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そこにはいつも通りニコニコとした笑顔の皇太子殿下と、緊張で顔を青くしたメレディの姿があった。
「ヒストリア嬢、本日は急な呼び出しに応えてくれてありがとう。一度ぜひ会ってみたかったんだ」
「は、はい。わが国の太陽、皇太子殿下に招待いただけて、あ、こ、光栄な限りでございます」
「今日は非公開なんだ、そんなに緊張しないでほしい。途中でセスティーナ嬢も来ることになっている……」
和やかな挨拶を交わす途中、いそいそと近づく侍従から渡された紙にちらりと目を寄せたレイモンドは一瞬顔が強張った。
あまりにも一瞬でメレディには気が付かれなかったが、紙を握りしめる気持ちは抑えることはできなかったようだ。
「こ、皇太子殿下?」
「ああ、すまない。少し……、どうやら今日セスティーナ嬢は来ないらしい」
色々な気持ちを隠しながら改めてニコリと微笑むと、ずっと緊張の表情をしていたメレディがより顔を青くし呆れたような表情に変わる。
「ま、まさか。セスティーナ様は殿下にもご迷惑を……もしかして今日のことも!」
「……貴女に会いたかったのは本当だ」
「なんてこと!私から謝罪を」
「いや、貴女が謝ることでは全くない。むしろ巻き込まれた方だろう」
「……い、いつ今日のことを?」
「昨日の夜に、今日の予定を空けたと言われたかな」
メレディはくらくらする頭を抑え、座っていてもめまいになるのだなと思っていた。
一体どこに、皇太子殿下の時間を空ける侯爵令嬢がいるのだろうか。
ただ、彼女であればやってしまうだろう。と思ってしまう頭が許せなかった。
動揺は隠すことができず、しかし、レイモンドの表情も少し変化していた。
「ヒストリア嬢は、いつ伝えられたんだ?」
「ええと、今日の朝ですわ」
「あさ……」
レイモンドは顔を青くするメレディに盛大な拍手を送りたかった。
今日の朝言われて準備し、顔を青くしてでも来てくれた彼女はとても素晴らしい。
しかも今はお昼頃なのだ。一体朝とは何時のことを言っているんだろうか。
セスティーナに目をつけられてしまった事に同情する。
「それは、すまないな……」
「いいえ!セスティーナ様には今度とてもおいしいデザートをいただく予定になっておりますので、問題ございません」
小さな拳を握りながら答える彼女は、さながら躾けられた子猫のようだ。
普通の令嬢は急に呼びつけられて、美味しいデザートで満足はしない。
しかも、これ以外にも迷惑被っているらしい。
「ふっ……」
「……?」
想像以上に、好い。
世間で噂されるワガママな娘というのは、彼女の魅力の一部なのだろう。
セスティーナが強く勧めてきた事も頷ける。
彼女はとても使えそうだなと、レイモンドは思った。
改めて席に座り、お茶が前に出されるとメレディは胸に手を当てて、正面を向いた。
「本日お呼びになられたのは、隣国の国王陛下がいらっしゃるから、でしょうか?」
「うん?」
「問題ございません。我が領地で過ごしていただく中で父が好みの情報を把握し、すでに私に共有されております。資料を用意いたしましたので……」
つらつらと話し始めた彼女は、先ほど緊張していた人物とは思えないほど、ハキハキと説明を始めていた。
確かに、1番の目的のついでに聞きたい内容ではあったので大変ありがたい。
が、本来は違う内容を伝えようとしていたのである。
レイモンドは正直ここまでメレディが優れた人物だとは思っていなかった。
この国の唯一の貿易港を持つ領地の娘であり、かなり両親には甘やかされて育ったと聞いている。
伯爵家ではあるものの、他国と唯一交流できる場所として、他の貴族からチヤホヤされていたようだから、多少でも傲慢なのかと勝手に想像していたが、全くそんな素振りはない。
むしろ、レイモンドに呼ばれた事が仕事以外にあり得ないとまで考えていそうだった。
「よって、料理では必ず……あ、あの。何か、私の顔についておりますか?」
「いや、すごく丁寧で分かりやすい説明だなと思っていたんだ。ありがとう」
「ひゃ!そんな、お、お礼なんて」
彼女の目を見つめて笑えば、真剣な顔は一瞬にして崩れ、真っ赤な顔を俯かせた。
「うん、やはり。そうだな」
「?」
「ヒストリア嬢、私と婚約してくれないかな」
スルリと出てきた言葉は、今までの彼女の説明を無視してしまった。改めて応えようと口を開いた時、固まっていた彼女が勢いよく立ち上がる。
「む、無理でございます!」
そう叫んだ彼女は、そのまま部屋のドアに走り出した。
部屋の端に控えていたメレディのメイドのマイが、さっと現れるとドアの前に立つ。
「ヒストリア嬢、すまない。つい言葉が出てしまった。だが、こちらが本題だったんだ」
「へ……」
逃げ道を遮られたメレディは先ほどより近くで聞こえる皇太子の声に怯えながら振り返った。
「本当は婚約者候補になってほしいと伝えるつもりだったが、どうやら私は貴女が良いらしい」
「な、」
