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「兄上」
「どうした、アルバード」
「…… ハイトランデ家の御令嬢と懇意にしているというのは本当ですか」
「懇意?ああ、まぁ」
どうにも煮え切らないとアルバードは兄を睨んだ。
彼は、ハイトランド家の令嬢は自分の美しさを武器に兄を籠絡しようとしているらしいと聞き、急いで飛んできたのであった。
この計画に大きな経済効果を狙って様々な準備をしてきた兄の姿を思い出し、アルバードは怒りまで覚えていた。
馬鹿ではない兄をどうやって丸め込んだのかは分からないが、兄の邪魔をする人間は許す事はできない。
どうにかその恋路を辞めさせようと、アルバードは必死だった。
「セスティーナとは仲が良いだけだよ」
「な!名前まで呼び捨てで呼ばれているのですか!?」
「ああ……彼女が、仲良くなるならそう呼ぶようにと。彼女と仲が良い方が下手な令嬢は寄ってこないだろうし」
「一体どういうつもりですか、令嬢と仲良くなるなんて!自分のお見合いに経済効果しか考えていない人間と同一人物とは思えません!」
弟から顔を赤くさせて怒りをぶつけられたレイモンドは「私は今馬鹿にされたのでは?」と考えた言葉を口にしまった。
確かに、この期間に生まれる経済効果に期待し、自分の事はおざなりであった事は認めよう。
ただ、今回はしっかりと『令嬢と仲良くなる為』にお見合い行事を始めたのだ。
決して、そこを切り捨てて考えていた訳ではない。
どうにもこの弟は兄の事を素晴らしく出来る人間であると思い込んでいるらしい。
兄からすれば、よく分からない名前の植物を育て上げて疫病に効く薬を次々と作る弟の方がよほど出来た人間だと理解していた。
弟は妾の子供の為王位継承が無く、一時周りから蔑まれていたにも関わらず、嫌という顔一つせずに国のために尽くす聖人なのだ。
「アルバード、残念ながら今回『見合い』という言葉は嘘ではないよ」
「まさか、本当に婚約者を見つけるつもりですか?」
「逆に何故見つけないと思ったんだ」
弟に驚かれた兄は呆れた顔で弟を見つめ返した。
ここまで大々的に大きな催し物を開いておいて『婚約者は出来ませんでした』などと言ったら貴族達に何と言われるか。
そもそも貴族の未婚の女性をほぼ呼び集めているのに婚約者ができなかったら誰も娶る事はできなそうだ。
いつもは天才的な頭をフルに活用出来る秀才な弟は何故か兄の事となると思考回路が弱くなるらしい。
「兄上に女性など必要ありませんよ」
「何、真顔で言っている」
「男女が居なくても子供ができる薬を作りますから!」
「お前は神か何かか?」
「まさか!崇高な兄上ではあるまいに!」
「アルバード……」
兄を崇高な人間だと考える弟などどこにいるのだろう。
いや、ここにいるのだが……。
別邸へ追いやられていた弟を連れ出し、共に勉学を励むようにさせたのはレイモンド本人であるが、それは幼い自分にとって仲間が欲しかったという自分本位な理由からだった。
レイモンド自身も頭は悪く無かった為に、メイドや母を説得して陛下にまで許可を取り付けたのは7歳の時だ。
1つ下の弟の存在を知ったその日から、どうすれば弟と共に遊べるかを考えて、周りを説き伏せたのはあっという間だった。
母である王妃自身、アルバードの母とも仲が良かった事もあり、周りが『兄弟が共にあることを望まなかったから』という意見以外理由が無かった事も要因だったのだろう。
その事実を知ってさえ、自分を救い出してくれた崇高な兄と称えてくる弟に、レイモンドは若干の呆れまで覚えていたのだった。
「アルバード」
「なんでしょうか、兄上」
「私はお前の将来が心配だよ」
「何を言いますか!私は兄上のため、この命尽きるで尽力するのみですよ」
「そういうところを言っているんだよ」
この2人のやり取りは夜まで続いたようだ。
