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第二章 波乱万丈
朝食
しおりを挟む「簡単に食べられる物とおっしゃられたので、スコーンをお作り致しました。
牛乳の代わりに豆乳を使ったのでカロリーは控えめでたんぱく質も取れます。
トッピングは、生クリーム、キャラメル、ジャム、メープルシロップ、はちみつ等がございます。
菜舂様のお好みに合わせて召し上がって下さい。」
…魁は日本の怪異だと思っていたけれど、違うのかしら。
目の前に広がるのは、アフタヌーンティーさながらのラインナップだ。
朝からスコーン…カロリー控えめとか言ったけど、甘いトッピングがある時点で無意味なのよ。
だけど、栄養も考えられているようで、サラダが小さな器に添えられている。
美味しそうだけど、一体どこで学んだんだろう。
作ったというけれど、魁かしら?
「え、えっと、料理したのは誰かな?」
「あ、それ俺だよ」
なんと予想外な事に朱利が料理担当だった。
え、狐なのに洋食作れちゃうのとか、ツッコミ所が満載だ。
これから毎朝こんな豪華な朝食になるのだろうか。
太る。絶対太る自信がある。
待てよ、朝食を朱利が作ったというのであれば…なぜ魁がエプロンを!?
「お弁当をお作りしておいたので、鞄に入れておきますね。
…朱利、お前の分も作っておきましたよ。
感謝しなさい、崇めなさい」
キッチン広くなったものね。
二人で役割分担して朝食とお弁当を作ったのか。
横並びでキッチンで並んでいたのを想像して少し微笑ましい。
うん…でも昨日、思いっきり腕切って血だまり作ってたんだよねぇ…。
この切り替えの早さについても、怪異ならではなのか。
それとも挨拶替わりみたいなもんなんだろうか。
私は空気の重さと血の匂いで吐いたというのに…。
あぁ、せっかくおいしそうな朝食を前にリバースしそうに…。
記憶の消去を迅速に務め、とりあえず早く食べてしまおう。
時計の針は、すでに7時30分を超えている。
早く食べないと遅刻する。
「いただきます。」
そう一声かけて、食事に手をつけようとしたが、ふと手を止めた。
2人がじっと私を見ている。
テーブルには、6人分の席があるというのに
私一人が座っているという異様な光景。
2人は私の隣左右に立っていて、まるでウェイター状態だ。
ふと、疑問が頭をよぎる。
「2人は、もう朝ごはん食べたの?」
「私達の事はお気になさらず…。」
「え、この量わたし1人で食べるの物理的に無理だよ。
絶対太るし、せっかく3人いるんだから一緒に食べようよ。」
「ですが…」
「昨日、お昼に朱利は一緒に食べてくれたのに。
魁は一緒にt「いただきます。」
言い終わらないうちにすぐに目の前の席に座る魁。
え、さっきまで右隣に立ってたよね。
全然動き見えなかったよ。
やっぱり朱利に負けたくないのね。
「さ、朱利も座って食べよう。」
「そうだね、いただきます。」
魁が席に着いたのを見て、少しあきれ顔になりながらも魁の隣に朱利も座る。
「じゃ、改めていただきまーす。」
「「いただきます。」」
いつもは1人で食べる朝食が3人になって少し賑やかな朝食になった。
しばらくは、楽しく朝食を食べれそうだ。
まだ、ほんのり暖かいスコーンを手に取り口に運ぶ。
これからの新しい朝の在り方を想像しながら、いつもより豪華な朝食を楽しんだ。
===
「ご馳走様でした」
「「お粗末様でした」」
いやー、おいしかった。
はじめて、朝に豆乳スコーンなんて食べたよ。
