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●本編●

41.待ち人来たりて…。 ②

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 あの乳母はわたくしにトラウマを植え付ける役目でも担っているのだろうか?
事ある毎に人の自尊心を土足で躊躇なく踏みつけて、メタメタに踏みならそうとしてきている気がする。

それとも個人的な恨みだろうか?
私には何の興味関心もないと宣っているわりには、時折当たりが激しいことがままある。

 ーーさっきもちょっと…殺気を感じたし、なんちゃって! 自分で言っててかなり寒かったわ、今の無し!!ーー

今はメイヴィスお姉様と2人仲良くソファーに身体を預けきり、お揃いの格好で目元を冷やしている最中だ。
冷えたタオルで目元を冷やしながら、心をもやつかせる人物について考えていた。
その当人はと云うと私が決死の覚悟で取った魔石でタオルを湿らすために必要だった水を私が避難させておいた器に入れてくれた。

今朝も私の部屋で同じ方法で水を出しているのを見ていたのでちょっとやってみたかったのだけど、またの機会にお預けとなってしまったのが非常に残念だ。
それもこれも、メリッサが魔石を渡してくれなかったからよね!

 ーーあとは…そうね、う~ん、う~~ん? おかしいなぁ、もっと色々出てくるかと思ったのだけれど、悪口なんてそれくらいしか思いつかないわ?? これ以上全然思いつかないなんて予想外だわ、なんでかしら???ーー

あれだけ雑に扱われたのだから、恨みつらみが芋蔓式でポコポコ際限なく出てくると思っていたのに…、蓋を開けたらほんの2,3個だけだったなんて。

 ーー私ったらどんだけメリッサに寛容なの?! やっぱり今朝のぶっちゃけトークから私のメリッサへの寛容さに磨きがかかっちゃったっぽくない?? その上で食堂での言伝の件がとどめを刺しちゃった感じよね、だって時間が経っても可愛さが衰えないし、思い出す度に愛しさが膨れ上がっちゃうんだもの!!!ーー

「ぶっふ! ぐっふ、げほっごほっ!! ゔぅう~~~~っ、駄目無理耐えられないぃ~~~っっ!!!」

「!?? ライリエル様??! 大丈夫ですかぁっ、お気を確かにっ!!?」

「だい…ケホッ、じょーぶ…ゴホッ、です…、気もしっかり…コホッ、してますから!」

「ライリエルお嬢様、思い出し笑いはお一人の時になさいませ、はしたのうございます。」

 ーーえ?! 何で解っちゃうわけなの!? 私がメリッサの勇姿を思い出して悶えてたって!!ーー

今の乳母のセリフに驚きすぎて再びごほごほと咳き込みつつ、私の中で否定し続けたある考えが俄に信憑性を増してきたように感じられた。

 ーー突然咳き込みだした理由をドンピシャで当てられるとか、どんだけ察知されちゃってるわけなのよ、私の行動原理。 何のかんの言いつつ、私のことバッチリ把握しちゃってるあたり、あの物言いはフリ? カモフラージュ?? やっぱりあの乳母はツンデレっ娘なのかしら???ーー

三十路女性に『娘』はどうかとは思うけれど、云うほどの違和感なし!
全然有りだわ、だってうちのメリッサは可愛いのだもの!!

「ライリエルお嬢様、これ以上おかしなことを考える暇があれば、大人しく目元を冷やすことに専念なさってくださいまし。」

 ーーうぉうっ、また見抜かれた?! 読心術でも使えるというの??ーー

「私にはお嬢様のお心のうちは読み取れませんが、観察していればある程度何をお考えかは当たりがつけられますので。」

「まぁ、凄い! ある種の愛を感じるわね!!」

「そのような感情モノは欠片も抱いておりません。 ご昼食はどうなさるかお決め頂けましたか? そろそろお答えをお聞かせ頂きたいのですが。」

「メリッサったらぁ、照・れ・屋・さん☆ メイヴィスお姉様と昼食をご一緒してもかまいませんか?」

分厚い眼鏡の奥の視認不可能な瞳に殺意に近い感情モノが宿ったのを鋭く察知したので、これ以上は命取りと察して乳母をからかうのを秒で切り上げ、同じ姿勢で隣に座るメイヴィスお姉様に素早く話題のパスを出す。

