疑われた男の人は容赦なく殺されてしまったと言う物よ」

太助「……そんな事が」

咲「これは実際起こった事らしいわ。現にツノの生えた人間が生まれるって話もあるにはあるらしい。私を診察してくれたお医者様は初めて見たらしいんだけど…」

太助「そ、それは大丈夫なのか!?もし、その医者が他の奴に告げ口をしたら…」

咲「…それは分からないけど、お医者様は自分の口から話す事はないだろうと言って下さった。でも、このツノがある限り私が鬼と言われ命を狙われる可能性はある。だから私は人里から離れてひっそりと暮らしたい」

太助「……何故、咲が鬼に……」

咲「私も詳しい事は分からないけど、鬼って色んな種類がいるらしいの。化け物みたいに大きな奴もいれば、人間と見紛う者もいる。そういう奴が人間と結婚して子を儲けるって話があるらしい。
お医者様のお友達に鬼を研究してる方がいるらしくて、お医者様はその方に色々と聞かされたそうなの」

太助「ふむ…じゃあその医者は鬼に対して否定的ではないんだな」

咲「えぇ。そのお医者様曰く鬼の血はその後の子孫にも影響が受けやすく、何代か後に生まれた子供にツノが生える事があるらしい。私の様に…」

太助「…じゃあ、咲の先祖に人に紛れた鬼がいたということか?」

咲「そうなる…と思う」

太助「……っ」

咲「ごめんなさい、騙していた訳じゃないの。私だって、ツノが生えてから初めて気付いたの。お医者様は黙っていてくれると言った。でも、此処に居続けるのは不安なの。貴方も危険な目に遭うかもしれない。だから、別れてちょうだい!」

太助「…別れたら、お前は1人で此処を去るつもりだろ」

咲「えぇ、貴方に迷惑をかけたくない」

太助「……咲」

咲「はい」

太助「何故1人で行くんだ?」

咲「え?」

太助「1人で行くなんて許さねぇ」

咲「はぁ!?何言ってんだ!」

太助「咲が此処を出ていくと言うのなら、俺だって一緒に行く。おっとぉもおっかぁも、互いに亡くしてる身だ。今更何処へ行こうが誰も止めやしねぁ。良くしてくれた人達には、咲が病気になったから、空気の良い場所で二人で暮らしますって言って来るからよ」

咲「な、太助、あんた何言ってん

太助「言ったろ。死ぬまで添い遂げる

って」

咲「でも、私は鬼なんだよ!

太助「鬼でも、咲は咲だ。俺の女だ!嫌いになった以外の理由で離れる気はねぇんだよ!」

咲「太助…」

太助「咲、俺はお前を1人にはさせねぇ。鬼でも人間でも、ずっと一緒だ」

咲「馬鹿。馬鹿なのかい、あんた…」

太助「馬鹿でいいさ。愛してる女を放って置く奴はもっと大馬鹿だ」

咲「迷惑…かけるよ…」

太助「お前にはいつも迷惑かけてる。だから、この位迷惑でもなんでもねぇさ」

咲「太助…ありがとう…!」

太助「こっちこそ、話してくれてありがとな。咲」

咲「鬼でも許してくれるかい?」

太助「はっは、これが本当の鬼嫁だな。ちっこいツノだな、可愛いじゃねぇか」

咲「このツノ…もしかしたらもう少し大きくなるかもしれないって言われた」

太助「ほぉ、どの位デカくなるか見ものだな。その前に人里から離れて生活安定させたいな」

咲「…何処まで、これからの事見据えてんだい?」

太助「何処までもさ。互いに歳食っても死ぬまで一緒だ。さっきも言ったろ?信用してないのか?」

咲「…信用させてみてよ」

太助「上等だ」

咲「太助…!」

太助「おっと、抱きついて来るなんて大胆だなぁ」

咲「抱きしめて。強く…」

太助「あぁ、お前が勝手に何処にも行かない様にこの腕に捉え続けてやるよ」

咲「太助、愛してる」

太助「…俺もだ。愛してるぞ、咲。お前が何者でも俺は構わない」

咲「鬼は人間を食う奴もいるって話よ」

太助「お前に食われるなら本望だ」

咲「…本当の馬鹿だね」

太助「あぁ、馬鹿で良い。お前と一緒にいれるなら俺は何者にでもなれる」

咲「私は幸せ者だ…」

太助「じゃあ、早速家を出る準備しないとな」

咲「え、もうかい!?」

太助「善は急げと言うだろう?」

咲「もう少し、抱きしめてくれ」

太助「っ!?…どうしたんだ、随分素直だな…」

咲「あんたが大好きだからさ」

太助「…なぁ、誘ってるのか?」

咲「どうだろうね?」

太助「たく、手加減出来ねぇぞ…この野郎」

咲「ちょ、ちょっと!急にツノに口付けすんじないよ!」

太助「いや、やっぱこのちっこいツノ、可愛いなって」

咲「馬鹿…口付けする場所が違うだろ?」

太助「……やっぱり誘ってんな?」

咲「ふふ、愛してるよ太助」

太助「死ぬまで一緒だ、咲」

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