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●本編●
72.晩餐は胸騒ぎとともに…。
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銀后が高く上った夜空には星々がチラチラと静かに瞬く時刻、ところ変わった食堂では1人を除いて家族が同じ食卓を囲み、和やかな団欒の時を過ごしていた。
……とはとても言えない殺伐とした空気しか感じられない、それもこれも昨晩と変わらぬ不機嫌さで食卓の中央に配された席に座すこの公爵家の当主、コーネリアスが元凶だった。
今現在不機嫌な理由も昨日と似通った内容だと言えるかもしれない、けれど今日は昨日とは決定的に違う点が2つある。
その相違点がコーネリアスの不機嫌をここまで長引かせている要因であるのは、火を見るより明らかだった。
まず第一に、今この晩餐の席には公爵夫人たるアヴィゲイルの姿がないこと、これはつまり、この当主のどんな機嫌の悪さもたちどころに回復に導ける唯一の存在を欠いていることを意味する。
これは控えめに言って由々しき事態だった。
伝家の宝刀『鶴の一声』が発動しないということは、食事が終わってもこのまま、今の段階ではコーネリアスの不機嫌はアヴィゲイルに再会するまで直る見込みがないということだった。
こんな雰囲気で食事をするのは気が進まない、口に入れても本来の美味しさを味わえる気がしない、それでは食事の楽しみが半減してしまって意味がないからだ。
しかしそう考えているのはこの4人の中では末っ子のライリエルのみのようだった。
その証拠に彼女と父親以外、息子2人は常と変わらずに自分のペースを崩さず粛々と食べ進めているからだ。
昨日と変わらず次男の食べる量は常軌を逸してはいたが、これが普段通りであり通常通りだった。
父親の不機嫌さには慣れっ子感が強い、成長過程で幾度も遭遇した機会の多い場面であるかのように全く動じていない。
心臓に毛が生えているのはなにも使用人だけではない、この公爵の子息という立場も生半可な内臓機能ではやっていかれないのだ。
そして第二の理由、これが今日最も不機嫌さに拍車をかけているかもしれない。
アヴィゲイルの寝室にズカズカと上がり込んで(誇張表現有)のうのうと言いたいことだけを言い放った(悪意ある誇張表現有)後、事もあろうに娘を物の如く譲れと宣ってきた男、領地家令を務めるサミュエルの己の立場を弁えない言動に激しい憤りを抱いているのだった。
昨日はコーネリアスの数少ない友人としてその名を連ねるオーヴェテルネル公爵家の現当主、セルヴィウス・デ・ラ・オーヴェテルネルがこのフォスラプスィ王国の現国王、ローデリヒに直談判してしたためさせた王命を記した手紙とその内容によって、混沌を生み出すほどに機嫌を損なっていた。
8割方本気でアヴィゲイルに王城を襲撃しても良いか許可を求めたが、案の定微笑みとともに敢え無く即却下された。
愛妻からの許可が降りなかったことと、奇しくも相手が自分が仕える君主であったことがコーネリアスの強行に打って出ようとする物騒な欲求を強く押し止めることができた。
しかし今日不機嫌の原因となったのはこの公爵家に本人たっての希望で奉公している一使用人の男だった。
昔から人の神経をわざと逆なでするような言動で相手の反応を見て楽しむ悪癖がある男だったが、近年では社交の場ではそういった問題だらけの態度は鳴りを潜めて、ある程度プライベートな場でのみ悪癖が顕現するようになっていたことが災いした。
如何に幼少期から何かと顔を突き合わせ、ある程度気心が知れている旧知の間柄だとは言え、今日の言動は度を越している、到底笑って看過できるものではなかった。
何が1番質が悪いかといえばあれがほぼほぼ本気、全くの冗談ではなかった点だ。
お綺麗な言葉と作った表情を取っ払って、ほとんど素の状態で吐かれた戯言を、ただの戯言として捨て置くことができない。
本気で望むものの為なら何をしでかすかわからない、サミュエルはそんな困った一面も持ち合わせているとても厄介極まりない人物だったのだ。
何故自分がたかが一使用人の言動にここまで煩わされなければならないのか、冗談として捨て置けない可能性を見つけてしまえるほどあの男の言動が常とは違うことに気付いてしまえる自分が普通にキモチワルイ、そしてなにより、こうやってあの男の言動に憤っているコーネリアスの状況すら確実に愉しんでケタケタ笑っているだろうサミュエルの姿をありありと想像することができてしまうことこそが1番の業腹なのだった。
「っっっっっっっはぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」
諸々の負の感情を正常処理しきれずに吐き出された溜息は不完全燃焼の結果出された黒煙のようにドス黒く染まって見えた。
体内には今だに燃焼しきれていない負の感情が熾火にならずに燻っている状態で、最悪のままの機嫌は回復する見込みがない。
食卓の上に両肘をついて組み合せた手の上に額を預けて俯いて、今は意味をなさない唸り声を上げている。
怖すぎると怯えは消えないまでも、少しでも外に感情を吐き出し始めた今が好機、と自分を鼓舞してなけなしでも勇気を出しておずおずと控え目に声をかける。
「お父様…そろそろ食べませんか?」
昨日までであれば『君子危うきに近寄らず』、『生命大事に』を言い訳に、不機嫌絶頂の父親に声をかける勇気など欠片も持てはしなかっただろう、それ程自分は己の身の安全を第一に考え、保身に邁進したチキンだったのだ。
私のか細くなってしまった声を、それでもしっかりとその耳で聞き届けて、それまで自分の負の感情にのみ向き合っていたお父様がはっとして返事を返して下さった。
「んん!? あー、あぁ、そうか、…そういえば食堂に移動したのだったか…? おやぁ、ライラは…食べていないのかい?? もしや私を…待っていてくれたのかなぁ、いやしかし、ライラも空腹だっただろうにぃ~~?!」
「うぅ…、そうですけれど、そこには触れないでいただきたかったですぅ…。 お腹は空いてますけど、でも、お父様を待たずに食べるのは気が引けて…、だって、折角一緒に食べられるのに、ばらばらにお食事したら、……寂しいです。」
お父様は私が現在とっている行動をどうしてそうするのかわからない、と言いたげに困惑しながら指摘してきた。
自分の空腹を堪えてまで一緒に食べることを望む私の心境が全く思い至らないと顔に書いてある。
