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第一章 第二節
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体の中、血液の発火。
私の名前はセキラ。今はクレイフェンの皮を被っている。私が如何なる姿であろうとも、声であろうとも、匂いであろうとも、温度であろうとも……他の誰でもない私だ。私は私であり続けている。
私はこの世界に理解者はいないと思っていた。この場合、クレイフェンの中にいる私、セキラを認識する者として。世の中は、私がクレイフェンとして同一である、つまりは「自己同一性」を求めている。復讐を果たすためにも、演じなければならない。
「君がクレイフェンか! めんこい子やなぁ~」
もう言葉遣いから無理だった。こんなおじさんいたら、絶対に元の体のクレイフェンでも逃げると思う。素足でも、だ! 小汚い声が、熱が、元々貧困の中にいた者だと思わせるが、あまりにも心まで汚すぎた男性だから、何らかの人脈か、運で今の地位を手に入れて、この態度を取り続けているのだと思った。ここまで吐き気を通り越して縄を、刃物を感じる相手も初めてだ。私はそれを抑えて、世間の期待に寄り添うしかなかった。
「……して、税取りとはどのような存在ですか?」
媚を売るしかなかった。
「ああ、クレイフェンちゃん……いいや、クレイたんでいいな、わいの嫁になるんだし…… クレイたんは外聞によらず、そういう話が好きなんやねぇ~益々欲しくなってくるじゃないか」
私の肉体に変なあだ名までつけていた。吐き気が気ではなく、実際に喉元の、丁度舌の付け根の辺りに上ってくるのを感じた。この反応は、おそらくこの本来の相手である、クレイフェンもそう感じているという証明だ。
鼻の前で吐かれるのはおそらく相手としても想定外だろうし、私もそんな不利になる行為はしたくなかった。
「あの、お手洗いに行ってきます」
了承を得ずに私は走り去った。報告だけが宙を浮かんで残った。
洗面台にしようか、便器にしようか少しだけ悩んだ後、この気持ちを吐露するには便器が良いと一瞬で判断するしかなく、私はその判断に従う形となった。
私は吐いた。今日の食事である、キェーンの唐揚げと、フェウバの野菜盛りが私の中から溢れて、出て行ってしまった。勿体無かった。もっと言えば、シュペルと食べる時があったのなら、今よりももっと美味しかったはずだった。それを世界は奪って行った。
境遇に恵まれない子供の、ささやかな楽しみさえ奪うような世界。大人たち。自分さえ良ければいいとでも思うような傲慢さが私の吐露を後押しする。生まれたくなんてなかった。きっとシュペルもそうなんだ。クレイフェンだって、生まれたいとは思っていなかったはずだ。
口の中が酸っぱくなって、喉を通る物がまだ残っている。私はあとどれくらい吐けば許される? ラヴァッセのあの声が、あの熱が、まだ私に込み上げるものがある、と、吐き気を感じさせる。……帰りたい。それか、今すぐにでもセレラーシュに会いたい。しかし私の親がそうさせてくれないのだ。
あまりにも私が、便器と仲良くなりすぎたのか、嫉妬してラヴァッセが追いかけてきた。
お前、女子の便所に入る気か、だからお前は今までも女に逃げられるんだよ、そしてこれからも。と言いたいところを、こらえる。
「ラヴァッセ様……ここ、女子の便所です」
「けったいなクレイたん! これから夫婦になるんだろう? このくらい普通だよ、普通!
