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第1話 Bパート(ヒロインがゴリラ)
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1
香上 優16歳、高校2年生は両親が単身赴任で海外に行っているため、今は一人暮らしをしている。両親から生活に必要な分のお金は十分もらっているが、アルバイトをしている。知り合いのイタリアンレストランの店主に頼まれて手伝いをすることになったのである。学校に家の事情を説明してアルバイトが必要であるということにして許可をもらった。
高校2年生になる直前の春休み。明日から新学期が始まるが、この日もアルバイトをしていて帰りが遅くなってしまった。
22時を回り、春の夜はまだ肌寒さが残っている。時間も遅いためか人気がない住宅街を歩いて帰宅している。
「明日から学校か・・・。」
ため息とともに小さく独り言が出てきた。学校は嫌いではない。むしろ好きな方である。しかし、春休みが終わってしまうことの寂しさと、春休みのほとんどをアルバイトに使ってしまった虚しさが胸をつついた。
どれくらい歩いただろうか。ふと気が付く。ここはどこだ?まっすぐ家に帰っていたはずだが、まだ家に着かない。考え事をしながら歩いていたせいもあって、どこか違う道に入ったのか?いや、違う。いつも考え事をしながら帰っているが家にたどり着いている。
周りをよく見ると街灯もない。暗い闇が空間を支配していた。どんどん闇が深くなっているような気がする。感覚がおかしくなる。自分が立っているのか倒れているのかも分からなくなる。
「見ツケタゾ・・・。」
唐突に声がした。周りを見渡すが闇があるだけ。声はどこから聞こえてきたのか。
「我ノ 器 タリエルモノ!」
声はどこでもない、自分の頭の中に直接響いている。恐怖が一気にこみあげてくる。何が起こっているんだ?分からない。いつものようにアルバイトから帰る途中であった。何回も通った道である。今までに何か起こったことは1度もない。
「見ツケタゾ!」
今までで一番大きく声が響く。そして、意識を失う。優は意識を失う寸前、これで人生が終わるのかと感じていた。死ぬ前に走馬燈を見るというが、そんなものは実際には見ないのだなと思った瞬間意識が消えた。
2
ピピピピピピピ!ピピピピピピ!目覚まし時計がけたたましく音を荒げている。
あれ?いつの間に寝ていたんだ?優は半分寝ぼけた眼をこすって目覚まし時計を止める。夢・・・だったのか?記憶が曖昧なところがある。アルバイトの帰りに周りが闇に包まれて何かに襲われたような気がする。しかし、今は自室のベッドで横になっている。どうやって帰ってきたのか覚えていない。
考えていても仕方がない。覚えていないものは覚えていない。今日から新学期だ。いつまでも寝ているわけにはいかない。朝の準備をして学校に行かないといけないのである。
朝食は作り置きしてある料理の残りを温める。隣に住んでいる幼馴染、桐谷 綾人のお母さんが、単身赴任で家に両親がいない優を何かと気にかけてくれている。今、温めている朝食も綾人のお母さんが作ってくれたものである。
綾人とは小さいころからの相棒だ。一緒に悪さもいっぱいしてきた。その都度、綾人のお母さんに一緒に怒られたものだ。恰幅の良い綾人のお母さんには今でも敵わない。そんな、親友+悪友の母親が作ってくれたご飯を今日も朝からありがたくいただく。
昨日のあれは本当に夢だったんだろうか。妙に実感の残る夢だった。体に異常はなさそうだ。朝食も相変わらず美味い。大丈夫だ。問題ないだろう。
ピンポーン。インターホンが鳴った。綾人が迎えに来たのだろう。綾人は男子空手部のエースで体も大きい。180cmはある。今日は始業式だから、空手部の朝練がないため、一緒に登校することになっている。
そうして、二人で通う七星学園高校へと向かっていった。
3
おはよー!学校に着くと、それぞれが朝の挨拶を交わしている。春休みが明けて久々に会うメンツもいる。
「今年も同じクラスだなおい。お前とはつくづく腐れ縁だな。」
