白鬼

藤田 秋

文字の大きさ
上 下
76 / 285
第十章 仁義なき文化祭!

10-9 文化祭開始!

しおりを挟む
* * * * * * * *

「コスプレ喫茶でーす」
 そんなこんなで文化祭当日になりました。僕は我がクラスの店の前で呼び込みをしている。

 場所は教室ではなく、サブ体育館。メインの体育館よりは狭いが、奥に合宿所が繋がっている。
 合宿所には調理場があるため、ここを使ったほうが都合が良いのだ。

「ちょっと休んでいきませんかー? 軽食もございますよー」
 まだ始まったばかりで、客足は少ない。

 何故僕が呼び込みなんだ。翼が『男だってバレねーよ!』ってふざけた事抜かしていたが。

 背丈は座って誤魔化し、肩幅はウィッグを垂らして誤魔化し、喉仏はチョーカーで隠し、声は気合いで変え、脚はロングスカートで隠した。
 徹底的に対策したように見えるが、こんな座高が大きい女子なんかいないだろ。無理だろ。

 唯一の救いは、試着で着たメイド服でなく、僕の体格に合ったクラシックなメイド服であることだ。これならぱつんぱつんじゃないし、脚も隠れる。こればかりは二階堂君に感謝せねば。

 翼曰く、『メイド服は絶対クラシック。ミニスカは許さねぇ。あの清楚なロングスカートからチラリと覗く白い足首が至高』らしい。フェチズムはよくわからないし、あいつ気持ち悪い。

 実際に着るのは男子だし、フェチもへったくれもない。

「珀弥君、とっても可愛いよ!」
 ひょっこりと現れたのはホール担当の千真だ。
 黒い燕尾服に身を包み、長い髪を後ろでまとめている。服のサイズもぴったり合っており、なかなか似合っている。

「千真さん、仕事に戻りなさい」
「ぶー!」
 千真を追い返した直後、客が近づいてきた。女の子二人組だ。それぞれうちの制服と、他校の制服を着ている。

「いらっしゃいませ、お飲み物はいかがですか?」
 営業スマイルを顔に貼りつけ、呼び込みをする。

「ここ入っちゃう?」
「うん! メイドさん見たい」
 女の子たちは僕を見てキラキラと目を輝かせた。残念だが中は半分地獄絵図だ。

 彼女たちが中に入るとき、『入り口の人、美人じゃない?』という会話が聞こえた。
 け、化粧ってすごいな。それよりも、男ってバレていない?

 また客が来た。今度は男二人組の上級生だ。少し軽薄そうな印象を受ける。

「君、美人だね。シフト終わったら一緒に回らない?」
「は、はい?」
 突然のナンパ。僕は男ですよ。体格で少なくとも女ではないことはわかるでしょ?

「名前教えてよ!」
 もう片方がにやりと笑う。

「田中です」
「田中ちゃんかぁ。ねぇ、メアド教えてよ」
「ふふ、お店に入って頂けたら考えます」
 口元を手で隠し、お上品に笑ってみた。天Styleである。

 こんな感じでナンパを躱し、呼び込みを続ける。どうせまぐれだ。
 人生初のナンパが男からっていうのが腹立たしいが、これ以降はもう無——。

「うっわ、脚なげぇ! もしかして君モデル?」
「可愛いね!」
「メアド教えて!」
「写真一緒に取ってください!」
「付き合ってください!」
「お姉様と呼ばせてもらっていいですか!」
「踏んでください!」

 何、この嬉しくないモテ期。
 次々と近付いてくる野郎共、時々女の子。お陰で我がクラスは繁盛している。でも、君たちの目は節穴なんですか?

 こんなに男に好かれる日が来るとは思わなかった。ちょっとどころじゃない、超怖い。

「白くーん!」
 僕が身体の震えを抑えながら接客していると、よく通る声がこちらに飛んできた。

「いらっしゃいませ、ご主人様」
「ちょ、ホントにメイドさんやってるーっ!」
「いだだだだ、痛いよ呉羽」
 翼の妹である呉羽は、僕の肩を笑いながら何度も叩く。痛い。容赦なくケラケラと笑う辺りが、翼そっくりだ。

「くーちゃん、笑い過ぎだよ……」
 控えめにそう言うのは、呉羽の同級生。僕が中学生の時に所属していた部活の後輩でもある。

須藤すどうさん、久しぶり」
「お久しぶりですっ! 珀弥先輩!」
 彼女は少しだけ頬を赤らめ、にこりと笑った。

「あの、その……とっても似合ってます!」
「ありがとう」
 ごめん、物凄く嬉しくない。だけれど、勇気を振り絞ったような様子の彼女の前で、そんなことは言えない。

「似合ってるけどさー、何か物腰の柔らかい白君マジきもい」
「いや、そういうキャラだから」
 呉羽は何のためらいもなく毒を吐く。

 彼女と顔を会わせるときは大体、珀弥としてではなく白鬼としてだ。イメージが合わないのは分かるが、心にグサッとくるな。

「ずっと気になってたけど、白君とか、キャラって一体……?」
 須藤さんは状況が掴めないのか、頭にハテナを浮かべている。

 僕の名前から『白君』というあだ名を導き出すことは、容易ではない。『白君』の性格と僕の性格が正反対なこと、そもそも『白君』の存在を彼女は知らない。混乱するのも当たり前だ。