何故ここでお父様が私のお腹事情を完璧に把握しているのかといえば、あの時お母様の寝室に居合わせた誰もが皆、私が空腹であったことをすっかり承知しているからだと言えた。
それは何故かといえば答えは単純明快、空腹に耐えかねた私の腹の虫が盛大な咆哮を上げてしまったからだ。
ホント、この欲望に忠実過ぎる腹の虫には困ったものだ、誕生日パーティーの時といい、『今ここで鳴っちゃう?!』という絶妙のタイミングで盛大にやらかしてくれるのだからたまったものではない。
主に精神が摩耗する、羞恥が極まって埋まりたくなってしまうから勘弁願いたい。
そして何より耐え難いのが周囲の反応、生暖かな微笑みとともに何とも言えない気遣わし気な視線を寄越されることだ。
お父様もお母様も、微笑まし気に見遣って『お腹が空いたかぁ、そうかそうかぁ~~!』とか『そういえばすっかり遅い時間になってしまったわね、食事の準備を急がせましょうか?』とか、私に優しく笑いかけながら言って下さった。
その優しさが痛い、16歳の多感な精神にはグサリと刺さるものがあった
ユーゴさんは聞こえないふりを必死にしてはいたけれど、ばっちり聞こえていたとわかる、固く引き結んでいる口元はぷるぷるしていて今にも空気漏れが発生しそうな不安定さだったし、身体はもっと震えていた。
そこまでして堪えるくらいならもういっそのこと盛大に呵ってほしかった。
あまり過剰な反応を表さなかったのは使用人の2人、オズワルドは普段よりも目元を和らげて微笑んでいただけだし、メリッサは安定の鉄面皮でその表情は不動の構えだった。
これはこれで、居た堪れない気分にさせられた。
感情の赴くまま自然体で在るが儘の素直な反応を見せたのはサミュエルだけだった、彼はまったく堪える素振りなく「生きてる証拠、元気で正直なお腹ですねぇ~~!!」と心底可笑しそうに呵っていた。
清々しいほど呵われて、ちょっとだけ恥ずかしさよりもそこはかとない悲しみが上回った。
でもイケオジの笑顔が見られたから…許す一択♡
ともかく私の空腹が判明したことがきっかけとなり、話の流れは自然と食事関係へと移り変わった。
その話の中でお母様は軽くドクターストップを受けた、医師のユーゴさんの進言で大事をとって今日の夕食は自室でとることになったのだ。
お父様はそのままお母様のそばにいたそうだったけれど、お母様に笑顔で諭された結果、食堂で私たちと夕食をとることを最終的には承諾した。
そしてやっと迎えた食事時、だというのにお父様はあんな状態で自分の世界に閉じ籠もってしまっていた、その時間がどれくらいだったかというと、エリファスお兄様が今正にデザートにあり着くくらいには時間が経過していた。
ーーうん、自分で説明していてなんだけど、どれくらいの時間が経ったかがイマイチピンとこないわね。 だってエリファスお兄様ったら食べる量もだけれど、その速度も驚異的なのだもの!ーー
真正面に座すエリファスお兄様のお皿の上からお父様を飛び越えた左側へと視線を動かしてみる、するとそこには本日のメインの肉料理、その最後の一切れをマナーに則った綺麗な所作で口に運ぶアルヴェインお兄様の姿が目に映った。
ーーあらら、アルヴェインお兄様も殆ど食べ終えてしまわれている。 昨日と比べて品数は少ないとはいえ、流石育ち盛りの男の子、アルヴェインお兄様も食欲旺盛で健康的ね!ーー
何目線かわからない感想を胸で呟き、視線を少し右に移動してお父様の方へと角度を修正する。
お父様の前に置かれたお皿の上の料理は一番最初に出された前菜のままだ。
私は今日も皆とは違うメニューで準備されているから全ての料理が出揃っている。
けれどそれが最初に出された状態のまま、手を付けていないことは使われていないカトラリーの状態で一目瞭然だった。
今お父様は困惑した表情のまま、私をじっと見つめて何事か考え込んでいる。
ドス黒い殺伐としたオーラが噴出されなくなっただけで居心地は劇的に改善されたが、ここで1番の目的である食事が開始される気配は未だにない。
『寂しい』と言ってしまった事を少し後悔した。
深刻に思い悩んで口にしたわけではなかったのに、思いの外その言葉にそれらしい感情が含まれて響いてしまったからだ。
お父様が私の『寂しい』と言った感情を疎ましがるとは思えないが、だからといって気に病ませたくて言ったわけでもない、だからここでお父様が私の言葉を過剰に捉えすぎてしまわないかが心配となった。
ーーお父様…何も言ってくださらない。 どうしよう、私の言葉をどう受け取られたのか今の表情から全然読み取れないし、この後何て声をかければ無難かしら?ーー
私も私で自分の考えに囚われだしてしまい、膠着状態へと突入してしまいそうな場の空気を察して、それまで口を閉ざしていたアルヴェインお兄様が私に向かって躊躇いがちに言葉を投げかけてきた。
「ライラ、そんな風に考えていたのか? 今僕たちが父上を待たずに食べ進めてしまっていたのも『寂しい』と、そう思いながら見ていたってことかい?」
「えぇと、何ていえば良いのか…、今朝のように私が寝坊したのを待っててほしいとかではなくて、バラバラに食べ始めたならそれで構わないんですけど! 今は4人が一緒の時間に集まれたのに、1人だけ残してっていうのが…私的に引っかかってしまって、ちょっと『寂しい』なって。 上手くい伝えられていないとは思うんですが、だからってお兄様たちにもそうして欲しいわけではないんですよ!? 殆ど自己満足の部類で、ホントに私の個人的な気持ちの問題で!! だからって言葉ほど真剣に寂寥感に駆られているわけでもなくてですね?!」
自分の考えをうまく言葉にできていないし、自分が酷く矛盾したことを言っているようにも感じてしまう。
そもそももう既に自分は昨日、お父様を放置してしまっているのだから。
昨日の晩餐の席で、不機嫌絶頂のお父様を放置して食べ始めることに本当は少なからず抵抗感があった。
けれどメイヴィスお姉様が同席していたのでその状況を気にしている自分を誤魔化しながら、気付かないふりをして食べ始めた。
もしずっと隣に座る私が食べずにいたらお客様であるのにメイヴィスお姉様は私に倣って食べるのを遠慮してしまうに違いない。
ただでさえド緊張していたのにそれに加えて不必要な気遣いをさせることになってしまう、それは強引に誘って参加させてしまった手前、なんとしても避けなければならない事態だった。
本当に私の考えに共感してほしいとか、同じ考え方をしてほしいとか思っているわけではない。
ここでは言葉にできなかったけれど、私はどうしても捨てきれないある憧れがあったのだ。
