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おじさん♡寝てます

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セス♡

「ああ、ご覧下さい!…なんて可愛いのだろう」

安らかに眠る妻の健やかに膨らんだ腹を見て、アレクサンドールは目を細めた。

私と相棒と弟は、横臥し安眠する妻の寝台に侍っている。

妻の腹はまだ緩やかに、丸い膨らみを見せるに留まっていた。
だが、内の子らは非常に活発なのだった。

「ふむ。リリィから聞いてはいたが、これ程とは思わなかった」 
妻は妊娠に至ってから、未だ半年にも満たない。
それでも胎動を感じると、幸せそうに話してくれていた。

私は決して余計な事を言わない。
言わぬが、心中では妻を訝しんでいた。

それは幾ら何であろうと、有り得ぬ事なのだ。
君は胎の子の可愛さに、少しばかり敏感になっているに違いないとその様に理解していた。

しかし、私こそが間違えていたのだ!

今、確かに私の目の前で、妻の腹がうねっている。
二つの生命が縦横無尽に動き回っているのだ。

「…全く!これはどうした事だ」
私と同じく度肝を抜かれた相棒が、感嘆の溜息と共に漏らした。

α種の人々にとって、Ωとは愛と生命の女神である。

α世界に於いて、Ωは稀なる奇跡の存在として殆ど神格化されているのだ。
安産の女神として大変に縁起が良いとされ、絵画等の芸術作品の着想に選ばれる事も多い。

教会や公共施設では壁画によく見られる定番の題材であり、市民に親しまれている。
また一般家庭に於いても、大抵は住居の何処かしらにΩに因んだ装飾品があるものだ。

それらは一様に、丸い御腹の妊婦として表現されている。
我々にはΩとは妊婦である、という共通認識があるのだ。

それは彼らが一生の内の殆どを、妊娠した状態で過ごす事に起因する。

それ程に彼らは易く身籠るという性質もあるが、そも妊娠期間が長いのである。

文献によれば、最も早産だった場合でも妊娠期間は少なくとも十年程を要したという。
長ければその数倍の期間にもなり得るらしい。

とはいえ、Ωに関する文献は少なく、情報は極めて限られている。
これについてはα特有の事情があった。

Ωについて、研究、調査する事は不敬である。

昔からα社会ではその様な道徳観念があり、芸術的に扱う事は有るが研究対象にはしない。
私にとってもそれは当然で有り、疑う余地も無い事だ。

しかし私の好奇心旺盛な相棒には、以前から違う意見があった。

「リリィ、やはり君は特別な人なのだな」
マクシミリアンは眩しそうに妻を見つめ、愛し気にその腹を撫でる。

…実は、彼はΩ研究の第一人者だと、自称している。
これは我々の感覚からすれば、大変に不道徳な事だ。

故にいかに高貴な青年貴族であろうと、非難を免れる事は無かった。
当時、マクシミリアンは世間から白眼視されていた。
それでも、相棒は取り憑かれたかの如くに研究に勤しむ事を止めなかった。

遂には彼の養母たる叔母の激しい怒りを買い、挙句に一時は蟄居を申し付けられた程だ。
彼のそのような過去に、私も呆れ返っていたものだった。

しかし、今となっては頼もしい。

「セス。Ωの出産では胎動がその先触れとなるらしいぞ」
私は、息が止まる程の衝撃を受けた。

「まさか、近く産まれると言うのか!」
全く以って想定外だ。

リリィ程の見事なΩならば、妊娠も出産も安らかに成せるだろうという期待はあった。
しかし、まだ先の長い事だと検討をつけていたのだ。

「おそらく、そう成るであろう。俺が調べた数多くの資料に基づけば…ひと月、」
それを聞いた途端、弟は驚きの余りに話しの腰を折った。

「…なっ!そんな事は有り得ないでしょう。御子はすこぶるお元気だが、まだ野ネズミ程のお身体しかお持ちでない」

…我らの子をネズミで測るとは大変に遺憾ではあるが、アレクサンドールの言う通りだ。

それでは相当な未熟児となる。
誕生したとて、生命を維持するのも難しい程だろう。

「話しを最後まで聞け!ひと月等という事は流石に無い。少なくとも一年、もしくはそれ以上掛かった例もある。…が、やはり想定外だろう?」

それでも、一年!
たった一年で息子達に対面が叶うかもしれぬというのか。

…何という、幸福であろう。

近年のα種の不妊は深刻である。
特に、能力が強い者にはそれが顕著だった。

私は子を得る事は夢であるとさえ感じ、憧れのまま夢想するのみで良いと諦めていた。

それが、まだ若きこの身の上で贅沢にも父と成れるのか!

そして私の息子は…
Ωの御子として、完璧なαの貴公子として産まれる。

全ての恩恵が、お前に注がれるだろう。
私はその歓喜の時が待ち遠しい。

…しかし、それは最悪の苦境と紙一重だ。

「…諸君。其れであれば急がねばならぬ、ということだな」
一年後、リリィが出産を迎えるとしたら急がねばならない。
私達の妻を御守り致す手立てを、早急に講じるのだ。

例え、アレクサンドールが愛人の身分のままで通したとしても限界がある。

出産を控えた妻には、介添えをする女性が必要だ。
男性の私達では、君に充分に仕える事が出来ないだろう。

問題は誰が、介添えとして侍るのかという事だった。
侍女である我が母上と、ル•スラーン公ブレンダリー殿が産所にお控えする事は決定している。

だが、それでは充分では無い。

何せあの、高貴な淑女達の事である。
普段より世話はされるもので有り、するものでは無いのだ。

御見守りする、以外の事はなされ無いだろう。
やはり、あのα淑女達が名乗りを挙げ、そして選ばれる。

彼女達は可愛いリリィから、容易に侍る許しを得るだろう!

本来なら夫と侍女以外の者が、自らΩ女王に話し掛ける事は許されぬ。

だが、出産により酷く混乱する場面では掟も作法も有耶無耶になろう。
そこで彼女達は無垢なる妻を巧く言い包め、侍女に成り上がるのだ。

過去の風習をいかに違えようと、現在のΩ女王がそうと決めればそれで良い。

しかも、例のあやふやな風習が今度は仇となるのだ。
産後のΩは男性から遠ざけられなければならぬ、という。

我々は孤立無援だ。

母上は私を愛しておいでだが、それ以上に彼女の統べる国と民を愛している。

そして彼女の主人である、私の妻を愛していなさる。

しかし、リリィへの愛について、私達と母上では在り方が違うのだ。
母上の愛は敬愛であり、リリィの博愛を崇拝したがっておられる。

そして私の妻への愛について、ちっぽけな純愛だと言い捨て軽蔑なさった。

援助など望むべくも無い。

何と、無力なのだ!

私達が妻の側に居ぬ間に、何もかもが済んでしまうだろう。

例え妻が産後間も無くとも、彼女達が容赦するとは思えぬ。

リリィの空いたその胎に…!

彼女達に都合の良い次の御子を宿そうと、有りとあらゆる策略が巡らされるのだ。
既に、侍女候補の執愛と国益が打ち解け合っている。

リリィはいよいよ公の方とされよう。 
そして…それから先は公務として、産むのだ。

素晴らしきαの御子らを、Ω女王として生み与え続ける。

まるで、女王蜂の如く。

\\\٩(๑`^´๑)۶////
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