拾われた異世界転移者

デスVoice

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「決戦準備編」

【レイとティア】part4

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「レイ……くん?」

「起きたんだね!良かったぁ。怪我はない?」

暫く介抱していたが、ようやく目が覚めてくれて一安心だ。買っておいた気付け薬が効いたのだろう。

「ここ…は?」

落ちた時のことを覚えてないのか、不思議そうに辺りを見渡している。

「ティアちゃん間違ってあそこの穴から落ちたんだよ」

か細い月光が差し込む天井の穴を指さす。熊の気配は既になく、どうやら諦めて帰ったようだ。

「そうだ、私熊さんに襲われて...」

あれは熊さんなんて可愛らしいものじゃなかった気がする...ちょっと気持ち悪いくらいだ。

「ここは洞窟になっていて、出口まで少し歩くかもしれない。立てる?」

穴から出るのは無理そうだ。壁には取っ掛りがなく、クライマーを滑り落とそうと反り立っている。

「うん、大丈夫。ありがと」

差し出した僕の手に掴まり、よいしょと腰を上げる。

「無理そうだったら言ってね?」

僕達は壁沿いに、慎重に洞窟を先に進んだ。

魔物であり、夜目のきくジャックはぴょんぴょんと先頭を行き、障害がないかを確かめてくれている。

その幼い見た目通り暗闇が怖いのか、ティアちゃんは僕の肩に掴まって歩いている。
真横から聞こえる吐息に、なんだか妙にドキドキする。これが吊り橋効果というやつか。

「ごめんねレイくん、迷惑かけちゃって」

ティアちゃんがしょんぼりした声で言う。

「何言ってるの。目を離した僕も悪いんだし」

「ふぃおーー!」

その時、先頭をゆくジャックが慌てて戻ってきた。

「どうしたの!?」

「ふぃぬ!ふぃおんぬ!」

「安心してレイくん。いい事があるからついてこいって言ってるだけだよ」

「わかるの?」

「わかるよぉ♡」

流石長年のパートナー、まさか魔物の言葉もわかるなんて。

ティアちゃんがジャックと共に走ってゆき、僕も後を追う。いい事ってまさか...!

「レイくん!!出口出口!私達出られたんだよぉ!」

ティアちゃんは外から盛れ込む光の前でぴょんぴょん跳ねている。嬉しくて大はしゃぎしている彼女は微笑ましい。ジャックも一緒に踊りだし、いよいよ笑ってしまった。

僕も安堵のため息をつく。色々あったけど、これでやっと一安心だ。

ティアちゃんはレイくんもおいで、とこちらに手招きをしている。

.....!!

「ティアちゃん!?危ない!!!!」

「え?」

「スキル『F・SWORD』配下剣技!!イヨドセーチャ!!!」

ティアちゃんの背後から迫る毛むくじゃらの手を慌てて切りつける。

痛みに唸りながら、その手の持ち主は後退していく。

「レイくん!」

「ティアちゃん下がってて!」

後を追って外へ出ると、先程の熊が怒りに体を震わせていた。体から生えた蛇がぺろぺろと傷口を舐める姿は少しゾッとする。

そう、。僕は確かにイヨドセーチャで奴を斬りつけた。普通なら傷口からどんどんと凍っていくはずだ。なのに凍って動けなくなるどころか、反撃しようと突進してくる。

「氷が…効かない!?」

先程のアイス・エイジは空気中の水分を凍らせる魔法だった。だから大丈夫だったが、この熊本体は凍りに対して耐性があるようだ。

「グラァ!!」

振り下ろされる爪を後ろへ飛んで回避する。

「危ない!!」

ティアちゃんが叫ぶ。

爪を避けることに気を取られ、前から飛んでくる細い針のようなものに気づけなかった。

「ぐぁっ!?」

身体中に針が刺さっていく。どうやら熊の体から生えている、蛇の口から放たれたようだ。刺さったところが嫌な痛み方をする。毒針か!?

