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第一章 主と僕(しもべ)
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「…ごめんなさい【僕】ってどういうことかしら?
私、貴方に会うのは多分初めてでは無いと思うのだけれど…」
そういうと目の前に居る【彼】は、微笑んで
「えぇ、会うのはこれで2度目になりますよ、菜舂様」
…初対面と変わりないじゃないか!?
そんな人間の【僕】宣言て…
意味分かって言ってる?
「あのー、【怪異】ってマジですか?」
そう、怪異って言ったら、私が想像するに、お化けだの、幽霊だの、化け物だの、妖怪の類。
だけど、目の前に居る彼は、どう見ても美青年だ。
それはもう、目を見張るほどの。
そういうと、クスクス笑う自称【怪異】。
笑う姿もまたとても美しい。
「人間は、年老いるのも早ければ、忘れるのも早い。
まぁ、無理もありませんね。
10年も前の話ですし、貴方は死ぬ運命にありましたから。」
10年前…やはり、彼は私が幼い頃みた【彼】なのだろうか?
私が山で遭難し、奇跡的に無傷かつ健康状態で発見された。
それは本当に異例としか言いようがなかった。
何かしら絶対損傷があるはずなのに、
居たって無傷であり、空腹であって当然なのにそれすらなかった。
「10年前、私が遭難した時に助けたのは貴方?」
それにしては、口調も何もかも違うけれど…。
だって、あの人は、私を上から目線で見下して居て…。
私が死のうがどうでもいいといった感じだった。
それに手が黒かったような気がする…。
「いかにも、私でございます。」
「でも、口調が違いすぎる…。」
そういうと、それはもう素晴らしい笑顔で
「それは、現代の人間の口調を覚えましたから。
敬語というのも、私が知っている時代とは
だいぶ違いましたからね。」
なるほど…ん?
でも、何故、彼は私の【僕】なのだ?
それに彼はまだ応えていない。
っていうか、怪異、怪異っていっているけれど、
彼の正体は何なんだ?
「ごめんなさい、いきなり【僕】と言われても…。
一体何故貴方が私の僕になってしまったの?」
「それは、貴方が私と【契約】してしまったからです」
・・・・・はぃ?
「いやいやいや!!!
そんなことした覚えありませんが!?」
「貴方は、私に『生かしなさい』と命令口調でおっしゃったじゃありませんか」
んなこと言ったのか、6歳の私よ!!
私は、本当に申し訳なくなり、項垂れながらも口を開いた。
「本当にすみません。
もう無知で馬鹿だったもんですから、現に本人覚えてませんし…。」
そういえば、この人の名前は何というのだろう?
でも、謝りたいのには変わりない。
「だから、すみません…【怪異】さん」
そういうと、特に驚きもせずに、目の前に居る彼は、逆に微笑んだ。
まるで、【予想していた】とでもいうように。
とても、とても…寂しそうに。
「人間にとって10年という月日は長いものですからね。
ですが、私にとっては10年とは、人間でいうつい数カ月前と言った感覚です。
貴方がここまで成長したのを見て、本当にうれしい限りですよ、菜舂様。」
「えっと、生かしてくださったのは、本当にありがたいのですが、生かしてくださったのだから、寧ろ私が何かしなきゃいけないのに、何故、貴方が私の…えーと【僕】に?」
「それが、私たちの間で交わした
【契り】ですから。」
素晴らしいスマイルでありがとうございます。
ですが、まったくもって
私には理解ができません。
誰か助けてください。
つーか、その【契り】の内容をかみ砕いてください。
「えー…その【契り】とやらの内容を出来れば詳しく説明していただけると、本当にありがたいことこの上ないのですが…」
「もちろんですよ。
とても、単純なものです。
私は貴方を生かす為に私の血を分け与えた。
それは、【忠誠の契り】といわれる神聖なものなのですよ。
だから、私は貴方から離れませんし一生おそばにお仕え致します。
貴方以外愛しませんし、貴方以外何もいらない。
貴方が傍に居て、愛さえ下されば私は、
この手を血に染めても宜しいですよ?」
…これが流行りのヤンデレか、これは。
シスコンの次は、ヤンデレですか。
友人Aがヤンデレ萌えとかほざいてたけど、
全くもって迷惑だよ、これ。
「…愛が重すぎです」
「愛故に私は10年待ち、全てを捨てて貴方の元に来ました。
別に何かをしろとは言いませんよ、もちろん。
私は貴方の身の周りのお世話を致します。
貴方がお金を欲するのならどんなことをしてでも手に入れます。
世界がほしいというのなら、世界を。
星がほしいというのなら星を。
貴方が望むものは全て与えましょう。
それが今の私の存在理由です。」
誰か…この【僕】信者どうにかしてっ!!