「それはね、白君と二人だけの、ヒ・ミ・ツ」
 呉羽はウインクし、ピースサインをきめた。

「翼や雨ヶ谷さんは知ってるでしょ」
「空気読めや」
「申し訳ございません」
 そういえば、この二人はそんなに仲が良かったのか。性格のタイプが正反対な気がするが。

「すどーちゃんとは今年のクラスが一緒になったんだけどぉ、白君と同じ書道部じゃん? で、白君の話してたら意気投合しちゃったんだな、これが!」
「なるほどね。いつの間にか話の種にされたのか、僕は」
 この子、千里眼で心を読んだのか。おぉ、くわばらくわばら。

「その、気を悪くさせちゃってごめんなさい……」
 須藤さんは眉をハの字にして、何度も頭を下げた。

「大丈夫。二人の友達の輪を広げるのに貢献できたんだから、むしろ嬉しいよ」
 以前から控えめな性格だったが、こんなにネガティブな子だったっけか。何か、様子がおかしい気が……。

「白君ったら普通に優しくてキモーい!」
 呉羽はまた毒を吐きつつ、僕の肩に腕を回し、耳に顔を近付けてきた。

「気付いた? やっぱり何かおかしいでしょ?」
 彼女は真面目な声で囁いた。そうだ、彼女が近くに居て気付かないわけがない。

「うん、何かに——」
「珀弥君、厨房からお呼びがかかってるよ!」
 僕の台詞に割り込むように、千真が現れた。もうそんな時間か。

「わかった。ありがとう、千真さん」
 そろそろ行くね、と後輩二人に断ろうとしたときだ。

「ち、さ、なァ?」
 呉羽が般若のような形相で千真を睨み付けていた。

「はひィ!?」
 千真は呉羽の覇気に圧され、猛禽類を恐れる小動物のように、カタカタと震え始めた。

「へぇ~……ふーん……」
 呉羽は鷲のような鋭い眼光をチラつかせ、千真のアホ毛から足の先まで値踏みするようにまじまじと見る。
 そして満足したのか、一度頷くと、千真を鼻で笑った。

「顔は結構かわいーじゃん。でもさ、なーんか色気無いっつーか乳臭いよね、あんた。胸無いし。白君は何で——」
「うぉあああああ!!」
 呉羽の容赦無い言葉が降り注ぐ。
 特に『胸無い』発言が決め手となったのか、千真は頭を抱えて発狂しだした。

「呉羽! 千真さんはちょっと慎ましやかなだけだ! 侮辱するのは許さない!!」
「遠回しに小さいっつってんじゃねぇよ!!」
 ここで千真にアッパーを戴く。
 顎がダンディーに割れたかと思うくらい、痛い。彼女のどこにこんな力があるのだろうか。

「ってゆーか話遮らな——」
「オイ、くー。入んならさっさと入れよー」
「なっちゃ……おにい!?」
 呉羽が再び口を開いたところに、翼がやってきた。彼女は兄の姿を見て、面を食らっているようだ。

 翼も僕と同じ全身フリフリである。
 前髪を下ろして額を隠し、後ろ髪はエクステでポニーテールにしている。
 驚いたことに、雨ヶ谷さんにそっくりなのだ。下手をしたら双子にさえ間違われそうだ。伊達にイトコ設定があるわけじゃない。

 彼は僕より顔面偏差値が上というふざけた裏設定があるため、女装に違和感が無いのも納得がいく。死ね。

「えっ、何でなっちゃんの真似してんの?」
「貧乳のナツもまた良いんじゃねーかなと思って」
「キモい」
 呉羽は兄の変態発言を一刀両断し、ため息をついた。

「はぁ……んじゃ、さっさと案内してよ。チサナはちょっとツラ貸しな」
「ひぃっ!」
 そのまま千真の襟首を掴むと、口を挟む間もなく中へ入ってしまった。

「じゃ、じゃあ、お邪魔します」
「はい、ごゆっくりー」
 暫し固まっていた須藤さんを見送り、僕は息をついた。

 呉羽は最初から千真が気に食わなかったようだ。何故だろうか。彼女には節度を守るくらいの常識はあるが、少し不安だ。

「黎藤君! 早く厨房入って!」
「はい」
 すっかり忘れてた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AGAIN

ゆー
キャラ文芸
一話完結の日常系ショートショート キャラデザ→りんさん  挿し絵→二号さん 中学生の頃から細々続けているもの。永遠に完結しない。 どこから読んでも大丈夫なはず。 現在整理中

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

処理中です...