理想とする『家族団欒の時間』、それはこと食事に関していえば皆揃って『いただきます』をしてから同じタイミングで食べ始めたい、ということだった。
テレビドラマで良く見られるありふれた家族の食事風景、それがわたしにはとても眩しく映ったものだった。
『いただきます』も『ごちそうさま』も、わたしが口にすることは許されなかったから。
他の家族が食べ始めてから箸を取り、常に無言で粛々と食べ進めて、邪魔にならないように誰よりも早く食べ終えて食卓を離れる。
食事の時間はわたしにとって楽しい時間ではなかった。
限られた時間で目の前に置かれた食器の中身を腹に詰め込むだけの作業をこなす時間でしかなかったから、楽しいなどと思えるはずもなかった。
昨日までの自分ならこんなちっぽけな感傷によって抱いた憧憬なんかに左右されずに、前世の記憶を基準に考えてその場の流れに逆らわずお兄様たちと同じタイミングで食べ始めていたと思う。
こうやって理由を聞かれても上手く自分の考えを言える自信がなかったし、まして自分の意見を言ってもそれに最後まで耳を傾けて聞き届けてもらえるなどとは決して思えなかっただろうから。
でもそれはあくまでも昨日までの私の話だ。
今の私は違う、だってお父様が私に信じさせてくれたから。
前世は前世でしか無く、私の中に残された記憶は只の過去の事象、過ぎ去った時間に起こった出来事でしかないのだと。
過去が現在に干渉できるはずはない、まして世界が違うのだから万に一つも影響することなどありはしないのだと。
だから今、ちょっとだけでも勇気が出せた。
自分の憧れを実現するために、頑張ってみようと思えた。
前世の家族はわたしを尽く否定して拒絶したけれど、今世の家族はそうでないと、信じたいと思える希望をくれたから。
「私が単純にそうしたかったから待っていただけなんです。 私はどんな理由でも待っててもらえなかったら寂しいって思うだろうし、もし待っててもらえたなら申し訳なく思って、それでもやっぱり嬉しいって思うから! 他意はなくて、私がしてもらえたら嬉しい事をしただけなんです!! って言っても…うぅ~~ん、やっぱり上手く言葉にできてないですよねぇ…? 自分の考えを言葉で説明するのって、難しいですね。」
自分の思ったままの考えを言葉にして、結局先程ど同じように不完全な説明であるように思われて眉を情けなくハの字にして苦笑する。
これ以上無理に言葉を並べても私の中の考えをピタリと言い表せる相応しい言葉は出てこないと思えた。
ーー兎に角、全くの自己満足である、この点だけでもちゃんと伝わって、お兄様が気に病まないでくれると良いのだけれど…、伝わったかしら?ーー
今度はアルヴェインお兄様までもが神妙な面持ちで黙り込んでしまわれた、頑張るタイミングを間違えただろうかと後悔し始めたときーー。
……っぐうぅ~~~っ、きゅるるるるぅ~~っ、きゅるぅ~~~…。
ーーホント!! 何でっ?! 何故こんな少しの物音が際立って聞こえるくらい静かになったタイミングで狙いすましたかのように高らかな咆哮を上げてしまうのかしら、私のお腹の虫コノ野郎ーーーーっ!!!ーー
哀愁漂う旋律で切なさを存分に遺憾なく響かせて、誰の耳にも明らかに届いてしまった切羽詰まった訴えを、もしも今時を巻き戻せたならこんな風に限界を告げる前に何かしらの食物を口にしようと全力を賭して実行しようとしただろう、恐らく、多分、絶対。
そんな無意味なタラレバを考えていないと、すぐにでも羞恥心に支配されて埋まりくなって駆け出してしまいそうだった。
ここに今、サミュエルみたいな『空気読むって、何それ、美味しいの?』的な考えのもと自分の気の赴くまま自然体で自分の感情を正直に晒してしまえる存在が居てくれて豪快に笑い飛ばしてくれたなら、と切に願ってしまう。
実際に笑い飛ばされたらされたで悲しくはなるのだけど、それはそれだ。
そう思っていると視界の端で身体をぶるぶる震わせる影が一つ、それからは今日何度目かの爆笑をさらった。
「あっはっはっはっはっは、おっかしぃ~、ライラってば、最っ高!! ふっ……っはは!! ホント、面白い、…くらい、あはっ…は、…っははは!! 絶妙の間で、……鳴らすんだもんなぁ~~っ!! あははは、……っはは、……くくっ、ふっ……っ、……っ!!」
自分に都合の良い展開を身勝手にも望んでいると、自分に誰よりも正直な存在がここにはいた事を思い出させてくれた、その屈託ない笑い声で以ってその存在を存分に示してくれたのだ。
ーーそこまで笑えるほど、だろうか? 私のお腹の虫なんて、ただ濁音を上げるだけで単調極まりない芸当しか持ち合わせていないというのに……、それにしてもエリファスお兄様の笑い悶える姿は眼福の一言だわ♡ーー
余すこと無く笑い悶える次兄の姿を目に焼き付けて、その無防備な笑顔を連射して心のアルバムに次々に収めていく。
このままのペースだと、一年で一体何千枚撮影するかといったハイペースになりそうだ。
込み上げる笑いに抗うこと無く呵うエリファスお兄様につられてか、同じような表情で黙りこくっていたお父様とアルヴェインお兄様も相好を崩して控え目にだが笑い始めた。
ーーあ…、こうして笑う3人のお顔を見ると、親子なんだって良く分かる。 表情の出し方が似通っているし、眉の下がる角度が激似! あ、あと笑うのを控え目にしている口元が激似!! 大口開けて呵ったら、きっとエリファスお兄様との激似ポイントももっとわかったのに、凄く残念だわ!!!ーー
こうやってイケメンの笑顔を見られる確率が上がるのなら、今の場を弁えない私の腹の虫も、いい仕事をしたと手放しで褒められる……気がする!!
なにより家族が笑顔でいてくれるのが私には嬉しいことこの上ない現状だった。
私は皆に笑顔を見せてもらえるだけ内側の存在であると証明してくれる、これ以上ない動かぬ証拠なのだから。
温かな笑い声が広がっていく食堂で、独り微笑みながら家族の顔に浮かぶそれどれの笑顔を堪能して、それと同時進行でこの素晴らしい光景を心のアルバムに納めていく作業も余念なく行っていて穏やかな表情とは裏腹に頭は常にフル回転、オーバーヒート一歩手前でやっと目の前の男性陣たちは笑いをおさめてくれたので残念なような助かったような、複雑な心境となってしまったのは、墓場までの機密事項だ。
その後は終始穏やかで和やかな雰囲気で食事を終えられた。
お母様を欠いた状態で、一時はどうなるかと気を揉んだが蓋を開ければあ~~ら、不思議☆
イケメン親子の写真撮影が捗ること捗ること!!