「ふぁいぁっ?! もっ、も~ちろ~んっでぇ~~っすぅ!! あ、いや、やっぱりぃ~、ちょっと問題がありましてぇ~、主に私の個人的な癖によるところの問題がしばしあったりぃ、なかったりぃ、しなくもないようなぁ~~??」

途中までは肯定の返事を返してくれていたはずなのに、突如しどろもどろになりながら何事かの弁解を開始したメイヴィスお姉様。
その口上を聞いてあげたいのは山々だが敢えて黙殺して、乳母に向かって1つ頷いて準備するよう無言のまま促した。


 結局昼食はこのままメイヴィスお姉様の部屋でいただくこととなった。
こんな顔じゃ出歩きたくないし、アルヴェインお兄様の手を煩わせるのも気が引けるし、メイヴィスお姉様とランチしたいし!
最後が一番の理由なのは言うまでもなく、人生で初めてお友達とのツーショット(?)ランチ!!

 ーーや、やっべぇ…! 緊張で表情筋が引き攣って…自然とアルカイック・スマイルになってしまうわ?! 長年のボッチ生活の後遺症がこんなところにまで表れるなんて…、末恐ろしいっ!!!ーー

配膳が整うまでの間、相変わらずソファーに体を預けきって腫れ上がった目元の冷却に専念している。
目元にタオルを当てた状態で、アルカイック・スマイル浮かべる3歳児って……普通に不気味。

しかし緊張感を漲らせる私よりやべぇ顔をしているのは隣りで同じように目元を冷やしているメイヴィスお姉様の方だった。

どうやって確認したかと云うと、普通にタオルをずらして盗み見たのだ。
勿論目ざとい乳母の目を可能な限り盗みながら細心の注意を払ったつもりだが、きっと気付かれてるくさい。
指摘されないとされないで、物足りなく感じてしまう。
乳母の鋭いツッコミを期待するよう身体が慣らされているのを実感してしまい、なんとも複雑な心境になってしまう。

それはさておき、今問題なのはメイヴィスお姉様だ。

 ーー何故にあんなにやべぇ顔をなさっていらっしゃるのかしら?ーー

一緒に御飯がそんなに嫌だったのだろうか?
メイヴィスお姉様がタオルの位置を直した時に一瞬チラ見したタオルの下の表情は、力が過剰に入った出会って初めて見た厳つすぎる表情だった。
何かを深く苦悩しているかのように、眉間にも皺が深く寄っていた。
今のメイヴィスお姉様の顔は…見える範囲では口が山形に引き結ばれている。

 ーー私と食べるのが嫌…であんな表情をしていたわけでないなら、良いのだけど。ーー

頭に自然と思い浮かんだ考えに、少し不安になる。

 ーーさっきお姉様はなんて言っていたかしら? 『主に私の個人的な癖によるところの問題』…それってどんな問題なんだろう?ーー

癖とはどんな癖なのだろうか、人に見られると困るようなものって…どんな癖だろうか。
気にしているということは、おいそれと聞いてはいけないということだろうし、ボッチ歴通算19年の私にさりげな~く自然に聞き出すなんて高度な技術は皆無なわけで、ストレートに聞いてしまったら出来たてほやほやの友情は直ぐに解消の一途を辿ることだろう。

