夢端草(むたんそう)

ぐるぐるめー

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第二十三話 学校と再会とお宝探し

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 冒険者レンタル事業が打ち切りになったロゼッタは、暇を持て余していた。
 毎日アントンに仕事のかたわら勉強を教えてもらっているが、それも飽きた。ロゼッタは、あんなに嫌がっていた学校にまた通いたいなと思うようになっていた。思い返してみれば、勉強は難しいが、学校には勉強以外にも楽しいことが沢山あったような気がする。給食とか、体育とか、音楽とか。
 ロゼッタはジェイクに学校に通わせてもらえないか打診してみることにした。
「ねえジェイク、あたし学校に行きたい」
「学校?お前、学校はあんなに嫌がっていたじゃねえか」
「アントンに教えてもらってだいぶ勉強分かるようになったの。今なら授業ついていけるような気がする」
「学校……ねえ……。この街の学校あたってみるけど、入れるかどうかはわかんねえぞ?」
「やったあ!ありがとうジェイク!」
 そしてジェイクは街の小学校に打診し、編入手続きを済ませた。しかし、今はちょうど長期の夏季休暇だった。学校に通えるのはあと二週間後となる。それまでに勉強しておいてほしいということで、ロゼッタには大量の宿題が手渡された。
「こんなにできないよーー!!」
「ロゼッタ、僕も手伝うから、学校についていくために頑張ろう?」
アントンは「これは忙しくなりそうだ」と覚悟を決めた。

 そして待ちに待った新学期。宿題を何とか間に合わせたロゼッタが大量の宿題と教科書をリュックサックに詰めて登校すると、担任の教師から自己紹介を勧められた。
「ろ、ロゼッタ・ウェイドッターです。仲良くしてください」
 ロゼッタが偽名のロゼッタを名乗ることに一抹の罪悪感を抱えながら挨拶すると、教室から拍手が起こった。
「席は後ろの窓際に用意しているわ」
 担任の犬族の女教師に促され、ロゼッタは指定の席に座った。隣の席は──なんと、一緒に冒険した妖精族の鍵屋、ヨッケだった。
「あーーーー!あなた、あの時の!ヨッケ!」
 ヨッケは頭を抱えた。よりによって会いたかったような会いたくなかったような少女が同じ学校の隣の席とは。
「よ、よろしく」
 ヨッケは目を合わせずに手で挨拶して済ませた。
「偶然だね!これからよろしくね!」
 ロゼッタは顔見知りがクラスにいることを素直に喜んだ。誰もいないよりは、一人でも味方がいれば安心だ。
「楽しくなりそう!」
 ロゼッタはこれからの学校生活を想って、期待に胸を膨らませた。

 そんなある日の放課後、ロゼッタはヨッケに声を掛けられた。
「なあ、お前、冒険者レンタルの仕事はどうしたんだよ?毎日学校に来ているみたいだけど、忙しくないのか?」
 その言葉に表情を曇らせるロゼッタ。
「冒険者レンタルはやめたの。悪い冒険者に誘拐されて、奴隷として売られそうになって、危ないからって……」
「ど、奴隷?!気を付けろよ!まあ、無事でよかったけど……。そうか。また一緒に冒険したかったな」
 ヨッケは驚きはしたが、ロゼッタの無事な様子を見て胸をなでおろした。だが、もうやめてしまったとは惜しい。また一緒に冒険する口実がなくなってしまう。しかし、冒険したい気持ちはロゼッタも同じだ。
「あたしもまたヨッケたちと冒険したい!あたしが誘拐されたのはね、知らない悪い冒険者に当たったからなの。だから、いつも冒険してるヨッケたちとなら、また冒険したいよ!」
 その様子を見て、ヨッケはこう提案した。
「危なくなければいいんだろ?今度の連休、また冒険に行くんだ。だから一緒に行こうぜ。おじさん達に俺達からも頼み込んでみるからさ!」
 斯くしてアンダース一行は渋るジェイクたちにもう一度ロゼッタを貸してくれないかと拝み倒した。ジェイクもアントンもなかなか首を縦に振らなかったが、「俺達は信頼してくれるだろう?」の一言に、許可を出さないわけにいかなかった。アンダース達は、確かにジェイクの店の常連だからだ。
「絶対に無事に帰してくれよ?」
 ジェイクが念を押すと
「神に誓うよ、親友!」
とアンダースはジェイクと拳を突き合せた。