「スキル『TAMER』配下使役術!リミットブレイク!!
スキル『JACKAIOPE』配下使役術!!クリスタルホーン!!!」

ティアちゃんの連続詠唱でジャックの身体が強化され、額からは円錐が生える。青白く光るその角を敵に突き刺そうと駆け出す。長く、太いその角はいかなる防御も貫通する。

しかし敵もマヌケではなかった。爪なんかで防御出来ないと判断した瞬間、身体中の蛇たちが毒針を吐瀉しながら後ろへ大きく飛ぶ。

「ふぃっ」

数多の毒針がジャックを襲う。

「ジャック!!」

慌てて避けようとするも間に合わず、体に何本も突き刺さる。毒針に顔を歪める。

しかし彼は怯まず、今一度熊との距離を詰める。

「グルッ!」

「...!!  ジャックダメだ!避けろ!!」

狡猾な熊は、着地の場所を計算していた。真後ろには巨大な大木があり、熊はそれを回し蹴りで蹴り倒す。巨大な大木はバキバキバキとジャック目掛けて落下する。

「ふぃうー!!?」

何とか横へ飛び回避する。しかし回避しきれていなかったことに彼は気づかない。
熊は倒れた巨木を両手で持ち上げると、ジャック目掛けてそれで薙ぎ払う。

「避けろぉぉぉ!!」

自分の何十倍もの重さの丸太で思いっきり殴られたジャックはロケットのように吹き飛び、岩に激突する。

「ジャックくぅぅん!!!」

「ティアちゃん危ない!!」

熊は大木を投げ捨て、盾を持ってわなわな震えているティアちゃんに向かって突進する。剣を抜き、奴の前に躍り出る。進撃をやめない熊の頭部を斬りつけるも、あまりの体格差に力負けしてしまう。逆に僕が突き飛ばされ、地面に激突する。

しかし頭部を斬られた熊も只ではすまず、怯んでいる様子だ。しかしすぐに奮い立ち、今度は僕を狙って走ってくる。

応戦しようとするも、体に毒が回ったのか上手く立ち上がれない。

「レイくん!!逃げてぇぇええ!!!」

ティアちゃんの泣き叫ぶ声だ。

「嫌だ!!!僕は!!!!!」

熊は自分の体の重さを上手く使い、どんどんと加速していく。ヘビ達も毒針を一斉に射出する。

「逃げろぉぉぉぉぉ!!!」

「僕は戦う!!愛する君を護るために!!!!!」

毒針が何本も体に突き刺さる。右目にも突き刺さり、光が奪われる。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!スキルッッ!!!!」

最後の力を振り絞り、剣を握りしめる。

熊の巨大な爪はもう目の先まで迫っている。

「『ANTI』配下剣技!!!!!!
リバーサルカウンタァーーーーー!!!!!!!!」

爪を剣で受けた瞬間に、剣が輝き出す。本来なら絶対に力で負けるはずのその巨体を弾き飛ばす!

「これで終わりだぁぁああああ!」

渾身の力で反り返った熊の腹部を斬りつける!大量の血飛沫と共に内臓が飛び散る。

「グララァァァァァ!!!」

断末魔の雄叫びをあげて倒れる。完全に絶命し、煙となって消滅していく。

奴のとてつもなく大きな霊魂玉がドスン!と落下する。

「これで、終わ……り、か」

もう無理だ。体に全く力が入らず、無抵抗に地面に倒れてしまう。

「レイくん!!」

そういえば毒をもらっているんだった。視界がぼやける。

「お前ら!!よくも俺の魔物をやりやりやがったなぁぁあ!!」

奇声を発しながら茂みから出てきたのは小太りの男だ。どうやら彼が熊の使役者らしい。

「くそぉ、復活はコストもかかるし、めんどくさいんだよ!その前にお前らはぶっぶっ殺す!!」

立たないと。ティアちゃんを守るんだ。
そんな僕の気持ちに、僕の体は応えてくれない。指先1本、動かすことが出来ない。

ジャックも戦闘不能である今、ティアちゃんを護れるのは僕しかいないのに...

「逃げて…くれ、ティア…。君だけでも…」

「レイくんはここで待っていてね♡」

彼女はそう言って微笑む。ダメだ、行かないでくれ。
くそっ!動けぇ!動けぇぇぇえ!!

「お前例のテイマーのガキだろ?あのトナカイを失ったお前に何が何ができるって言うんだァ?」

「に…げ、て。ティ.....」

「スキル『TAMER』支配使役術」

「支配使役術…だと!?だと!?」

支配...術?

彼女の周りに真っ白いミストが発生し、彼女を取り巻いていく。

「スノー・ホワイト」

冷たく、そっと一言それを告げる。悲しそうに、哀れむように。まるでそれが死の宣告であるかのように。

「ふん、何も何も起きないじゃないか!」

しかし、だんだん近づいてくる轟音に、そのセリフは否定されることになる。

「な、なんだこれこれはぁ!!?」

音の正体は足音だった。魔物の足音、しかしそれは4匹や5匹のものではない。
100匹近い魔物たちが、森中の魔物たちがティアの魔力に呼応するかのように現れたのだ。

標的そいつ

指を向けるという軽い動作。それが死の運命を決定づけた。

100匹近い魔物たちが一斉に男に襲いかかる。

「やめろぉ!!た、助けてくれぇーーー!!」

四方八方から噛みつかれ、突き刺される。大量の魔物に1人で適うはずもなく、彼は血飛沫をあげ...絶命する。

「レイくん大丈夫!?レイくん!!??!」

彼女が駆け寄ってくる。先程までの残酷な雰囲気は失われ、いつもの彼女みたいだ。

君に、怪我がなくて良かった。
愛してるよ、ティア…

「レイくぅぅん!!!!!」

僕の意識は、そこで絶たれた。
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