私には手に負えません。
弥鶴以上に強敵です。
あぁ、もう話題をとりあえず移そう。
「怪異さん、貴方、お名前は?」
「おや、私の存在を認めてくださるんですか?」
「名前分からなきゃ不便でしょう?」
「生憎持ち合わせて無いのですよ。
【山神様】やら、【化け物】とか、【妖怪】など呼ばれてましたよ。」
…こんな美青年をそんな風に呼べるか!!!
いや、待て私。
そもそも、この姿こそ借りの姿なのかもしれない。
人間の姿を変えるのは、アヤカシの特徴とも呼べる。
化け狐やタヌキなどがその典型だ。
「じゃあ、質問を変えましょう。
貴方は何という【怪異】なんですか?」
そういうと、悪戯っぽい笑みを浮かべ、人差し指を口元に運び、左目を閉じて、甘く彼は囁いた
「ひみつです」
…嫌味なくらいそれが似合っていた。
それはもう画家に描かせてもいいんじゃないかというくらい。
って結局私、流されちゃってる?
もう、いいや諦めよう。
そう思って盛大な溜息をついた。
でも、一生傍に居るのは困るなぁ…。
というか、この残骸どうしよう?
木端微塵になった壁を見て気が遠くなる。
時計を見ると確実に学校にも間に合わない。
あー、もうー
「どうしよう…」
頭を抱える私。
そんな私に対して、ふんわりと微笑みかけて、耳に囁く【彼】
「助けが必要ならばご命令を。
貴方の望むがままに私は動きましょう。
貴方が傍に居るだけで、幸せなのです。
さぁ、貴方を悩ませているのはなんですか?」
髪をすくい上げられ、私の髪は、彼の口元へと運ばれる。
いわゆる、【キス】だ。
血と熱が顔に集中するのが分かる。
あぁ、もしかしたら沸騰して、湯気が出ているかもしれない。
こんなに美しく、妖美で、私に尽くそうとしている【彼】に
元凶はお前だなんて言える筈もない。
卑怯だ。
美形ってずるい。
世の中の美形は絶対得している。
私は、とりあえず、【彼】のことを省いて、私の悩みの種を吐き出す。
「この木端微塵になった壁どうしようとか、学校間に合いそうにないだとか、貴方のこと親にどう説明しようとか…。
…もう色々よぉ~っっ!!!」
最後の方は、半泣きになって叫んでしまった。
すると、彼は、笑顔で頷き。
「分かりました。
貴方を苦しめるものは、全て排除致しましょう。
まずは、この壁でしたっけ?」
パチンッと指を鳴らす。
すると、瞬きをした次の瞬間。
何事も無かったかのように綺麗になっていた。
え、何、新手のマジック?
それとも、私が夢を見ていたの?
白昼夢ですね、分かります。
非現実すぎて、
現実逃避くらいしてもいいと思うんだ。
「…一体全体、貴方は今何したの?」
「やっと敬語を辞めて下さいましたね!
嬉しい限りでございます。
お役に立てたようで私は、感極まっておりますっ!」
無駄にその素敵なスマイルを私に向けないでください。
私の心臓に毒です。
人間、一生の心拍数は決まっているって言われてるから確実に私の寿命はジワジワと
縮まっているに違いない。
「えーと、私の質問に答えてないけど?
