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●本編●

4.ハッピーバースデートゥー、ミー? ④

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 魂が何とか現世いまの肉体に帰還したのも束の間。
再び旅立ってしまいそうな事態が発生した。
身支度を終え、一階へ向かい、家族と対面して。
そのあまりのまばゆさに、灰になりかける。
家族全員、顔面偏差値高過ぎかっ??!!

盛装した公爵家の面々は、その美しさの絶対値を底上げし、大変眼福な美形揃いだった。

今度産まれて来るときも、できれば美形に囲まれたい…。
つい辞世の句もどきを心でとなえてしまう。
改めて、公爵家の面々を、眩さに薄めた目で、じっくりまじまじと見る。

 まず、口髭があまりにも似合わない、童顔気味の我が家の大黒柱、コーネリアス・デ・ラ・フォコンペレーラ公爵。 お兄様達の髪色は、お父様譲りだと思う。 綺麗な琥珀色の髪を、オールバックにしている。 口髭がなかったら、最高にイケオジなのに…。 なんで口髭? 童顔を誤魔化すための、苦肉の策かな? 誰か言ってあげて、似合ってないって!! 私は口が裂けても言えないけど。 今は家令のオズワルドとパーティーの事で色々と話している。

 その公爵の隣には、いつ何時なんどきも絶やさぬ優しげな微笑みを、今も浮かべて寄り添う、華の妖精のように可憐なれっきとした貴婦人。 アヴィゲイル・デ・フォコンペレーラ公爵夫人。 私の銀髪はお母様譲りだが、色味が若干違う。 お母様の御髪は、光の当たり具合で、薄い桜色に煌めくのだ。 やっぱり本当は、華の妖精なのかも…と納得しかけてしまうほど違和感がない。 現在、恐らく妊娠中、なのにスタイルに響いていないとは、これ如何に?!。 弟の誕生日までは、流石に知らないので、恐らく妊娠初期なんだろうなぁ。

 そしてわたくしに、今も優しく笑いかけてくれるている長兄。 先程、傷害事件の被害者の幼女にしか見えなかっただろう、顔面を治癒してくれた、才能溢れる将来の有望株、アルヴェイン・デ・フォコンペレーラ、当公爵家の嫡男だ。 若干10歳で完璧に治癒魔法を使いこなすなんて、天才なのでは?! 基準がわからないので、正確には判断できないが、無能なんてことは絶対に有り得ない、のは確かだ。 身内だから、とか、助けてもらったから、とかは関係なく、正当な評価を下せていると思う。 身内への忖度はしない、絶対。 悪は悪、と断じれなければ、辛くなるのは自分だから。

気を取り直して、アルヴェインの隣の人物も見やる。
やはりこちらも、美少年だった。
髪の色は、この4人の中で一番濃い、焦茶よりももっと暗い、黒鳶色の髪をしている。
しかし、今世の少ない記憶の中にも該当する人物がおらず、見知らぬ謎の美少年であった。

頭の中に?が乱立する。
今は家族しか居ないはずなのに、誰だろう?
気になって、気になりすぎて、思わず疑問がそのまま口をつく。

「だれでしゅか?」

真剣な疑問が、口から出とたん間抜けな質問に聞こえる。
甚だ、不本意だ。

「わぁ~お、ご挨拶だねぇ~。 お兄様を忘れてしまったのぉ~~?」

お兄様?私のお兄様は2人居るけれど、二番目のお兄様は、こんな美形ではなかった。
はず、恐らく、絶対、はたまた多分。
なので、正直に思ったままを口にする。
それこそ、幼女らしく。
こういう時、幼さって免罪符になって、便利ね!
でも滑舌は許容できない!! 早急に打開策を模索せねば…。

「? ん~ん、しらない人。」

「けっこうグサッとくるんだけど。 本気でわかんない感じぃ? 何でだろう? ん~、……ん! そっか、髪型のせいかなぁ? ちょっとまってね……、良し、これでどう?」

言うが早いか、その場で前髪を弄り始める自称兄なる人物。
前髪を乱し切ると、こちらにパッと顔を向けた。
その顔は、正しく…?!

本日2度目の雷直撃。
僅か2秒ほどの短い時間、行ったのは至極単純な動作のみ。
左右キレイに撫で付けてあった長めの前髪を、もとの位置に戻しただけ。
前髪で顔を半分覆っている状態に。
たった、それだけなのに。

確かに、今の髪型なら、わかる。
二番目のお兄様、エリファス・デ・フォコンペレーラ、イッちゃってる系な公爵家の准危険人物、その人であった。

普段と髪型が違う、たったそれだけの単純な変化だが、俄に信じがたい劇的なビフォーアフターを遂げていた。
くどいようだが、普段の彼は、前髪で顔の半分が覆われている。
髪色が濃いせいで、目も透けて見えない。

だから、前髪に、こんな美少年顔が隠し果せるものとは、予想打にし得なかった。


 ワナワナと震える唇で、言葉を紡ぐ。
思いの外、精神への衝撃が顎の筋肉へのダメージに繋がった。

「エリファス、お兄しゃま。」

ぐうぅ、この滑舌が地味に思春期の自尊心を抉る。
内心の葛藤を、顔面に晒しながら、先程知らない人とのたまったその口で、名前と続柄を告げる。

「えぇ~? そんな耐え難いかなぁ、ボクと血縁なのが。 でも良かったぁ、判ってもらえて。 一安心♪したらお腹が空いたなぁ~。」

 苦虫を噛み潰したような渋面を、自身への嫌悪かと誤解しつつも、特に真剣に気にした様子がない。
飄々と、自分の言いたいことだけ言い終わると、食事が準備された一角へスタスタと歩いていってしまう。

