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おじさん♡元気出ました②
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何だ、この女は。
そんな大きな腹をして、そんなふうに走るなど、正気じゃない。
「栄ちゃん!だめだよっ、走ったりしたら!」
気がついたリリィが私達の腕から抜け出し、一目散に彼女に駆け寄った。
栄ちゃん。
妻の大事な人だ。
この女が、そうなのだ。
…意外だ。
「ちょっと、ちょ、…~はぁ、はぁ、はあ!」
息急き切って這いつくばって、それでも鬼気迫る表情で俺達を睨み上げてくる。
この、妻の元伴侶だった女には俺達に何かしら文句があるのだろう。
「栄ちゃん、しゃべっちゃダメ!吸って!吐いて、吸って!」
必死で彼女を気遣う、君との仲の良さが窺い知れる。
胸が焼ける。
腹が煮える。
俺は今すぐに、この女の息の根を止めたい。
…ああ、これが、嫉妬、なのだ。
「ッ~は。は~、よし、大丈夫!あ~、苦しかった!」
「もう平気?良かった」
この女は俺達に言いたいことがあると言っていた。
さて、想像はつく。
…が、妻の手前だ。
大人しく拝聴しよう。
「初めまして!伊藤栄子です。みぃく…視作生さんの元妻です。そんな立場の私ですが、一言!」
「栄ちゃん?」
「ふつつかな人ですが、どうぞよろしくお願いします!この人は、言いたい事がなかなか言えない人です。だって優しい人だから。欲しいものも、必要なものも、足りないものも、我慢しちゃう人です。本当に優しい人だから。…いや、本当のトコもちゃんと言っとくね。この人は上っ面だけ見てちゃダメな人。優しいとヘタレは紙一重なんだよ!君達を思うがために。自分に自信が無いために。都合がつかない事なのに、一生懸命に隠すかもしれない。ちゃんと気をつけてあげてね!」
この様な長台詞を、地響きがする程の大声で叫んだ。
そして身体を真二つに折る様にして、頭を下げた。
…想像とは違っていた。
俺はこの女に対する嫌悪を無くした。
対して、セバスティアンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
今にも殺したそうに、彼女を見ていた。
「ふっ、…はははッ」
俺はつい、吹き出した。
そして務めて明るく、とても正直な所を口に出す事にする。
「ご忠告は痛み入る。あなたの言う通りだ。油断のならない妻であると、肝に銘じよう」
俺の返事に気を良くしたのだろう、彼女は上機嫌だ。
「まぁ、それを補って余りある可愛い子でしょ?…みぃくんの事、大事にして」
言わずもがな、だ。
「泣かせたら、承知しないよ!」
しかし、彼女のこの発言が遂にセバスティアンの癇に障った。
そして彼は彼女を攻撃した。
瞬間的に死亡してもおかしくは無い。
「他の誰が許しても、この私が絶対に許しません!」
だが、実際には彼女にはこの様な見栄を切る余裕すらある。
これは…
これこそは、意外だった。
セバスティアンも虚を突かれて、唖然とする。
それから、気付く。
「…匂う」
そして思わずという具合で呟いた。
「は?」
「え!」
それに彼女と妻は同時に反応した。
…確かに匂う。
妻が側にいるせいだと思っていたが、違っていた。
彼女からΩの芳りがするのだ。
これは、リリィのものだ。
俺は彼女を、視た。
一見して彼女自身は完全なるβである。
だがΩの性質を纏っているのだ。
恐らく長い時間を共に過ごしたことが要因だろう。
しかしそれだけではこうも調和した融合などしない。
彼女の中にリリィが染み込み、息づいていた。
彼女はリリィに愛されているのだ。
リリィの献身的な愛が彼女を守っている。
これは恐らくそんな現象だ。
俺が識る、どの様なΩの文献にもこの様な例は無かった。
俺の妻は完璧なΩだが、さらに従来のΩを凌駕する能力を秘めているのだ。