それに、今血が出ていないか確認しなきゃあなあ?」
冷めた。月経のように、血が出ていくかのような感覚がした。出なかった。
いっそ、他の女子たちのように、ここで出てくれれば、とは思った。
「あの、まだ……私、血が出てなくて……」
が、それは私自身が、クレイフェンに、出産という義務を背負わせてしまう、悲しき女の定めだ。
私…セキラは、どのような好条件であっても出産はしないと心に決めているので、こういった誘いやら何やらは断らなければならない。むしろ断ってはいけない理由を知りたい。世間体という怪物に身を喰われるならば、断ってはならないというのは分かったが。
今日、私がクレイフェンとして生きる中で、命じられたのは「ラヴァッセの職業見学」であった。この、小太りの税取りの男をどう観察すれば良いのか。醜く太った図体に意識を向けず、彼の向ける情報へ意識を集中する。
「ヘヴェウ。こいつは21イテルフの貸しだったか。理由なんてまあ良い、こんな少額だけ借りて何するつもりなんだろうな? 利子でぼったくってやる。次。
マレーナ。こいつは1万イテルフ……気前が良いな。体すら払えないような貧困層とは違って、取り立てれば取り立てるほど金の成る富裕層は良いな。次。」
なんとも下品に、独り言をぶつくさと言いながら仕事をする人間だったようだ。それで社会が表面的に回っているのなら大した人間だとは思ったが……
『利子でぼったくる』『金の成る』とまあ……こいつは、大きな家と、10と2回生まれ変わっても贅沢に暮らせるだけの資金を持って尚、まだ足りないと求めるのか……呆れでいっぱいだった。人間をここまで変える「金」に恐怖を抱いた。
一瞬、ラヴァッセは情報から頭を離す。呼吸だろうか? と思った次の瞬間。
「なんや、クレイたん……わいの仕事に興味津々やなぁ? わいの太ももの上においで。ああ、突き出てるやつは気にせんでな」
要は自分の上に座れと。
私は舌の付け根のあたりにまで這い上がってきた吐き気を呑んで、ラヴァッセの太ももの上に座った……お前の太もも、私の腹より大きいじゃないか。座ってばっかだからだよ。いいか、女はもうちょっと図体の良い男を求めてるんだ。脂肪引き絞ってくれや。そんでまた股間から固い突起物がお出まししていやがる。糞が。自分で処理しとけ、私はやってやるつもりはないぞ!
……という思いはそっとごみ箱に入れたが、そろそろ心のごみ箱が破裂してしまいそうだ。鼻の前の情報に意識を向ける。全力で意識を向けた。
これは……借金や所得、消費物や売買、土地などにかかる税の、つまりはラヴァッセの的の一覧だ。これだけ読む気も失せる情報も初めてだ。その次に読む気が失せるのは、バイシューへの漁獲量の減少だが。
聞くに、働いて金を得たり、何かを買ったり、何かを売ったり、土地を持っていたり、借金をした人から、金を取る構造であった。働いた金から取られる分にはまだいい。何かを売った金から取られる分にもまだいい。けれど、買うだけで、持っているだけで、生きようとしただけで、更に金を取っていくのはおかしいと思った。私の計算が間違いでなければ……元々かかっていた金の動きよりも、更に10倍ほどの税を取っている計算になる。そのうちのどれだけが、実際に動く税取りたちに支払われるのか。7割、もしかしたら9割もこいつが取ってるんじゃないか? と考えると、吐き気と共に悪寒も同居し始めた。
ところで私は、クレイフェンとして、家の台所から刃物を一振り持ってきた。隠せるような大きさで、勿論威力は高い刃物を。これが意味するところは……『当たりどころが良ければ』この太った醜い男、ラヴァッセを一刺しで殺せるという殺人証明だ。
私は懐の中にあるはずの刃物を確かめる。懐の中にある。私は安心する。
ラヴァッセはいつもやっているかのように、ただ冷酷な貪欲な金銭欲を一人、情報にぶつけていた。それ自体が何らかの儀式のようだった。儀式は、少なくとも私に吐き気と悪寒を催す程度の効力は持っていた。
そして、ラヴァッセがある家族の名前を読み上げる……クレイフェンの家族ではなく。
なんてことだ。これは私の、私のシュペルの両親じゃないか。
しかも借金するところで50と10万。持ち家もない。売るものもない。得るものもない。……馬鹿な。まだ貪ろうと言うのか。食べるにも、住まうにも、寝るにも困った家族から、まだ絞ろうというのか。もう、干した果実を通り越して、姿形無くなっているところなのに。
残酷な真実が彼らの体を、戸籍を、魂をも切り刻む音を聞いた。それからすぐに、ラヴァッセはまた自分の仕事に意識を向け始めた。
もし、うまく、殺せたとしたら……
私の怒りは充分だった。もうこれ以上我慢したくなかった。
もう抑えたくなんてなかった。仮初の平和なんていらなかった。私にとっての平和は、シュペルが生きていてくれるか、それか、シュペルのような子供が二度と生まれない世界か、たったその二択だけ。そのうちの一つはもう敵わない。叶わない。適わないから、あと残された一つの選択肢しか私にはない。
つまりは《この社会の仕組みを変える》。望む結果をもたらすためには、まずこの男から手にかければいい。
私の後ろにいるこの男は、私にも気をかけずに自分の仕事をこなしている。もしこの職業でなかったとしたら、私だって殺さないかもしれない、しかし現に男は税取りで、金の亡者それ自体で、そして、強欲の化身だった。
ならば解は一つで十分。
刃物だって一つで十分だ。
税取りのラヴァッセ=クハンラヴィエズ。 その命、おまえの税だ。
おまえの税を私は頂いてやる。 報復だ。 報復の時だ!