 さて、お待ちかねの連休の朝。いつもの待ち合わせ場所に入念に装備を整えたロゼッタの姿があった。
「今日はどこに行くの?」
「廃坑の奥に眠るお宝を探しに行くんだ。もう宝石が取りつくされた鉱山なんだけど、いまでもまれに宝石のかけらが手に入るのさ」
 アンダースの説明に、ロゼッタは目を輝かせた。
「宝石?!うわあー!行こう行こう!」
 そして一行は愛車の六輪蒸気幌自動車に乗り込み、廃坑へと向かった。
「私が明かりを灯すから、みんなは離れないでね」
 マリアがライティングの魔法を使い、杖の先の魔宝玉から眩しい光が迸った。廃坑内は昼のように明るくなる。
「足元気を付けろよ」
 慎重に奥に進むと、杖の光を受けて蛍光色に光る小石が壁のあちこちで見つかった。
「おお!これだこれだ!この鉱山で取れる石、タンダンライトだ!」
 アンダースとアリィ、ヨッケは慎重に周りの岩を削り、タンダンライトを掘りだした。
 磨けばオレンジ色に透き通る美しい宝石だが、掘りたての原石ではその美しさを隠している。アンダースは水筒の水をかけて原石の土埃を洗い流した。
「この状態でも、ほら、ガラスみたいに透き通ってるのが判るだろう?」
「んー……あんまりよくわからない。こんな石ころが本当に宝石なの?」
 アンダースはチチチと人差し指を振る。
「宝石っていうのは職人が磨かないと輝かないものなんだ」
 歩を進めると、思ったより沢山のタンダンライトが光り輝いた。それを片っ端から掘り出す。この中に数万ファルスのお宝が紛れていれば大儲けだ。
「こんなにたくさん宝石が見つかったら大儲けじゃん!」
「実はな、宝石はそんなに珍しいものじゃないんだ。その多くはコレクターの研究材料として数ファルスぐらいで手軽に取引されているんだぜ」
「数ファルス……」
 大金持ちの夢を見たロゼッタの夢を、即座に現実の数字で打ち壊すアンダース。さらにヨッケが追い打ちをかける。
「この前の鉱山では売り上げの総額が五二ファルスだったな」
「五二ファルス……」
「でも!中には百ファルス以上のお宝も紛れているんだ!その一獲千金の夢が、廃坑探しにはあるんだよ!」
 アンダースが握りこぶしをかざして力説すると、なぜだかロゼッタも夢を見れそうな気がしてきた。
「探そう!百ファルス!」
「オー!」

 さらに歩を進めると、坑道の途中に鍵のかかったドアが現れた。ここは鍵屋のヨッケの出番である。
「鍵が錆びついて開かない……開いた!」
 ギギイ~ッと錆びついた音を立ててドアが開く。マリアが先頭に立ってその中を照らす。……と。
「うわあーーー!!虹色のクリスタルクラスターだ!」
 そこは生活の痕跡の残る小部屋で、壁に取り付けたテーブルの上にはそこかしこに虹色に輝くクリスタルのクラスターが鎮座していた。それも、その数は十塊以上。
「待て。罠があるかもしれない」
 慎重に摺り足で歩を進めるが、その部屋には埃をかぶった生活道具とクリスタルクラスターしかないようだった。
「これ、売るといくらになるの?」
「間違いなく百ファルス以上だ!」
 部屋中に歓声が響いた。おそらく今まで腕のいい鍵屋も現れず、錆びついた鍵を開ける指先技を持つ者もいなかったことから、この部屋は忘れられていたのだろう。
「一個貰っていい?」
「もちろん、こんなにいっぱいあるんだ。小さいのは各自お土産にして、大きいのだけ売ろう」
 斯くして、久しぶりの大冒険は大収穫だった。街に帰ってきて宝石商に見せると、総額三二〇ファルスの売り上げだった。
 ロゼッタは「また今度も冒険に連れてって」と約束し、パーティーは一旦解散した。

「嬉しそうだなロゼッタ?」
 食卓で冒険譚を得意げに語るロゼッタに、ジェイクも嬉しそうだ。
「嬉しいに決まってるよ!また冒険に行くんだ!学校も冒険も大好き!」
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