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貴族令嬢

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色とりどりの花が咲き誇る中庭でモブ令嬢達と昼食をとることになるとは。何が悲しくてこんな……。
侯爵や伯爵のなかでもそこそこ上の立場にいる。
それを束ねる公女。
いじめをするにはうってつけの集団。
周りからの視線が痛い。
こんなにも権力が集まっているのに断罪され殺されるのはたった一人。
名前も覚えるつもりのない人と食事なんて苦行ね。
適当に笑って相づちを打っておけば楽。
ユファンの話題になろうものなら「そういえば」や「あら……」と、言葉を遮る。
貴女達が私を唆していじめをするよう誘導させないためにも常に一歩先を読み間違えないようにしないと。

「でも羨ましいですわ。シオン様はヘリオン様との将来が約束されているのですから」

面倒なおべっか。
貴女達が私に求めているものは何?
いじめの口実?
甘い蜜を吸いたいの?
どんな理由があるにせよ虫酸が走る。
どうやら不機嫌に思うだけで顔にまで表れたらしく、令嬢達が冷や汗をかきながら黙り込んだ。
一言でも喋ったら殺す。とでも捉えたのか。
地位があれば表情一つで相手を支配出来るのか。良いことを知った。
言葉を交わしたくないときはこうして睨めばいい。
これから喋りたくないときは、睨んで黙らせることにしのよう。

「私はこれで失礼するわ」
「シオン様!?」
「どうされたのですか!?」

慌てる彼女達は無視した。
ご飯は美味しいけど胃が持たれる。これ以上は食べられない。
気分転換も兼ねて学園内を散歩しよう。ついでにユファンがいじめられていた場所も今一度把握しておかないと。
私が制御しているとはいえ必ずしもいじめを防げるわけじゃない。
あくまでもユファンをいじめる生徒としか付き合うつもりはない。
態度には表さないだけで平民ユファンを快く思わない貴族は五万といる。どう頑張ったってその全員を抑え込めるわけもない。
それならいっそ。いじめ現場に攻略対象者を鉢合わせる。
いじめている側が余計なことを言う前に連れ出してくれればいいけど、どうせ私の命令で動いたんだろうと決めつける。
婚約破棄をしても魔法の属性がある限り、私が悪者に変わりない。
闇魔法のどこが悪いのさ。勝手な価値観で何もかも決めつけんな!!

「お一人ですか?」

アルフレッド先輩?
こうしてまじまじ見ると綺麗な顔立ち。モブにしておくのがもったいない。
警戒心なくニッコリと笑顔を作った。アルフレッドはいつも長男と一緒にいる描写しか描かれてないから一人でいるのは新鮮。
人気者っぽそうなのに昼休みに友達といずに何してるんだろ。
私を見つけたからといってわざわざ声をかけるなんて。
もしかして私が何者か知らないの?可能性は低いけどなくはない。
だから入学式で私に花を付けてくれたのか。
長男が私の話をするわけないし。でも噂は広まってるはず。

「シオン?」
「え?」
「失礼しました。僕の声が聞こえてないかと思って」

だからって呼び捨てにするか普通。長男達とは別の意味でめんどくさそう。
関わらないほうが身のためかも。

「申し訳ございませんアルフレッド先輩。用事がありますので私はこれで失礼致します」
「信じてるよ」
「何をですか」
「君がユファン嬢を突き落としていないと」
「そうですか。ありがとうございます」

めんどくさい人じゃなくて公爵家に擦り寄りたい一人だったわけね。
お金の援助でもして欲しいのかしら。私個人の力で出来るのはそれぐらい。
伯爵家だからと財に恵まれていない家も少なくない。
心にもない言葉は虫酸が走る。
身分さえ除けばユファンは男にモテる要素しか持ち合わせていない。モブが惚れても不思議ではない。
もしかしてアルフレッド先輩もユファンを好きになって、甘い言葉で私を牽制したいのかな?
愛情に飢えてる本物のシオンなら心は揺らいだでしょうね。

「本当だよ。本当に君が、シオンがそんなことをするわけないと信じてるんだ」

力強い瞳。嘘じゃ……ない?
こんな私を信じたって得なんてないのに。
それなのに……信じてもらえることが嬉しく思う。

「次に泣くときは僕がハンカチを貸すと約束する」
「何のことですか」
「いいや。次は移動教室だからこの辺で失礼するよ」

行ってしまった。
本当に何だったの?
まさか私が泣いてるとこ見られたとか?それであんな安っぽい言葉を……。
同情され哀れまれたんだ。家族あににさえ信じてもらえない妹として。
深い意味なんてないだろうに。ただの社交辞令の約束だったとしても少しだけ、ほんの少しだけ期待に胸が踊る。
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