綾人は優の机の横に立って話しをしている。思えば綾人とはいつも一緒にいるな。何をするにしても綾人と行動をしている。
「よう!香上。今年も一緒だな。」
「よう。佐伯。お前もまた同じクラスかよ。」
「おう、そうだよ。よろしくな!桐谷もよろしく。」
「おう、よろしくな。お前もなんだかんだで腐れ縁だな。」
佐伯は誰とでも仲良くできる。軽いと言えば軽いやつであるが、交友関係は広い。そんな佐伯が神妙な面持ちで話をしてきた。
「ところで二人とも知ってるか?今日、転入生が来るらしいぜ。しかも女子!」
「何を緊張してるんだお前は。」
「佐伯が緊張してるのは女子が転入して来るからだろ。」
「そう!転入生の女子とは美少女であるという定説があるのだよ!」
佐伯が力説しているところを優がちゃちゃを入れる。
「そんなのまだ分からねえじゃねえか。」
「あああ、てめえ、変なフラグ立てるんじゃねえよ!美少女が来なかったらどうするんだ!」
「だから、知らねえよそんなこと。」
「お前は高校2年生にもなってこのまま虚しい高校生活を続けるつもりか!?桐谷は男子空手部のエースだからモテモテかもしれんが、俺にはそんな余裕はないんだよ!」
「別にモテモテってほどでもねえよ。」
「少しはモテてるんだろうが!?」
朝からそんな馬鹿話をしていると、先生が教室に入ってきた。
「はい。席に着けよー。」
担任の岸田先生がざわついているクラスに一声かける。その声に従って周りも席に着くように動きを始めた。
今年も岸田先生か。岸田先生はまぁまぁ良い先生だ。もうすぐ50歳になる男性教諭。優は去年の担任になった岸田先生を見ながら、2年生になってもほとんど何も変わらないなと思いながら新学期がスタートした。
「ええ、今日は転入生を紹介する。もうすでに噂が回っているようだがな。」
クラスが、ざわめく。転入生が来ることはやはり一大イベントである。どんな生徒が来るのだろうかみんな楽しみにしているのである。
「静かにしろー。入りにくくなるだろうが。」
岸田先生の指示に従い、一応の静けさは維持できた。だが、空気はソワソワしている。
「入っていいぞー。」
ガラッ。教室のドアを開けて一人の少女が入ってきた。黒い髪を後ろで束ねている。大柄な女性。一言で言えば女子プロレスラー。平均的な男子よりも身長は高いのではないか。体つきもがっしりとしている。何かの格闘技をやっているような感じである。
女子は転入生に対して少しざわついている。男子はいたって冷静。佐伯は恨めしそうな目で優を睨んでいる。俺のせいじゃねえよ。優は理不尽に恨みを買ってしまったことに訝し気な顔をした。
「自己紹介をお願いできるかな。」
岸田先生に促されて転入生が自己紹介を始めた。
「雪宮 朔夜です。よろしくお願いします。」
雪宮の女子にしては野太い声が教室に響く。クラスのみんなは新しい仲間を拍手で歓迎した。ところどころよろしく。という声が聞こえてくる。
「雪宮の席は一番後ろの角席だ。隣の香上と前の席の桐谷。しばらくの間、雪宮の面倒を見てやれ。」
「はい。」
桐谷は素直に返事をした。格闘家として雪宮に何か感じるものがあるのだろうか。優はそんな風に思いながら、こちらも「はい。」と返事をした。
そして、HRが終わり始業式だけのこの日はこれで学校は終わり。雪宮の周りには女子が集まってきている。男子はこれからどこに遊びに行くかなどの話をしていた。
女子からの質問攻め。主には何か格闘技をやっているのかという質問である。
当の雪宮は律儀に質問に答えていた。家で道場をやっており、総合格闘技を小さい頃からやっているという話をして、女子からの質問がさらに加速した。
「しばらく、解放されないだろな。雪宮さんは女子に任せて帰るべ。」
優は先生に雪宮のことを頼まれたが、今日は帰ることにして、綾人に話しかけた。
「だな。どっかで飯でも食っていくか。」
「お、いいね、俺も混ぜてくれよ。その後、ゲーセンでも行かね?」
優と綾人の会話に佐伯が入ってきた。
「ああ、悪い、俺はバイトが入ってるから、飯だけ参加するわ。」
「お前も大変だよな。」
佐伯と綾人の憐れむような言葉が優にかけられてこの日の学校は終わった。
4