どうやってアノ悲惨な状態を一瞬にして、回復してみせたの?」
「私のヨウリョクを使えば、簡単に治せますよ。」
「…ヨウリョク?」
「妖の力と書いて、妖力です。
伊達に長生きしてませんから」
頬をかいて照れ笑いをする【彼】。
か、可愛いと不覚にも思ってしまったわ…。
「あ、あのさ、その妖力って使っても疲れたりしたいの?
大丈夫なの?」
「なんと、私の身を案じて下さるのですか!?
その慈悲深い菜舂様のお言葉を聞いただけで、私は、癒されますので、心配には及びませんよ」
つり目や、シャープな顔をしているのに、
どうやったらそんなのほほんとした幸せそうな顔が出来るのだか…。
って、結局答えて貰って無いし!!
いいようにあしらわれてる気がしてならないわ…。
まぁ、いいや。
きっと言いたくないんだろう。
「あーもー、いいや。
とりあえず、整理しよう。
貴方は、【怪異】であり、人間じゃない」
「はい、その通りでございます」
「そんでもって、6歳の私が貴方に俺様的に
【生かせ】と豪語したと」
「おっしゃる通りで」
「なんで、山の神とも言われる貴方が6歳の人間の小娘をその【忠誠の契り】とまで
交わしてまで生かそうと思ったの?」
そういうと【彼】は、笑顔のまま固まった。
そう、それが最大の疑問だった。
何故、怪異の頂点に君臨していた彼が何故私を助けたのだろうか?
それも、私の【僕】となるという行為は
頂点から真っ逆さまに地の底に落ちるようなもの。
屈辱的だと思うし、本当に理解しがたい。
顔を俯けた彼は、そのままポツリといった。
「…かったから」
「え?」
「孤高であるが故に孤独だった私に対して恐れず同等の立場…
いや、それ以上の目線で話しかけて下さった。
それが嬉しくもあったのでしょう」
そして何より…と続けて彼は、俯けた顔を上げ、優しく微笑みながら、私の頬を、冷たい大きな手で覆う
「貴方が私に『寂しくないように一緒に居てあげる』そうおっしゃいました。
数百年生きていた私にとって、一番嬉しかったのですよ」
その優しい微笑みから私は目がそらせなかった。
闇夜に輝く月のように美しくきらめくその瞳から。
そして、私は悟った。
私は逃げられないと。
その瞳は、私を捉えた。
捉えて離さない。
笑顔の奥にある、その瞳の奥にある彼の本心
それは一体なぁに?
「そ、そう…分かった、それで納得しとく」
そう言って目線を彼から逸らした。
彼は、私の頬から手を離し、そして、真剣な瞳で私を見つめた。
「菜舂様、お願いがございます。
お仕えする身でありながら、厚かましいのは、承知の上ですが、申し上げても宜しいでしょうか?」
「え?あ、うん…私にできる範囲なら別にいいけど?」
一体何を要求されるのだろうか?
まさか、寿命の半分くれとか?
それだったら本当に困る。
というか、【僕】発言されたその時点で私は、十分に困っている。
それに、一生傍に居るとか…。
お仕えするだとか…。
執事ですか?
流行りの執事気どりでございますか?
そうこう私が思考をめぐらされていると、彼は、とんでもない要求をしてきた。
「私に【名】を与えて下さいませんか?」
へ?
「えっと、【名】って名前ってことだよね?」
「その通りでございます。」
えぇぇぇぇっ!?!?
そんな大事なものを私が決めていいの!?
いや、確かに名前が無いって言ってたけど…
責任重大だよ、私。
「わわわわ、私なんかでいいの!?
名前ってすっごく大切なんだよ!?
意味とか色々あるし、その人を思ってつけられるものだよ?」
「だからこそです。
私は、菜舂様に全てを捧げる身なのですから、【主】である菜舂様に【名】を頂戴するのは、この上無い至福の極みなのでございます」
この人は、どれだけ私に尽くすのだろう?
ふと、疑問に思う。
彼は、私がほしい者を全てくれると言った。
でも、私は、何もほしい物が無い。
ただ、家族が幸せであればいい。
健康であればいい。
平凡な私。
容姿端麗でも、成績優秀でも、身体能力が高いわけでもない。
そんな、私に尽くすという【彼】。
王の玉座を捨ててまで、私の元へと来た【怪異】。
何処まで信用すればいい?