ーーホント、持つべき者は顔面偏差値ハイタカなイケメン家族♡よね♡♡ーー
私とお父様とが食べ始めたタイミングは同じだったはずなのに、食べ終わったのは私が一番遅くなるという謎の結果だった、解せぬ!!
お父様はコース形式だから1つのお皿を空にしてから次の料理がのったお皿が運ばれてくるまでにタイムラグが発生していたのに、なんで私より早く食べ切れるのという結果になったのかがわからない。
大食い・早食いの2冠に輝く不動の1位はエリファスお兄様でまず間違いない、その次席はどうやらアルヴェインお兄様よりもお父様が着く気配が濃厚だ。
巻き返しのスピードが半端なかった、お父様ってば本当に胃袋が若い、その事実にただただ感心するばかりだった。
しかも食べる合間にお兄様たちに向かって雑談を仕掛けてもいたのだから脱帽だ。
その内容はお兄様たちが寝室から席を外していた間に起こった出来事に関してだった、医療魔術師たちによるお母様の診察結果だったり、ユーゴさんの見解だったり、乱入(悪意ある誇張表現)してきた領地家令からの報告だったりを連連と淀みなく説明していく。
そういえば筆頭医師のユーゴさん、後半は壁際でひっそりと気配を殺して必死に空気になろうとしていた。
サミュエルからの唐突な話題振りに恐れ慄いてからはすんごく静かだった。
お母様の寝室を辞する前に言っていたけれど、明日はこの屋敷の地下1階にある救護室に詰めている予定らしい。
そしてもし万が一、夜の間にお母様の容態が急変したり、何か些細な違和感でも感じたなら遠慮なく3階の私室に呼びつけに来て欲しい、と言っていた。
彼ももれなく上級使用人に該当するらしく、この屋敷の3階に個室を与えられているそうだ。
年末年始も特に外出を要する予定もなく帰省もしない、この屋敷で変わらず過ごすつもりらしい、なんてことのない雑談であると平静を装って言葉を発してはいたけれど、口元がおおいに引き攣っていた。
何故だろうと不思議には思ったが、お父様が笑いを堪えるようにぷるぷるしていることのほうが気になって、あの場ではユーゴさんに尋ねる機会を逃してしまった。
解決したこともあるけれど、未解決のことの方が多い、気がする。
お母様の命を狙った輩が誰であるのかもまだわからないし、今後どんな手を使ってくるかもわからない。
けれど怯えていたって始まらないのだから、私は私にできる事・やれる事をひたすら愚直にやるしかない。
そしてそのやれることの記念すべき第一手は、急遽本人から提案された特別任務、ズバリお母様に添い寝してさしあげること!!
夜中に目が覚めないままで何かあっては目もあてられない、だからといって侍女が夜中の間中ずっと寝ずの番をしていたらお母様の気が休まらないかもしれない。
私が勝手に不安がってあれこれと心配していると、私の考えを読んだのかお母様がふふっと微笑った気配がした、そう思ってお母様を見ると自然と目があって、その流れで『ライラちゃんさえ嫌でなかったら、今日はお母様と一緒に寝てくれないかしら?』と提案されたのだった。
そんなの断る理由なんてない、是が非でも遂行してみせると熱い闘志を滾らせて一も二も無く頷いてみせた。
人生初、母親と一緒のベッドで寝るという全くの未知なる体験に、気が早いことに今から心臓がバクバクしていて、ちょっと控え目に言って破裂しそうなほど高鳴ってしまっている。
今からこれでは先が思いやられる、お母様の超可憐な妖精の如き美しさの顔を超至近距離で見てしまったなら、鼻粘膜が耐久値の限界を突破してしまうかもしれない。
ーーそれは取り返しのつかない大事故だわ!! 落ち着け、落ち着くのよライリエル!! 心頭滅却に失敗してしまったなら人として終わってしまうわ!!ーー
スーハー、スーーハーー、スーーーハーーーッ!!
突如開始された幼女の深呼吸に、すかさず目の前の男性陣から怒涛の質問攻めに合う、こればかりは異常行動すぎて無視できなかったようだ。
「どうしたんだい、ライラ?! そんなに力一杯深呼吸をしてぇ、息が苦しいのかい!? とにかく一度駄目元ででも治癒魔法をかけてみせようか!!」
「ライラ、何が辛い?! お兄様に言ってごらん、我慢せずに言っていいんだからね??」
「うぅ~~ん、ちょっと遠くて分かりづらいけど、顔色はちょっと赤味が強いかなぁ~? 毒とかそういうのはあり得ないだろうけど、何か変なものでも食事に混入してたかなぁ~~??」
「お、落ち着いてくださいな、お父様、アルヴェインお兄様、エリファスお兄様も!! 私は元気です、本当にっ、本当ですからね!? 治癒魔法も必要ありませんし、我慢なんて一つもしてませんし、食事は美味しくて安全そのものでしたからね?! ちょっと今夜のことを考えていたら緊張してしまって、呼吸を整えて逸る心臓を落ち着かせたかっただけですから!!!」
3人3様の質問に、取りこぼすことなく弁明する。
中には無実の使用人の人命が危ぶまれる発言が含まれていたので、気が気でない。
慌てたせいかついポロッと本音を零してしまった。
今夜遂行する任務、そのことを思うと自然とドキドキして、えらく緊張してしまっていた事実を素直にゲロってしまったと気付いて、サーーーッと血の気が引く。
ーー実母と一緒に寝るだけなのに、緊張する娘って、普通に考えてだいぶヤヴァイわよね…? どうしよう、私のヘンテコでポンコツなコミュ力ではこの失言を上手くカバーリングできる気がしない!! オワタ…!!!ーー
自分の失態に打ち拉がれすぎて、兄ーズからの『どういう事?』的な視線をガン無視してしまった。
その結果消去法でこの疑問に答えられる人物を絞ったところ、今夜何があるのか知っているのは私を除けばこの中でお父様唯一人、という結論に達して自然と息子2人からの疑問を訴える視線がお父様に集中した。
それにお父様がすんなりと答えた結果、次兄が新たな爆弾発言を投下することとなった。
「えぇ~、良いなぁ~~! じゃぁボクも一緒に添い寝するぅ~、勿論母さんとは反対側のライラの隣で♡」
「却下、は~~い、却下ぁ~~!! エリファスぅ、私が許すと思うのかいぃ~~?! いくらライラを間に挟んでいてもだよぉ、私が許すと本気で思っての発言ではないよねぇ~~!!?」
「えぇ~、駄目なのぉ~~?」
「エリファス、わかっていて言っているだろう、そういう所は本当にどうにかしろ!!」
ゴタゴタと揉める公爵家の男性陣を放置して、このあとしばらく自分の思考に埋没することになった私は、悪くなかったと思いたい。
