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第一章

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 「ふう、ふう……」
 途中までは人の手が入り「まだ」歩きやすかった森を歩き続ける事一時間、どう見てもアテナに疲労の色が濃くなってきたので休憩をする事にした。若いとはいえ慣れない自然林の中、目星はアルテミスの鼻だけだしな。俺だって元の身体なら早々に投げ出している筈だ。
 「情けないのう……まだたかだか森に入って一刻じゃろう?」
 「ご、御免……」
 「狼体と俺たち人間の身体を一緒にするな。お前だって人間体ではそこまでスムーズではあるまい」
 「あの身体はお前らよりずっと元気で若……お、そろそろじゃ。彼奴らの悪臭が匂ってくるのう……堪らぬ」
 俺も、息を整えていたアテナも、アルテミスが指し示す方向を見る。
 「小娘、早急に息を整えろ。ワシほどじゃないにせよ奴らも鼻が利く。風下じゃなかったら見つかる距離じゃ」
 「ちょ、ちょっと待って……ハアハア……」
 「どこにいるんだ?」
 と木々に隠れつつ隙間を覗き込むと、向こうに微かに洞窟の様な物が見える。どうやらオークどものアジトのようだ。衛兵のようなものは立っていないが……。
 「……よし、当初の打ち合わせ通り、奴らが出てきたら俺が樹の上から目や頭を狙う。掃射が終わった後アルテミスが奴らのとどめを。アテナは援護を頼む」
 「で、出来るかしら?」
 「小娘、ワシに当てるなよ?」
 
 それぞれ配置につく。三十分ほど経過し、洞窟の中から唸り声の様な奴の声が聞こえる。その後、洞窟内からこん棒のようなものを持ち、二体のオークが出てくる。
 「……これ以上は出ないか? よし、やるぞ」
 俺が樹上から合図を送り、弓を引き絞る。必中の距離だが一撃であの屈強な身体のオークにとどめを刺せるとも思えない。じゃあ……弓を弾き絞り

 ヒュンッ!

 俺の放った矢は狙い通り、奴らのそれぞれ片目を射抜いた。苦悶の声を上げるオークども。
 それと同時にアルテミスが飛び出し、奴らの首を狙う。的はでかいがあの首を噛み千切れるのか……?

ガブッ!

 ……問題なく一匹の首に噛み付き、派手に血が噴き出す。もう一体のオークがそれに気付きアルテミスに向けこん棒を振り上げ……
 ドス、ドスドスッ!
 「あ、当たった?」
 アテナの矢がそちらのオークの心臓辺りに当たった。オークの目がアテナの方を向き襲い掛かろうとするが……
 「いやー来ないで―!」
 ……とばかりにアテナがオークに向けて矢を連射する。的の大きいオークに矢が次々と当たり、オークは力尽き倒れた。それと同時にアルテミスがもう一匹のオークにとどめを刺す。
 「ふう……ふう……」息を吐くアテナ。
 俺は樹から降り、アテナにショートソードを渡す。
 「よくやった。ほら、気を抜かず鹿の時のようにとどめを刺せ」
 「う、うん……」
 まぁ樹の上からわざと落ちかけ、発動した緊急回避によってオークの赤い点が二つとも消えているのは判っていたが、これはアテナのLVUPを兼ねた討伐依頼だしな。
 因みに同じく緊急回避の副産物? で洞窟内のオークの配置や、人質の有無等も把握した。
 アルテミスに近付き布で口の周りの血を拭いてやろうとする。
 「……余計な事はせんでよい。この程度……」
 アルテミスがかっと光ったと思えば、返り血で真っ赤だった白い毛が一瞬で白くなった。
 「わ、凄い……」
 「この狼体は言ったように幽体のようなものじゃ。返り血を落とすくらいは出来る」
 「お風呂いらずね……まあ強引に入れるけど」
 「な、何じゃその手つきは……まさか人間体に限らず狼体迄……」
 「わあああああああふわふわーとてもオークを狩った後には見えない―」
 ……一見ほのぼのする光景だ。傍に血を流した屈強なオークが二体倒れていなければ。
 「お前ら、場の空気を考えろ……ほら、討伐証明部位を取るんだ」
 「う、うん……左耳だっけ……」
 俺の声で我に返ったアテナがナイフでオークの左耳を取る。
 「洞窟からは……援軍は来ないか。ついでに「魔石」も取ってしまおう」
 
 ……魔石とは、モンスターの心臓付近にある魔素……魔の力……が凝縮した結晶だ。これが出来る事で普通の獣も狂暴になり、人を積極的に襲うようにもなる。またゴブリンやオークの様に生まれつき魔石を持った種族もいる。
 アルテミスの白狼人族はそういう意味ではモンスターではないが、狼型なら獣・モンスターどちらも使役し、極偶に人を襲う事もあるのでモンスターに分類されている。
 魔石は細かく砕き再生成する事で無害化され、燃料はじめ色々な用途に利用される為、割と高値で取引される。