考え出すと際限なく否定的ネガティブは考えしか浮かばない。
悶々と後ろ向きな考えが後から後から湧いてくる。

私たちの苦悩をよそに、デキる乳母な侍女は私たちが座るソファーの前に何処からか運び込んだテーブルを据え置き、その上に昼食の準備をテキパキと整えていた。

タオルを少し目元から外し、その様子を窺っていると目ざとく見咎められた。

「お嬢様、こちらの事はお気になさらず、ちゃんと冷やされて下さい。 腫れが引かなければお兄様方が五月蝿うございます。」

「ふぁ~い…。」

「そのようなお返事はおやめ下さい、はしたのうございます。 しゃんとなさいませ!」

「もう、メリッサったら、ここには貴女とメイヴィスお姉様しかいないのだから少しくらい気を抜いても良いでしょう?」

「親しき仲にも礼儀あり、と申します。 言葉遣いを正しく使うことで不利益が生ずることは御座いません。」

「それはそうだけど…、堅苦しいと思われないかしら? お友達に対してもずっと型にはまった喋り方なんて、壁を感じない?」

「それはお嬢様の話し方次第でございます。 相手に堅苦しい印象を与えない話し方を身につけるには、普段の会話から地道に模索していくことが肝要でございます。」

「そういうものかしら? メイヴィスお姉様はどう思われますか? 私のこの喋り方、他人行儀に接されているとそんな印象を受けられませんか?」

タオルを少し持ち上げたまま、右隣に座るメイヴィスお姉様に話しを振る。

「ふえぇえっ?! いえいえいえ、そんな不敬な感想なんて抱きませんとも! だってライリエル様は公爵家のご令嬢ですから、世のご令嬢の手本となられるお方ですからそういう話し方が標準であると疑いもしませんし、堅苦しいなんてそんな感想抱けるはずも御座いません!!」

タオルを目元から落とさず器用にビクッと身体を震わせ、タオルで目元を覆ったままで私の方に顔を向ける。
そんな姿にもほっこりと癒やされながら大事なことを思い出した。

 ーー忘れてたわ、私ったら、5つの公爵家で唯1人の令嬢だったのだわ。 だからこそ産まれたときから王太子殿下の婚約者筆頭候補だったのだもの。ーー

フォコンペレーラ公爵家以外の公爵家には直系の中では男児しか産まれなかった。
ゲームではそのままストーリーが展開していったので、おそらく女児は私だけのままになるはずだ。

 ーーこんな身分、荷が重すぎる……っ!!ーー

産まれた瞬間から背負わされているものが多すぎて、重すぎて、耐えきれずに埋まりそう…。
一気に重苦しくなった心持ちにつられて表情を曇らせた私に慌てふためいたのは勿論、メイヴィスお姉様唯1人だった。

私が黙り込んだことを不審に思ったようで、目元からタオルを少し持ち上げたところ、私の表情が変化するのをちょうど目撃したようだ。

「ライリエル様っ?! どうされたのですか? はっ!! ま、ままま、ま~ままっさかぁっ?! わた、わたたたたっ、私の言葉のせいでご気分を害されましたでしょうかっ??! 私、何か無意識のうちにライリエル様を傷つけるようなこと、言ってしまいましたかぁっ??!」

「メイヴィスお姉様のせいなどと、そんな事あるはずございませんわ! ただ…自分の置かれた立場を再認識して、その重圧にこれから耐えられるか、耐えていけるのか、不安に思ってしまったのです。 公爵家の令嬢として相応しい立居振舞を身に付けられるか自信が全くないのです。 駄目ですね、私、こんなに弱くては嘲笑われてしまいますわね。」

 ーー前世の庶民臭を社交界という華やかな戦場で上手く隠し果せるかしら…? 今のところ、秒で化けの皮が剥がれる未来しか視えないのだけど??ーー

自嘲の笑みしか浮かべられない私の右手を、メイヴィスお姉様の熱い両手に包み込まれる。
身を乗り出してきた少女の目元からはタオルが完全に転げ落ちていた。

「ライリエル様は今でも十分、公爵家のご令嬢に相応しい立居振舞をされていらっしゃいます! 最初にお会いした時は、それどころではなかったのですぐには気づけませんでしたが、あの子豚令息の居場所を問いただされた時なんて、全然年下だなんて思えないくらい威風堂々とされていて、ルイーザもシャロンも、私だってライリエル様の凛々しいお姿に感銘を受けていましたもの!! ライリエル様の持つその気品は、一朝一夕では身に着けられないものです、これからどんどん、その気品は磨き抜かれていって輝きを増すばかりな未来が、私にははっきり視えます!!!」