……とはとても言えない殺伐とした空気しか感じられない、それもこれも昨晩と変わらぬ不機嫌さで食卓の中央に配された席に座すこの公爵家の当主、コーネリアスが元凶だった。
今現在不機嫌な理由も昨日と似通った内容だと言えるかもしれない、けれど今日は昨日とは決定的に違う点が2つある。
その相違点がコーネリアスの不機嫌をここまで長引かせている要因であるのは、火を見るより明らかだった。
まず第一に、今この晩餐の席には公爵夫人たるアヴィゲイルの姿がないこと、これはつまり、この当主のどんな機嫌の悪さもたちどころに回復に導ける唯一の存在を欠いていることを意味する。
これは控えめに言って由々しき事態だった。
伝家の宝刀『鶴の一声』が発動しないということは、食事が終わってもこのまま、今の段階ではコーネリアスの不機嫌はアヴィゲイルに再会するまで直る見込みがないということだった。
こんな雰囲気で食事をするのは気が進まない、口に入れても本来の美味しさを味わえる気がしない、それでは食事の楽しみが半減してしまって意味がないからだ。
しかしそう考えているのはこの4人の中では末っ子のライリエルのみのようだった。
その証拠に彼女と父親以外、息子2人は常と変わらずに自分のペースを崩さず粛々と食べ進めているからだ。
昨日と変わらず次男の食べる量は常軌を逸してはいたが、これが普段通りであり通常通りだった。
父親の不機嫌さには慣れっ子感が強い、成長過程で幾度も遭遇した機会の多い場面であるかのように全く動じていない。
心臓に毛が生えているのはなにも使用人だけではない、この公爵の子息という立場も生半可な内臓機能ではやっていかれないのだ。
そして第二の理由、これが今日最も不機嫌さに拍車をかけているかもしれない。
アヴィゲイルの寝室にズカズカと上がり込んで(誇張表現有)のうのうと言いたいことだけを言い放った(悪意ある誇張表現有)後、事もあろうに娘を物の如く譲れと宣ってきた男、領地家令を務めるサミュエルの己の立場を弁えない言動に激しい憤りを抱いているのだった。
昨日はコーネリアスの数少ない友人としてその名を連ねるオーヴェテルネル公爵家の現当主、セルヴィウス・デ・ラ・オーヴェテルネルがこのフォスラプスィ王国の現国王、ローデリヒに直談判してしたためさせた王命を記した手紙とその内容によって、混沌を生み出すほどに機嫌を損なっていた。
8割方本気でアヴィゲイルに王城を襲撃しても良いか許可を求めたが、案の定微笑みとともに敢え無く即却下された。
愛妻からの許可が降りなかったことと、奇しくも相手が自分が仕える君主であったことがコーネリアスの強行に打って出ようとする物騒な欲求を強く押し止めることができた。
しかし今日不機嫌の原因となったのはこの公爵家に本人たっての希望で奉公している一使用人の男だった。
昔から人の神経をわざと逆なでするような言動で相手の反応を見て楽しむ悪癖がある男だったが、近年では社交の場ではそういった問題だらけの態度は鳴りを潜めて、ある程度プライベートな場でのみ悪癖が顕現するようになっていたことが災いした。
如何に幼少期から何かと顔を突き合わせ、ある程度気心が知れている旧知の間柄だとは言え、今日の言動は度を越している、到底笑って看過できるものではなかった。
何が1番質が悪いかといえばあれがほぼほぼ本気、全くの冗談ではなかった点だ。
お綺麗な言葉と作った表情を取っ払って、ほとんど素の状態で吐かれた戯言を、ただの戯言として捨て置くことができない。
本気で望むものの為なら何をしでかすかわからない、サミュエルはそんな困った一面も持ち合わせているとても厄介極まりない人物だったのだ。
何故自分がたかが一使用人の言動にここまで煩わされなければならないのか、冗談として捨て置けない可能性を見つけてしまえるほどあの男の言動が常とは違うことに気付いてしまえる自分が普通にキモチワルイ、そしてなにより、こうやってあの男の言動に憤っているコーネリアスの状況すら確実に愉しんでケタケタ笑っているだろうサミュエルの姿をありありと想像することができてしまうことこそが1番の業腹なのだった。
「っっっっっっっはぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」
諸々の負の感情を正常処理しきれずに吐き出された溜息は不完全燃焼の結果出された黒煙のようにドス黒く染まって見えた。
体内には今だに燃焼しきれていない負の感情が熾火にならずに燻っている状態で、最悪のままの機嫌は回復する見込みがない。
食卓の上に両肘をついて組み合せた手の上に額を預けて俯いて、今は意味をなさない唸り声を上げている。
怖すぎると怯えは消えないまでも、少しでも外に感情を吐き出し始めた今が好機、と自分を鼓舞してなけなしでも勇気を出しておずおずと控え目に声をかける。
「お父様…そろそろ食べませんか?」
昨日までであれば『君子危うきに近寄らず』、『生命大事に』を言い訳に、不機嫌絶頂の父親に声をかける勇気など欠片も持てはしなかっただろう、それ程自分は己の身の安全を第一に考え、保身に邁進したチキンだったのだ。
私のか細くなってしまった声を、それでもしっかりとその耳で聞き届けて、それまで自分の負の感情にのみ向き合っていたお父様がはっとして返事を返して下さった。
「んん!? あー、あぁ、そうか、…そういえば食堂に移動したのだったか…? おやぁ、ライラは…食べていないのかい?? もしや私を…待っていてくれたのかなぁ、いやしかし、ライラも空腹だっただろうにぃ~~?!」
「うぅ…、そうですけれど、そこには触れないでいただきたかったですぅ…。 お腹は空いてますけど、でも、お父様を待たずに食べるのは気が引けて…、だって、折角一緒に食べられるのに、ばらばらにお食事したら、……寂しいです。」
お父様は私が現在とっている行動をどうしてそうするのかわからない、と言いたげに困惑しながら指摘してきた。
自分の空腹を堪えてまで一緒に食べることを望む私の心境が全く思い至らないと顔に書いてある。
何故ここでお父様が私のお腹事情を完璧に把握しているのかといえば、あの時お母様の寝室に居合わせた誰もが皆、私が空腹であったことをすっかり承知しているからだと言えた。
それは何故かといえば答えは単純明快、空腹に耐えかねた私の腹の虫が盛大な咆哮を上げてしまったからだ。
