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ツムギ

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2人台本

『雌狼と少年』(男1:女1)約20分

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登場人物(男:1、女1)

・ジョン/男
親に捨てられた幼い少年。ある日ルーヴと名乗る女性に拾われ、共に生活する。少し大人びていて、心根は優しい。黒と銀が混ざった髪に琥珀色の瞳を持つ。嘘をつくのが少し下手。

・ルーヴ/女
娼婦をしながら殺し屋も兼任する女。強気で姉御肌。未来を予知出来ると自称し、ジョンを助けそのまま共に過ごす事になる。鈍い金髪にスカイブルーの瞳を持つ。

・アセナ/女(ルーヴと兼任)
青年となったジョンと出会った、ルーヴに似た娼婦の女性。大切な人の優しい嘘を信じており、大切な人と似ているジョンに心惹かれる。未来を予知出来ると自称する。少し色素の薄い金髪とマリンブルーの瞳も持つ。

【時間】約20分
【ジャンル】シリアス



【本編】


ジョン「ルーヴ…?」

ルーヴ「あぁ、アタシの名前。で、お前は?」

ジョン「……ない。母さんは名前を付けるのを面倒に思って名前をつけてくれなかった。呼ばれれば何でも良いと思ったけど、そもそも呼ばれる事がなかったから、あっても無くても何も変わらない」

ルーヴ「なんて親だ…。アタシはネーミングセンスはないからね…ジョンと呼ばせて貰うよ。ありきたりな名前さ、覚えやすいだろ?」

ジョン「ジョン…俺の、呼ばれ方……」


ルーヴ「これは、アタシが…アタシ達が死ぬまでの話さ…」


路地裏のゴミ箱を漁る少年

ジョン「っ…このパン、まだ食べれるかな…?何かカビみたいなの生えてる…いや、食べれる部分は少しあるし…これで、何日持つか……」

ルーヴ「何してる?」

ジョン「!?」

ルーヴ「そんなゴミ箱から拾ったカビだらけの残飯を食うのかい?」

ジョン「…やらない。これは俺が見つけたんだ」

ルーヴ「いらないよ、そんな食べれる部分の少ねぇの。それよりまだマシなの食わせてやる」

ジョン「え?」

ルーヴ「こっち来な、ボウズ」

ジョン「え、待って…」

ルーヴ「ほら、あそこの屋台で美味そうな食い物売ってるじゃねぇか。ちょっと待ってろよ」

ジョン「え……何?誰なんだあの女……」

ルーヴ「おい、ボウズ。これ食えるか?」

ジョン「え、…う、うん…」

ルーヴ「よし、これ二つくれ」

ジョン「あの…」

ルーヴ「ほらよ。慌てず食えよ」

ジョン「え、え…?何で?」

ルーヴ「食いながらでいい。着いてきな」

ジョン「……何で、助けてくれたの?」

ルーヴ「あそこにいたらお前が死んでたからね」

ジョン「え?」

ルーヴ「アタシね、未来が視えるんだ。嘘じゃないよ?」

ジョン「み、未来…?」

ルーヴ「……ほら、今銃声が聞こえなかったか?」

ジョン「え…」

ルーヴ「アタシが視えたのは、あの場に人を殺した強盗犯が警官どもに追われて、その場にいたお前を盾にする。しかし警官は躊躇わずにお前ごと犯人を撃ち殺す…という未来が視えたんだ」

ジョン「…そんな事、あるの…?」

ルーヴ「あるんだよ。つかどうだ?うまいか?」

ジョン「…美味しい、初めて食べた。屋台のご飯…」

ルーヴ「だろ?」

ジョン「お姉さん…何で俺を助けてくれたの?」

ルーヴ「ルーヴだ」

ジョン「ルーヴ…?」

ルーヴ「あぁ、アタシの名前。で、お前は?」

ジョン「…ない。母さんは名前を付けるのを面倒に思って名前をつけてくれなかった。呼ばれれば何でも良いと思ったけど、そもそも呼ばれる事がなかったから、あっても無くても何も変わらない」

