上 下
27 / 27

21

しおりを挟む
全ての、この国全てのものが今王城を中心に集まっていた。

まだ最終日ではないにも関わらず、レイモンドが想定したよりも数十倍の経済効果を生み出しているのは、確実にセスティーナのだろう。

物品の品薄により売り上げが下がっている場所もあるらしい。
有名になった品物はこの国の貴族皆が目に触れることができたはずだ。

何故なら、一斉に集まった場所で、良いものが次から次へと令嬢たちによって情報が流れ、それぞれがより好ましい物を自慢しあっているからだった。

毎日何人もの令嬢たちとお茶をし、競い合いをしていれば、名前は知らなくとも見たことがある物も増えるだろう。

こうして、この国全土の名物が揃っていった。
隠れた名産も、初めて表に出た名品も、有名だった品物も、すべてが表に出され、そして平等に評価されていったのである。

この国自体の名物が今回のイベントで新たに決まりつつあった。


今まで地道に頑張ってきた者たちが嬉しそうな顔をしていることとは裏腹に、すでに有名だったものをただ販売してきた者たちが焦った顔をしている場面をよく見ることができた。
これは多少なりともセスティーナの動きとも関係していたが、今までの功績があったならば回避できた事柄だったはずだ。

これらをあぶりだすために少々手を加えたものの、セスティーナとしては想像よりはるかに良い結果となった。

今後、もし観光目的で他国の者が訪れたとき、とても素晴らしい名物を提供できることだろう。



「さて、そろそろお父様も到着したはず。ふふ、流石にすべての人を入れるわけにはいきませんもの」

セスティーナは一人、紅茶を飲みながら計画書をパラリとめくった。

内容は数年がかりの計画はすでにほとんど完了している。
残るは本命である防御膜の整備だけである。

実は今までの防御膜は、この国に属するもの以外入ることができないよう調整されていた。
とある難解な条件のもと一部の商人が足を踏み入れることができたが、それも時間制限があったのだ。

今後、他国と深い交流を行うのであればこの条件も変更する必要がある。
しかし、今の状態で他国と貿易を開始したところで、以前この国が傾きかけた時と同じようになってしまうと危惧したセスティーナが家族に説得を行い、貿易を行うための基盤を作ろうと立ち上がったのであった。

他国との貿易をすることの意味を、この国の人たちは理解していない。
自分の国の名産も良くわからず、相手からの情報がただ垂れ流される状況では、ただ足元を見られるだけである。

本来であれば、防御膜の張り直しでひそかに国に訪れてすべてを終わらせて帰る予定だったセスティーナの家族たちは、彼女がすべて行うならと送り出した。
侯爵という爵位も、ただ魔法を使えるからと数代前の陛下から賜ったもので、基本的には人と交流することを拒む魔法使いたちである。
まだ、ましであるセスティーナが表立つことで今までも対応してきたのだった。

「あと少し、ですわね」

セスティーナは、紅茶を飲み干すと、計画書を閉じて席を立った。



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

りんりん
2022.03.20 りんりん

閑話のお話の~膝をついてのところは、肘(ひじ)をついて でしょうか?

りょう。
2022.04.25 りょう。

先ほど確認し、修正いたしました!!
ご指摘ありがとうございます!

解除
Rio
2022.02.25 Rio

人たらし!素敵!私もお友達にの輪にいれください!

りょう。
2022.04.25 りょう。

感想ありがとうございます!

この世界にきた時に是非入ってくださいませ〜!笑

解除

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。