ー
なぜ……こんなにも腹が熱い?
なぜ……こんなにも燃え上がるように熱い?
なぜ自身を失うような錯覚をしている?
これは事実か?
ならばこの現実は何だ?
わいはクレイたんと仲良くなりたかったんじゃあなかったのか?
クレイたんにそこまで嫌われていたのか?
どうして嫌われた?
どうして……?
ー
その程度か、結局は。お前なんか、最初から嫌いだ。私が私として生を受けてから、お前のような奴を憎まなかった日なんて、一日もないというのに。
それでも、お前は友愛の夢を、私との叶わぬ友愛の夢を…… 気色悪い。
きっとお前は、クレイフェンにも好かれないと思うぞ。
ー
クレイたんは……自分を名前で呼んだ時はあるか……?
違う……人間……中身……
もしかして……
今までのクレイたんは……クレイたんじゃない……?
お前は……誰だ?
そうだ……クレイたんは確か、一度死んだと聞かされた、
今生きているクレイたんは、本当にクレイたんそのままなのか?
今いるクレイたんの……
さっきわいを刺した、クレイたんは……
つまるところ、"霊体人間"……
ー
絶命を聞き届けた。結局、私の目指す場所にはまだ遠かった。けれど一歩は近づいた、そんな気がした。
さて、これからどうしようか、セレラーシュと話すか、それとも……
私の名前はセキラ。今はクレイフェンの皮を被っている。私が如何なる姿であろうとも、声であろうとも、匂いであろうとも、温度であろうとも……他の誰でもない私だ。私は私であり続けている。
私はこの世界に理解者はいないと思っていた。この場合、クレイフェンの中にいる私、セキラを認識する者として。世の中は、私がクレイフェンとして同一である、つまりは「自己同一性」を求めている。復讐を果たすためにも、演じなければならない。
「君がクレイフェンか! めんこい子やなぁ~」
もう言葉遣いから無理だった。こんなおじさんいたら、絶対に元の体のクレイフェンでも逃げると思う。素足でも、だ! 小汚い声が、熱が、元々貧困の中にいた者だと思わせるが、あまりにも心まで汚すぎた男性だから、何らかの人脈か、運で今の地位を手に入れて、この態度を取り続けているのだと思った。ここまで吐き気を通り越して縄を、刃物を感じる相手も初めてだ。私はそれを抑えて、世間の期待に寄り添うしかなかった。
「……して、税取りとはどのような存在ですか?」
媚を売るしかなかった。
「ああ、クレイフェンちゃん……いいや、クレイたんでいいな、わいの嫁になるんだし…… クレイたんは外聞によらず、そういう話が好きなんやねぇ~益々欲しくなってくるじゃないか」
私の肉体に変なあだ名までつけていた。吐き気が気ではなく、実際に喉元の、丁度舌の付け根の辺りに上ってくるのを感じた。この反応は、おそらくこの本来の相手である、クレイフェンもそう感じているという証明だ。
鼻の前で吐かれるのはおそらく相手としても想定外だろうし、私もそんな不利になる行為はしたくなかった。
「あの、お手洗いに行ってきます」
了承を得ずに私は走り去った。報告だけが宙を浮かんで残った。
洗面台にしようか、便器にしようか少しだけ悩んだ後、この気持ちを吐露するには便器が良いと一瞬で判断するしかなく、私はその判断に従う形となった。
私は吐いた。今日の食事である、キェーンの唐揚げと、フェウバの野菜盛りが私の中から溢れて、出て行ってしまった。勿体無かった。もっと言えば、シュペルと食べる時があったのなら、今よりももっと美味しかったはずだった。それを世界は奪って行った。