私は、信じられない。
この現状を受け止めきれない。
だって、私は…
10年もの間、普通に生きていたのだから。
そう、何事も無く。
何も変わらない毎日を。
淡々と生きてきた。
そんな最中出現したイレギュラー。
私の日常を数秒でぶっ壊した。
いや、すでに壊れ始めていたのかもしれない。
10年前のあの日から。
「…カイ」
甘んじて私は彼を受け入れよう。
もしかしたら彼は美しい仮面を被ったとんでもない化け物かもしれない。
でも、それでもいい。
たとえ、彼の気まぐれで私を助けたのだとしても。
「妖怪の【鬼】に、北斗七星の【斗】と書いて、【魁(カイ)】」
「魁…」
「意味は、長年生きている貴方なら知っていると思うけれど、【魁】の意味は、頂点を極めた者を指すの。
貴方にぴったりでしょう?
かつて【怪異】の頂点に君臨していた貴方に」
そういうと、
「ふふふ…アハハハハハッ!!」
声を上げて笑い出した。
不愉快極まりない。
そんなに変な名前だった?
息を整えると、顔を私に向けて、妖美に微笑んだ。
「さすが、私の【主】です。
感服致しましたよ、ものの数十秒で考えた名とはとても思えません。
これほど私に合った名前は、ござません。」
私の髪に愛おしそう触れる。
やたらとボディータッチが好きな【僕】だこと。
って、私何偉そうな…ものの数分で、この主従関係に慣れて来たっていうの?
…順応性低いと思ってたんだけどなぁ
「金輪際、私は【魁】と名乗りましょう。
貴方の忠実なる【僕】。
愛しい貴方の為に全てを捧げましょう」
髪に触れていた手を私の左手に移動させ、そして、その甲に
キスをした。
あぁ、何処かの詩人が言っていた。
キスされる位置によって意味が違う。
確か…手の上ならば
【尊敬のキス】
私、貴方に会うのは多分初めてでは無いと思うのだけれど…」
そういうと目の前に居る【彼】は、微笑んで
「えぇ、会うのはこれで2度目になりますよ、菜舂様」
…初対面と変わりないじゃないか!?
そんな人間の【僕】宣言て…
意味分かって言ってる?
「あのー、【怪異】ってマジですか?」
そう、怪異って言ったら、私が想像するに、お化けだの、幽霊だの、化け物だの、妖怪の類。
だけど、目の前に居る彼は、どう見ても美青年だ。
それはもう、目を見張るほどの。
そういうと、クスクス笑う自称【怪異】。
笑う姿もまたとても美しい。
「人間は、年老いるのも早ければ、忘れるのも早い。
まぁ、無理もありませんね。
10年も前の話ですし、貴方は死ぬ運命にありましたから。」
10年前…やはり、彼は私が幼い頃みた【彼】なのだろうか?
私が山で遭難し、奇跡的に無傷かつ健康状態で発見された。
それは本当に異例としか言いようがなかった。
何かしら絶対損傷があるはずなのに、
居たって無傷であり、空腹であって当然なのにそれすらなかった。
「10年前、私が遭難した時に助けたのは貴方?」
それにしては、口調も何もかも違うけれど…。
だって、あの人は、私を上から目線で見下して居て…。
私が死のうがどうでもいいといった感じだった。
それに手が黒かったような気がする…。
「いかにも、私でございます。」
「でも、口調が違いすぎる…。」
そういうと、それはもう素晴らしい笑顔で
「それは、現代の人間の口調を覚えましたから。
敬語というのも、私が知っている時代とは
だいぶ違いましたからね。」
なるほど…ん?
でも、何故、彼は私の【僕】なのだ?
それに彼はまだ応えていない。
っていうか、怪異、怪異っていっているけれど、
彼の正体は何なんだ?
「ごめんなさい、いきなり【僕】と言われても…。
一体何故貴方が私の僕になってしまったの?」
「それは、貴方が私と【契約】してしまったからです」
・・・・・はぃ?
