97 / 155
おじさん♡囚われました③
しおりを挟む
マックス♡
視作生は一瞬で破壊された。
君は苦しまなかったろう。
それだけが、救いだ。
「…叔母上、何故です」
その答えを、貴女は下さらないまま…
俺に鎖を掛けなさった。
そして俺は、意識の深淵の囚われ人となった。
これは『不能の鎖』であろう。
容易には抜け出せぬ。
我が一族の秘宝を惜し気なくご使用になるとは、大盤振る舞いである。
俺という人間を知り尽くした、貴女らしいやり方だ。
こうまで徹底されねば…
俺は死ぬまで、抗ったでしょう。
思えば、ずっと気がかりだった。
叔母は、これまで徹底して傍観を貫いて参られた。
この期に及ぶまで、誰よりも『リリィ』について関心を露わになさらず…
何一つとして意見する事も無かった。
そうだ…
ただ一度、厳しく叱責なさったか。
叔母上は全ての職務を放棄して『リリィ』が為に、侍女として生きることを望まれた。
貴女があの様に、心情を露わになさった事は初めてでした。
だから俺は困惑し、つい失言した。
『それは!、、いけません。…だいたい、大袈裟でしょう』
実際、叔母上なくして国政は立ち行かぬのだ。
それに、当時は俺にも迷いがあった。
今となっては、視作生を『Ω女王』にはせぬと決意している。
だがあの時は未だそれが、しかと胸の芯に固まってはいなかった。
それ故に、誤魔化す様な物言いをしたのだ。
…いや、親しい身内の甘えもあった。
俺は甘ったれた甥らしく、性根の定まらぬ意見を零し…
叱られた。
『わかった様な事を!其方はことの重大さを解しておらぬ』
叔母上は鬼気迫るお顔で私を睨みつけ、激怒なさった。
『…叔母上、手前は確かに未熟者で御座る』
しかし、俺も叔母上に劣らぬ頑固者である。
止せば良いのに、跳ねっ返った。
『で、その重大さ、とは如何なるものですか。先代のリリィからの侍女である、貴女にしか解らぬ類のものなら…』
俺は、言い過ぎた。
急に顔色を無くした彼女は、私から目を逸らした。
そらを捉え、悲痛な面持ちで呟いた。
『リリィは、リリィは…、絶対に失わぬ!…もう、二度と。…それだけは、嫌じゃ』
それはまるでいとけない、少女のような物言いだった。
思いがけずも、切羽詰まった様な貴女の態度は、酷く意外だった。
俺は訝しんだ。
しかし、滅多に顰めつらしく平坦な御顔を崩さぬ叔母上の、情に触れた気がして…
それが俺には新鮮で、とても嬉しかった。
叔母上はリリィに御執心だ。
この御人にもそんな他愛ない所があるのだと、愛しく思えた。
だから俺は深追いをせずに、流してしまった。
…いけなかった。
それが思い切り、仇となったのだから!