ホント、この欲望に忠実過ぎる腹の虫には困ったものだ、誕生日パーティーの時といい、『今ここで鳴っちゃう?!』という絶妙のタイミングで盛大にやらかしてくれるのだからたまったものではない。
主に精神が摩耗する、羞恥が極まって埋まりたくなってしまうから勘弁願いたい。
そして何より耐え難いのが周囲の反応、生暖かな微笑みとともに何とも言えない気遣わし気な視線を寄越されることだ。
お父様もお母様も、微笑まし気に見遣って『お腹が空いたかぁ、そうかそうかぁ~~!』とか『そういえばすっかり遅い時間になってしまったわね、食事の準備を急がせましょうか?』とか、私に優しく笑いかけながら言って下さった。
その優しさが痛い、16歳の多感な精神にはグサリと刺さるものがあった
ユーゴさんは聞こえないふりを必死にしてはいたけれど、ばっちり聞こえていたとわかる、固く引き結んでいる口元はぷるぷるしていて今にも空気漏れが発生しそうな不安定さだったし、身体はもっと震えていた。
そこまでして堪えるくらいならもういっそのこと盛大に呵ってほしかった。
あまり過剰な反応を表さなかったのは使用人の2人、オズワルドは普段よりも目元を和らげて微笑んでいただけだし、メリッサは安定の鉄面皮でその表情は不動の構えだった。
これはこれで、居た堪れない気分にさせられた。
感情の赴くまま自然体で在るが儘の素直な反応を見せたのはサミュエルだけだった、彼はまったく堪える素振りなく「生きてる証拠、元気で正直なお腹ですねぇ~~!!」と心底可笑しそうに呵っていた。
清々しいほど呵われて、ちょっとだけ恥ずかしさよりもそこはかとない悲しみが上回った。
でもイケオジの笑顔が見られたから…許す一択♡
ともかく私の空腹が判明したことがきっかけとなり、話の流れは自然と食事関係へと移り変わった。
その話の中でお母様は軽くドクターストップを受けた、医師のユーゴさんの進言で大事をとって今日の夕食は自室でとることになったのだ。
お父様はそのままお母様のそばにいたそうだったけれど、お母様に笑顔で諭された結果、食堂で私たちと夕食をとることを最終的には承諾した。
そしてやっと迎えた食事時、だというのにお父様はあんな状態で自分の世界に閉じ籠もってしまっていた、その時間がどれくらいだったかというと、エリファスお兄様が今正にデザートにあり着くくらいには時間が経過していた。
ーーうん、自分で説明していてなんだけど、どれくらいの時間が経ったかがイマイチピンとこないわね。 だってエリファスお兄様ったら食べる量もだけれど、その速度も驚異的なのだもの!ーー
真正面に座すエリファスお兄様のお皿の上からお父様を飛び越えた左側へと視線を動かしてみる、するとそこには本日のメインの肉料理、その最後の一切れをマナーに則った綺麗な所作で口に運ぶアルヴェインお兄様の姿が目に映った。
ーーあらら、アルヴェインお兄様も殆ど食べ終えてしまわれている。 昨日と比べて品数は少ないとはいえ、流石育ち盛りの男の子、アルヴェインお兄様も食欲旺盛で健康的ね!ーー
何目線かわからない感想を胸で呟き、視線を少し右に移動してお父様の方へと角度を修正する。
お父様の前に置かれたお皿の上の料理は一番最初に出された前菜のままだ。
私は今日も皆とは違うメニューで準備されているから全ての料理が出揃っている。
けれどそれが最初に出された状態のまま、手を付けていないことは使われていないカトラリーの状態で一目瞭然だった。
今お父様は困惑した表情のまま、私をじっと見つめて何事か考え込んでいる。
ドス黒い殺伐としたオーラが噴出されなくなっただけで居心地は劇的に改善されたが、ここで1番の目的である食事が開始される気配は未だにない。
『寂しい』と言ってしまった事を少し後悔した。
深刻に思い悩んで口にしたわけではなかったのに、思いの外その言葉にそれらしい感情が含まれて響いてしまったからだ。
お父様が私の『寂しい』と言った感情を疎ましがるとは思えないが、だからといって気に病ませたくて言ったわけでもない、だからここでお父様が私の言葉を過剰に捉えすぎてしまわないかが心配となった。
ーーお父様…何も言ってくださらない。 どうしよう、私の言葉をどう受け取られたのか今の表情から全然読み取れないし、この後何て声をかければ無難かしら?ーー
私も私で自分の考えに囚われだしてしまい、膠着状態へと突入してしまいそうな場の空気を察して、それまで口を閉ざしていたアルヴェインお兄様が私に向かって躊躇いがちに言葉を投げかけてきた。
「ライラ、そんな風に考えていたのか? 今僕たちが父上を待たずに食べ進めてしまっていたのも『寂しい』と、そう思いながら見ていたってことかい?」
「えぇと、何ていえば良いのか…、今朝のように私が寝坊したのを待っててほしいとかではなくて、バラバラに食べ始めたならそれで構わないんですけど! 今は4人が一緒の時間に集まれたのに、1人だけ残してっていうのが…私的に引っかかってしまって、ちょっと『寂しい』なって。 上手くい伝えられていないとは思うんですが、だからってお兄様たちにもそうして欲しいわけではないんですよ!? 殆ど自己満足の部類で、ホントに私の個人的な気持ちの問題で!! だからって言葉ほど真剣に寂寥感に駆られているわけでもなくてですね?!」
自分の考えをうまく言葉にできていないし、自分が酷く矛盾したことを言っているようにも感じてしまう。
そもそももう既に自分は昨日、お父様を放置してしまっているのだから。
昨日の晩餐の席で、不機嫌絶頂のお父様を放置して食べ始めることに本当は少なからず抵抗感があった。
けれどメイヴィスお姉様が同席していたのでその状況を気にしている自分を誤魔化しながら、気付かないふりをして食べ始めた。
もしずっと隣に座る私が食べずにいたらお客様であるのにメイヴィスお姉様は私に倣って食べるのを遠慮してしまうに違いない。
ただでさえド緊張していたのにそれに加えて不必要な気遣いをさせることになってしまう、それは強引に誘って参加させてしまった手前、なんとしても避けなければならない事態だった。
本当に私の考えに共感してほしいとか、同じ考え方をしてほしいとか思っているわけではない。
ここでは言葉にできなかったけれど、私はどうしても捨てきれないある憧れがあったのだ。
理想とする『家族団欒の時間』、それはこと食事に関していえば皆揃って『いただきます』をしてから同じタイミングで食べ始めたい、ということだった。