妻は、全くもって計り知れない人だった。
「匂う?匂うって言った?…私に。で?どんな?もちろん、いい匂いがするのよね?」
考えに耽っていると、剣呑な彼女の文句が耳に入る。
どうやら相棒は下手を打ったらしい。
女性の目前で不用意な発言をしたものだ。
普段の彼ならばそつ無く振る舞う。
しかし、今の相棒は怒りに我を忘れている。
沈めてやらねば。
彼女とは良好な関係で有るべきだ。
妻の為に、彼女を上手く使わなければいけない。
「もちろんだ。芳しく、麗しい薫りだ」
…俺の思いが通じた訳ではない。
ただセバスティアンは堂々と誇らしげに、妻の匂いについて彼女に語ったのだった。
決して、彼女の匂いについてではない。
「!…やだぁ、もう、なぁに!君、ツンデレかッ♡」
食い違いつつも偶然に、相棒は回答を間違えなかった。
彼女は明らかに嬉し気で、事もあろうに相棒の腕をバシバシと叩く。
全く、命知らずな女だ。
しかしリリィの覚えめでたい彼女なら、例え彼の頬を打ったとしても無事だろう。
彼でなくとも、α種族の誰もが手も足も出せまい。
何しろ稀代のΩ女王の後ろ盾があるのだ。
そして彼女はリリィの心を射止める上での鍵になろう。
「ま!仲良くね。目の保養になるからさ、近いうちにまた帰ってきてよ。みんな揃ってね!」
…なぜ、この女は人を叩くのか。
笑いながら俺と相棒の肩を背伸びしてまで、バンバンと叩く。
「栄ちゃん…ありがとう」
その様子を妻が涙ぐんで見ている。
理解し難いが、君が良いならそれでいい。
とにかく、彼女は分かりやすい人間の様だ。
扱い易いことは、良いことだ。
さぁ、帰ろう。
俺の愛する君。
もう二度とこんな事はごめんだ。
酷く痛めつけられ、踏み付けにされた。
他でもない、愛する君に。
それでも、君を愛している。
けれども、この痛みは直ぐには癒えぬだろう。
君に、癒して欲しい。
そうでなければ、居られない。
君は、俺を許してくれるだろうか。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
何だ、この女は。
そんな大きな腹をして、そんなふうに走るなど、正気じゃない。
「栄ちゃん!だめだよっ、走ったりしたら!」
気がついたリリィが私達の腕から抜け出し、一目散に彼女に駆け寄った。
栄ちゃん。
妻の大事な人だ。
この女が、そうなのだ。
…意外だ。
「ちょっと、ちょ、…~はぁ、はぁ、はあ!」
息急き切って這いつくばって、それでも鬼気迫る表情で俺達を睨み上げてくる。
この、妻の元伴侶だった女には俺達に何かしら文句があるのだろう。
「栄ちゃん、しゃべっちゃダメ!吸って!吐いて、吸って!」
必死で彼女を気遣う、君との仲の良さが窺い知れる。
胸が焼ける。
腹が煮える。
俺は今すぐに、この女の息の根を止めたい。
…ああ、これが、嫉妬、なのだ。
「ッ~は。は~、よし、大丈夫!あ~、苦しかった!」
「もう平気?良かった」
この女は俺達に言いたいことがあると言っていた。
さて、想像はつく。
…が、妻の手前だ。
大人しく拝聴しよう。
「初めまして!伊藤栄子です。みぃく…視作生さんの元妻です。そんな立場の私ですが、一言!」
「栄ちゃん?」
「ふつつかな人ですが、どうぞよろしくお願いします!この人は、言いたい事がなかなか言えない人です。だって優しい人だから。欲しいものも、必要なものも、足りないものも、我慢しちゃう人です。本当に優しい人だから。…いや、本当のトコもちゃんと言っとくね。この人は上っ面だけ見てちゃダメな人。優しいとヘタレは紙一重なんだよ!君達を思うがために。自分に自信が無いために。都合がつかない事なのに、一生懸命に隠すかもしれない。ちゃんと気をつけてあげてね!」
この様な長台詞を、地響きがする程の大声で叫んだ。
そして身体を真二つに折る様にして、頭を下げた。
…想像とは違っていた。
俺はこの女に対する嫌悪を無くした。