境遇に恵まれない子供の、ささやかな楽しみさえ奪うような世界。大人たち。自分さえ良ければいいとでも思うような傲慢さが私の吐露を後押しする。生まれたくなんてなかった。きっとシュペルもそうなんだ。クレイフェンだって、生まれたいとは思っていなかったはずだ。
口の中が酸っぱくなって、喉を通る物がまだ残っている。私はあとどれくらい吐けば許される? ラヴァッセのあの声が、あの熱が、まだ私に込み上げるものがある、と、吐き気を感じさせる。……帰りたい。それか、今すぐにでもセレラーシュに会いたい。しかし私の親がそうさせてくれないのだ。
あまりにも私が、便器と仲良くなりすぎたのか、嫉妬してラヴァッセが追いかけてきた。
お前、女子の便所に入る気か、だからお前は今までも女に逃げられるんだよ、そしてこれからも。と言いたいところを、こらえる。
「ラヴァッセ様……ここ、女子の便所です」
「けったいなクレイたん! これから夫婦になるんだろう? このくらい普通だよ、普通!
それに、今血が出ていないか確認しなきゃあなあ?」
冷めた。月経のように、血が出ていくかのような感覚がした。出なかった。
いっそ、他の女子たちのように、ここで出てくれれば、とは思った。
「あの、まだ……私、血が出てなくて……」
が、それは私自身が、クレイフェンに、出産という義務を背負わせてしまう、悲しき女の定めだ。
私…セキラは、どのような好条件であっても出産はしないと心に決めているので、こういった誘いやら何やらは断らなければならない。むしろ断ってはいけない理由を知りたい。世間体という怪物に身を喰われるならば、断ってはならないというのは分かったが。
今日、私がクレイフェンとして生きる中で、命じられたのは「ラヴァッセの職業見学」であった。この、小太りの税取りの男をどう観察すれば良いのか。醜く太った図体に意識を向けず、彼の向ける情報へ意識を集中する。
「ヘヴェウ。こいつは21イテルフの貸しだったか。理由なんてまあ良い、こんな少額だけ借りて何するつもりなんだろうな? 利子でぼったくってやる。次。
マレーナ。こいつは1万イテルフ……気前が良いな。体すら払えないような貧困層とは違って、取り立てれば取り立てるほど金の成る富裕層は良いな。次。」
なんとも下品に、独り言をぶつくさと言いながら仕事をする人間だったようだ。それで社会が表面的に回っているのなら大した人間だとは思ったが……
『利子でぼったくる』『金の成る』とまあ……こいつは、大きな家と、10と2回生まれ変わっても贅沢に暮らせるだけの資金を持って尚、まだ足りないと求めるのか……呆れでいっぱいだった。人間をここまで変える「金」に恐怖を抱いた。
一瞬、ラヴァッセは情報から頭を離す。呼吸だろうか? と思った次の瞬間。
「なんや、クレイたん……わいの仕事に興味津々やなぁ? わいの太ももの上においで。ああ、突き出てるやつは気にせんでな」
要は自分の上に座れと。
私は舌の付け根のあたりにまで這い上がってきた吐き気を呑んで、ラヴァッセの太ももの上に座った……お前の太もも、私の腹より大きいじゃないか。座ってばっかだからだよ。いいか、女はもうちょっと図体の良い男を求めてるんだ。脂肪引き絞ってくれや。そんでまた股間から固い突起物がお出まししていやがる。糞が。自分で処理しとけ、私はやってやるつもりはないぞ!