「いやいやいや!!!
そんなことした覚えありませんが!?」
「貴方は、私に『生かしなさい』と命令口調でおっしゃったじゃありませんか」
んなこと言ったのか、6歳の私よ!!
私は、本当に申し訳なくなり、項垂れながらも口を開いた。
「本当にすみません。
もう無知で馬鹿だったもんですから、現に本人覚えてませんし…。」
そういえば、この人の名前は何というのだろう?
でも、謝りたいのには変わりない。
「だから、すみません…【怪異】さん」
そういうと、特に驚きもせずに、目の前に居る彼は、逆に微笑んだ。
まるで、【予想していた】とでもいうように。
とても、とても…寂しそうに。
「人間にとって10年という月日は長いものですからね。
ですが、私にとっては10年とは、人間でいうつい数カ月前と言った感覚です。
貴方がここまで成長したのを見て、本当にうれしい限りですよ、菜舂様。」
「えっと、生かしてくださったのは、本当にありがたいのですが、生かしてくださったのだから、寧ろ私が何かしなきゃいけないのに、何故、貴方が私の…えーと【僕】に?」
「それが、私たちの間で交わした
【契り】ですから。」
素晴らしいスマイルでありがとうございます。
ですが、まったくもって
私には理解ができません。
誰か助けてください。
つーか、その【契り】の内容をかみ砕いてください。
「えー…その【契り】とやらの内容を出来れば詳しく説明していただけると、本当にありがたいことこの上ないのですが…」
「もちろんですよ。
とても、単純なものです。
私は貴方を生かす為に私の血を分け与えた。
それは、【忠誠の契り】といわれる神聖なものなのですよ。
だから、私は貴方から離れませんし一生おそばにお仕え致します。
貴方以外愛しませんし、貴方以外何もいらない。
貴方が傍に居て、愛さえ下されば私は、
この手を血に染めても宜しいですよ?」
…これが流行りのヤンデレか、これは。
シスコンの次は、ヤンデレですか。
友人Aがヤンデレ萌えとかほざいてたけど、
全くもって迷惑だよ、これ。
「…愛が重すぎです」
「愛故に私は10年待ち、全てを捨てて貴方の元に来ました。
別に何かをしろとは言いませんよ、もちろん。
私は貴方の身の周りのお世話を致します。
貴方がお金を欲するのならどんなことをしてでも手に入れます。
世界がほしいというのなら、世界を。
星がほしいというのなら星を。
貴方が望むものは全て与えましょう。
それが今の私の存在理由です。」
誰か…この【僕】信者どうにかしてっ!!
私には手に負えません。
弥鶴以上に強敵です。
あぁ、もう話題をとりあえず移そう。
「怪異さん、貴方、お名前は?」
「おや、私の存在を認めてくださるんですか?」
「名前分からなきゃ不便でしょう?」
「生憎持ち合わせて無いのですよ。
【山神様】やら、【化け物】とか、【妖怪】など呼ばれてましたよ。」
…こんな美青年をそんな風に呼べるか!!!
いや、待て私。
そもそも、この姿こそ借りの姿なのかもしれない。
人間の姿を変えるのは、アヤカシの特徴とも呼べる。
化け狐やタヌキなどがその典型だ。
「じゃあ、質問を変えましょう。
貴方は何という【怪異】なんですか?」
そういうと、悪戯っぽい笑みを浮かべ、人差し指を口元に運び、左目を閉じて、甘く彼は囁いた
「ひみつです」
…嫌味なくらいそれが似合っていた。
それはもう画家に描かせてもいいんじゃないかというくらい。
って結局私、流されちゃってる?
もう、いいや諦めよう。
そう思って盛大な溜息をついた。
でも、一生傍に居るのは困るなぁ…。
というか、この残骸どうしよう?