生クリームにキャラメルソースを絡めて一口食べれば、パティシエ顔負けの上品な味わいが口に広がった。
朝からなんて贅沢なんだ…お昼ご飯食べれるかな。
本当に意外だ、朱利ってこういうの作れるんだ。
器用というか、なんというか。
女として色々と見習う部分がある。
料理出来る男の人っていいよね。
ちょっとお菓子作りしてる朱利の姿とか…なんか可愛い。
にまにましながら朱利を見つめていると、私の視線に気づいたのか、片付ける手を止めた。
不思議そうにキョトンと私を見つめる。
「菜舂さん、なんか俺の顔についてる?」
「…いや、朱利がスコーン作ってる姿を想像したら可愛くって」
「あのねー…俺、一応3回り以上年上なの。
可愛いって言われてもなんも嬉しくない」
恨めしそうにこちらを見た後、さっさと片付けてしまった。
背を向けた朱利。
ふと頭に目をやると、スコーンの粉なのか、少し毛先が白い。
どうやって頭の後ろにつけたんだろう。
「ちょっと、朱利。
頭に粉ついてるよ。」
立ち上がって、朱利の頭についた粉を手で振り払う。
よし、これでとれたね。
満足げに朱利を見つめた次の瞬間。
――ガッシャン
食器が割れる音と共に、空間が絶対零度に包まれ。
「朱利…お前は一体何をしてるんですか?」
地を這うような声がする。
見下ろした目には光は無く、深淵が広がっている。
あ、やばい。
昨日の再来だ。
「おおお、俺なにもしてないです!無実です!」
「私の菜舂様に手を触れるなといいましたよね?
先ほどまでの状況を心臓のある胸に腕を突き刺して聞いてごらんなさい。」
「それ遠まわしに俺に自害しろって言ってません?」
「おやまぁ、遠回しすぎましたかね?
あぁ、もっと分かりやすく言った方がいいですか?
…今すぐ死ね、この馬鹿狐。」
あー、しまった。
魁から見たら撫でているように見えたのか。
私の一挙手一投足すべて自分のものにしたいのは昨日の発言から理解できた。
これからはあまり余計なことはしないようにしよう。
余計なことは魁になるべくしてあげよう。
季節はまだ秋なはずなのに室内は、吹雪に見舞われた遭難者気分である。
「えーと、魁…そろそろ時間だから私、出たいなぁ~」
そっと、魁の隣に回り、服の裾をひっぱる。
ガタガタと震えあがっている朱利があまりにも可哀想だったので助け舟を出した。
すると、魁から発せられる殺気が消えた。
横に回ったから表情が見えないが、なんだか少し明るくなった気がする。
魁は指を鳴らすと、まるで魔法かのように食器がテーブルから消える。
水道代も時間も節約出来るなんて。
便利な能力を怪異というのは持っていてうらやましい限りだ。
「そうですね。朱利なんかにかまってしまい、申し訳ございません。
ふふふ、菜舂様の愛らしいおねだりに免じてこの場は収めましょう。
…朱利、菜舂様の鞄を持ってさしあげなさい」
「了解しました…」
血色を戻した顔で私の鞄と自分の鞄を持つ。
「では菜舂様、申し訳ございませんが私は教師を全うするためお先に失礼いたします。
朱利…くれぐれも粗相の無いように」
「分かっていますよ。
大体、主君は心配し過ぎなんですよ。
今の時代は戦乱でも無ければ、治安が悪いわけでもないですし…」
「念には念をです。
わずかな油断が命取りになるのですよ。
例えば…」
ヒュッと風の音がすると思うと朱利の頬に傷の一線が出来ていた。
魁はもちろん身動き一つしていない。
朱利はというと、茫然としている。
「ほら、気を抜けば攻撃すらかわせない」
風がふわっと通り抜けた。
一体何が起こったのだろう。
「お前は今、【鎌鼬】の姿形すら捕えられなかったでしょう?
