アイスとチーズ

ロックマー

翌日の放課後、今度は香織が詠春拳を学ぶことになった。
香織は沙織と同じようにジャージで参加した。
沙織は昨日と打って変わって張り切っていた。

「テキトーに体、伸ばしといて」

香織と沙織はそれぞれ準備体操らしきことをした。

「さて。詠春拳同好会の練習へようこそ。じゃさっそく立ち方からやろうか」

「立ち方？」

「こうするの」

沙織は両拳を脇の下へ引くと同時に揃えた足の膝を曲げた。
するとつま先と膝を外へ向け、一瞬がに股になるとすぐに内股になった。

「ロックマーという立ち方だから」

「ロックマー？」

「おそらくマーは馬だと思う。馬に乗る姿勢とか多分そんな意味があるんじゃない？」

「へえ。こんな内股なの？」

「そう」

「男でも内股？」

「まあね。でも元々は女子が作った拳法だから」

香織は目を見開いた。

「そうなの？」

「五枚老師っていう尼さんが作ったの」

「尼さんだから、そうか。女だ」

「で！二代目の詠春っていうこれまた尼さんに伝えたの。それで詠春拳になったの」

「あ。尼さんが尼さんに伝えたんだ」

「女子から女子に伝わった女子のための武道だから」

「へえぇ！」

「でも武道だから当然練習するのは男のほうが多いけど。じゃそこから突きやってみよう」

沙織は縦にした拳を胸の中心までもってくるとそのまま真っ直ぐに突いた。

「中心からね」

香織は見様見真似で突いた。

沙織がすかさず香織の突き出した肩を直した。

「肩は出さないの。突いた手以外はなにも動かさない」

「あ、はい」

言われたとおりに香織は突いた。
しばらく突きをやると沙織は掌打に移った。

「パルムアタック。手の平で打つの」

沙織は指を揃えた手の平を中心から突き出した。

「パルムって？」

「英語でいう手の平のこと」

「英語？あ、イギリス人が教えてるからか」

香織は掌打を打ち出し声に出した。

「パルムアタック！」

「あのね。べつにヒーローの必殺技じゃないから技の名前言わなくていいよ」

「え、そう？」

「じゃ続けて」

何回か掌打を繰り返すと香織が気合い余って声にした。

「パルムアタック！」

「言わなくていいから。次はサイドパルムアタック」

沙織は手の平を横に倒し、掌で打つとそのまま脇まで引かず片手で連打した。

「連続で打つんだ」

「そう。やってみて」

「サイドパルムアターック！」

横掌打の連打をしながら香織は気合いを声にした。

「言わなくていいから」

「うおおおお！」

「あははははは。そんな力入れなくいいから」