始業式の日からバイトが入っている。我ながらハードな労働をしているなと思いながらもディナーに向けて手際よく準備を進める。春の新作メニューが人気でこの日も店は予約でいっぱいになった。人手が足りなくなり、始業式からバイトに駆り出される羽目になったのである。
ようやくバイトが終わり、帰宅する。昨日の変な夢のことを思い出す。夢では帰宅途中に自分がどこにいるか分からなくなって、周りが真っ暗になってしまった。周りを見渡してみる。いつもの帰り道の風景である。特に変わったところはない。
臆病風に吹かれてしまった自分が少し恥ずかしくなり、自嘲した。変な夢を見ただけだ。そう思っていつもの帰り道を進む。
いや、やっぱりおかしい。しばらく進むと、昨日の夢と同じような感覚が襲ってくる。昨日ほどの違和感ではない。昨日は周りが全く見えず、立っているのか倒れているのかすら分からなかった。今は自分の場所が分かる。しかし、昨日の夢と同じような空気が漂っている。昨日の夢に比べればかなり薄い感じがするが、同じ空気であることには違いない。人気が全くなく、薄暗い。昨日と違うのは完全な闇ではなく、街灯が照らしていること。ただ、街灯が照らす空間があるだけで、他は無に思えた。
前方に何か嫌な気配を感じて目を凝らす。何か大きなものがゆっくりと近づいてくる。そして、街灯の照らす明かりがその何かを映し出した。
それは、昔、ホラー映画で見た宇宙生物に似ている。映画の中では宇宙船の中に未知の宇宙生物が侵入して、乗組員を次々と襲っていく内容であった。
頭と手足があり、前傾姿勢で二足歩行するそれはまさに、昔見た宇宙生物を思わせる容姿であった。真っ黒な体に大きな鉤爪のついた禍々しい手。獣のような顔つきに目は一つだけであり、大きな口を開けて牙を見せながらこちらを見据えている。
「な、何なんだよこれ・・・。」
恐怖で足が竦む。得体のしれない大きな怪物がこちらを見ている。逃げないと。そう思った瞬間。
「下がっていて。」
どこかで聞いたことのあるような女性にしては野太い声が聞こえてきた。それと、同時、一陣の風が後ろから吹き抜けていった。
「鳴け!八咫烏。」
優を通り過ぎた一陣の風はその手に刃を持っている。漆黒のダガー。素早い斬撃が怪物に向かっていった。漆黒のダガ―を持つ者は女だった。黒髪を後ろで束ねて、ヘッドギアをしている。大柄な女性で、どこかの国の特殊部隊かと思うような軍隊のスーツを身にまとっている。
あれって、もしかして!?優は思わず前にのめりこんで女を見た。怪物にダガ―を持って挑んでいるのは間違いない。今日、転校してきた女。雪宮朔夜だ。
「ゆ、雪宮!?」
優は思わず声が出る。とうの雪宮はそんなことお構いなく怪物と対峙している。優の声に反応したのは怪物の方であった。怪物の目がこちらを睨む。
朔夜は目線が一瞬自分から外れたことを察知し、素早く攻撃をしかける。その動きは人間ではとらえることのできないほどの速さである。
たまらず、怪物も鉤爪を振り、相手を迎撃しようとするが、あまりの速さにかすりもしない。ナックルガードが付いたダガ―逆手に振り、打撃と斬撃を加えていく。巨大な怪物に対して一歩も引かない。
怪物の腕を横に交わすのと同時に一撃、続けて一撃。怪物が朔夜に振りむくと同時に仕掛けてきた攻撃を後ろに飛びのいて躱す。すかさず取り出した銃で怪物を射撃。数発弾丸を打ち込むが怪物は怯まず突進してくる。それを交わしざまに足を狙って一撃を入れる。足を攻撃され体制を崩した怪物は地面に倒れこんだ。雪宮は倒れた怪物に飛び込んで漆黒のダガ―を突き立てる。そして、滅多刺しにする。穴の開いた怪物の体にグレネードを押し込み、その場から素早く離れると、爆音とともに怪物の体は砕け散った。これが止めの攻撃となった。
「凄い・・・。」
優は思わず声が漏れた。
戦いを終えて街灯が照らす少女はさながら、リングの上で静かに勝利を噛みしめる戦士のようであった。その実践的な戦闘を目の当たりにして、優はかっこいいと思った。
朔夜は何かに気が付き、ハッとして声を張り上げた。
「香上君逃げて!」
「え・・・!?」
