20 / 56
想いを馳せる【ヘリオン】
しおりを挟む
こんなにも腹が立つのは生まれて初めてだ。
放課後、シオンが行きたがっていた店に誘うと断られただけでなく、あろうことか他の女性、ユファン嬢と行けなどと。
腹を立てているのは、そのことではなくて。
シオンに断られ、一人で帰ろうとすると小公爵とよく一緒にいるアルフレッド先輩に話しかけられた。
こちらから一方的に見たことがあるだけで、初対面に変わりはなかった。
爵位ではこちらが上でも、学園内では歳上には敬意を払わなくてはならない。仲の良い友人や幼馴染みといった関係があれば、変わらず親しく接する者もいる。
初対面でもある彼は唐突に
「シオン・グレンジャーと婚約破棄してくれ」
などと言った。
伯爵如きにそんなことを言われる筋合いはなく無視した。あの男に関係のないことだから。
すると、どうだ。
「貴方は彼女を好きではないのでしょう?」
そう言った。ハッキリと。真っ直ぐと絶対の自信を持ちながら。
怒りに支配されたが、攻撃することなく帰路を急いだ。
屋敷に帰り、人の目がない自分の部屋に入るとカバンをベッドに投げ付けた。
ふざけるな。ふざけるな!!
確かにシオンとは政略結婚だ。
魔力に差がありすぎると子供が出来ないため、必然的に俺の相手はシオンしかいない。
その事実に屋敷の者は酷く嘆き悲しんでいた。喜ぶ者などいない。
この国の唯一の公女なのに。
シオン・グレンジャーは呪われたような白い髪をしていて、性格も最悪。
ドレスや宝石を買い漁り、毎日のように使用人をいじめている。
極めつけが闇魔法の使い手。
当時の俺には、たったそんなことで?としか思えなかった。
見た目なんて気にしない。
いじめているなんて所詮は噂。
闇魔法?それがどうした。
国王陛下だって仰っていた。魔法は個性であると。
それなのに邪険にして悪者に仕立てようとする意味がわからない。
政略結婚でも結婚することに変わりはないのに、祝福の言葉をまだ一度も聞いていないことに気が付いた。
毎日のように可哀想だと言われ続けると、俺は本当に可哀想なんだと思うようになっていった。
迎えた顔合わせ当日。
シオンの髪は真っ白ではなく銀色も含んでいた。みんなが悪くいうほど酷いものではない。太陽の光が当たるとキラキラ反射して綺麗だった。
子供なのに整った顔も美しく、好きに……なっていたんだ。初めて会ったあの日から。
妻となる人が女神のような美しさを持っているなんて。嬉しくて嬉しくて、浮かれた。
こんなに美しいのであれば、ドレスや宝石が欲しくなるのもよくわかった。大公家だ。金なら腐るほどある。
シオンが望む贅沢だって、させてあげられる。
きっと、いじめの噂はシオンの美しさに嫉妬した使用人の嘘。
闇魔法だって、光魔法と同じく希少価値が高い。
シオンは何から何まで完璧だった。
その日の帰り、俺は浮かれていたのかもしれない。
だから従者に「そんなに気を落とさないで下さいね」と言われるまで忘れていた。俺の婚約は誰にも祝福などされていなかったことに。
相手がシオンで良かったと言いたかったのに、俺の口から出た言葉はシオンを侮辱し軽蔑していた。
大丈夫。本人に言ったわけではない。
そうやって自分を納得させるしかなかった。
それなのに……聞かれていた。当の本人に。
言い訳なんて出来なかった。言ったことに変わりはないのだから。
少なからずシオンは俺に好意を抱いていると思った。時折見せる優しい笑顔は作られたものではないからだ。
何度か足を運べばシオンが冷遇されていることにも気が付いた。使用人如きが公女をいじめる。兄二人は止めることもなければ、時には自ら手をくだす。公爵に関しては興味を持つつもりもない。
今の俺ではシオンを救ってやれない。婚約者の立場で我が家に招いても扱いは同じ。それなら大人しく卒業まで待って、俺が家を継いだときに使用人を全員追い出して、二人だけで暮らせばいいと思った。
俺だけがシオンを救える。助けてあげられると、本気でそう信じていたのに……。
「よりにもよって、婚約破棄など……!!」
あんなにも冷たい目を見たのは初めてだ。感情のない虚ろな瞳。
ユファン嬢を突き落とそうとしたと、決めつけたことを怒って?