蘇芳色の瞳をキラキラと輝かせて一息に言い切ると、私を勇気づけるように力強く笑って言葉を続けた。

「不安に思う必要なんて全然欠片もありません! 誇って下さい、今のご自分を!! そして信じて下さい、私が思い描いた未来のライリエル様のお姿が真実未来のライリエル様の実現なさるお姿であると!!!」

目の前の少女が称える過分に美化されたライリエル理想の私像に驚きすぎて目をパチパチと瞬くことしかできない。

ちょっとした愚痴のような弱音のつもりだったのに、真剣な悩みとして受け取られてしまった。
私のためにここまで言葉を尽くして元気づけようと、励まそうとしてくれるなんて…思いもよらなかった。

 ーー私ったら、また同じような失態を繰り返してるのね。 信じるって言ったのに、本当の意味でメイヴィスお姉様のことも信じていなかったんだわ。 勝手に決めつけて、自分が恥ずかしい。 こんなふうに励まして貰えるなんて思いもよらなかったなんて、友人として以前に、人として駄目すぎるわね。ーー

前世での自分には、誰からの興味関心も寄せられないのが当たり前だったから。
どうしてもその感覚に引きずられてしまう。
経験した長さが違いすぎて、無意識に長く身をおいた環境に気持ちが引きずられてしまう。
思い出した前世が、今世に強く影響を及ぼしてくる。

「メイヴィスお姉様、ありがとうございます。 私のために、私が気づけなかった私の良いところを教えて下さって…そんなふうに思って頂けていたなんて、とっても嬉しいです。 そうですよね、私はまだたったの3歳なのですから、諦めるのも、悲観するのだって、早すぎる判断ですわね…! 私にどれだけできるかわかりませんが、精一杯頑張りますわ!! メイヴィスお姉様が信じてくださった未来の私に、少しでも近づけるように!!!」

目元を覆っていたタオルを外して、タオルに視線を当てたまま昏い感情しか与えてくれない前世の記憶を振り払うように頭を緩く左右に振る。
それから顔をゆっくりと上げ、メイヴィスお姉様が向けてくれたような笑顔を心がけて笑い返す。

「お嬢様は普段、大抵の事柄においては無頓着であらせられるのに、変なところで気にしすぎるきらいがございます。 そんな些末な煩いは、いつものように美味しい食事をとることで吹き飛ばしてくださいませ。 さぁ、どうぞ、準備が整いましたので、お召し上がりください。」

相変わらず物音をたてず、いつの間にか準備を整え終えたデキる侍女が励ましとも取れる言葉を雑に投げかけた後、本題の食事をとるよう促してきた。

「わぁっ! 今度はスープが少し違うわね、でもとっても美味しそう!! メイヴィスお姉様、冷めないうちに早速頂きましょう!!!」

先程朝食で出たスープはホワイトシチューっぽいものだったが、今回はビーフシチューっぽい濃い茶色系のスープだ。
漂う湯気に乗って美味しそうな匂いが部屋一杯に広がる。
口の中が潤うのを止められない。

早く食べたくてウズウズしながらメイヴィスお姉様にいい笑顔で向き直ると、そこには厳しい顔のメイヴィスお姉様らしき人物が居た。

 ーー前世で何度か見かけたことのあるハード・ボイルドな殺し屋のようなお顔をしていらっしゃるわ…でも一体何故?ーー

お姉様が私との食事を忌避する理由は一体何なのか、そうえばわからないままだった。
お食事自体は毎回満喫されている様子だったし、誰かと一緒というのがキーワードかしら?