優は間の抜けた声を出す。振り向くと後ろには、雪宮が倒した怪物と似た姿をした別のもう一体がすでにその狂牙を優に向けていた。この距離はすでに怪物の間合いであり、獲物を見つけて喰いちぎらんとしている。雪宮は咄嗟に駆け寄るが、距離が離れている。いくら早くても間に合うかどうか分からない。
「うわああああああああああああ!!!!」
優は咄嗟に右手を前に出した。その刹那。右腕から黒い大きな影が出現し、怪物を握りしめる。怪物は優よりもはるかに大きな体をしているが、優から出た真っ黒い手はその怪物を握り、空中に持ち上げている。その手は怪物の手に似た禍々しい鉤爪のついた手。トカゲの手というよりも、図鑑で見た恐竜の手のような感じであった。
そして、優から出現したその手は、怪物を握り潰す。怪物の体の一部が手からこぼれ落ちる。開いた手の中には何も残っていない。手からはみ出た部分だけが地面に落ち、手の中にあった部分は完全に消滅していた。何が起こったのか優は理解することができなかった。
すぐ傍まで来ていた雪宮が優にぐいっと顔を近づけてきた。雪宮の汗ばんだ体が臭い。優は思わず顔を背けてしまった。助けてもらっておいて失礼なことしてしまったと反省する。
「香上君、今のは何?」
朔夜は冷静に問いただしてきた。その手には漆黒のダガ―が握りしめられている。怪物の返り血だろうか雪宮の体には黒い液体が付いていた。
「お、俺にも分からないよ!何が起こってるんだ?あの怪物は何なんだよ?雪宮も何であんなやつと戦えるんだよ!知りたいのは俺の方だよ!」
雪宮の質問に対して、分からないことだらけである。昨日の夢と関係があるのだろうか。それすらも分からない。
「あれは<アビス>よ。」
「アビス?」
「そう、深淵よりいずるもの。アビス。アビスは人を襲うの。だから、私たち契約討滅者がアビスを狩るのよ。」
雪宮の説明に対して、優は何一つ理解できるものはなかった。
香上 優16歳、高校2年生は両親が単身赴任で海外に行っているため、今は一人暮らしをしている。両親から生活に必要な分のお金は十分もらっているが、アルバイトをしている。知り合いのイタリアンレストランの店主に頼まれて手伝いをすることになったのである。学校に家の事情を説明してアルバイトが必要であるということにして許可をもらった。
高校2年生になる直前の春休み。明日から新学期が始まるが、この日もアルバイトをしていて帰りが遅くなってしまった。
22時を回り、春の夜はまだ肌寒さが残っている。時間も遅いためか人気がない住宅街を歩いて帰宅している。
「明日から学校か・・・。」
ため息とともに小さく独り言が出てきた。学校は嫌いではない。むしろ好きな方である。しかし、春休みが終わってしまうことの寂しさと、春休みのほとんどをアルバイトに使ってしまった虚しさが胸をつついた。
どれくらい歩いただろうか。ふと気が付く。ここはどこだ?まっすぐ家に帰っていたはずだが、まだ家に着かない。考え事をしながら歩いていたせいもあって、どこか違う道に入ったのか?いや、違う。いつも考え事をしながら帰っているが家にたどり着いている。
周りをよく見ると街灯もない。暗い闇が空間を支配していた。どんどん闇が深くなっているような気がする。感覚がおかしくなる。自分が立っているのか倒れているのかも分からなくなる。
「見ツケタゾ・・・。」
唐突に声がした。周りを見渡すが闇があるだけ。声はどこから聞こえてきたのか。
「我ノ 器 タリエルモノ!」
声はどこでもない、自分の頭の中に直接響いている。恐怖が一気にこみあげてくる。何が起こっているんだ?分からない。いつものようにアルバイトから帰る途中であった。何回も通った道である。今までに何か起こったことは1度もない。
「見ツケタゾ!」
今までで一番大きく声が響く。そして、意識を失う。優は意識を失う寸前、これで人生が終わるのかと感じていた。死ぬ前に走馬燈を見るというが、そんなものは実際には見ないのだなと思った瞬間意識が消えた。
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ピピピピピピピ!ピピピピピピ!目覚まし時計がけたたましく音を荒げている。
