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ピッツァステイクの味

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そこには白く溶けたシュレッドチーズがトマトソースを隠し、さらに香ばしいジューシーな肉を覆い隠していた。
沙織はまた別の折りたたみナイフを取り出した。

「あ。またナイフが出た」

「これはスパイダルコ。フラットグラインドだから食事用にしてる」

香織は沙織のマニアックな単語を聞き流した。
フライパンの上でピッツァステイクを2つにカットし、沙織はそれぞれの皿に盛りつけた。
カットしても熱く伸びたチーズがピザであることを主張するようだ。

「うわ。めっちゃピザじゃん」

沙織は空いたストーブに薪を焚べ、上へと燃え上がろうとする火の上にパーコレーターを置いた。

「さ。食べようぜ」

「おう。だぜ」

「ナニ、だぜって」

と、笑ってる沙織の目は今から食べるピッツァステイクに照準を当てている。
香織が沙織になにか言おうとすると沙織はプラスチックの小箱を目の前に置いた。
その中には小さなフォークが入っていた。

「あの…」

ナイフと言おうとしたが沙織がスパイダルコを渡して来た。
沙織はフィンウルフをピッツァステイクに刺し込んだ。
香織も肉の上にピッツァが載ったひと口サイズのピッツァステイクを口に運んだ。
ちょっと焦げた肉の香ばしい香りと熱々のピザの香りが先に鼻を包みだした。
その香りを楽しみつつ、食べたことないごちそうが口の中をいっぱいにした。
大人だと口の中で主役が2人主張し合ってて、別々に食べた方がいい、とか言う人間もいるだろう。
しかし高校生の2人には楽しい、おいしい、うれしい、そんな味に思えた。
ピッツァステイクにおにぎりは合わない。
だが楽しいからそんなの関係ない。

「ピッツァステイクにおにぎりってやっぱ合わないね」

香織の自虐ツッコミに2人で大爆笑した。

「おなかいっぱ~い」

香織はシートに崩れるように寝そべった。
沙織もシートに身を任せ天を仰いだ。

「いい天気…」

パーコレーターが吹きこぼした。

「あ、いけね!コーヒー作ってたんだ」

「溢れてる溢れてる」

と、香織が手を出そうとしたのを沙織が制した。

「熱いって」

沙織は冷静に耐熱手袋をはめてパーコレーターの取っ手を握り用意しておいた2つのコーヒーカップ注いだ。
見るからに極熱のコーヒーが香織の前に置かれた。

「熱いから結構、根性入れて冷まして」

「うん…うん?根性入れても冷ますってどういうこと?」

「気合いとかだから」

「ふーふーするってこと?」

「ふーふーが通用するまで根性と気合いで待つの」

「ふーふーが通用するまでってなかなかの熱さだよね」

「そうそう。ふーふー、なかなか、気合い気合い」

「どういうこと?」

香織が詰め寄ると沙織は笑った。
香織も笑った。
そうこうしてる間にコーヒーはふーふーするレベルの熱さに冷めてきた。
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