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第五話

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「あの宝石のように美しく女神のごとく心が清らかなラーファ嬢をあのような顔にさせる女に何を教えよう」
「…………は」

急に始まったノロケのようなセリフに、耐性のない私は固まりました。

くそメロメロじゃねぇーか。


アニメでは初めからラーファ様だけが殿下に憧れてひっつき回っていたように描かれていたので、まさかの状況に驚きました。
じゃあこのまま私が何もしなければ、お2人はバッチリ結婚するのでは、という所まで考えを巡らせていると、友人Aもとい、エルティギス様が私の方を向いて頷いております。
なんでしょう。何かあるのでしょうか。

「殿下、まだラーファ嬢は婚約者候補、正式に決まった訳ではありません。そのように贔屓目で見ている事を気付かれる言葉はお控えください」
「この女がラーファ嬢に何かしようとしているかもしれない状況でそんな事を言ってられまい」
「殿下、この女というのも令嬢に対しては失礼にあたります」

本当にそうでございます。
令嬢に『この女』なんて他の方だったら、うっかりばしっと頬を叩かれてしまってもおかしくない状況でございます。
全く表情を変えていないのに、その言葉だけでいつも綺麗目王子を作っていることがバレてしまうのは問題なのではありませんか……。

しかし、このメロメロ状態でもまだ『候補』となると、今の状態(ラーファ様が私を殺しにくる)が続いてしまうと候補から外れてしまう可能性もあるという事。そして…このまま勘違いされたままであれば、私も悪魔関係者として殿下に裁かれる場合も出てくるということでしょうか。
それは大変よろしくありません。

「殿下、お言葉ですが」

私が口を開くと殿下とエルティギス様がこちらを振り返りました。

「あの日、私が裏庭に向かった時点で、ラーファ様は私に殺意を持っておりました」
「つまり?」
「つまり、あの状態にさせた根本の原因は……私ではない可能性があると考えております」
「何が言いたい」
「私を疑うだけでは恐らく解決いたしませんわ、他にも目をおかけください。という事でございます」

そしてあわよくば、私と関わらないでください。

「そんなハッタリが通じるとでも?」
「では殿下、あの日、ラーファ様が変わる瞬間を目撃されたのですか?」
「…………」
「 信じたく無いからと私の意見から目を背けていてはいつまでも解決いたしません」
「だが……」
「ラーファ様を救いたいのであれば、自分の感情だけで動くべきではないのです。将来国を守っていく殿下には必要な能力ではありませんか」
「ああ……」
「そして殿下には優秀な片腕がいらっしゃいますわ。絶対に解決できるはずです」

上手い事を言った気がして少し上機嫌になった私はチラリとエルティギス様を見ると、何を言いやがったこいつという様な目でこちらを見ておりました。
あれ、なんかマズイことを言った気がすると悟った瞬間、殿下は大きく頷きました。

「そうだな、私は将来国を治めなければならない人間だ。それにエルティギスもいる。そして、そこまで言う貴方が悪い人には思えない。ありがとう、少し目が覚めたよ」
「おほほほ……良かったですわ」

爽やかな笑顔で笑う殿下の後ろには、とってもいい笑顔で笑う片腕さんが居ります。
ああ、きっと、余計な仕事増やしたなとか思っているのでしょう。
でも、結局調べることになっていたと思うのですよ?それは私のせいじゃないと思いますし。ちょっとだけ時期早めちゃっただと思うのですよ!
なんて言葉をかけても、恐らくそれも分かっている彼には通じないでしょう。

「では、何かしら関わりがありそうな彼女にも協力してもらうのはいかがでしょうか殿下」
「ひぇ……!?」
「ああ、いい考えだなエルティギス。貴方ももちろん協力してくれるね?」
「…………殿下のお心のままに……」

くっそ、絶対わざとに違いない。
殿下に願われて従わない人間なんているものか。
関わらないようにお言葉をかけたのが仇となったとは思いませんが、言葉の選択ミスがあった事は否めません。

はぁ、私の平和な学園生活なんて初めから無かったのです。
私は静かに、心の涙を流しました。

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