我らは、貴女を見損なっていた。
ルイスが執政官、ブレンダリー様。
貴女こそが此度の暴挙の首謀者である。
「首都において、執政までが不在であってはならぬ、と仰って。お留守番なさったの」
クラウディア様は、侍女の片割れの不在をその様にしれっと言い訳なさった。
それを受けた俺は、拍子抜けした。
叔母上は必ずおいでになる筈だと身構えておったのだ。
いくら何でも、侍女たる御方が此度の行幸に加わらぬとは不自然であるし、薄情な事である。
しかし、俺はハタと思い付いてしまった。
叔母は相当な意固地であられる。
一度、そうと決意したらば絶対に譲らぬ人だった。
故にこの肩透かしは、俺への、夫君一同への、意趣返しともとれたのだ。
名ばかりの侍女に甘んじざるをえぬその口惜しさを、叔母上はじっと抱えておいでだったろう。
それをこの様なやり方でもって、御不満だといよいよと意思表示なさったのではないか。
我々はすっかり、そう理解した。
そして非常に居た堪れぬ想いごと、飲み込んだのだった。
要するに…
臭いものに、蓋をした訳だ。
しかも今宵の晩餐の会は、思いがけずも華やかな催し事となってしまった。
そのせいで、我々は忙殺されたのである。
俺達は何故か激しく駆り出されて、使い回された。
これには視作生の口添えもあり、渋々と許諾した事だったが…
やり慣れぬ事は、苦行である。
男子諸君は、妙に疲弊した。
普段の調子を狂わされ、翻弄された。
我々のその様な体たらくに、眉を顰めつつ…
クラウディア様と淑女方は、視作生をアレやコレやで想い存分に飾りたてた。
そうして彼女達の理想の『リリィ人形』に仕立て上げられた視作生は実に愛らしく…
我ら夫君も、心和ませずにはおれなかった。
当の視作生も満更でもない様子で、非常にご機嫌が良ろしい。
それこそが、俺はとにかく嬉しかった。
妻の喜びに満ちた笑顔を観るのは、我らの至福である。
そうして夜が更けてもまだ、賑やかに過ごしていた。
「視作生、そろそろお休みなさい」
セバスティアンが過ぎる夜更かしを諌めた。
それから…
彼は視作生に精食を勧めたかったに違いない。
しかし…
御母堂の面前である。
『今日という日くらい、よろしいわ』
その御母堂が、あっさりと手で払う様に息子の指図を却下した。
『うん♡まだ眠くないし!後ちょっとだけ、ね?お願い♡』
そこに便乗した妻のおねだりを、無下には出来なかった。
その上…
『若君方、今のうちに寝所の手配をなされては?』
『私達、忙しいの。まあ、見ればわかろうが』
『リリィに関わる事は、些細な御身周りの用事であっても人選がされねばならぬ』
『つまり、私達が手が離せぬ以上は貴殿らが働く他は無い』
『よろしくて?リリィはお疲れよ。湯浴みの準備もなさいませ』
容赦のない、追い討ちをくらった!
この様に非常に不本意ながらも、体よく追い払われた俺達は完全に油断していたのだ。
この親愛に満ちた会合が、覆る事はもはや無いものと思ってしまった。
セバスティアンが妻の寝所でシーツと格闘している時…
アレクサンドールが浴室で床に磨きをかけている間に…
俺が妻の所望で、彼が就寝前に決まっていただく、ミルクを温めに行っている隙に…
叔母上は、秘密裏に参られた。
そして…
視作生を壊した。
俺は彼女の気配を察知する事が出来なかった。
俺の内の『推察』の力の一部が機能しなかったのだ。
それは、同じ能力者のなせる技だ。
それも、上位者にしか成らぬ。
それでも、俺は察した。
視作生が死ぬ事を、殺される直前に察したのだ!
俺は知らなかった。
貴女が隠しの御力をお持ちである事を…
『推察』の秀でた使い手として、叔母は有名で御座る。
領主の良き相方として、その能力を遺憾無く発揮なさっておいでだった。
『ルイスの並び立つ、二双が白百合』とその麗しき親交の様子を謳われる程に…
そのあなたが『昏睡』をも自由自在と操る使い手であろうとは!
『推察』は素質があれば、後天的にも研鑽の見込める能力だ。
しかし『昏睡』は生まれ持っての才能でしか機動せぬ。
叔母上は、ルイスが最上位者で座す。
貴女にその力を振るわれたら、誰一人として刃向う事はならぬ。
それでも、まさか…
『リリィ』たる『視作生』を手にかけるとは!
俺には思い、及ばなんだ。
何故なら、貴女は…
彼を愛していたでしょう。
ほんの一目…
合い間見えただけで、貴女は視作生に焦がれておいだった。
それは俺が如き若輩者にすら、察する事が出来た程です。
なのに何故、貴女は御自身を裏切ったのか!
何が貴女をその様な、狂気に駆り立てたのか!
