偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜

浅大藍未

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嫌い

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昨日あのまま、疲れて眠ってしまっていた。あの部屋で。朝一番にお風呂に入って、そのまま支度をしてノアールに見送られながら屋敷を出た。
長兄と顔を会わせたら怒りで我を忘れてしまいそうだったから。

学園にノアールも連れて行けたらいいのに。

ノアールは賢い子だから大丈夫だと思うけど、こうして離れていると心配。
昨日のことで長兄に仕返しされていたらどうしよう。

「シオン」

俯きながら歩いていると不意に声をかけられた。
顔を上げて相手を確かめるまでもない。

「何かご用ですか。婚約者様」

まるで私を待っていたかのように、目の前に立つ婚約者様の雰囲気はいつもと違う。

「これを……君に渡したくて」

ピンクのリボンでラッピングされた白い箱。
見るからにプレゼント……よね?
嫌っているシオンに婚約者様がプレゼントってどういうこと。
触った瞬間に爆発するとかないよね。怖いんだけど。
警戒して受け取らないでいると、不機嫌そうに私を睨みながら一歩近付いてくる。

「信じなくてすまなかった。これはその詫びだ。ユファン嬢に選んでもらった。君に似合うはずだ」

あぁ……。悪意なく心を抉ってくる。
本気で悪いと思っているのなら、他人に、しかも女性に選んでもらった物を渡したりはしない。

「いりません」
「なぜだ」
「なぜ?わかりませんか?本当に?」

聞いたところで婚約者様は何もわからない。

「レクリエーションのときの話をしているのですよね」
「そうだ。あのときユファン嬢を突き落とそうとしたのではなく、助けたことを聞いた。だから……」
「それなのに、貴方様は噂の収拾に動いてはくれないのですね。お詫びの品を他の女性と買いに行く暇はあるのに」

そもそも、噂が広まった一番の原因は婚約者様が騒いだせいだ。
本来ならプレゼントでご機嫌取りをするのではなく、噂は真実でないと訂正するのが筋。
私には、婚約者様が私を理由にユファンと出掛けたかったとしか思えない。

「こちらはユファンさんに差し上げたらどうですか」
「シオンのために買ったんだ!!」
「婚約者様。私は物なんかよりも、信じてくれるだけで良かったのですよ」

シオンがそんなことを言うなんて思ってもいなかったのか。一瞬、目を見開いたあと弱々しく視線を逸らした。
そういえば一人だけいたな。私を信じると言ってくれた人。
その場に居合わせたわけでもないのに、噂を真に受けることなく。

いや……。あれは哀れみから言ってくれただけ。

「婚約者様。早く婚約破棄を致しましょう。このままでは二人共、不幸になるだけです」
「不幸……?」
「もちろん、私達は政略結婚であることは承知しております。ですが、私と婚約したままではユファンさんと結婚はおろか、お付き合いも出来ないではありませんか」
「待て!なぜここで、ユファン嬢の名前が出てくる?」

しまった。口が滑った。
プレゼントをくれるぐらいだからてっきり、婚約者様はシオンに気があるのかと思ったけど、そうではない。
ユファンのことを言えば、まるで秘めた恋心がバレたかのような顔をしていた。

「私ならシオンを助けてやれる」
「助ける?信じてもくれなかったのに?」
「あれは……!仕方ないだろう。光魔法のユファン嬢に嫉妬していると思ったから、だから……」
「私にとって婚約者様も小公爵様達も同じです。最初から信じるつもりがないのなら、そのようなことを口にしないで下さい」

婚約者様を通り過ぎて学園に向かう。
彼がどんな顔で、どんな思いをしているのかなんて興味もない。
嫌いだ、みんな。
信じて欲しいときに信じてくれない。助けて欲しいときに手を差し伸べてくれない。
私のことを嫌うのに、無理やり繋がってこようとする。
早くここを出たい。
息苦しくて、ただ苦しいだけの世界。
雨風がしのげれば大きな家じゃなくていい。
私とノアールの二人で暮らす家。それだけあればきっと、私は幸せだ。

「シオン?今日は早いんだね」

……アルフレッド先輩。サラッと呼び捨て&タメ口。
いいけどね別に。向こうは先輩だし。年上だし。

「シオンが出るとき、会長はまだ屋敷にいた?」
「さぁ。見ていませんので」
「そう、か……。今日は生徒会の集まりがあるのに、まだ会長の姿が見えなくてね」

長兄が遅刻?予定を忘れるような性格でもないだろうし。
意外と、昨日のノアールにやられた傷で寝込んでたりして。
それはないか。そんな繊細なら、仮にも妹を本気で殺そうとなんてしない。
長兄の身に何が起きていようと私には関係ないんだけど。
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