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愛されたい少女
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いつからだろう。
婚約者の隣に私が立てなくなったのは。
まるでリリー姉様がセル様の恋人のよう。
いつからだろう。
家族と食事を摂らなくなったのは。
みんなが食べ終わるまで私はいつも立っている。
いつからだろう。
私が使用人のように扱われるようになったのは。
食事も洗濯も掃除も、リリー姉様がパーティーや夜会で友達に見せる刺繍も全て、私がやるようになった。
お父様もお母様もリリー姉様ばかりを可愛がる。顔立ちがとても可愛いからだ。
私はとても地味だ。顔のパーツは似ているのに、可愛さだけは持って生まれてこられなかった。
「あぁんもう。セルってば。まだ昼間じゃないの。夜まで我慢して」
セル様の膝の上に乗って体を密着させながら甘えた声を出す。
私が見ている目の前で、何度も何度もキスをした。
本来なら許されないことかもしれないけど、リリー姉様は数年前、婚約者に浮気をされそのまま婚約破棄をした。
相手様はちょっとした遊びだったと必死に謝っていたけど、リリー姉様の心が再び傾くことはなく関係は終わった。
「おい。なに見てんだ!」
私とセル様の婚約に愛はない。
お母様とリリー姉様の浪費癖が激しく、お金がなくなってしまった。
エル様のご実家の侯爵家に援助してもらうために両親は私を差し出した。
婚約者という名の遊び道具として。
死にさえしなければ何をしてもいい。買われた私は大人しく、されるがまま。
そういう関係になったことはない。私なんかには興味がないそうだ。
セル様は人当たりが良く、誰からも好かれる好青年。
それ故にストレスが溜まりやすく、よく暴力振るう。
家族も使用人もみんな、そのことを知っていて見て見ぬふりをする。
セル様に構ってもらえるのだから、感謝しお礼を述べろを言われた。
それ以降、私は殴られる度に「ありがとうございます」と口にするようになった。
「セル。怒らないで。カッコ良い顔が台無しよ。ちょっとは空気読みなさいよ」
私を部屋に読んだのはリリー姉様だ。セル様との関係を見せつけるために。
「ほんとグズなんだから」
名前を……呼んでくれる人はいない。
私自身、私の名前を忘れた。
「ねぇセル。今日は泊まっていくのよね」
「もちろんだよ、リリー」
「あ、あの。お食事はどうされますか」
「はぁ?いるに決まってるでしょ。常識で考えてわかるでしょ。このバカ!!」
「ご、ごめんなさい」
今から夕食の支度をしないと間に合わない。
我が家はご飯の時間は決まってるいない。その日の気分で早かったり遅くなったり。
ご飯を食べると言ったとき、出来たてがテーブルに並んでいなければお父様にぶたれる。要領が悪いと。
最初は料理人でもない私が厨房に立つことを快く思わない人達に睨まれながら人数分の料理を作っていた。
私が作れるようになった今では、ほとんどの使用人が解雇。残っているのは身の回りの世話をしてくれる数人。
援助してもらってるとはいえ、右から左に消えていくためお給料を払えないのが現状。
少人数なら侯爵家が負担してくれることになっている。
陽が沈みかけた頃、お父様達は食堂に集まった。
なんとか間に合った。
「なによこれ。不味すぎるわ!!」
スープを一口飲んだリリー姉様が叫んだ。
「不味い物を食べさせるなんて、どんな神経をしているの」
「ふん!不味い物なんか食えるか!!」
お父様が床に捨てると、お母様達も同じように全ての料理を捨てた。
「お父様。外に食べに行きましょう。セルに変な物を食べさせて、体を壊したら大変だわ」
「それもそうだな」
セル様がいるときは、いつもこうだ。
だから、聞いた。いるのかと。
外食代も結局はセル様が支払う。こんなにもお金の面倒を見えくれても侯爵家には何の利益もない。
セル様はお金をあげるなんて言っていない。あくまでも貸すだけとしか。裏があるとは思わず、好きなときに好きなだけ借りて、借金を膨らませていく。
「ちゃんと掃除しておきなさいよ」
セル様は私の横を通り過ぎる瞬間、私の頬をビンタした。
「お前が着ている服も、食事も全部、俺の援助があってこそだ。違うか?」
「そうです」
「だったらもっとマシな物を作ったらどうだ?平民でさえ出来ることが出来ないなんて、お前は平民以下だ。この無能が」
セル様の言葉を否定してはいけない。反抗的な態度を取ってはいけない。
受け入れて、認めて。
「セル様の仰る通りです」
機嫌を損ねて援助を切られたら家が潰れる。
それだけは防がないと。
「ほら、ありがとうございますは?」
「私なんかに構ってくれて、ありがとうございます。いつも援助をして下さり、本当にありがとうございます」
「それでいいんだよ。お前みたいな無能で生きる価値のない女は、男に頭を下げているのがお似合いだ」
「まぁ、セルってば。そんなゴミに存在理由を教えてあげるなんて、優しいのね」
「いや!流石は次期侯爵様!器が大きい!」
「ははは。人の上に立つ者として当然です」
いつからだろう。
リリー姉様と同じように愛されたかったのに「愛して」と言わなくなったのは。
いつからだろう。
あんなにも独りが寂しかったのに、独りのほうが楽だと思えるようになったのは。
いつから……だろう。
こんなにも全てが壊れてしまったのは。