確かにあれは俺が悪かった。シオンは助けたと言っていたのに信じようともせず。
あの後、ユファン嬢から事の真相を聞いてようやく、自分の間違いを認めた。
本来なら婚約者である俺が、誰よりもシオンを信じなければならなかったのに、嬉しかったんだ。シオンがユファン嬢を突き落とそうとしたことが。
シオンが……皆の言っていたように最低の悪女であったことが。
あのときの俺はどうかしていた。そうに決まっている。
そうでなければ、シオンが悪女であることを願うはずがない。
お詫びにと、シオンのために買ったブレスレットを取り出す。女性の好みがわからなくてユファン嬢に選んでもらい、あとは渡すだけなのだが……。
俺はシオンを手放したくない。強く思うのに、ユファン嬢の笑顔を見ると胸の奥が熱くなる。
放課後、シオンが行きたがっていた店に誘うと断られただけでなく、あろうことか他の女性、ユファン嬢と行けなどと。
腹を立てているのは、そのことではなくて。
シオンに断られ、一人で帰ろうとすると小公爵とよく一緒にいるアルフレッド先輩に話しかけられた。
こちらから一方的に見たことがあるだけで、初対面に変わりはなかった。
爵位ではこちらが上でも、学園内では歳上には敬意を払わなくてはならない。仲の良い友人や幼馴染みといった関係があれば、変わらず親しく接する者もいる。
初対面でもある彼は唐突に
「シオン・グレンジャーと婚約破棄してくれ」
などと言った。
伯爵如きにそんなことを言われる筋合いはなく無視した。あの男に関係のないことだから。
すると、どうだ。
「貴方は彼女を好きではないのでしょう?」
そう言った。ハッキリと。真っ直ぐと絶対の自信を持ちながら。
怒りに支配されたが、攻撃することなく帰路を急いだ。
屋敷に帰り、人の目がない自分の部屋に入るとカバンをベッドに投げ付けた。
ふざけるな。ふざけるな!!
確かにシオンとは政略結婚だ。
魔力に差がありすぎると子供が出来ないため、必然的に俺の相手はシオンしかいない。
その事実に屋敷の者は酷く嘆き悲しんでいた。喜ぶ者などいない。
この国の唯一の公女なのに。
シオン・グレンジャーは呪われたような白い髪をしていて、性格も最悪。
ドレスや宝石を買い漁り、毎日のように使用人をいじめている。
極めつけが闇魔法の使い手。
当時の俺には、たったそんなことで?としか思えなかった。
見た目なんて気にしない。
いじめているなんて所詮は噂。
闇魔法?それがどうした。
国王陛下だって仰っていた。魔法は個性であると。
それなのに邪険にして悪者に仕立てようとする意味がわからない。
政略結婚でも結婚することに変わりはないのに、祝福の言葉をまだ一度も聞いていないことに気が付いた。
毎日のように可哀想だと言われ続けると、俺は本当に可哀想なんだと思うようになっていった。
迎えた顔合わせ当日。
シオンの髪は真っ白ではなく銀色も含んでいた。みんなが悪くいうほど酷いものではない。太陽の光が当たるとキラキラ反射して綺麗だった。
子供なのに整った顔も美しく、好きに……なっていたんだ。初めて会ったあの日から。
妻となる人が女神のような美しさを持っているなんて。嬉しくて嬉しくて、浮かれた。
こんなに美しいのであれば、ドレスや宝石が欲しくなるのもよくわかった。大公家だ。金なら腐るほどある。
シオンが望む贅沢だって、させてあげられる。
きっと、いじめの噂はシオンの美しさに嫉妬した使用人の嘘。
闇魔法だって、光魔法と同じく希少価値が高い。
シオンは何から何まで完璧だった。
その日の帰り、俺は浮かれていたのかもしれない。
だから従者に「そんなに気を落とさないで下さいね」と言われるまで忘れていた。俺の婚約は誰にも祝福などされていなかったことに。
相手がシオンで良かったと言いたかったのに、俺の口から出た言葉はシオンを侮辱し軽蔑していた。
大丈夫。本人に言ったわけではない。
そうやって自分を納得させるしかなかった。
それなのに……聞かれていた。当の本人に。
言い訳なんて出来なかった。言ったことに変わりはないのだから。
少なからずシオンは俺に好意を抱いていると思った。時折見せる優しい笑顔は作られたものではないからだ。
何度か足を運べばシオンが冷遇されていることにも気が付いた。使用人如きが公女をいじめる。兄二人は止めることもなければ、時には自ら手をくだす。公爵に関しては興味を持つつもりもない。
今の俺ではシオンを救ってやれない。婚約者の立場で我が家に招いても扱いは同じ。それなら大人しく卒業まで待って、俺が家を継いだときに使用人を全員追い出して、二人だけで暮らせばいいと思った。
俺だけがシオンを救える。助けてあげられると、本気でそう信じていたのに……。
「よりにもよって、婚約破棄など……!!」
あんなにも冷たい目を見たのは初めてだ。感情のない虚ろな瞳。
ユファン嬢を突き落とそうとしたと、決めつけたことを怒って?
確かにあれは俺が悪かった。シオンは助けたと言っていたのに信じようともせず。
あの後、ユファン嬢から事の真相を聞いてようやく、自分の間違いを認めた。
本来なら婚約者である俺が、誰よりもシオンを信じなければならなかったのに、嬉しかったんだ。シオンがユファン嬢を突き落とそうとしたことが。
シオンが……皆の言っていたように最低の悪女であったことが。
あのときの俺はどうかしていた。そうに決まっている。
そうでなければ、シオンが悪女であることを願うはずがない。
お詫びにと、シオンのために買ったブレスレットを取り出す。女性の好みがわからなくてユファン嬢に選んでもらい、あとは渡すだけなのだが……。
俺はシオンを手放したくない。強く思うのに、ユファン嬢の笑顔を見ると胸の奥が熱くなる。
454
お気に入りに追加
1,086
あなたにおすすめの小説
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を
その数日後王家から正式な手紙がくる
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと
「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ
※ざまぁ要素はあると思います
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
[完結]愛していたのは過去の事
シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」
私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。
そう、あの時までは
腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは
貴方、馬鹿ですか?
流行りの婚約破棄に乗ってみた。
短いです。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる