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愛の独白
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いきなりだけど今日、僕は恋人にプロポーズをすることにした。とても可愛くて、とても優しい××ちゃんと言う、自慢の彼女だ。
お菓子づくりが得意で、よく僕に作っては食べさせてくれる。よくいろんな種類のシフォンケーキを作っているから、何も言わないけれど彼女の好物なのだろう。
そんな彼女との出逢いはさながらドラマのようで、本屋さんで一冊しかない本を取ろうとした時に手が触れ合ったのがきっかけだ。
その時は僕がゆずったのだが、彼女がとびっきりの笑顔で、
『ありがとうございます!』と、言ってくれた時の衝撃はいまだに忘れられない。
まるで脳天に雷が落ち、身体の芯を通って足元まで駆け抜けたような。もしくは、その辺りに落ちている、すこし大きめの石で頭を殴られた感覚と言ってもいいだろう。
そんな表現がしっくりくるほど、それは僕にとって大きな出来事だった。
それから僕たちは仲良くなり、僕は家に招かれるほどの関係になった。
彼女の作るお菓子や、ご飯はどれをとってもとても美味しくて、いつしかこの子と一緒になりたいと思うようになった。でも、いつかは彼女と温かい食卓を囲みたい、そんな幸せを夢見ていた。
ある日、彼女が『最近、部屋のものの位置が変わっていたり、作り置きのおかずとお菓子が減っている気がするの』と、言っていた。彼女の友人は、『それ、ストーカーじゃない? しばらくうちに泊まったら?』と、言っていた。
これが僕がプロポーズすることを決めたきっかけだ。
恋人がそんな目にあっていると知って、無視できるほど僕は落ちぶれてはいない。
「××、今いいかな?」
仕事帰りの彼女を待ち、バラの花束を抱え声をかけた。
「……あの、どちら様ですか?」
彼女はすこし震える声で、たしかにそう言った。
「あはは、笑えない冗談だなあ。僕だって傷ついちゃうよ?」
みるみるうちに彼女の顔色が変わっていくのが、この宵の闇のなかでもわかる。
「僕においしいご飯と、お菓子を作ってくれたじゃないか」
一歩、あゆみを進めると彼女は『ヒッ……』と、蚊がなくような小さな声で悲鳴をあげた。
「今日はね、プロポーズしに来たんだ。今度こそは、君と温かい食卓を一緒に囲みたいんだ」
「あ、あなたなんですか……? 私の部屋に勝手に、入ってるのって……」
「勝手に、って心外だなあ。だって、僕たち恋人同士でしょう?」
彼女は涙目になったかと思えば走り出し、そのまま家路を急いだ。
「……人間って、余裕なくなると本当に後先考えずに行動するんだなあ……」
僕は、そんなことを独りごちた。
スマートフォンを起動させ、遠隔操作で彼女の部屋の電波をジャミングした。これで、もう邪魔者は来ない。
彼女の部屋の前に着き、合鍵を使い中に入ると、暗がりで『なんで……』と、怯える彼女の姿があった。
「なんでって、考えてみなよ? 僕、君の作り置きのご飯食べてるんだよ? 合鍵くらいあるって」
「じゃあ、なんで……さっきから泣き叫んでいるのに、誰も来ないの?」
「それは、管理人さんにお願いして、壁を防音にしたからだよ?」
彼女の顔色が、みるみる変わっていく。
「驚かせたくて、少しずつ防音にしたんだよ?」
管理人ですら僕の味方だと理解した彼女は、項垂れた。
「ふふ、やっと二人きりになれたね、××ちゃん。もう誰にも邪魔されない。結婚しよう?」
花束を手渡して、愛のしるしの誓いのリングを手首につけてあげると、彼女は涙を流しながら静かになった。
カーテンの間からのびる月明かりが、僕たちを祝福していた。
『愛の独白』
お菓子づくりが得意で、よく僕に作っては食べさせてくれる。よくいろんな種類のシフォンケーキを作っているから、何も言わないけれど彼女の好物なのだろう。
そんな彼女との出逢いはさながらドラマのようで、本屋さんで一冊しかない本を取ろうとした時に手が触れ合ったのがきっかけだ。
その時は僕がゆずったのだが、彼女がとびっきりの笑顔で、
『ありがとうございます!』と、言ってくれた時の衝撃はいまだに忘れられない。
まるで脳天に雷が落ち、身体の芯を通って足元まで駆け抜けたような。もしくは、その辺りに落ちている、すこし大きめの石で頭を殴られた感覚と言ってもいいだろう。
そんな表現がしっくりくるほど、それは僕にとって大きな出来事だった。
それから僕たちは仲良くなり、僕は家に招かれるほどの関係になった。
彼女の作るお菓子や、ご飯はどれをとってもとても美味しくて、いつしかこの子と一緒になりたいと思うようになった。でも、いつかは彼女と温かい食卓を囲みたい、そんな幸せを夢見ていた。
ある日、彼女が『最近、部屋のものの位置が変わっていたり、作り置きのおかずとお菓子が減っている気がするの』と、言っていた。彼女の友人は、『それ、ストーカーじゃない? しばらくうちに泊まったら?』と、言っていた。
これが僕がプロポーズすることを決めたきっかけだ。
恋人がそんな目にあっていると知って、無視できるほど僕は落ちぶれてはいない。
「××、今いいかな?」
仕事帰りの彼女を待ち、バラの花束を抱え声をかけた。
「……あの、どちら様ですか?」
彼女はすこし震える声で、たしかにそう言った。
「あはは、笑えない冗談だなあ。僕だって傷ついちゃうよ?」
みるみるうちに彼女の顔色が変わっていくのが、この宵の闇のなかでもわかる。
「僕においしいご飯と、お菓子を作ってくれたじゃないか」
一歩、あゆみを進めると彼女は『ヒッ……』と、蚊がなくような小さな声で悲鳴をあげた。
「今日はね、プロポーズしに来たんだ。今度こそは、君と温かい食卓を一緒に囲みたいんだ」
「あ、あなたなんですか……? 私の部屋に勝手に、入ってるのって……」
「勝手に、って心外だなあ。だって、僕たち恋人同士でしょう?」
彼女は涙目になったかと思えば走り出し、そのまま家路を急いだ。
「……人間って、余裕なくなると本当に後先考えずに行動するんだなあ……」
僕は、そんなことを独りごちた。
スマートフォンを起動させ、遠隔操作で彼女の部屋の電波をジャミングした。これで、もう邪魔者は来ない。
彼女の部屋の前に着き、合鍵を使い中に入ると、暗がりで『なんで……』と、怯える彼女の姿があった。
「なんでって、考えてみなよ? 僕、君の作り置きのご飯食べてるんだよ? 合鍵くらいあるって」
「じゃあ、なんで……さっきから泣き叫んでいるのに、誰も来ないの?」
「それは、管理人さんにお願いして、壁を防音にしたからだよ?」
彼女の顔色が、みるみる変わっていく。
「驚かせたくて、少しずつ防音にしたんだよ?」
管理人ですら僕の味方だと理解した彼女は、項垂れた。
「ふふ、やっと二人きりになれたね、××ちゃん。もう誰にも邪魔されない。結婚しよう?」
花束を手渡して、愛のしるしの誓いのリングを手首につけてあげると、彼女は涙を流しながら静かになった。
カーテンの間からのびる月明かりが、僕たちを祝福していた。
『愛の独白』
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