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公爵登場

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「疲れた~~」

生徒の視線に耐えながら一日を終えて、帰って早々ベッドにダイブ。
ノアールがちょこんとお腹に乗ってきた。

【あの男、ころす?】
「こらこら。そんな物騒な言葉使わな……。え、誰のこと言ってる?」

ノアールはキラキラした目でニッコリと笑いながら

【シオンを叩いた男。ぼくがアイツころしてあげる】

何で知ってんの?
見てたのだろうか?

たくさんのなぜ?に頭を悩ませるとスリスリと甘えてきた。
どの世界でも猫ってのは癒しだな。前世ではあまり懐かれた記憶がない。

「どうしてわかったの。小公爵様のこと」
【んー?何となく!!】

わお……元気いっぱい。
私達が繋がれるなんて裏設定はないから、本当に何となくわかっただけなんだろうけど腑に落ちない。
そもそも私にしか声が聞こえないってのも意味があるのかも。
調べてみような。この子のこと。
私の属性が闇魔法っていうのも関係しているかもしれない。
魔法のことなら図書館に行けば詳しい記録が記されているかも。
あんな騒ぎを起こした私には食事を与えるなとか、そんな子供じみた命令を長男が出してるだろうからここにいても仕方ない。
外に行くついでに何か食べよう。
筆記用具を持ってノアールを肩に乗せて準備万端。
公女様が歩いているのに使用人は誰も頭を下げようとしない。
魔法で無礼な使用人の頭を押さえ付けて無理やりにでも下げさせた。
あ、しまった。これ……本物のシオンがやってたことだ。
ま、いいか。

「何をしている」

百九十センチ近くありそうな顔の怖いイケメン大男。
どこかで見たような……。誰だっけな。
あっちも誰だこの女みたいな顔で睨んでくる。

「こ、公爵様!!お助け下さい!!」
「公女様が……!!」

あぁー。公爵。シオンの父親。
そうそう。こんな顔だった。
仕事人間なのに部屋か出るんだ。へぇー。今は休憩中かな。どうでもいいけど。
はぁー。思い出せてスッキリした。
よし。図書館行こう。

「………………もしかして………シオン……か……?」

考えに考え抜いて疑問形か。いいけどね別に。
しかも表情が一ミリも変わっていない。睨むのやめてよね。

「だとしたら何ですか?」
「少しは娘らしく振る舞えないのか」
「ぷっ…あはは!!あ、失礼。おかしくてつい」

家族を顧みない父親の発言とは思えない。

「それに何の意味があるのですか?貴方は私に、娘を求めていないでしょう?」

ここまでハッキリと言ってあげると公爵様はメイド達を冷たく見下ろして素通りしようした。
そんな公爵様に再度助けを求めた。

「その魔法はレベル一のものだ。自力でどうにかしろ。公爵家に仕える人間なら」

無茶を言う。
闇魔法に対抗出来るのは光魔法のみ。
そりゃあさ、単純に力のある公爵様達なら抜け出せるよ?
でもね。どんなに優秀だろうと所詮使用人は平民。魔力を持たぬ者。
それを考えるとあのメイド。よくシオンにあんな嫌がらせしてたね。度胸がすごい。心臓に毛でも生えてるのかな。
確か執事長とメイド長は魔法を使えたはず。

【馬車に乗らないの?】
「ええ。私を乗せる馬車も御者もいないから」

この家の物は全て公爵か長男と次男のもの。
私にあるのは、与えられたお金で買った物だけ。
シオン。寂しかったよね。辛かったよね。
お金を与えるだけで父親の義務を果たした気でいる公爵。
顔を見れば蔑み憎む兄二人。
誰にも名前を呼んでもらえない孤独な世界。
そんな薄情な家族に愛されようと努力した時期もあった。すぐに無駄な時間だと気付いたけど。
父親は娘を、兄は妹を、必要としていない。
子供ながらにその空気は察した。だからなるべく顔を合わせないようにご飯を自分の部屋で食べるようにした。
ゲームをしているときは本当に嫌いだったけど、いざ本人になってみるとただの被害者だった。
だってそうじゃん。元は公爵夫人のくっだらない考えのせいでシオンは本物の家族と離れ離れ。それはユファンにも言えるけど。
そのせいで誰にも本当の自分を知ってもらえずに悪女への道を歩み始めた。
元を正せばぜーーーんぶ!!このグレンジャー家が悪いんじゃないの!!
それなのに悲惨なバッドエンドしか用意されてないっておかしくない!?
ユファンは偽物の家族に愛されて温かい時間を過ごしている。
最後に公爵家に迎え入れられるときも公爵様は「私の娘」と口にして強く抱きしめた。

どうして……?

同じようにすり替えられたのにどうしてユファンだけが愛されるの!?
全部奪っていくくせに。
私から、家族も婚約者も、人生でさえ。
これは精神的に痛いな。シオンは一年間こんな思いを抱いていた。
嫉妬だけがシオンの感情を埋め尽くした。ユファンをいじめることで自分の存在を認めてもらおうとした。

「バカだなぁ…」

何をやっても認めてもらえるわけないのに。 


ードンッ!!


考え事をしていて前方不注意だった。誰かとぶつかって倒れそうになったのを手を引いて助けてくれた。
お礼を言おうと相手の顔を見ると、ありとあらゆる機能が停止した。
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