対して、セバスティアンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
今にも殺したそうに、彼女を見ていた。
「ふっ、…はははッ」
俺はつい、吹き出した。
そして務めて明るく、とても正直な所を口に出す事にする。
「ご忠告は痛み入る。あなたの言う通りだ。油断のならない妻であると、肝に銘じよう」
俺の返事に気を良くしたのだろう、彼女は上機嫌だ。
「まぁ、それを補って余りある可愛い子でしょ?…みぃくんの事、大事にして」
言わずもがな、だ。
「泣かせたら、承知しないよ!」
しかし、彼女のこの発言が遂にセバスティアンの癇に障った。
そして彼は彼女を攻撃した。
瞬間的に死亡してもおかしくは無い。
「他の誰が許しても、この私が絶対に許しません!」
だが、実際には彼女にはこの様な見栄を切る余裕すらある。
これは…
これこそは、意外だった。
セバスティアンも虚を突かれて、唖然とする。
それから、気付く。
「…匂う」
そして思わずという具合で呟いた。
「は?」
「え!」
それに彼女と妻は同時に反応した。
…確かに匂う。
妻が側にいるせいだと思っていたが、違っていた。
彼女からΩの芳りがするのだ。
これは、リリィのものだ。
俺は彼女を、視た。
一見して彼女自身は完全なるβである。
だがΩの性質を纏っているのだ。
恐らく長い時間を共に過ごしたことが要因だろう。
しかしそれだけではこうも調和した融合などしない。
彼女の中にリリィが染み込み、息づいていた。
彼女はリリィに愛されているのだ。
リリィの献身的な愛が彼女を守っている。
これは恐らくそんな現象だ。
俺が識る、どの様なΩの文献にもこの様な例は無かった。
俺の妻は完璧なΩだが、さらに従来のΩを凌駕する能力を秘めているのだ。
妻は、全くもって計り知れない人だった。
「匂う?匂うって言った?…私に。で?どんな?もちろん、いい匂いがするのよね?」
考えに耽っていると、剣呑な彼女の文句が耳に入る。
どうやら相棒は下手を打ったらしい。
女性の目前で不用意な発言をしたものだ。
普段の彼ならばそつ無く振る舞う。
しかし、今の相棒は怒りに我を忘れている。
沈めてやらねば。
彼女とは良好な関係で有るべきだ。
妻の為に、彼女を上手く使わなければいけない。
「もちろんだ。芳しく、麗しい薫りだ」
…俺の思いが通じた訳ではない。
ただセバスティアンは堂々と誇らしげに、妻の匂いについて彼女に語ったのだった。
決して、彼女の匂いについてではない。
「!…やだぁ、もう、なぁに!君、ツンデレかッ♡」
食い違いつつも偶然に、相棒は回答を間違えなかった。
彼女は明らかに嬉し気で、事もあろうに相棒の腕をバシバシと叩く。
全く、命知らずな女だ。
しかしリリィの覚えめでたい彼女なら、例え彼の頬を打ったとしても無事だろう。
彼でなくとも、α種族の誰もが手も足も出せまい。
何しろ稀代のΩ女王の後ろ盾があるのだ。
そして彼女はリリィの心を射止める上での鍵になろう。
「ま!仲良くね。目の保養になるからさ、近いうちにまた帰ってきてよ。みんな揃ってね!」
…なぜ、この女は人を叩くのか。
笑いながら俺と相棒の肩を背伸びしてまで、バンバンと叩く。
「栄ちゃん…ありがとう」
その様子を妻が涙ぐんで見ている。
理解し難いが、君が良いならそれでいい。
とにかく、彼女は分かりやすい人間の様だ。
扱い易いことは、良いことだ。
さぁ、帰ろう。
俺の愛する君。
もう二度とこんな事はごめんだ。
酷く痛めつけられ、踏み付けにされた。
他でもない、愛する君に。
それでも、君を愛している。
けれども、この痛みは直ぐには癒えぬだろう。
君に、癒して欲しい。
そうでなければ、居られない。
君は、俺を許してくれるだろうか。
\\\٩(๑`^´๑)۶////
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