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出会い

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夫婦の案内で河本一家の屋敷に香織はたどり着いた。
表の門が半開きになっている。

扉が開いている…?

香織は注意深く扉をそっと開けた。
すると力ない腕が倒れた。
扉を内側から開けようとして倒れたようだ。

どうしたのだ?

出入りか?

香織は中庭から様子を見ようと静かに侵入した。
が、砂利を踏む音を近くにいた者に聞かれた。

「誰だ!」

こうなっては仕方がない。
覚悟を決めた香織は刀の鍔に左手を掛け、その者の前に出た。

「陰流宗家愛洲香織と申す。故あってこちらに連れて来られた亜香里という娘をもらい受けに来た」

夜、電気もない暗闇の中である。
声の主は縁側に立ち香織を見下ろしている。

「陰流?宗家…あの愛洲移香斎のゆかりの者か?」

この話し方はやくざ者ではないな…

武士、いや浪人。河本一家の用心棒といったところか…

ここは親の七光りでいくか。

「いかにも愛洲移香斎は某の曽祖父。拙者は陰流の技を受け継げし唯一の継承者だ。おとなしく娘を出せばよし、さもなくば陰流の技を貴殿に披露することになるが。いかに!」

相手が引いてくれれば今はそれでいい…

「陰流の愛洲香織か…ふふふ女侍だな」

怯んでいない…やはりおなごと舐めているか…

香織は鍔を内切りに押し出した。

「やめておけ!こちらはすでに抜いている」

剣を抜いている?

「声で位置はわかっている。動けば砂利の音を追って斬りつける」

いかん…もう構えているに違いない。

動けば砂利の音でバレてしまう。

それにしても若い声だ…

まるで声変わりもしてないような声。

それでいてこの慣れた駆け引き…かなりの修羅場をくぐって来たと見える。

「貴殿は河本一家のゆかりの者か?」

「用心棒だ。いや、用心棒だったと言うべきか…」

そのとき夜雲が流れ満月の月の光が差した。
香織の前にいた侍は刀を肩に置き、返り血に染まった服や髪をもろともせず堂々と香織を見下ろしていた。
まるで相手の力を値踏みするかのように。
整った顔立ち、子供のような肌、長いまつ毛。
香織は目が見開いていった。

女だ!こやつも女侍か!

女侍は言った。

「無外流、人斬り地井頭こと地井頭沙織だ」

これが香織と沙織の前世の出会いだった。
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