なけなしの、力をありあわせて、貴女を視た。
…傷が、お有りだ。
遠い、過去のものだ。
それが、貴女を捕らえているのか。
…叔母上、いけません。
貴女は間違えている。
貴女様ほどの『推察』者が何という体たらくでしょう。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
視作生は一瞬で破壊された。
君は苦しまなかったろう。
それだけが、救いだ。
「…叔母上、何故です」
その答えを、貴女は下さらないまま…
俺に鎖を掛けなさった。
そして俺は、意識の深淵の囚われ人となった。
これは『不能の鎖』であろう。
容易には抜け出せぬ。
我が一族の秘宝を惜し気なくご使用になるとは、大盤振る舞いである。
俺という人間を知り尽くした、貴女らしいやり方だ。
こうまで徹底されねば…
俺は死ぬまで、抗ったでしょう。
思えば、ずっと気がかりだった。
叔母は、これまで徹底して傍観を貫いて参られた。
この期に及ぶまで、誰よりも『リリィ』について関心を露わになさらず…
何一つとして意見する事も無かった。
そうだ…
ただ一度、厳しく叱責なさったか。
叔母上は全ての職務を放棄して『リリィ』が為に、侍女として生きることを望まれた。
貴女があの様に、心情を露わになさった事は初めてでした。
だから俺は困惑し、つい失言した。
『それは!、、いけません。…だいたい、大袈裟でしょう』
実際、叔母上なくして国政は立ち行かぬのだ。
それに、当時は俺にも迷いがあった。
今となっては、視作生を『Ω女王』にはせぬと決意している。
だがあの時は未だそれが、しかと胸の芯に固まってはいなかった。
それ故に、誤魔化す様な物言いをしたのだ。
…いや、親しい身内の甘えもあった。
俺は甘ったれた甥らしく、性根の定まらぬ意見を零し…
叱られた。
『わかった様な事を!其方はことの重大さを解しておらぬ』
叔母上は鬼気迫るお顔で私を睨みつけ、激怒なさった。
『…叔母上、手前は確かに未熟者で御座る』
しかし、俺も叔母上に劣らぬ頑固者である。
止せば良いのに、跳ねっ返った。
『で、その重大さ、とは如何なるものですか。先代のリリィからの侍女である、貴女にしか解らぬ類のものなら…』
俺は、言い過ぎた。
急に顔色を無くした彼女は、私から目を逸らした。
そらを捉え、悲痛な面持ちで呟いた。
『リリィは、リリィは…、絶対に失わぬ!…もう、二度と。…それだけは、嫌じゃ』
それはまるでいとけない、少女のような物言いだった。
思いがけずも、切羽詰まった様な貴女の態度は、酷く意外だった。
俺は訝しんだ。
しかし、滅多に顰めつらしく平坦な御顔を崩さぬ叔母上の、情に触れた気がして…
それが俺には新鮮で、とても嬉しかった。
叔母上はリリィに御執心だ。
この御人にもそんな他愛ない所があるのだと、愛しく思えた。
だから俺は深追いをせずに、流してしまった。
…いけなかった。
それが思い切り、仇となったのだから!