テレビドラマで良く見られるありふれた家族の食事風景、それがわたしにはとても眩しく映ったものだった。
『いただきます』も『ごちそうさま』も、わたしが口にすることは許されなかったから。
他の家族が食べ始めてから箸を取り、常に無言で粛々と食べ進めて、邪魔にならないように誰よりも早く食べ終えて食卓を離れる。
食事の時間はわたしにとって楽しい時間ではなかった。
限られた時間で目の前に置かれた食器の中身を腹に詰め込むだけの作業をこなす時間でしかなかったから、楽しいなどと思えるはずもなかった。
昨日までの自分ならこんなちっぽけな感傷によって抱いた憧憬なんかに左右されずに、前世の記憶を基準に考えてその場の流れに逆らわずお兄様たちと同じタイミングで食べ始めていたと思う。
こうやって理由を聞かれても上手く自分の考えを言える自信がなかったし、まして自分の意見を言ってもそれに最後まで耳を傾けて聞き届けてもらえるなどとは決して思えなかっただろうから。
でもそれはあくまでも昨日までの私の話だ。
今の私は違う、だってお父様が私に信じさせてくれたから。
前世は前世でしか無く、私の中に残された記憶は只の過去の事象、過ぎ去った時間に起こった出来事でしかないのだと。
過去が現在に干渉できるはずはない、まして世界が違うのだから万に一つも影響することなどありはしないのだと。
だから今、ちょっとだけでも勇気が出せた。
自分の憧れを実現するために、頑張ってみようと思えた。
前世の家族はわたしを尽く否定して拒絶したけれど、今世の家族はそうでないと、信じたいと思える希望をくれたから。
「私が単純にそうしたかったから待っていただけなんです。 私はどんな理由でも待っててもらえなかったら寂しいって思うだろうし、もし待っててもらえたなら申し訳なく思って、それでもやっぱり嬉しいって思うから! 他意はなくて、私がしてもらえたら嬉しい事をしただけなんです!! って言っても…うぅ~~ん、やっぱり上手く言葉にできてないですよねぇ…? 自分の考えを言葉で説明するのって、難しいですね。」
自分の思ったままの考えを言葉にして、結局先程ど同じように不完全な説明であるように思われて眉を情けなくハの字にして苦笑する。
これ以上無理に言葉を並べても私の中の考えをピタリと言い表せる相応しい言葉は出てこないと思えた。
ーー兎に角、全くの自己満足である、この点だけでもちゃんと伝わって、お兄様が気に病まないでくれると良いのだけれど…、伝わったかしら?ーー
今度はアルヴェインお兄様までもが神妙な面持ちで黙り込んでしまわれた、頑張るタイミングを間違えただろうかと後悔し始めたときーー。
……っぐうぅ~~~っ、きゅるるるるぅ~~っ、きゅるぅ~~~…。
ーーホント!! 何でっ?! 何故こんな少しの物音が際立って聞こえるくらい静かになったタイミングで狙いすましたかのように高らかな咆哮を上げてしまうのかしら、私のお腹の虫コノ野郎ーーーーっ!!!ーー
哀愁漂う旋律で切なさを存分に遺憾なく響かせて、誰の耳にも明らかに届いてしまった切羽詰まった訴えを、もしも今時を巻き戻せたならこんな風に限界を告げる前に何かしらの食物を口にしようと全力を賭して実行しようとしただろう、恐らく、多分、絶対。
そんな無意味なタラレバを考えていないと、すぐにでも羞恥心に支配されて埋まりくなって駆け出してしまいそうだった。
ここに今、サミュエルみたいな『空気読むって、何それ、美味しいの?』的な考えのもと自分の気の赴くまま自然体で自分の感情を正直に晒してしまえる存在が居てくれて豪快に笑い飛ばしてくれたなら、と切に願ってしまう。
実際に笑い飛ばされたらされたで悲しくはなるのだけど、それはそれだ。
そう思っていると視界の端で身体をぶるぶる震わせる影が一つ、それからは今日何度目かの爆笑をさらった。
「あっはっはっはっはっは、おっかしぃ~、ライラってば、最っ高!! ふっ……っはは!! ホント、面白い、…くらい、あはっ…は、…っははは!! 絶妙の間で、……鳴らすんだもんなぁ~~っ!! あははは、……っはは、……くくっ、ふっ……っ、……っ!!」
自分に都合の良い展開を身勝手にも望んでいると、自分に誰よりも正直な存在がここにはいた事を思い出させてくれた、その屈託ない笑い声で以ってその存在を存分に示してくれたのだ。
ーーそこまで笑えるほど、だろうか? 私のお腹の虫なんて、ただ濁音を上げるだけで単調極まりない芸当しか持ち合わせていないというのに……、それにしてもエリファスお兄様の笑い悶える姿は眼福の一言だわ♡ーー
余すこと無く笑い悶える次兄の姿を目に焼き付けて、その無防備な笑顔を連射して心のアルバムに次々に収めていく。
このままのペースだと、一年で一体何千枚撮影するかといったハイペースになりそうだ。
込み上げる笑いに抗うこと無く呵うエリファスお兄様につられてか、同じような表情で黙りこくっていたお父様とアルヴェインお兄様も相好を崩して控え目にだが笑い始めた。
ーーあ…、こうして笑う3人のお顔を見ると、親子なんだって良く分かる。 表情の出し方が似通っているし、眉の下がる角度が激似! あ、あと笑うのを控え目にしている口元が激似!! 大口開けて呵ったら、きっとエリファスお兄様との激似ポイントももっとわかったのに、凄く残念だわ!!!ーー
こうやってイケメンの笑顔を見られる確率が上がるのなら、今の場を弁えない私の腹の虫も、いい仕事をしたと手放しで褒められる……気がする!!
なにより家族が笑顔でいてくれるのが私には嬉しいことこの上ない現状だった。
私は皆に笑顔を見せてもらえるだけ内側の存在であると証明してくれる、これ以上ない動かぬ証拠なのだから。
温かな笑い声が広がっていく食堂で、独り微笑みながら家族の顔に浮かぶそれどれの笑顔を堪能して、それと同時進行でこの素晴らしい光景を心のアルバムに納めていく作業も余念なく行っていて穏やかな表情とは裏腹に頭は常にフル回転、オーバーヒート一歩手前でやっと目の前の男性陣たちは笑いをおさめてくれたので残念なような助かったような、複雑な心境となってしまったのは、墓場までの機密事項だ。
その後は終始穏やかで和やかな雰囲気で食事を終えられた。
お母様を欠いた状態で、一時はどうなるかと気を揉んだが蓋を開ければあ~~ら、不思議☆
イケメン親子の写真撮影が捗ること捗ること!!