是非!私もご一緒したい!!
心からそう思い、よたよたと身体を揺らして、歩き出した次兄について行こうとする。

今は身に纏ったドレスが、重苦しくて、体全体で反動をつけないと動き出せない。
ドレスめっちゃ重い!!
見かけの華やかさに騙されてると、とんでもない目に合うものだ、と思い知らされる。

そんな動きの鈍い私は、直に、緩く緩慢な動作で伸ばされた大人の手に捕まってしまう。

「あらまぁ、主役のお姫様が何処に行こうと云うのかしら、ライラちゃん? まだまだお転婆さんなのかしら、でも今夜は、ご挨拶が終わるまでは、お母様の近くに居てね?」


 肩を優しく拘束する手を辿って、妖精の如き美少女さながらのご尊顔を間近で拝す。

まっっっっっっっぶしいぃぃぃぃぃ~~~!!!
これで今現在、3児の母親とか、マジか??!!

わっっっっっか!!
若過ぎではないでしょうか?!?
お父様、何処でこんな妖精さんとお近づきに???
是非ともその秘訣、伝授した頂きたいわ!!!

ヤバっっっ、また動悸息切れが激しくなってきた。
いやこれ、ドレスのせいかな、きっとそうだ!
私は断じて、実母にハァハァしたりしない。
誓ってもいい、100年後くらいになら。

「あらぁ、どうしたのかしら? お顔が赤いわねぇ? お熱かしら?」

目の前の母親に、照れてしまって、とは言い出せず、もじもじしてしまう。
そんな私の額に優しく触れる柔らかい手。

はわわわあぁぁ~~~!!

少し触っただけでもわかる、スッベスベのウッルウル、な手入れの行き届いた肌。
伝わる体温が、心地良い。

ダメだあぁぁ~~、キモチイィイィィ~~~…。

熱がないか確かめる素手が、優しく額を撫でる。
それが堪らなく気持ち良い。
アルヴェインお兄様が撫ぜてくれた時と同じ、いやそれ以上に、気持ちが良い。

これが母親の手の力なのか…。
自然と身体から力が抜けて、無条件に安心しきってしまう。
気が抜けすぎて…。

ふわあぁ~~~……、あふ~…。

欠伸が出てしまった。
そして急激な眠気が押し寄せる。

ヤバい。 眠い。 すんごく、眠気が一気にきた…。
欠伸と一緒に滲んだ涙を、握った手の甲で拭おうとして、その手が目元に辿り着く前に、サッと糊の効いたハンカチを持った手が差し出された。

手の主を仰ぎ見ると、乳母のメリッサだった。
いつの間にか、音もなく隣りにいた。
し、忍びの者っ?!
何故この侍女は、音を立てず近づくのか!

おっかなびっくりしつつ、ハンカチを受け取り、乾いてきた目元に当てる。
涙は既に、驚きで引っ込んでしまった。
ついでに眠気も、どこかに飛んでいった。

「メリッサ、ライラの顔が赤かったのだけど、熱はなさそうなの。 部屋にいる間、変わったことはなかったかしら?」

「左様でございましたか。 本日、お嬢様は、何度となくご自分の考えに没頭され、悶えておいででした。 一度悶え過ぎ、椅子から転げ落ちられましたが、丁度別件でお呼びしましたアルヴェイン坊ちゃまに、治癒魔法を施していただいておりますので、大事ございませんでした。 その後は、他の者とお嬢様の身支度の仕上げを終え、お連れしました。 私が見ておりました限り、知恵熱ではと、愚考いたします。」

つらつらと、淀みなく一息に報告する乳母。
その報告内容に、聞き捨てならないものがあった。
聞き間違いかな…?
きっとそうだ、疲れて心が聞かせた幻聴だろう。
そう、無理やり自分を納得させようと試みるが…。
続く、麗しの妖精母が紡いだ言葉に、現実であると認める他なくなった。

「まぁ、そうだったの。 考え事なんて…、何か悩み事かしら? パーティーが楽しみだったのかしらね。 うふふ、可愛いわね、その姿を直接見たかったわぁ~。」


 今、何と…?
私が、耳にした内容は、現実リアルなの…?
あの乳母は、何とのたまった??

見た限りとは???
見ていただぁ~~~とぉおぉぉ!!??

何処で、何処から、いやいや、今一番重要なのは、いつなの、いつから観察してたの~~!?!?!
こんな現実リアル、要らないんですけどぉお~~~(泣)


もうヤダ~~! この乳母ヤダァ~~!!
コワイよ~~~!!!

3歳児の精神衛生上、大変宜しくない侍女がいたもんだ。
悪役令嬢製造装置か?!
此奴、製作者からの回し者か!!?
幼女の感情メーターが、許容値オーバー、限界値突破し自壊。
私の感情は制御不能に陥り……。


 結果、号泣再び。
サンドイッチでは解脱することで我慢(?)した。
今回は耐え難い羞恥と本能的な恐怖で、決壊した涙腺から噴水のごとく涙がドっと噴き出す。
それを横目で捉えた有能過ぎる乳母兼侍女が、お仕着せの何処からか取り出した、ふっかふかのタオルで、被害が出る前に受け止め、目元まで押し戻す。

私はこれからの人生で後何回、この侍女にタオルを押し付けられるのだろうかと、唇を噛み締めつつ考える。
涙腺が復旧するまでの間、ずうっっっと、タオルは目元に押し付けられたままだったのは、云うまでもない。
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