『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。

文字の大きさ
上 下
4 / 30

4

しおりを挟む
「兄上」
「どうした、アルバード」
「…… ハイトランデ家の御令嬢と懇意にしているというのは本当ですか」
「懇意?ああ、まぁ」


どうにも煮え切らないとアルバードは兄を睨んだ。
彼は、ハイトランド家の令嬢は自分の美しさを武器に兄を籠絡ろうらくしようとしているらしいと聞き、急いで飛んできたのであった。

この計画に大きな経済効果を狙って様々な準備をしてきた兄の姿を思い出し、アルバードは怒りまで覚えていた。
馬鹿ではない兄をどうやって丸め込んだのかは分からないが、兄の邪魔をする人間は許す事はできない。
どうにかその恋路を辞めさせようと、アルバードは必死だった。


「セスティーナとは仲が良いだけだよ」
「な!名前まで呼び捨てで呼ばれているのですか!?」
「ああ……彼女が、仲良くなるならそう呼ぶようにと。彼女と仲が良い方が下手な令嬢は寄ってこないだろうし」
「一体どういうつもりですか、令嬢と仲良くなるなんて!自分のお見合いに経済効果しか考えていない人間と同一人物とは思えません!」


弟から顔を赤くさせて怒りをぶつけられたレイモンドは「私は今馬鹿にされたのでは?」と考えた言葉を口にしまった。
確かに、この期間に生まれる経済効果に期待し、自分の事はおざなりであった事は認めよう。
ただ、今回はしっかりと『令嬢と仲良くなる為』にお見合い行事を始めたのだ。

決して、そこを切り捨てて考えていた訳ではない。


どうにもこの弟は兄の事を素晴らしく出来る人間であると思い込んでいるらしい。
兄からすれば、よく分からない名前の植物を育て上げて疫病に効く薬を次々と作る弟の方がよほど出来た人間だと理解していた。

弟は妾の子供の為王位継承が無く、一時周りから蔑まれていたにも関わらず、嫌という顔一つせずに国のために尽くす聖人なのだ。


「アルバード、残念ながら今回『見合い』という言葉は嘘ではないよ」
「まさか、本当に婚約者を見つけるつもりですか?」
「逆に何故見つけないと思ったんだ」


弟に驚かれた兄は呆れた顔で弟を見つめ返した。

ここまで大々的に大きな催し物を開いておいて『婚約者は出来ませんでした』などと言ったら貴族達に何と言われるか。
そもそも貴族の未婚の女性をほぼ呼び集めているのに婚約者ができなかったら誰も娶る事はできなそうだ。

いつもは天才的な頭をフルに活用出来る秀才な弟は何故か兄の事となると思考回路が弱くなるらしい。


「兄上に女性など必要ありませんよ」
「何、真顔で言っている」
「男女が居なくても子供ができる薬を作りますから!」
「お前は神か何かか?」
「まさか!崇高な兄上ではあるまいに!」
「アルバード……」


兄を崇高な人間だと考える弟などどこにいるのだろう。
いや、ここにいるのだが……。


別邸へ追いやられていた弟を連れ出し、共に勉学を励むようにさせたのはレイモンド本人であるが、それは幼い自分にとって仲間が欲しかったという自分本位な理由からだった。

レイモンド自身も頭は悪く無かった為に、メイドや母を説得して陛下にまで許可を取り付けたのは7歳の時だ。
1つ下の弟の存在を知ったその日から、どうすれば弟と共に遊べるかを考えて、周りを説き伏せたのはあっという間だった。

母である王妃自身、アルバードの母とも仲が良かった事もあり、周りが『兄弟が共にあることを望まなかったから』という意見以外理由が無かった事も要因だったのだろう。


その事実を知ってさえ、自分を救い出してくれた崇高な兄と称えてくる弟に、レイモンドは若干の呆れまで覚えていたのだった。



「アルバード」
「なんでしょうか、兄上」
「私はお前の将来が心配だよ」
「何を言いますか!私は兄上のため、この命尽きるで尽力するのみですよ」
「そういうところを言っているんだよ」


この2人のやり取りは夜まで続いたようだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。 メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。 ※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。 ※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。 ※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。

嫌われた妖精の愛し子は、妖精の国で幸せに暮らす

柴ちゃん
ファンタジー
生活が変わるとは、いつも突然のことである… 早くに実の母親を亡くした双子の姉妹は、父親と継母と共に暮らしていた。 だが双子の姉のリリーフィアは継母に嫌われており、仲の良かったシャルロッテもいつしかリリーフィアのことを嫌いになっていた。 リリーフィアもシャルロッテと同じく可愛らしい容姿をしていたが、継母に時折見せる瞳の色が気色悪いと言われてからは窮屈で理不尽な暮らしを強いられていた。 しかしリリーフィアにはある秘密があった。 妖精に好かれ、愛される存在である妖精の愛し子だということだった。 救いの手を差し伸べてくれた妖精達に誘われいざ妖精の国に踏み込むと、そこは誰もが優しい世界。 これは、そこでリリーフィアが幸せに暮らしていく物語。 お気に入りやコメント、エールをしてもらえると作者がとても喜び、更新が増えることがあります。 番外編なども随時書いていきます。 こんな話を読みたいなどのリクエストも募集します。

妹と元婚約者が婚約発表をするようなので、現場に乗り込んでみることにしました

カミツドリ
ファンタジー
「姉さま、ゴメンね。ハマチ・ドリル公爵は私のことが好きらしくて!」 「まあ、そういうことだからな、エイシャ。済まんが別れてもらおう。妹のノアのことは幸せにすると誓おう」 伯爵令嬢のエイシャは妹のノアに、婚約者であるハマチ・ドリル公爵を奪われた。 ハマチ・ドリル公爵の権力の高さもあり、家族もエイシャの味方をしてくれない中、伯爵令息のイルドだけは違った。彼はエイシャのことが昔から好きで、彼女を元気付けていく。 また、イルドの家系は王族にも顔の利く面子が揃っており、エイシャは実の家族とは別のところで優しさや温もりを体験していくことになる。 そんなある日、ハマチとノアの婚約発表パーティーが行われるという情報が流れて来て、事態は動き出す。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

処理中です...