「改めて、ヒストリア嬢、私と婚約してほしい。ダメだろうか」
「ヒストリア嬢、本日は急な呼び出しに応えてくれてありがとう。一度ぜひ会ってみたかったんだ」
「は、はい。わが国の太陽、皇太子殿下に招待いただけて、あ、こ、光栄な限りでございます」
「今日は非公開なんだ、そんなに緊張しないでほしい。途中でセスティーナ嬢も来ることになっている……」
和やかな挨拶を交わす途中、いそいそと近づく侍従から渡された紙にちらりと目を寄せたレイモンドは一瞬顔が強張った。
あまりにも一瞬でメレディには気が付かれなかったが、紙を握りしめる気持ちは抑えることはできなかったようだ。
「こ、皇太子殿下?」
「ああ、すまない。少し……、どうやら今日セスティーナ嬢は来ないらしい」
色々な気持ちを隠しながら改めてニコリと微笑むと、ずっと緊張の表情をしていたメレディがより顔を青くし呆れたような表情に変わる。
「ま、まさか。セスティーナ様は殿下にもご迷惑を……もしかして今日のことも!」
「……貴女に会いたかったのは本当だ」
「なんてこと!私から謝罪を」
「いや、貴女が謝ることでは全くない。むしろ巻き込まれた方だろう」
「……い、いつ今日のことを?」
「昨日の夜に、今日の予定を空けたと言われたかな」
メレディはくらくらする頭を抑え、座っていてもめまいになるのだなと思っていた。
一体どこに、皇太子殿下の時間を空ける侯爵令嬢がいるのだろうか。
ただ、彼女であればやってしまうだろう。と思ってしまう頭が許せなかった。
動揺は隠すことができず、しかし、レイモンドの表情も少し変化していた。
「ヒストリア嬢は、いつ伝えられたんだ?」
「ええと、今日の朝ですわ」
「あさ……」
レイモンドは顔を青くするメレディに盛大な拍手を送りたかった。
今日の朝言われて準備し、顔を青くしてでも来てくれた彼女はとても素晴らしい。
しかも今はお昼頃なのだ。一体朝とは何時のことを言っているんだろうか。
セスティーナに目をつけられてしまった事に同情する。
「それは、すまないな……」
「いいえ!セスティーナ様には今度とてもおいしいデザートをいただく予定になっておりますので、問題ございません」
小さな拳を握りながら答える彼女は、さながら躾けられた子猫のようだ。
普通の令嬢は急に呼びつけられて、美味しいデザートで満足はしない。
しかも、これ以外にも迷惑被っているらしい。
「ふっ……」
「……?」
想像以上に、好い。
世間で噂されるワガママな娘というのは、彼女の魅力の一部なのだろう。
セスティーナが強く勧めてきた事も頷ける。
彼女はとても使えそうだなと、レイモンドは思った。
改めて席に座り、お茶が前に出されるとメレディは胸に手を当てて、正面を向いた。
「本日お呼びになられたのは、隣国の国王陛下がいらっしゃるから、でしょうか?」
「うん?」
「問題ございません。我が領地で過ごしていただく中で父が好みの情報を把握し、すでに私に共有されております。資料を用意いたしましたので……」
つらつらと話し始めた彼女は、先ほど緊張していた人物とは思えないほど、ハキハキと説明を始めていた。
確かに、1番の目的のついでに聞きたい内容ではあったので大変ありがたい。
が、本来は違う内容を伝えようとしていたのである。
レイモンドは正直ここまでメレディが優れた人物だとは思っていなかった。
この国の唯一の貿易港を持つ領地の娘であり、かなり両親には甘やかされて育ったと聞いている。
伯爵家ではあるものの、他国と唯一交流できる場所として、他の貴族からチヤホヤされていたようだから、多少でも傲慢なのかと勝手に想像していたが、全くそんな素振りはない。
むしろ、レイモンドに呼ばれた事が仕事以外にあり得ないとまで考えていそうだった。
「よって、料理では必ず……あ、あの。何か、私の顔についておりますか?」
「いや、すごく丁寧で分かりやすい説明だなと思っていたんだ。ありがとう」
「ひゃ!そんな、お、お礼なんて」
彼女の目を見つめて笑えば、真剣な顔は一瞬にして崩れ、真っ赤な顔を俯かせた。
「うん、やはり。そうだな」
「?」
「ヒストリア嬢、私と婚約してくれないかな」
スルリと出てきた言葉は、今までの彼女の説明を無視してしまった。改めて応えようと口を開いた時、固まっていた彼女が勢いよく立ち上がる。
「む、無理でございます!」
そう叫んだ彼女は、そのまま部屋のドアに走り出した。
部屋の端に控えていたメレディのメイドのマイが、さっと現れるとドアの前に立つ。
「ヒストリア嬢、すまない。つい言葉が出てしまった。だが、こちらが本題だったんだ」
「へ……」
逃げ道を遮られたメレディは先ほどより近くで聞こえる皇太子の声に怯えながら振り返った。
「本当は婚約者候補になってほしいと伝えるつもりだったが、どうやら私は貴女が良いらしい」
「な、」
「改めて、ヒストリア嬢、私と婚約してほしい。ダメだろうか」
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