あれ?いつの間に寝ていたんだ?優は半分寝ぼけた眼をこすって目覚まし時計を止める。夢・・・だったのか?記憶が曖昧なところがある。アルバイトの帰りに周りが闇に包まれて何かに襲われたような気がする。しかし、今は自室のベッドで横になっている。どうやって帰ってきたのか覚えていない。
考えていても仕方がない。覚えていないものは覚えていない。今日から新学期だ。いつまでも寝ているわけにはいかない。朝の準備をして学校に行かないといけないのである。
朝食は作り置きしてある料理の残りを温める。隣に住んでいる幼馴染、桐谷 綾人のお母さんが、単身赴任で家に両親がいない優を何かと気にかけてくれている。今、温めている朝食も綾人のお母さんが作ってくれたものである。
綾人とは小さいころからの相棒だ。一緒に悪さもいっぱいしてきた。その都度、綾人のお母さんに一緒に怒られたものだ。恰幅の良い綾人のお母さんには今でも敵わない。そんな、親友+悪友の母親が作ってくれたご飯を今日も朝からありがたくいただく。
昨日のあれは本当に夢だったんだろうか。妙に実感の残る夢だった。体に異常はなさそうだ。朝食も相変わらず美味い。大丈夫だ。問題ないだろう。
ピンポーン。インターホンが鳴った。綾人が迎えに来たのだろう。綾人は男子空手部のエースで体も大きい。180cmはある。今日は始業式だから、空手部の朝練がないため、一緒に登校することになっている。
そうして、二人で通う七星学園高校へと向かっていった。
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おはよー!学校に着くと、それぞれが朝の挨拶を交わしている。春休みが明けて久々に会うメンツもいる。
「今年も同じクラスだなおい。お前とはつくづく腐れ縁だな。」
綾人は優の机の横に立って話しをしている。思えば綾人とはいつも一緒にいるな。何をするにしても綾人と行動をしている。
「よう!香上。今年も一緒だな。」
「よう。佐伯。お前もまた同じクラスかよ。」
「おう、そうだよ。よろしくな!桐谷もよろしく。」
「おう、よろしくな。お前もなんだかんだで腐れ縁だな。」
佐伯は誰とでも仲良くできる。軽いと言えば軽いやつであるが、交友関係は広い。そんな佐伯が神妙な面持ちで話をしてきた。
「ところで二人とも知ってるか?今日、転入生が来るらしいぜ。しかも女子!」
「何を緊張してるんだお前は。」
「佐伯が緊張してるのは女子が転入して来るからだろ。」
「そう!転入生の女子とは美少女であるという定説があるのだよ!」
佐伯が力説しているところを優がちゃちゃを入れる。
「そんなのまだ分からねえじゃねえか。」
「あああ、てめえ、変なフラグ立てるんじゃねえよ!美少女が来なかったらどうするんだ!」
「だから、知らねえよそんなこと。」
「お前は高校2年生にもなってこのまま虚しい高校生活を続けるつもりか!?桐谷は男子空手部のエースだからモテモテかもしれんが、俺にはそんな余裕はないんだよ!」
「別にモテモテってほどでもねえよ。」
「少しはモテてるんだろうが!?」
朝からそんな馬鹿話をしていると、先生が教室に入ってきた。
「はい。席に着けよー。」
担任の岸田先生がざわついているクラスに一声かける。その声に従って周りも席に着くように動きを始めた。
今年も岸田先生か。岸田先生はまぁまぁ良い先生だ。もうすぐ50歳になる男性教諭。優は去年の担任になった岸田先生を見ながら、2年生になってもほとんど何も変わらないなと思いながら新学期がスタートした。
「ええ、今日は転入生を紹介する。もうすでに噂が回っているようだがな。」
クラスが、ざわめく。転入生が来ることはやはり一大イベントである。どんな生徒が来るのだろうかみんな楽しみにしているのである。
「静かにしろー。入りにくくなるだろうが。」
岸田先生の指示に従い、一応の静けさは維持できた。だが、空気はソワソワしている。
「入っていいぞー。」
ガラッ。教室のドアを開けて一人の少女が入ってきた。黒い髪を後ろで束ねている。大柄な女性。一言で言えば女子プロレスラー。平均的な男子よりも身長は高いのではないか。体つきもがっしりとしている。何かの格闘技をやっているような感じである。