木端微塵になった壁を見て気が遠くなる。
時計を見ると確実に学校にも間に合わない。
あー、もうー
「どうしよう…」
頭を抱える私。
そんな私に対して、ふんわりと微笑みかけて、耳に囁く【彼】
「助けが必要ならばご命令を。
貴方の望むがままに私は動きましょう。
貴方が傍に居るだけで、幸せなのです。
さぁ、貴方を悩ませているのはなんですか?」
髪をすくい上げられ、私の髪は、彼の口元へと運ばれる。
いわゆる、【キス】だ。
血と熱が顔に集中するのが分かる。
あぁ、もしかしたら沸騰して、湯気が出ているかもしれない。
こんなに美しく、妖美で、私に尽くそうとしている【彼】に
元凶はお前だなんて言える筈もない。
卑怯だ。
美形ってずるい。
世の中の美形は絶対得している。
私は、とりあえず、【彼】のことを省いて、私の悩みの種を吐き出す。
「この木端微塵になった壁どうしようとか、学校間に合いそうにないだとか、貴方のこと親にどう説明しようとか…。
…もう色々よぉ~っっ!!!」
最後の方は、半泣きになって叫んでしまった。
すると、彼は、笑顔で頷き。
「分かりました。
貴方を苦しめるものは、全て排除致しましょう。
まずは、この壁でしたっけ?」
パチンッと指を鳴らす。
すると、瞬きをした次の瞬間。
何事も無かったかのように綺麗になっていた。
え、何、新手のマジック?
それとも、私が夢を見ていたの?
白昼夢ですね、分かります。
非現実すぎて、
現実逃避くらいしてもいいと思うんだ。
「…一体全体、貴方は今何したの?」
「やっと敬語を辞めて下さいましたね!
嬉しい限りでございます。
お役に立てたようで私は、感極まっておりますっ!」
無駄にその素敵なスマイルを私に向けないでください。
私の心臓に毒です。
人間、一生の心拍数は決まっているって言われてるから確実に私の寿命はジワジワと
縮まっているに違いない。
「えーと、私の質問に答えてないけど?
どうやってアノ悲惨な状態を一瞬にして、回復してみせたの?」
「私のヨウリョクを使えば、簡単に治せますよ。」
「…ヨウリョク?」
「妖の力と書いて、妖力です。
伊達に長生きしてませんから」
頬をかいて照れ笑いをする【彼】。
か、可愛いと不覚にも思ってしまったわ…。
「あ、あのさ、その妖力って使っても疲れたりしたいの?
大丈夫なの?」
「なんと、私の身を案じて下さるのですか!?
その慈悲深い菜舂様のお言葉を聞いただけで、私は、癒されますので、心配には及びませんよ」
つり目や、シャープな顔をしているのに、
どうやったらそんなのほほんとした幸せそうな顔が出来るのだか…。
って、結局答えて貰って無いし!!
いいようにあしらわれてる気がしてならないわ…。
まぁ、いいや。
きっと言いたくないんだろう。
「あーもー、いいや。
とりあえず、整理しよう。
貴方は、【怪異】であり、人間じゃない」
「はい、その通りでございます」
「そんでもって、6歳の私が貴方に俺様的に
【生かせ】と豪語したと」
「おっしゃる通りで」
「なんで、山の神とも言われる貴方が6歳の人間の小娘をその【忠誠の契り】とまで
交わしてまで生かそうと思ったの?」
そういうと【彼】は、笑顔のまま固まった。
そう、それが最大の疑問だった。
何故、怪異の頂点に君臨していた彼が何故私を助けたのだろうか?
それも、私の【僕】となるという行為は
頂点から真っ逆さまに地の底に落ちるようなもの。
屈辱的だと思うし、本当に理解しがたい。
顔を俯けた彼は、そのままポツリといった。
「…かったから」
「え?」
「孤高であるが故に孤独だった私に対して恐れず同等の立場…
いや、それ以上の目線で話しかけて下さった。
それが嬉しくもあったのでしょう」
そして何より…と続けて彼は、俯けた顔を上げ、優しく微笑みながら、私の頬を、冷たい大きな手で覆う
「貴方が私に『寂しくないように一緒に居てあげる』そうおっしゃいました。
数百年生きていた私にとって、一番嬉しかったのですよ」
その優しい微笑みから私は目がそらせなかった。
闇夜に輝く月のように美しくきらめくその瞳から。
そして、私は悟った。
私は逃げられないと。
その瞳は、私を捉えた。
捉えて離さない。
笑顔の奥にある、その瞳の奥にある彼の本心
それは一体なぁに?
