白鬼

藤田 秋

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第九章 マスコットが増えるとそれなりに困る

9-9 とある天狗のひとりごと

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* * * * * * * *

「よぉ、戻って良かったじゃねぇか!」
「そうだな」
 反応が薄いのはいつものことなので気にしねぇ。オレってば超ポジティブ。

 白鬼は修行の末、やっと元の姿に戻ることができた。
 飲み込みが早く、すぐに力の制御も上手くなった。力が足りなくてもダメ、多くてもダメ、制御出来なかったら痛い目に遭うっつー荒療治だったがな。ま、身体に覚えさせんのが一番ってこった。

 まぁ、あんな修行よりも、早く力を取り戻せる方法はあったが……珀弥には絶対出来ねーだろうし。

 しゃーねーから、強ェ妖怪ほど妖力も強いよ! って通説で打ち合いしてました。戦ってなんぼだね!
 オレの暇潰しも兼ねてたってバレたら焼き鳥にされるんで、絶対言わない。

「んじゃ、疲れた体に一杯いくか!」
 棚から瓢箪と盃を取り出した。
 瓢箪を傾けると、透明な液体が流れ出て、真っ赤な盃を一杯にする。

「ほれ、上物だぜ」
 あからさまに不審そうな顔をする白鬼に、オレは盃をずいっと押し付けた。

「おい、これ酒だろ」
「あぁ。何か問題あんの?」
「あるわボケ」
 奴は額に青筋を浮かべながら、盃をこちらに突き返してきた。わぁお、失礼な奴~!

「俺は未成年なんだよ」
 この小説は未成年の飲酒を推奨しません。二十歳になるまで待ちましょう。ってか?
 いい心構えだ。仮にも主人公だしな。

「えー、オレも未成年だぜ?」
「自称だろうが」
 言ってくれるねぇ、この坊っちゃん。

「お前、いつの時代から生きてるんだ?」
「んー、明治維新の頃には物心ついてたな!」
「ジジィじゃねーか」
 ひどっ! オレめっちゃ若いじゃんか! 狐珱に比べれば。

「何言ってんの? 人間に換算したらお前とタメくらいだぜ?」
「換算しなかったらジジィだろうが」
 ああ言えばこう言うってもぉ、屁理屈言いやがってこの野郎~。

「心は少年だからいいのッ!」
「それ、マジでオッサンが言う台詞だからやめとけ」
 やっちまったな。

「つーことは、呉羽や雨ヶ谷も……」
 白鬼はふと気付いたように呟いた。

「あぁ。呉羽はオレより半世紀は年下だけど、ナツは普通にお前とタメだぞ」
 今や見た目だけは呉羽の方が幼いが、実はナツより年上だ。これぞ年齢詐欺!
 オレの妹分たちは何歳でも可愛いけどな!

「半妖だからか?」
「そ。人間の血が入ってると、老いるスピードも人間と一緒になるっぽいな」
「へぇ」
 自分から話振っといて、この素っ気なさ! こいつ、オレにはとことん無礼だよな。
 まぁ、それだけ心を開いてくれているって思いたい。やっぱりオレってば超ポジティブ。

「じゃ、長居するわけにはいかねぇから。そろそろ帰る」
 唐突だなオイ。まー、早く帰りたがってたもんなぁ。オレが引き留めてたけど(嫌がらせ)。

「うぃーっす、千真ちゃんが待ってるしな!」
「黙れ殺すぞ」
 あらやだ怖い。

「若人よ、お前はカルシウムが足りないぞ。これを持っていきなさい」
 そう言って手渡したのは、袋に入ったニボシ。ここで牛乳出すと思った? 残念! ニボシでした!

「味噌汁のダシ取れるな。サンキュ」
「あ、あぁ。そう……」
 白鬼はツッコミもせず、普通に受け取りやがった。うっそだろ……。ホクホク顔してんじゃねーよ! この料理男子が!

 こうして、奴はニボシを携えて帰っていったのである。

 その後、オレは部屋で一人、晩酌を楽しんでいた。すげーダンディーだぜ。
 漆塗りの盃を口に近付け、傾ける。透明な酒が舌を撫で、喉を焼いた。強い酒だ。少しばかり頭がクラクラする。

 それもそうだ。実はこれ、対妖怪用鬼ころし。
 強くて辛い、鬼でもイチコロな酒だ。川爺から貰った。本当にイチコロなのか試してみたかったが、ザンネン、失敗しちまったぜ。

 結構クるな。明日学校なのに二日酔いとか洒落になんねー。

 とりあえず残りをチビチビと呑みつつ、瓢箪は棚に片付けた。呑むたび酒は喉を焼くが、段々クセになってきた。

 あいつが呑める歳になるまで、取っておこう。その時、鬼ころしの威力を試してやるか。鬼のくせに下戸だったら笑い飛ばしてやろう。
 ……なーんて、その時が来るかどうか、わからねぇけど。

 あいつはまた、新しい感情を覚え始めたのにな。

 時というものは、
「残酷だよなぁ」
 オレはそんな呟きと共に、酒を呑み干した。

 所詮、今だってオレがこの先辿る長い長い年月の中の一瞬の記録になる。
 何百年後、何となく振り返って『あぁ、そんなこともあったな』で終わるだろう。
 それでも、オレは今の時代に肩入れせずにはいられなかった。
 だって、面白い奴がいるからな。

 世界を変えるような大きな行動は起こせないだろうが、自分の呪われた運命くらいは覆して欲しいなー……なんて思っちゃったり。
 結末を見届けるならば、ハッピーエンドの方が良いだろう?

 ん? 珀弥には出来ない、力を取り戻す方法は何だって?
 あぁ、単純なことだ。人を食えば良い。それも、力のある人間をだ。あいつの周りで力を取り戻す『糧』に値する人間なんざ、一人しかいねぇよ。

 あいつが大切な女を殺せるわけ無ェだろ? つまり、そういうこった。

 そんな理由で修行メニューを変更したオレも、まだまだ甘ちゃんだな。
 ま、伊達に馬鹿息子なんて呼ばれてねーからよ。
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