女子は転入生に対して少しざわついている。男子はいたって冷静。佐伯は恨めしそうな目で優を睨んでいる。俺のせいじゃねえよ。優は理不尽に恨みを買ってしまったことに訝し気な顔をした。
「自己紹介をお願いできるかな。」
岸田先生に促されて転入生が自己紹介を始めた。
「雪宮 朔夜です。よろしくお願いします。」
雪宮の女子にしては野太い声が教室に響く。クラスのみんなは新しい仲間を拍手で歓迎した。ところどころよろしく。という声が聞こえてくる。
「雪宮の席は一番後ろの角席だ。隣の香上と前の席の桐谷。しばらくの間、雪宮の面倒を見てやれ。」
「はい。」
桐谷は素直に返事をした。格闘家として雪宮に何か感じるものがあるのだろうか。優はそんな風に思いながら、こちらも「はい。」と返事をした。
そして、HRが終わり始業式だけのこの日はこれで学校は終わり。雪宮の周りには女子が集まってきている。男子はこれからどこに遊びに行くかなどの話をしていた。
女子からの質問攻め。主には何か格闘技をやっているのかという質問である。
当の雪宮は律儀に質問に答えていた。家で道場をやっており、総合格闘技を小さい頃からやっているという話をして、女子からの質問がさらに加速した。
「しばらく、解放されないだろな。雪宮さんは女子に任せて帰るべ。」
優は先生に雪宮のことを頼まれたが、今日は帰ることにして、綾人に話しかけた。
「だな。どっかで飯でも食っていくか。」
「お、いいね、俺も混ぜてくれよ。その後、ゲーセンでも行かね?」
優と綾人の会話に佐伯が入ってきた。
「ああ、悪い、俺はバイトが入ってるから、飯だけ参加するわ。」
「お前も大変だよな。」
佐伯と綾人の憐れむような言葉が優にかけられてこの日の学校は終わった。
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始業式の日からバイトが入っている。我ながらハードな労働をしているなと思いながらもディナーに向けて手際よく準備を進める。春の新作メニューが人気でこの日も店は予約でいっぱいになった。人手が足りなくなり、始業式からバイトに駆り出される羽目になったのである。
ようやくバイトが終わり、帰宅する。昨日の変な夢のことを思い出す。夢では帰宅途中に自分がどこにいるか分からなくなって、周りが真っ暗になってしまった。周りを見渡してみる。いつもの帰り道の風景である。特に変わったところはない。
臆病風に吹かれてしまった自分が少し恥ずかしくなり、自嘲した。変な夢を見ただけだ。そう思っていつもの帰り道を進む。
いや、やっぱりおかしい。しばらく進むと、昨日の夢と同じような感覚が襲ってくる。昨日ほどの違和感ではない。昨日は周りが全く見えず、立っているのか倒れているのかすら分からなかった。今は自分の場所が分かる。しかし、昨日の夢と同じような空気が漂っている。昨日の夢に比べればかなり薄い感じがするが、同じ空気であることには違いない。人気が全くなく、薄暗い。昨日と違うのは完全な闇ではなく、街灯が照らしていること。ただ、街灯が照らす空間があるだけで、他は無に思えた。
前方に何か嫌な気配を感じて目を凝らす。何か大きなものがゆっくりと近づいてくる。そして、街灯の照らす明かりがその何かを映し出した。
それは、昔、ホラー映画で見た宇宙生物に似ている。映画の中では宇宙船の中に未知の宇宙生物が侵入して、乗組員を次々と襲っていく内容であった。
頭と手足があり、前傾姿勢で二足歩行するそれはまさに、昔見た宇宙生物を思わせる容姿であった。真っ黒な体に大きな鉤爪のついた禍々しい手。獣のような顔つきに目は一つだけであり、大きな口を開けて牙を見せながらこちらを見据えている。
「な、何なんだよこれ・・・。」
恐怖で足が竦む。得体のしれない大きな怪物がこちらを見ている。逃げないと。そう思った瞬間。
「下がっていて。」
どこかで聞いたことのあるような女性にしては野太い声が聞こえてきた。それと、同時、一陣の風が後ろから吹き抜けていった。
「鳴け!八咫烏。」