「お姉様、お腹はすいていらっしゃいますよね?」

「はぅっ?! そうそう、そうなんです、実は朝食をいただきすぎてお腹がまだ空いてないんです!! なのでライリエル様だけでおめしあがりにーー」

っっぐっきゅ~~~~~っるるるるぅぅう~~~っっっ!!!

盛大な腹の虫の咆哮が響き渡る。

 ーー勿論今回は、私のではない、断じて違うと声を大にして叫びたい!!ーー

「お姉様、一緒にいただきましょう! お腹の虫さんが再び咆哮を上げないうちに、早く!!」

「うぅっ、食いしん坊な自分が恨めしい…。 ライリエル様…私の食べかたを……いえ、いいんです、もう観念します。 きっと変に思われるでしょうが、可笑しいと思われたら、私にかまわずお笑い下さってかまいませんので、お目汚しとは重々承知しておりますので、先に謝らせてくださいませ。 申し訳ありません、ライリエル様。」

しょぼしょぼと目に見えて萎れ果ててしまったメイヴィスお姉様がモソモソとネガティブな言葉をせっせと紡ぐ。
先程までのポジティブさは見る影もない、同一人物かさえも疑わしいくらいの変貌ぶりだ。

「食べ方を気にされていらっしゃったのですか? 私と一緒に食べるのが嫌でなかったのなら、それだけで朗報ですわ! とっても安心致しました♪」

聞くに聞けなかった不安が解消され、心がパッと軽くなった。
いそいそとテーブルに身を乗り出して、カトラリークヴェールに手を伸ばす。

 ーー最初はやっぱりスープからよね♪ーー

「そんなっ!! ライリエル様とお食事できるのは私だってとっても嬉しいですから!! ただ…ホントに、食べ方が……はぁ、大家族で育った弊害なんです、でも親姉弟の中で私だけなので、やっぱり私の育ち方が悪かったんだと思います。」

私の口にした不安を全力で否定しながら、その後は再び力をなくしたモソモソ声で続けた。
のそのそとソファーの上で身動いで、テーブルに身を寄せる。

クヴェールに伸ばすメイヴィスお姉様の手が小刻みに震えている。
お姉様の抱える緊張感がこちらにもひしひしと感じられ、それにつられた私の手も震えてきてしまった。

左手でスプーンキュイエルを掴んでから、思い出したように胸元の前まで引き寄せて、両手でキュイエルを掴んで小さな声で何事かを呟いた。
おそらく食前の感謝の祈りベネディシテだろう言葉を呟き終えると、居住まいを正し、スープ皿を自分の前に引き寄せて……。

上体を皿に水平に倒し覆いかぶさるようにようにしながら、視界にはスープ皿の中身しか見えない状態で一心不乱にキュイエルでスープを掬って口元に運んでいる。
一切ブレないその姿勢のまま、スープ皿の中身を一定のリズムで口に運び流し込んでいく。

確かに…変わっている!
変わっていると云うより、あれにしか見えない…!!
この光景を前に、声を大にして叫びたい今の私の心境は……っ!!!

 ーー仔犬かっ!!? お腹ペコペコで頭から餌の入ったお皿に顔突っ込んじゃう、仔犬なのですかぁっ!?? えぇ~~っ、まってまってぇ~~っ、可愛いしかないんですけどぉ~~~っっっ!!!ーー

自分の前に用意された食事は綺麗に避けて、テーブルの上に力なく突っ伏してしまったのは、極々自然なリアクションだった。
ピクピクと小刻みに震えていた身体は次第にブルブルと打ち震えることになったのも、極々自然な成り行きだった。

そんな私にいつもと変わらぬ冷静な声で「ライリエルお嬢様、はしたのうございます。」とお小言を投げて寄越した乳母の顔は、分厚い眼鏡に邪魔されても苦り切った感情しか感じられなかった。
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