愛されないとわかっているのに、“家族のために”私は……。
婚約者の隣に私が立てなくなったのは。
まるでリリー姉様がセル様の恋人のよう。
いつからだろう。
家族と食事を摂らなくなったのは。
みんなが食べ終わるまで私はいつも立っている。
いつからだろう。
私が使用人のように扱われるようになったのは。
食事も洗濯も掃除も、リリー姉様がパーティーや夜会で友達に見せる刺繍も全て、私がやるようになった。
お父様もお母様もリリー姉様ばかりを可愛がる。顔立ちがとても可愛いからだ。
私はとても地味だ。顔のパーツは似ているのに、可愛さだけは持って生まれてこられなかった。
「あぁんもう。セルってば。まだ昼間じゃないの。夜まで我慢して」
セル様の膝の上に乗って体を密着させながら甘えた声を出す。
私が見ている目の前で、何度も何度もキスをした。
本来なら許されないことかもしれないけど、リリー姉様は数年前、婚約者に浮気をされそのまま婚約破棄をした。
相手様はちょっとした遊びだったと必死に謝っていたけど、リリー姉様の心が再び傾くことはなく関係は終わった。
「おい。なに見てんだ!」
私とセル様の婚約に愛はない。
お母様とリリー姉様の浪費癖が激しく、お金がなくなってしまった。
エル様のご実家の侯爵家に援助してもらうために両親は私を差し出した。
婚約者という名の遊び道具として。
死にさえしなければ何をしてもいい。買われた私は大人しく、されるがまま。
そういう関係になったことはない。私なんかには興味がないそうだ。
セル様は人当たりが良く、誰からも好かれる好青年。
それ故にストレスが溜まりやすく、よく暴力振るう。
家族も使用人もみんな、そのことを知っていて見て見ぬふりをする。
セル様に構ってもらえるのだから、感謝しお礼を述べろを言われた。
それ以降、私は殴られる度に「ありがとうございます」と口にするようになった。
「セル。怒らないで。カッコ良い顔が台無しよ。ちょっとは空気読みなさいよ」
私を部屋に読んだのはリリー姉様だ。セル様との関係を見せつけるために。
「ほんとグズなんだから」
名前を……呼んでくれる人はいない。
私自身、私の名前を忘れた。
「ねぇセル。今日は泊まっていくのよね」
「もちろんだよ、リリー」
「あ、あの。お食事はどうされますか」
「はぁ?いるに決まってるでしょ。常識で考えてわかるでしょ。このバカ!!」
「ご、ごめんなさい」
今から夕食の支度をしないと間に合わない。
我が家はご飯の時間は決まってるいない。その日の気分で早かったり遅くなったり。
ご飯を食べると言ったとき、出来たてがテーブルに並んでいなければお父様にぶたれる。要領が悪いと。
最初は料理人でもない私が厨房に立つことを快く思わない人達に睨まれながら人数分の料理を作っていた。
私が作れるようになった今では、ほとんどの使用人が解雇。残っているのは身の回りの世話をしてくれる数人。
援助してもらってるとはいえ、右から左に消えていくためお給料を払えないのが現状。
少人数なら侯爵家が負担してくれることになっている。
陽が沈みかけた頃、お父様達は食堂に集まった。
なんとか間に合った。
「なによこれ。不味すぎるわ!!」
スープを一口飲んだリリー姉様が叫んだ。
「不味い物を食べさせるなんて、どんな神経をしているの」
「ふん!不味い物なんか食えるか!!」
お父様が床に捨てると、お母様達も同じように全ての料理を捨てた。
「お父様。外に食べに行きましょう。セルに変な物を食べさせて、体を壊したら大変だわ」
「それもそうだな」
セル様がいるときは、いつもこうだ。
だから、聞いた。いるのかと。
外食代も結局はセル様が支払う。こんなにもお金の面倒を見えくれても侯爵家には何の利益もない。
セル様はお金をあげるなんて言っていない。あくまでも貸すだけとしか。裏があるとは思わず、好きなときに好きなだけ借りて、借金を膨らませていく。
「ちゃんと掃除しておきなさいよ」
セル様は私の横を通り過ぎる瞬間、私の頬をビンタした。
「お前が着ている服も、食事も全部、俺の援助があってこそだ。違うか?」
「そうです」
「だったらもっとマシな物を作ったらどうだ?平民でさえ出来ることが出来ないなんて、お前は平民以下だ。この無能が」
セル様の言葉を否定してはいけない。反抗的な態度を取ってはいけない。
受け入れて、認めて。
「セル様の仰る通りです」
機嫌を損ねて援助を切られたら家が潰れる。
それだけは防がないと。
「ほら、ありがとうございますは?」
「私なんかに構ってくれて、ありがとうございます。いつも援助をして下さり、本当にありがとうございます」
「それでいいんだよ。お前みたいな無能で生きる価値のない女は、男に頭を下げているのがお似合いだ」
「まぁ、セルってば。そんなゴミに存在理由を教えてあげるなんて、優しいのね」
「いや!流石は次期侯爵様!器が大きい!」
「ははは。人の上に立つ者として当然です」
いつからだろう。
リリー姉様と同じように愛されたかったのに「愛して」と言わなくなったのは。
いつからだろう。
あんなにも独りが寂しかったのに、独りのほうが楽だと思えるようになったのは。
いつから……だろう。
こんなにも全てが壊れてしまったのは。
愛されないとわかっているのに、“家族のために”私は……。
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