優を通り過ぎた一陣の風はその手に刃を持っている。漆黒のダガー。素早い斬撃が怪物に向かっていった。漆黒のダガ―を持つ者は女だった。黒髪を後ろで束ねて、ヘッドギアをしている。大柄な女性で、どこかの国の特殊部隊かと思うような軍隊のスーツを身にまとっている。
あれって、もしかして!?優は思わず前にのめりこんで女を見た。怪物にダガ―を持って挑んでいるのは間違いない。今日、転校してきた女。雪宮朔夜だ。
「ゆ、雪宮!?」
優は思わず声が出る。とうの雪宮はそんなことお構いなく怪物と対峙している。優の声に反応したのは怪物の方であった。怪物の目がこちらを睨む。
朔夜は目線が一瞬自分から外れたことを察知し、素早く攻撃をしかける。その動きは人間ではとらえることのできないほどの速さである。
たまらず、怪物も鉤爪を振り、相手を迎撃しようとするが、あまりの速さにかすりもしない。ナックルガードが付いたダガ―逆手に振り、打撃と斬撃を加えていく。巨大な怪物に対して一歩も引かない。
怪物の腕を横に交わすのと同時に一撃、続けて一撃。怪物が朔夜に振りむくと同時に仕掛けてきた攻撃を後ろに飛びのいて躱す。すかさず取り出した銃で怪物を射撃。数発弾丸を打ち込むが怪物は怯まず突進してくる。それを交わしざまに足を狙って一撃を入れる。足を攻撃され体制を崩した怪物は地面に倒れこんだ。雪宮は倒れた怪物に飛び込んで漆黒のダガ―を突き立てる。そして、滅多刺しにする。穴の開いた怪物の体にグレネードを押し込み、その場から素早く離れると、爆音とともに怪物の体は砕け散った。これが止めの攻撃となった。
「凄い・・・。」
優は思わず声が漏れた。
戦いを終えて街灯が照らす少女はさながら、リングの上で静かに勝利を噛みしめる戦士のようであった。その実践的な戦闘を目の当たりにして、優はかっこいいと思った。
朔夜は何かに気が付き、ハッとして声を張り上げた。
「香上君逃げて!」
「え・・・!?」
優は間の抜けた声を出す。振り向くと後ろには、雪宮が倒した怪物と似た姿をした別のもう一体がすでにその狂牙を優に向けていた。この距離はすでに怪物の間合いであり、獲物を見つけて喰いちぎらんとしている。雪宮は咄嗟に駆け寄るが、距離が離れている。いくら早くても間に合うかどうか分からない。
「うわああああああああああああ!!!!」
優は咄嗟に右手を前に出した。その刹那。右腕から黒い大きな影が出現し、怪物を握りしめる。怪物は優よりもはるかに大きな体をしているが、優から出た真っ黒い手はその怪物を握り、空中に持ち上げている。その手は怪物の手に似た禍々しい鉤爪のついた手。トカゲの手というよりも、図鑑で見た恐竜の手のような感じであった。
そして、優から出現したその手は、怪物を握り潰す。怪物の体の一部が手からこぼれ落ちる。開いた手の中には何も残っていない。手からはみ出た部分だけが地面に落ち、手の中にあった部分は完全に消滅していた。何が起こったのか優は理解することができなかった。
すぐ傍まで来ていた雪宮が優にぐいっと顔を近づけてきた。雪宮の汗ばんだ体が臭い。優は思わず顔を背けてしまった。助けてもらっておいて失礼なことしてしまったと反省する。
「香上君、今のは何?」
朔夜は冷静に問いただしてきた。その手には漆黒のダガ―が握りしめられている。怪物の返り血だろうか雪宮の体には黒い液体が付いていた。
「お、俺にも分からないよ!何が起こってるんだ?あの怪物は何なんだよ?雪宮も何であんなやつと戦えるんだよ!知りたいのは俺の方だよ!」
雪宮の質問に対して、分からないことだらけである。昨日の夢と関係があるのだろうか。それすらも分からない。
「あれは<アビス>よ。」
「アビス?」
「そう、深淵よりいずるもの。アビス。アビスは人を襲うの。だから、私たち契約討滅者がアビスを狩るのよ。」
雪宮の説明に対して、優は何一つ理解できるものはなかった。
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2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
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