 魔石を取り出した後
 「よし、このまま様子を見る」
 「あれ? あの洞窟に入るんじゃないの?」
 「見た所あの洞窟はオークの身長ぎりぎりだし、中で戦闘出来る広さと思えない。俺とアテナの様に弓や、アルテミスの様に狼が中で暴れられるとも思わない。オークの死体を入り口近くに置き、奴らが出てくる所を狙い撃ちにする」
 ……無論俺もRPG好きだし、ダンジョンにはワクワクするが……実際弓が撃て剣を振り回せ、アルテミスが暴れられる広さのダンジョンなどそうそうあるとも思えない。ましてやそんな広さのダンジョンなら自然には出来ないだろう。
 酒場の情報でこの世界にもそういう迷宮はいくつかあるらしいが、あの入り口の大きさではせいぜい深さ数10mだろう。実際事前の調査でもオークは入り口からせいぜい50mほどの所にいた。

 ……まぁその程度では……
 「ほら、奴らもすぐ気付いて出てくるぞ。唸り声と足跡が聞こえる。アテナもアルテミスも隠れろ。次は出てくる直後を二人の弓で掃射し、漏れたのをアルテミスと、俺たちの剣でとどめを刺す」
 「うん、判ったわ」「……わかった」
 まもなく興奮し、ドタドタと音を立てつつオークどもが出てきた。仲間がやられてるのにもう少し慎重に出て来いよ……。
 出てきた順に次々とやられていくオークども。アテナが冷静になった分弓が外れる事も少なく、弱った個体にアルテミスが次々ととどめを刺す。事前に調べていた数から後一匹……。

 「……流石にこれは少し勝手が違うか」
 最後に出てきた、多分に群れのボスと思わしき一回り大きな個体は、大型の剣と盾を構えていた。アテナが撃った矢は盾に阻まれ、アルテミスも牽制され上手く近付けない。
 「アテナ、もう矢を打つな。アルテミス、一度距離を置け。手強いぞっ!」
 俺は慎重に盾を構えるボスオークを見て作戦を考える。正面からは攻撃が通用しそうにない。あの盾さえどうにかなれば……
 「こういうのは……どうだ?」
 俺は奴の頭の上の岩壁目掛け、矢が折れない程度の力で弓を放つ。
 「ど、どこを狙ってるの?」
 アテナの疑問の声を
 「ここだっ!」
  バシュッ!
 俺が放った矢はゆっくりとボスオークの頭上を通り過ぎ、後ろの岩壁に当たって跳ね返る。
 と同時に……。

 「……ウィンドッ!」
 俺は跳ね返った矢に向かい、低級呪文のウインドを放つ。跳ね返った矢は息を吹き返したかのように、ボスオークの真後ろから盾を持った腕に突き刺さるっ!
 「アテナっ! 肩を狙えっ! アルテミスっ!」
 ボスオークは肩に矢を受け思わず盾を下げ、肩口をのぞかせる。そこにアテナが矢を放つ。見事盾を持つ左肩に何本もの矢が突き刺さり、ボスオークは完全に盾を落とす。
 盾さえ落ちればっ! 俺は弓を構え直し、奴の頭目掛け矢を放つっ!
 
 ドスドスッ!

 見事屋は頭に突き刺さり、ボスオークは堪らず右手の剣も落とす。 そこへアルテミスが……

 ガブリッ!

 見事に頸動脈を狙い、引きちぎった。首は落ちなかったが噴水のように大量の出血をするボスオーク。ふらふらと動いていたが、やがて力尽き、ドスンと音を立て倒れた。

 「……や、やったの?」
 アテナの声に
 「嗚呼、俺たちの勝ちだ」
 俺は冷静に答える……アルテミスも頷く。
 「や……」

 「やったあああああああ!!」
 喜ぶアテナの声を聴き、俺も息を吐く。ふう……中々に緊張したぜ。

 「最後は……風魔法か? ふん、跳ね返った矢をそう利用するとはな。こざかしい手を考えつくもんじゃ」
 「ま、それでも例の俺の技能を使わずとも倒せたしな。結果オーライだ」
 「ふん、まぁ……よくやった。このメンバーでオークリーダー含め十体を倒しきるとはな。まぁワシの主ならそれくらいやって貰わねば困るがな」
 ……アルテミスも褒めてくれた……これはツンデレって奴だな。これはいいものだ……少女体の時だったらもっとよかったが。
 「……何にやけてるのよ、さ、とどめを刺して、討伐部位と魔石でしょ?しっかりしてよ、リーダーさん♪」
 アテナに促され、現実に戻る。
 「……その後洞窟内を探索して、こいつらに殺された木こりの遺品も持ち帰らないとな」
 
 ……ともあれ、最初の討伐としては成功だ。いくつかLVも上がったが、ステータス確認は後でゆっくりしよう。
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