あけぬ帳の、アヤカシ帖

ツムギ

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別館に入ると、掃除がされてないのが丸分かりだ。
至る所に埃や蜘蛛の巣がある。咳が出てしまう。

「大丈夫でありますか?上官殿」

少し前を歩く織鶴が俺の方を向いて尋ねる。

「埃っぽいな。掃除はいつからしてないんだい?」
「ここに来てから掃除はしてないのであります。掃除は苦手であります」

そう言って織鶴は前を向いて歩き続ける。
まずは掃除をしないと俺の肺が埃に犯されちまうな。

廊下を歩いていた織鶴が扉の前で立ち止まる。ここが執務室かな。
織鶴がガチャリとドアノブを回して扉を開けた。

「どうぞ、上官殿」

織鶴は先に部屋の中に入る様に促して来た。
正直嫌な予感はするが、大人しく中を覗いてみる。
あぁ、やっぱり……。
部屋の中は予想通り散らかっていた。
散乱している書類に調査書や書きかけの報告書まで様々だ。
壁際の本棚に並べられてる本は所々抜けて床に散らばってるし、上下逆にしまわれてる物もある。
他の家具もお世辞にも綺麗な物と言えない。
こんな所を使ってたのか!?俺なら掃除に三日費やすぞ!

「入らないのでありますか?」
「こんな汚い部屋に入れと?」
「織鶴はここで暮らしてるであります。そこのソファが寝床であります」
「入った瞬間資料を踏ん付けてしまう!掃除だ!今すぐ掃除だ!」
「えぇ、それよりパトロールをしなくては…」
「俺は、資料がぐちゃぐちゃになってるのが大っ嫌いなんだ。今すぐ掃除する、上官命令だ!」
「じょ、上官命令…か、かしこまりましたぁ!」

先ほど俺に斬りかかってきた織鶴は慌てた様子で部屋の床に散らばる紙を集めている。
俺も足元の紙を拾い上げる。
『七紫乃(ななしの)地区、妖調査書』。作成日が二年前じゃないか。

楓樂都には九つの地区が存在し、この軍基地があるのは壱敷(いちしき)地区だ。

「…調査を行った結果、この件は未解決とす……。討伐が出来てないのか?」
「ここにあるのは未解決の妖事件の資料ばかりであります」
「何でそんなものばかり」
「それが零番隊なんであります」

未解決の妖事件が零番隊と関係ある?
現状扱いとしては資料倉庫だぞ。中はさっぱり整理されてないが。

「織鶴、零番隊とは何だ?聞いた事がない隊だ」
「上之島さんから伺ってないのでありますか?」

残念ながら伺っていない。
織鶴は資料を拾う手を止め、うーんと唸った。

「妖討伐軍の零番隊とは、妖関連の未解決事件を調査するのが仕事らしいのであります」
「らしい?」
「織鶴、未解決事件を調査した事ないのであります」

何で?

「織鶴、調べ物は苦手であります故。ここに配属されてから半年程、パトロールしかしてないのであります」
「…半年間もパトロールしかしてないの!?」
「悪い事をした人間や妖を斬り伏せていたであります!」

さっき俺に斬りかかってたのを外で実際にやってたのか!?怖すぎるだろ。

しかし、この零番隊に俺が就いた理由はなんとなく察したぞ。
妖関係の未解決事件なら、妖を研究している俺にお呼びがかかるのはありえる話だ。
しかし、だとしたら何故織鶴はここにいるんだ?仕事してないだろ。

織鶴は足元の紙を拾っては向きを揃えず雑に集めている。
掃除にはまだまだかかりそうだな。俺はため息を吐くしかなかった。
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