ルーヴ「なんて親だ…。アタシはネーミングセンスはないからね…ジョンと呼ばせて貰うよ。ありきたりな名前さ、覚えやすいだろ?」

ジョン「ジョン…俺の、呼ばれ方……」

ルーヴ「何で助けたのか…か、ただの気まぐれさ。未来を見た時、たまにこうして気まぐれに人助けをしてんだ。まぁ、大抵は信じて貰えずに勝手にくたばってる奴等ばかりだけどな」

ジョン「…俺がついて行かなかったら?」

ルーヴ「お前は死んでた。それだけさ」

ジョン「……」

ルーヴ「ジョン、どうする?助けて貰った礼くらい言えるだろ?」

ジョン「…助けたのは貴女の勝手だ。俺が着いて行ったのは俺の勝手…食いものをくれた礼は言う。ありがとう。でも、そんな偽善で俺は救われた気にならない」

ルーヴ「だろうな。アタシもそんなもんさ。全てアタシのしたいようにしてるだけ。礼を言われてもむず痒いだけだ。じゃあジョン。暇なら相手してくれよ」

ジョン「は?」

ルーヴ「アタシね、大きな声じゃ言えないが体を二つ売ってるんだ」

ジョン「体を売る…。ん?二つって…」

ルーヴ「アタシは娼婦なんだ。売ってるのは春。そしてもう一つは殺しの腕さ。アタシはフリーの殺し屋なんだ」

ジョン「娼婦で…殺し屋…?」

ルーヴ「鈍色の金髪にスカイブルーの瞳。野郎どもはアタシのことを雌狼(めろう)と呼ぶんだ」

ジョン「雌の狼…」

ルーヴ「でもな、狼の目って琥珀色をしてるんだ。ジョンみたいな目の色だな。ウルフアイっていうんだとさ」

ジョン「そう、なんだ…」

ルーヴ「あぁ」

ジョン「…相手をするってどう言うこと?俺、娼婦を買う金なんてないよ。食いものだって買えないんだから」

ルーヴ「そりゃそうだろう、アタシは金があっても子供なんて相手にしたくない。アタシが欲しいのは話し相手さ」

ジョン「話し相手…?」

ルーヴ「そう、夜まで暇なのさ。何、稼ぎはいいからお駄賃をやるよ」

ジョン「…何で俺を?」

ルーヴ「気まぐれさ」

数ヶ月後

ルーヴ「おーい、ジョン。アタシの下着しらねぇか?」

ジョン「適当に放り投げたんじゃないのか?また裸で部屋の中うろつくんじゃないぞ」

ルーヴ「何だい?照れてるのか?」

ジョン「早く着替えろ」

ルーヴ「クールだねぇ…お、あったあった」

ジョン「……今日はどっちを売るんだ?」

ルーヴ「ん?どっちも」

ジョン「……」

ルーヴ「何だ?心配でもしてくれるのかい?ジョン」

ジョン「心配はしてない。それがルーヴの商売だろ?俺が口を出して何になる。俺はその金で生かされてるんだから…感謝はしてる」

ルーヴ「…素直じゃないねぇ。普通に仕事頑張って来てね~とか言えねぇのか?大丈夫だよ。今日も仕事は上手くいくって未来を視たんだからな。行って来るよ」

ジョン「…気を付けて」

ルーヴ「気を付けてだって、可愛いね~。……なぁ、ジョン。もしアタシが死んだら、アタシの物全部売っぱらって生きる金にしな」

ジョン「…何で今、そんな事言うんだ?」

ルーヴ「…なんでだろうね。アタシは未来が視える。だから、簡単には死なない。でもね、人間ってのはひょんな事で死んじまうんだよ。そうやって死んでいく奴等をいくつも見てきた」