…お前よりだいぶ格下でも油断すれば寝首をかかれますよ。
用心なさい…人間は我々よりも強欲で醜く愚かだ」
黙りこむ朱利。
彼の周りを包む空気が少しピリついた気がした。
「あぁ、菜舂様。
鎌鼬は基本的に素早く、人間ではとても目では負えません。
悪戯好きで、人前に表すことはめったにないのです。
ですが、キチンとこの家を巡回してくれているのは彼らですから」
彼らということは複数いるのだろうか。
どんな姿をしているか気になるけど、鼬という名の通り、かわいい動物なのかな。
「そ、そうなんだ…。
えーと、ありがとね、鎌鼬…さん、たち?」
そういうと、ふわっと風がまた通り抜け、私の髪を揺らした。
窓は全部閉まっているはずなのに。
なんですか、このホラー。
いつから私の家はお化け屋敷と化したんだろう。
いや、もうこの【怪異】が
普通に住みついてる時点でそうなの?
玄関で靴を穿こうと屈むと、肩を掴まれ魁に止められた。
何故止める?
そう思っていると、魁は私の前で跪いた。
まるでシンデレラに靴を穿かせる王子様のように。
壊れ物を扱うかのように私の足を手にとって靴を穿かせ始めた。
「ちょっ、何してるの魁!?」
「靴を菜舂様に穿かせようと…流石に靴下では外には出られないでしょう?」
「いや、そりゃ当り前だけど、何故魁が私に穿かせる必要性が?
靴くらい穿けますが?」
私は3歳児以下ですか?
スニーカーの紐、普通に結べるくらいのレベルありますよ?
「おや、仕える身である人間は主人には靴を穿かせたりするのが普通だと学んだのですが…」
一体教えたの誰だ?
何を教材に学んだ!?
何処ぞの執事小説ですか?
ドラマですか?
参考書出版した会社を探そう。
そして、すぐに出版停止させよう。
盛大な溜息を吐いて私は魁を見下ろしてはっきりと言った。
「あのね、魁。
色々しようとしてくれるその心遣いや気配りは有難いんだけど…。
正直な話、それはかなりズレてる。
私はお嬢様でもない一般人なんだからそんな召使みたいな事‥」
「実質、私めは貴女の下僕です。
私にとって貴女は宝物で、変えのない存在。
…そうですね、一国の姫のような存在なのです」
姫…ですか。
それはまた大層な…。
「貴女が死ねと命じれば、何の躊躇も無く私はこの首を跳ねましょう。
…菜舂様の言葉は私にとって絶対ですから。」
「私そんな忠誠心いらないから。」
ダメだ、戦国時代かココは。
もしくは、西洋物語の世界か?
21世紀の日本にある平均家庭の一つだよね?
朝からこんなに疲れるなんて…一日が終わる頃には死人同然になりそうだ。
「とにかく魁。
私が何かしてほしいと言わない限り過度に色々やるのは禁止にします。
これは絶対命令です!」
「…不服ではありますが、ご命令であればそれに従いましょう。
菜舂様のお心のままに」
そう言って頭を下げた。
魁は立ちあがると振り返りもせずに外に出る。
私が瞬きをした次の瞬間
彼の姿はそこには居なかった。
ちょっとキツく言いすぎたかな…。
少し申し訳なく思ったけれど、私の精神的な負担を軽減しなければ、ノイローゼになりそうなので仕方がない。
今度こそ自分で靴を穿く私。
無駄に広い玄関は、2人は余裕で靴をはけるスペースがある。
朱利はすでに穿いて私を待っていた。
「待たせてごめんね、行こっか」
「朝からお疲れ様、菜舂さん。
主君は、あんなんだけど菜舂さんの為に必死なんだよ。
…帰ったら構ってあげて」
意外と主君想いなんだな、朱利。
「じゃないと八つ当たりされて俺が死ぬから」
「…ごめん、わかった。善処するわ」
お互い苦労人だということが分かり顔を見合わせ苦笑する。
朝から疲労で死にそうですが、今日も学校がんばります。
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