ーーホント、持つべき者は顔面偏差値ハイタカなイケメン家族♡よね♡♡ーー
私とお父様とが食べ始めたタイミングは同じだったはずなのに、食べ終わったのは私が一番遅くなるという謎の結果だった、解せぬ!!
お父様はコース形式だから1つのお皿を空にしてから次の料理がのったお皿が運ばれてくるまでにタイムラグが発生していたのに、なんで私より早く食べ切れるのという結果になったのかがわからない。
大食い・早食いの2冠に輝く不動の1位はエリファスお兄様でまず間違いない、その次席はどうやらアルヴェインお兄様よりもお父様が着く気配が濃厚だ。
巻き返しのスピードが半端なかった、お父様ってば本当に胃袋が若い、その事実にただただ感心するばかりだった。
しかも食べる合間にお兄様たちに向かって雑談を仕掛けてもいたのだから脱帽だ。
その内容はお兄様たちが寝室から席を外していた間に起こった出来事に関してだった、医療魔術師たちによるお母様の診察結果だったり、ユーゴさんの見解だったり、乱入(悪意ある誇張表現)してきた領地家令からの報告だったりを連連と淀みなく説明していく。
そういえば筆頭医師のユーゴさん、後半は壁際でひっそりと気配を殺して必死に空気になろうとしていた。
サミュエルからの唐突な話題振りに恐れ慄いてからはすんごく静かだった。
お母様の寝室を辞する前に言っていたけれど、明日はこの屋敷の地下1階にある救護室に詰めている予定らしい。
そしてもし万が一、夜の間にお母様の容態が急変したり、何か些細な違和感でも感じたなら遠慮なく3階の私室に呼びつけに来て欲しい、と言っていた。
彼ももれなく上級使用人に該当するらしく、この屋敷の3階に個室を与えられているそうだ。
年末年始も特に外出を要する予定もなく帰省もしない、この屋敷で変わらず過ごすつもりらしい、なんてことのない雑談であると平静を装って言葉を発してはいたけれど、口元がおおいに引き攣っていた。
何故だろうと不思議には思ったが、お父様が笑いを堪えるようにぷるぷるしていることのほうが気になって、あの場ではユーゴさんに尋ねる機会を逃してしまった。
解決したこともあるけれど、未解決のことの方が多い、気がする。
お母様の命を狙った輩が誰であるのかもまだわからないし、今後どんな手を使ってくるかもわからない。
けれど怯えていたって始まらないのだから、私は私にできる事・やれる事をひたすら愚直にやるしかない。
そしてそのやれることの記念すべき第一手は、急遽本人から提案された特別任務、ズバリお母様に添い寝してさしあげること!!
夜中に目が覚めないままで何かあっては目もあてられない、だからといって侍女が夜中の間中ずっと寝ずの番をしていたらお母様の気が休まらないかもしれない。
私が勝手に不安がってあれこれと心配していると、私の考えを読んだのかお母様がふふっと微笑った気配がした、そう思ってお母様を見ると自然と目があって、その流れで『ライラちゃんさえ嫌でなかったら、今日はお母様と一緒に寝てくれないかしら?』と提案されたのだった。
そんなの断る理由なんてない、是が非でも遂行してみせると熱い闘志を滾らせて一も二も無く頷いてみせた。
人生初、母親と一緒のベッドで寝るという全くの未知なる体験に、気が早いことに今から心臓がバクバクしていて、ちょっと控え目に言って破裂しそうなほど高鳴ってしまっている。
今からこれでは先が思いやられる、お母様の超可憐な妖精の如き美しさの顔を超至近距離で見てしまったなら、鼻粘膜が耐久値の限界を突破してしまうかもしれない。
ーーそれは取り返しのつかない大事故だわ!! 落ち着け、落ち着くのよライリエル!! 心頭滅却に失敗してしまったなら人として終わってしまうわ!!ーー
スーハー、スーーハーー、スーーーハーーーッ!!
突如開始された幼女の深呼吸に、すかさず目の前の男性陣から怒涛の質問攻めに合う、こればかりは異常行動すぎて無視できなかったようだ。
「どうしたんだい、ライラ?! そんなに力一杯深呼吸をしてぇ、息が苦しいのかい!? とにかく一度駄目元ででも治癒魔法をかけてみせようか!!」
「ライラ、何が辛い?! お兄様に言ってごらん、我慢せずに言っていいんだからね??」
「うぅ~~ん、ちょっと遠くて分かりづらいけど、顔色はちょっと赤味が強いかなぁ~? 毒とかそういうのはあり得ないだろうけど、何か変なものでも食事に混入してたかなぁ~~??」
「お、落ち着いてくださいな、お父様、アルヴェインお兄様、エリファスお兄様も!! 私は元気です、本当にっ、本当ですからね!? 治癒魔法も必要ありませんし、我慢なんて一つもしてませんし、食事は美味しくて安全そのものでしたからね?! ちょっと今夜のことを考えていたら緊張してしまって、呼吸を整えて逸る心臓を落ち着かせたかっただけですから!!!」
3人3様の質問に、取りこぼすことなく弁明する。
中には無実の使用人の人命が危ぶまれる発言が含まれていたので、気が気でない。
慌てたせいかついポロッと本音を零してしまった。
今夜遂行する任務、そのことを思うと自然とドキドキして、えらく緊張してしまっていた事実を素直にゲロってしまったと気付いて、サーーーッと血の気が引く。
ーー実母と一緒に寝るだけなのに、緊張する娘って、普通に考えてだいぶヤヴァイわよね…? どうしよう、私のヘンテコでポンコツなコミュ力ではこの失言を上手くカバーリングできる気がしない!! オワタ…!!!ーー
自分の失態に打ち拉がれすぎて、兄ーズからの『どういう事?』的な視線をガン無視してしまった。
その結果消去法でこの疑問に答えられる人物を絞ったところ、今夜何があるのか知っているのは私を除けばこの中でお父様唯一人、という結論に達して自然と息子2人からの疑問を訴える視線がお父様に集中した。
それにお父様がすんなりと答えた結果、次兄が新たな爆弾発言を投下することとなった。
「えぇ~、良いなぁ~~! じゃぁボクも一緒に添い寝するぅ~、勿論母さんとは反対側のライラの隣で♡」
「却下、は~~い、却下ぁ~~!! エリファスぅ、私が許すと思うのかいぃ~~?! いくらライラを間に挟んでいてもだよぉ、私が許すと本気で思っての発言ではないよねぇ~~!!?」
「えぇ~、駄目なのぉ~~?」
「エリファス、わかっていて言っているだろう、そういう所は本当にどうにかしろ!!」
ゴタゴタと揉める公爵家の男性陣を放置して、このあとしばらく自分の思考に埋没することになった私は、悪くなかったと思いたい。
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