「そ、そう…分かった、それで納得しとく」
そう言って目線を彼から逸らした。
彼は、私の頬から手を離し、そして、真剣な瞳で私を見つめた。
「菜舂様、お願いがございます。
お仕えする身でありながら、厚かましいのは、承知の上ですが、申し上げても宜しいでしょうか?」
「え?あ、うん…私にできる範囲なら別にいいけど?」
一体何を要求されるのだろうか?
まさか、寿命の半分くれとか?
それだったら本当に困る。
というか、【僕】発言されたその時点で私は、十分に困っている。
それに、一生傍に居るとか…。
お仕えするだとか…。
執事ですか?
流行りの執事気どりでございますか?
そうこう私が思考をめぐらされていると、彼は、とんでもない要求をしてきた。
「私に【名】を与えて下さいませんか?」
へ?
「えっと、【名】って名前ってことだよね?」
「その通りでございます。」
えぇぇぇぇっ!?!?
そんな大事なものを私が決めていいの!?
いや、確かに名前が無いって言ってたけど…
責任重大だよ、私。
「わわわわ、私なんかでいいの!?
名前ってすっごく大切なんだよ!?
意味とか色々あるし、その人を思ってつけられるものだよ?」
「だからこそです。
私は、菜舂様に全てを捧げる身なのですから、【主】である菜舂様に【名】を頂戴するのは、この上無い至福の極みなのでございます」
この人は、どれだけ私に尽くすのだろう?
ふと、疑問に思う。
彼は、私がほしい者を全てくれると言った。
でも、私は、何もほしい物が無い。
ただ、家族が幸せであればいい。
健康であればいい。
平凡な私。
容姿端麗でも、成績優秀でも、身体能力が高いわけでもない。
そんな、私に尽くすという【彼】。
王の玉座を捨ててまで、私の元へと来た【怪異】。
何処まで信用すればいい?
私は、信じられない。
この現状を受け止めきれない。
だって、私は…
10年もの間、普通に生きていたのだから。
そう、何事も無く。
何も変わらない毎日を。
淡々と生きてきた。
そんな最中出現したイレギュラー。
私の日常を数秒でぶっ壊した。
いや、すでに壊れ始めていたのかもしれない。
10年前のあの日から。
「…カイ」
甘んじて私は彼を受け入れよう。
もしかしたら彼は美しい仮面を被ったとんでもない化け物かもしれない。
でも、それでもいい。
たとえ、彼の気まぐれで私を助けたのだとしても。
「妖怪の【鬼】に、北斗七星の【斗】と書いて、【魁(カイ)】」
「魁…」
「意味は、長年生きている貴方なら知っていると思うけれど、【魁】の意味は、頂点を極めた者を指すの。
貴方にぴったりでしょう?
かつて【怪異】の頂点に君臨していた貴方に」
そういうと、
「ふふふ…アハハハハハッ!!」
声を上げて笑い出した。
不愉快極まりない。
そんなに変な名前だった?
息を整えると、顔を私に向けて、妖美に微笑んだ。
「さすが、私の【主】です。
感服致しましたよ、ものの数十秒で考えた名とはとても思えません。
これほど私に合った名前は、ござません。」
私の髪に愛おしそう触れる。
やたらとボディータッチが好きな【僕】だこと。
って、私何偉そうな…ものの数分で、この主従関係に慣れて来たっていうの?
…順応性低いと思ってたんだけどなぁ
「金輪際、私は【魁】と名乗りましょう。
貴方の忠実なる【僕】。
愛しい貴方の為に全てを捧げましょう」
髪に触れていた手を私の左手に移動させ、そして、その甲に
キスをした。
あぁ、何処かの詩人が言っていた。
キスされる位置によって意味が違う。
確か…手の上ならば
【尊敬のキス】
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「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
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