「どうした、アルバード」
「…… ハイトランデ家の御令嬢と懇意にしているというのは本当ですか」
「懇意?ああ、まぁ」
どうにも煮え切らないとアルバードは兄を睨んだ。
彼は、ハイトランド家の令嬢は自分の美しさを武器に兄を籠絡しようとしているらしいと聞き、急いで飛んできたのであった。
この計画に大きな経済効果を狙って様々な準備をしてきた兄の姿を思い出し、アルバードは怒りまで覚えていた。
馬鹿ではない兄をどうやって丸め込んだのかは分からないが、兄の邪魔をする人間は許す事はできない。
どうにかその恋路を辞めさせようと、アルバードは必死だった。
「セスティーナとは仲が良いだけだよ」
「な!名前まで呼び捨てで呼ばれているのですか!?」
「ああ……彼女が、仲良くなるならそう呼ぶようにと。彼女と仲が良い方が下手な令嬢は寄ってこないだろうし」
「一体どういうつもりですか、令嬢と仲良くなるなんて!自分のお見合いに経済効果しか考えていない人間と同一人物とは思えません!」
弟から顔を赤くさせて怒りをぶつけられたレイモンドは「私は今馬鹿にされたのでは?」と考えた言葉を口にしまった。
確かに、この期間に生まれる経済効果に期待し、自分の事はおざなりであった事は認めよう。
ただ、今回はしっかりと『令嬢と仲良くなる為』にお見合い行事を始めたのだ。
決して、そこを切り捨てて考えていた訳ではない。
どうにもこの弟は兄の事を素晴らしく出来る人間であると思い込んでいるらしい。
兄からすれば、よく分からない名前の植物を育て上げて疫病に効く薬を次々と作る弟の方がよほど出来た人間だと理解していた。
弟は妾の子供の為王位継承が無く、一時周りから蔑まれていたにも関わらず、嫌という顔一つせずに国のために尽くす聖人なのだ。
「アルバード、残念ながら今回『見合い』という言葉は嘘ではないよ」
「まさか、本当に婚約者を見つけるつもりですか?」
「逆に何故見つけないと思ったんだ」
弟に驚かれた兄は呆れた顔で弟を見つめ返した。
ここまで大々的に大きな催し物を開いておいて『婚約者は出来ませんでした』などと言ったら貴族達に何と言われるか。
そもそも貴族の未婚の女性をほぼ呼び集めているのに婚約者ができなかったら誰も娶る事はできなそうだ。
いつもは天才的な頭をフルに活用出来る秀才な弟は何故か兄の事となると思考回路が弱くなるらしい。
「兄上に女性など必要ありませんよ」
「何、真顔で言っている」
「男女が居なくても子供ができる薬を作りますから!」
「お前は神か何かか?」
「まさか!崇高な兄上ではあるまいに!」
「アルバード……」
兄を崇高な人間だと考える弟などどこにいるのだろう。
いや、ここにいるのだが……。
別邸へ追いやられていた弟を連れ出し、共に勉学を励むようにさせたのはレイモンド本人であるが、それは幼い自分にとって仲間が欲しかったという自分本位な理由からだった。
レイモンド自身も頭は悪く無かった為に、メイドや母を説得して陛下にまで許可を取り付けたのは7歳の時だ。
1つ下の弟の存在を知ったその日から、どうすれば弟と共に遊べるかを考えて、周りを説き伏せたのはあっという間だった。
母である王妃自身、アルバードの母とも仲が良かった事もあり、周りが『兄弟が共にあることを望まなかったから』という意見以外理由が無かった事も要因だったのだろう。
その事実を知ってさえ、自分を救い出してくれた崇高な兄と称えてくる弟に、レイモンドは若干の呆れまで覚えていたのだった。
「アルバード」
「なんでしょうか、兄上」
「私はお前の将来が心配だよ」
「何を言いますか!私は兄上のため、この命尽きるで尽力するのみですよ」
「そういうところを言っているんだよ」
この2人のやり取りは夜まで続いたようだ。
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