我らは、貴女を見損なっていた。
ルイスが執政官、ブレンダリー様。
貴女こそが此度の暴挙の首謀者である。
「首都において、執政までが不在であってはならぬ、と仰って。お留守番なさったの」
クラウディア様は、侍女の片割れの不在をその様にしれっと言い訳なさった。
それを受けた俺は、拍子抜けした。
叔母上は必ずおいでになる筈だと身構えておったのだ。
いくら何でも、侍女たる御方が此度の行幸に加わらぬとは不自然であるし、薄情な事である。
しかし、俺はハタと思い付いてしまった。
叔母は相当な意固地であられる。
一度、そうと決意したらば絶対に譲らぬ人だった。
故にこの肩透かしは、俺への、夫君一同への、意趣返しともとれたのだ。
名ばかりの侍女に甘んじざるをえぬその口惜しさを、叔母上はじっと抱えておいでだったろう。
それをこの様なやり方でもって、御不満だといよいよと意思表示なさったのではないか。
我々はすっかり、そう理解した。
そして非常に居た堪れぬ想いごと、飲み込んだのだった。
要するに…
臭いものに、蓋をした訳だ。
しかも今宵の晩餐の会は、思いがけずも華やかな催し事となってしまった。
そのせいで、我々は忙殺されたのである。
俺達は何故か激しく駆り出されて、使い回された。
これには視作生の口添えもあり、渋々と許諾した事だったが…
やり慣れぬ事は、苦行である。
男子諸君は、妙に疲弊した。
普段の調子を狂わされ、翻弄された。
我々のその様な体たらくに、眉を顰めつつ…
クラウディア様と淑女方は、視作生をアレやコレやで想い存分に飾りたてた。
そうして彼女達の理想の『リリィ人形』に仕立て上げられた視作生は実に愛らしく…
我ら夫君も、心和ませずにはおれなかった。
当の視作生も満更でもない様子で、非常にご機嫌が良ろしい。
それこそが、俺はとにかく嬉しかった。
妻の喜びに満ちた笑顔を観るのは、我らの至福である。
そうして夜が更けてもまだ、賑やかに過ごしていた。
「視作生、そろそろお休みなさい」
セバスティアンが過ぎる夜更かしを諌めた。
それから…
彼は視作生に精食を勧めたかったに違いない。
しかし…
御母堂の面前である。
『今日という日くらい、よろしいわ』
その御母堂が、あっさりと手で払う様に息子の指図を却下した。
『うん♡まだ眠くないし!後ちょっとだけ、ね?お願い♡』
そこに便乗した妻のおねだりを、無下には出来なかった。
その上…
『若君方、今のうちに寝所の手配をなされては?』
『私達、忙しいの。まあ、見ればわかろうが』
『リリィに関わる事は、些細な御身周りの用事であっても人選がされねばならぬ』
『つまり、私達が手が離せぬ以上は貴殿らが働く他は無い』
『よろしくて?リリィはお疲れよ。湯浴みの準備もなさいませ』
容赦のない、追い討ちをくらった!
この様に非常に不本意ながらも、体よく追い払われた俺達は完全に油断していたのだ。
この親愛に満ちた会合が、覆る事はもはや無いものと思ってしまった。
セバスティアンが妻の寝所でシーツと格闘している時…
アレクサンドールが浴室で床に磨きをかけている間に…
俺が妻の所望で、彼が就寝前に決まっていただく、ミルクを温めに行っている隙に…
叔母上は、秘密裏に参られた。
そして…
視作生を壊した。
俺は彼女の気配を察知する事が出来なかった。
俺の内の『推察』の力の一部が機能しなかったのだ。
それは、同じ能力者のなせる技だ。
それも、上位者にしか成らぬ。
それでも、俺は察した。
視作生が死ぬ事を、殺される直前に察したのだ!
俺は知らなかった。
貴女が隠しの御力をお持ちである事を…
『推察』の秀でた使い手として、叔母は有名で御座る。
領主の良き相方として、その能力を遺憾無く発揮なさっておいでだった。
『ルイスの並び立つ、二双が白百合』とその麗しき親交の様子を謳われる程に…
そのあなたが『昏睡』をも自由自在と操る使い手であろうとは!
『推察』は素質があれば、後天的にも研鑽の見込める能力だ。
しかし『昏睡』は生まれ持っての才能でしか機動せぬ。
叔母上は、ルイスが最上位者で座す。
貴女にその力を振るわれたら、誰一人として刃向う事はならぬ。
それでも、まさか…
『リリィ』たる『視作生』を手にかけるとは!
俺には思い、及ばなんだ。
何故なら、貴女は…
彼を愛していたでしょう。
ほんの一目…
合い間見えただけで、貴女は視作生に焦がれておいだった。
それは俺が如き若輩者にすら、察する事が出来た程です。
なのに何故、貴女は御自身を裏切ったのか!
何が貴女をその様な、狂気に駆り立てたのか!
なけなしの、力をありあわせて、貴女を視た。
…傷が、お有りだ。
遠い、過去のものだ。
それが、貴女を捕らえているのか。
…叔母上、いけません。
貴女は間違えている。
貴女様ほどの『推察』者が何という体たらくでしょう。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる