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第十九章 手折られた彼岸花
19-24 結界の外へ
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モノに刺さる感触は無い。
ただ、私がそこを境界と決めた。だから此処が境界、切り開かれるべき出口なのだ。
小太刀はより一層強く光り輝き、切っ先に光の渦を巻いた。
渦の中には外の世界が広がっている。
指一本程しか入るスペースの無かった亀裂は徐々に広がり、人一人は通れる程になった。
「成……功……?」
陽の光が射し込んできたことを確認し、ペタリと地面にへたり込んでしまう。
なんだかこの光が懐かしいように思える。でも、さほど時間は経っていないようだ。
この結界の中は、時間の流れすら違うのだろうか。
「凄いわチマ!」
「わんっ! わんっ!」
なっちゃんは呆然とする私に抱きつき、コマちゃんは膝の上に飛び乗る。
「お見事」
翼君だけは二人とは違い、冷静に私を褒め称え、微笑むに留めた。
出口を開くまでがゴールじゃない。あくまで通過点だ。此処から早く離脱しなきゃ。
彼の冷静さを見て、本来やるべきことを思い出した。
「皆、此処から出よう!」
「そうね、行きましょうか」
「わんっ!」
なっちゃんとコマちゃんも同意し、私から離れる。
「ああ。ま、此処から出られても、その先はちと骨が折れそうだけど……」
翼君は不穏なことを口にしつつ、一真を拘束する鎖を引っ張り上げた。一真は鎖に引かれ、無理矢理立たせられる。
「安全確認よろしくなっ!」
「翼君!?」
翼君は一真の背中を蹴り飛ばし、出口の外へと放り出した。
一真は体勢を崩しかけたが、なんとか持ち堪え、現実の世界に降り立つ。
「うん、大丈夫そうだな」
「ちょっと何やってるんですかー!」
拘束されて自由に動けない人に、これ以上の乱暴は好ましくない。
私が激しく抗議しても、翼君はけろっとしている。
「囮だよ囮。外に敵さんの式が張ってたりして、集中砲火されてもしゃーないでしょ?」
「ええ……」
こ、こう言っちゃアレだけど——。
「外道ね、あんた……」
なっちゃんが私の言いたいことを冷ややかに代弁してくれた。
「あんっ! 視線が冷たぁいっ!」
翼君は自分を抱きしめて身体をくねらせたが、スルーすることにした。
私たちも続いて結界を抜け、現世に降り立つ。辺りは何も変わっていない。
振り返ってみると、結界の穴は既に塞がっていた。
「あの子……」
結界の中に置いてきてしまったけれど、大丈夫なのだろうか。もし、あそこから出られなくなったら……。
最悪の事態を想像し、嫌な寒気が身体を駆け抜けた。
そんな私を見かねて、翼君が苦笑いする。
「あの嬢さんの心配するなんて、お人好しにも程があるんじゃねーの?」
「……酷いことはされたけど、死んで欲しいとは思わないもん」
彼の忠言に、感情だけの言葉を返す。
今までされたことを思えば、心配すること事態、愚かなことかもしれない。
その甘さが私の首を絞めるかもしれないからだ。
放っておけば、あの子は更に残酷な手段で追い詰めてくるだろう。その時、また大切な誰かが傷つけられたら……。
それでも、誰かの死を願うことはしたくなかった。
「ま、千真ちゃんが非情になる必要はねーか。それに、あそこに置いてきても——」
翼君は納得したようで、まぁいっかと頷いた。そして、何かに気付いたようにハッとした表情を見せる。
「おっと、人の目は気にしないとな」
彼が指をパチンと鳴らすと、私たちを囲むようにつむじ風が巻き上がった。
多分、此処まで移動する時に使っていた『目隠し』のようなものだろう。
ここには翼やら角やら生えた人がいるんだ。誰かに見られたら全国紙に載ってしまう。それは流石にマズい。
オカルト番組でUMA特集が組まれてテレビ局が押し寄せて……って、何考えてるんだ。
「さて、このまま帰っちまうのも良いが、千真ちゃんはどうする?」
「え?」
私は翼君の意図が読めず、間抜けな声て聞き返してしまう。
「いや、さ。此処が故郷なら……親御さん、いるんだろ?」
私の故郷。そう、私の故郷。私が生まれ育った場所。血の繋がった家族がいて、私の家がある。
だけど……。
「いいよ。私のことなんか、忘れてるかもしれないし……」
私の場所なんて、既に存在しない。
今更会いに行ったところで、私が何者かすら認識されないだろう。
翼君が何か言いたげに口を開きかけたが、
「今は優先することがあるでしょ? ほら、こんなに簡単に来れるなら、また翼君に運んで貰えば良いし!」
私はそれに被せて阻止する。
「わぁお便利屋扱い~!」
彼はリアクションをして、それ以上追及してこなかった。
もう、異論はない。
「一緒に帰ろう」
翼君、なっちゃん、コマちゃん、そして一真を順番に見回したところで、
「……帰るなら勝手に帰れ」
だんまりを決め込んでいた一真が口を開く。
敵対心剥き出しの目で私を睨み付け、口を歪めた。
「あんた! この期に及んで……」
なっちゃんが声を荒げるが、一真は構わず続ける。
「言っただろ。俺の場所はお前の傍じゃない。手前の勝手で俺を巻き込むな」
「珀弥、君……」
彼から感じるのは、明確な拒絶。
「珀弥? 白々しい。ちゃんと言ってみろよ、俺の名を!」
ただ、私がそこを境界と決めた。だから此処が境界、切り開かれるべき出口なのだ。
小太刀はより一層強く光り輝き、切っ先に光の渦を巻いた。
渦の中には外の世界が広がっている。
指一本程しか入るスペースの無かった亀裂は徐々に広がり、人一人は通れる程になった。
「成……功……?」
陽の光が射し込んできたことを確認し、ペタリと地面にへたり込んでしまう。
なんだかこの光が懐かしいように思える。でも、さほど時間は経っていないようだ。
この結界の中は、時間の流れすら違うのだろうか。
「凄いわチマ!」
「わんっ! わんっ!」
なっちゃんは呆然とする私に抱きつき、コマちゃんは膝の上に飛び乗る。
「お見事」
翼君だけは二人とは違い、冷静に私を褒め称え、微笑むに留めた。
出口を開くまでがゴールじゃない。あくまで通過点だ。此処から早く離脱しなきゃ。
彼の冷静さを見て、本来やるべきことを思い出した。
「皆、此処から出よう!」
「そうね、行きましょうか」
「わんっ!」
なっちゃんとコマちゃんも同意し、私から離れる。
「ああ。ま、此処から出られても、その先はちと骨が折れそうだけど……」
翼君は不穏なことを口にしつつ、一真を拘束する鎖を引っ張り上げた。一真は鎖に引かれ、無理矢理立たせられる。
「安全確認よろしくなっ!」
「翼君!?」
翼君は一真の背中を蹴り飛ばし、出口の外へと放り出した。
一真は体勢を崩しかけたが、なんとか持ち堪え、現実の世界に降り立つ。
「うん、大丈夫そうだな」
「ちょっと何やってるんですかー!」
拘束されて自由に動けない人に、これ以上の乱暴は好ましくない。
私が激しく抗議しても、翼君はけろっとしている。
「囮だよ囮。外に敵さんの式が張ってたりして、集中砲火されてもしゃーないでしょ?」
「ええ……」
こ、こう言っちゃアレだけど——。
「外道ね、あんた……」
なっちゃんが私の言いたいことを冷ややかに代弁してくれた。
「あんっ! 視線が冷たぁいっ!」
翼君は自分を抱きしめて身体をくねらせたが、スルーすることにした。
私たちも続いて結界を抜け、現世に降り立つ。辺りは何も変わっていない。
振り返ってみると、結界の穴は既に塞がっていた。
「あの子……」
結界の中に置いてきてしまったけれど、大丈夫なのだろうか。もし、あそこから出られなくなったら……。
最悪の事態を想像し、嫌な寒気が身体を駆け抜けた。
そんな私を見かねて、翼君が苦笑いする。
「あの嬢さんの心配するなんて、お人好しにも程があるんじゃねーの?」
「……酷いことはされたけど、死んで欲しいとは思わないもん」
彼の忠言に、感情だけの言葉を返す。
今までされたことを思えば、心配すること事態、愚かなことかもしれない。
その甘さが私の首を絞めるかもしれないからだ。
放っておけば、あの子は更に残酷な手段で追い詰めてくるだろう。その時、また大切な誰かが傷つけられたら……。
それでも、誰かの死を願うことはしたくなかった。
「ま、千真ちゃんが非情になる必要はねーか。それに、あそこに置いてきても——」
翼君は納得したようで、まぁいっかと頷いた。そして、何かに気付いたようにハッとした表情を見せる。
「おっと、人の目は気にしないとな」
彼が指をパチンと鳴らすと、私たちを囲むようにつむじ風が巻き上がった。
多分、此処まで移動する時に使っていた『目隠し』のようなものだろう。
ここには翼やら角やら生えた人がいるんだ。誰かに見られたら全国紙に載ってしまう。それは流石にマズい。
オカルト番組でUMA特集が組まれてテレビ局が押し寄せて……って、何考えてるんだ。
「さて、このまま帰っちまうのも良いが、千真ちゃんはどうする?」
「え?」
私は翼君の意図が読めず、間抜けな声て聞き返してしまう。
「いや、さ。此処が故郷なら……親御さん、いるんだろ?」
私の故郷。そう、私の故郷。私が生まれ育った場所。血の繋がった家族がいて、私の家がある。
だけど……。
「いいよ。私のことなんか、忘れてるかもしれないし……」
私の場所なんて、既に存在しない。
今更会いに行ったところで、私が何者かすら認識されないだろう。
翼君が何か言いたげに口を開きかけたが、
「今は優先することがあるでしょ? ほら、こんなに簡単に来れるなら、また翼君に運んで貰えば良いし!」
私はそれに被せて阻止する。
「わぁお便利屋扱い~!」
彼はリアクションをして、それ以上追及してこなかった。
もう、異論はない。
「一緒に帰ろう」
翼君、なっちゃん、コマちゃん、そして一真を順番に見回したところで、
「……帰るなら勝手に帰れ」
だんまりを決め込んでいた一真が口を開く。
敵対心剥き出しの目で私を睨み付け、口を歪めた。
「あんた! この期に及んで……」
なっちゃんが声を荒げるが、一真は構わず続ける。
「言っただろ。俺の場所はお前の傍じゃない。手前の勝手で俺を巻き込むな」
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彼から感じるのは、明確な拒絶。
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