……という思いはそっとごみ箱に入れたが、そろそろ心のごみ箱が破裂してしまいそうだ。鼻の前の情報に意識を向ける。全力で意識を向けた。
これは……借金や所得、消費物や売買、土地などにかかる税の、つまりはラヴァッセの的の一覧だ。これだけ読む気も失せる情報も初めてだ。その次に読む気が失せるのは、バイシューへの漁獲量の減少だが。
聞くに、働いて金を得たり、何かを買ったり、何かを売ったり、土地を持っていたり、借金をした人から、金を取る構造であった。働いた金から取られる分にはまだいい。何かを売った金から取られる分にもまだいい。けれど、買うだけで、持っているだけで、生きようとしただけで、更に金を取っていくのはおかしいと思った。私の計算が間違いでなければ……元々かかっていた金の動きよりも、更に10倍ほどの税を取っている計算になる。そのうちのどれだけが、実際に動く税取りたちに支払われるのか。7割、もしかしたら9割もこいつが取ってるんじゃないか? と考えると、吐き気と共に悪寒も同居し始めた。
ところで私は、クレイフェンとして、家の台所から刃物を一振り持ってきた。隠せるような大きさで、勿論威力は高い刃物を。これが意味するところは……『当たりどころが良ければ』この太った醜い男、ラヴァッセを一刺しで殺せるという殺人証明だ。
私は懐の中にあるはずの刃物を確かめる。懐の中にある。私は安心する。
ラヴァッセはいつもやっているかのように、ただ冷酷な貪欲な金銭欲を一人、情報にぶつけていた。それ自体が何らかの儀式のようだった。儀式は、少なくとも私に吐き気と悪寒を催す程度の効力は持っていた。
そして、ラヴァッセがある家族の名前を読み上げる……クレイフェンの家族ではなく。
なんてことだ。これは私の、私のシュペルの両親じゃないか。
しかも借金するところで50と10万。持ち家もない。売るものもない。得るものもない。……馬鹿な。まだ貪ろうと言うのか。食べるにも、住まうにも、寝るにも困った家族から、まだ絞ろうというのか。もう、干した果実を通り越して、姿形無くなっているところなのに。
残酷な真実が彼らの体を、戸籍を、魂をも切り刻む音を聞いた。それからすぐに、ラヴァッセはまた自分の仕事に意識を向け始めた。
もし、うまく、殺せたとしたら……
私の怒りは充分だった。もうこれ以上我慢したくなかった。
もう抑えたくなんてなかった。仮初の平和なんていらなかった。私にとっての平和は、シュペルが生きていてくれるか、それか、シュペルのような子供が二度と生まれない世界か、たったその二択だけ。そのうちの一つはもう敵わない。叶わない。適わないから、あと残された一つの選択肢しか私にはない。
つまりは《この社会の仕組みを変える》。望む結果をもたらすためには、まずこの男から手にかければいい。
私の後ろにいるこの男は、私にも気をかけずに自分の仕事をこなしている。もしこの職業でなかったとしたら、私だって殺さないかもしれない、しかし現に男は税取りで、金の亡者それ自体で、そして、強欲の化身だった。
ならば解は一つで十分。
刃物だって一つで十分だ。
税取りのラヴァッセ=クハンラヴィエズ。 その命、おまえの税だ。
おまえの税を私は頂いてやる。 報復だ。 報復の時だ!
ー
なぜ……こんなにも腹が熱い?
なぜ……こんなにも燃え上がるように熱い?
なぜ自身を失うような錯覚をしている?
これは事実か?
ならばこの現実は何だ?
わいはクレイたんと仲良くなりたかったんじゃあなかったのか?
クレイたんにそこまで嫌われていたのか?
どうして嫌われた?
どうして……?
ー
その程度か、結局は。お前なんか、最初から嫌いだ。私が私として生を受けてから、お前のような奴を憎まなかった日なんて、一日もないというのに。
それでも、お前は友愛の夢を、私との叶わぬ友愛の夢を…… 気色悪い。
きっとお前は、クレイフェンにも好かれないと思うぞ。
ー
クレイたんは……自分を名前で呼んだ時はあるか……?
違う……人間……中身……
もしかして……
今までのクレイたんは……クレイたんじゃない……?
お前は……誰だ?
そうだ……クレイたんは確か、一度死んだと聞かされた、
今生きているクレイたんは、本当にクレイたんそのままなのか?
今いるクレイたんの……
さっきわいを刺した、クレイたんは……
つまるところ、"霊体人間"……
ー
絶命を聞き届けた。結局、私の目指す場所にはまだ遠かった。けれど一歩は近づいた、そんな気がした。
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