ジョン「ルーヴ…」

ルーヴ「アタシの商売は人知れず死んでいくって言う覚悟の下でやってる。でも、今は何でだろうな…死ぬのが怖ぇや…」

ジョン「…俺なんかを拾っちまった弊害だろうな」

ルーヴ「だろうね…。こんな気持ち久しぶりだ。何かを大事にする…気まぐれで起こした事がとんでもない物になっちまったねぇ」

ジョン「俺も…戻れるかな…アンタがいない生活に……」

ルーヴ「…ジョン、お前本当に可愛い事言うねぇ」

ジョン「あっ、いや…違うっ!今のは…」

ルーヴ「なんだいなんだい?アタシも…あんたが大好きさ」

ジョン「……俺は、好きなんかじゃない……」

ルーヴ「うん」

ジョン「……俺も」

ルーヴ「………じゃあ、行って来るよ」

ジョン「いってらっしゃい」


ルーヴ「ここからは、アタシが死んだ後の物語だ」


ジョン「身元不明の女の死体。暴行を受け、銃で蜂の巣にされ、顔も分からん死体が浮かんだだろ?あれは雌狼。いや、ルーヴ…と言った方が聞き馴染みはないだろうか?…俺?知らなくて良い。名前なんてありはしない。………身元不明なのに何故女の名前を知っているかだと?…情報屋としてのセンスは俺の方がありそうだな。俺は女を殺した奴を追っている。あの人が簡単に死ぬなんてあり得ない…どんな奴か見つけ出して殺してやろうと思ったんだ…。すまない、時間だ。有益な情報があればまたお願いするよ」

雑踏の隅を歩くジョン

アセナ「ねぇ、お兄さん。いい男だねぇ…ね、アタシアセナって言うの。アタシと遊んでいかない?」

ジョン「……美しい金色の髪だ。目も…綺麗なマリンブルーだな」

アセナ「あら、嬉しい口説き文句だね。でも、遊んでくれなさそうね」

ジョン「体を売る女は信用しないんだ。嘘をつくからな」

アセナ「酷いわねぇ、男だって嘘を吐くじゃない。アタシの知ってる男もアタシを迎えに来ると言って帰って来なかった…」

ジョン「そうか、ひどい奴だな」

アセナ「似てるわ…貴方。あの嘘つき野郎に…」

ジョン「アンタも似ている。俺の母さんに」

アセナ「あら、お母さんっ子だった?」

ジョン「生まれの母は知らん。ほんの数ヶ月だけ俺を世話してくれた女がいた。その数ヶ月は生きていた中でとてつもなく永く、幸せに思えた………そんな女を母と呼んでも良かったんだろうか?」

アセナ「………あははっ、アンタおかしいね。母だって言いながら疑問に思ってるんじゃないよ。…でもね、それは母と呼んでいいと思うよ」

ジョン「ありがとう、アセナ。出会ってこんな事を話してしまってすまない」

アセナ「いいや、話を聞くのは好きなのさ。お礼に…なんて、母親と似た女は無理かな」

ジョン「そんな考えでいたら、母にも君にも失礼だ。母は母、君はアセナだ」

アセナ「こんな娼婦に随分と優しい男だね」

ジョン「母も体を売る人だった。それで俺は生かされた。どんな仕事にも理由がある。俺も君も……母も…な…」

アセナ「本当いい男だ…。あの人もアンタみたいに口が上手ければ良かったのに」

ジョン「その人は下手な言葉しか言えなかったのか?」

アセナ「あぁ、真っ直ぐ過ぎる言葉を残してアタシを置いて行ったのさ」

ジョン「…アセナ、約束してもいいか?」

アセナ「なんだい?」

ジョン「母の仇を討ったら、アンタの一夜を売ってくれ。言い値で買おう」

アセナ「……嬉しいね。アタシは高いよ」

ジョン「望むところだ」

アセナ「…アンタ、名前は?」

ジョン「…………ジャック」

アセナ「…ありきたりな名前だね」

ジョン「これはアセナだけが知る名前だ。俺に固有の名前はない。母も俺の事はありきたりな呼び名で呼んだ」

アセナ「分かった。覚えとくよ、嘘つき野郎さん」

ジョン「次会えたら、君の事が本気になりそうだ」

アセナ「上手いことばかり言うねぇ…。あ、そうだ面白い事教えてやる。ジャック、アタシね未来が視えるんだよ」

ジョン「未来…?」

アセナ「アンタと出会える未来を視たんだ。だからアタシはここでアンタを待っていた。もし、もう一度アンタと会える未来を視れたら……、これはもう運命かもね」

ジョン「そうだな、本当にそうなら一晩だけでなく、好きなだけいてもいいだろうか」

アセナ「それは勝手にしな…アタシは嬉しいけどね」

ジョン「じゃなあ。美しい、雌狼(ルーヴ)…」

アセナ「さようなら。嘘つき、野郎(ジャック)…」


ジョン「これは、俺が初めて吐いた嘘の話だ…」

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